うば)” の例文
酒は刀自とじの管理に属し、これをかもす者もまたうばであったことを考えると、彼らの手で分配するのが正式であったことはうなずかれる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鬼火のうばはこわれた戒壇を、口惜くやしそうな眼で睨みながら、その横に気抜けして地面へ坐り、バカのようになっている範覚へ云った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
死相をそのまま現わしたような翁やうばの面はいうまでもなく、若い女の面にさえも急死した人の顔面に見るような肉づけが認められる。
能面の様式 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
だが、そう言う物語りはあっても、それは唯、此里の語部のうばの口に、そう伝えられている、と言うに過ぎぬ古物語りであった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
玄関にづれば、うばのいくはくつを直し、ぼく茂平もへい停車場ステーションまで送るとて手かばんを左手ゆんでに、月はあれど提燈ちょうちんともして待ちたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この婆さんの身を投げて死んだ池はいまだに浅草寺せんさうじ境内けいだいに「うばの池」となつて残つてゐる、——大体かう云ふ浄瑠璃じやうるりである。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鬼武は本名を前野曼助まえのまんすけといい、以前は某藩侯の家来であったが、後につかえを辞して飯田町に住み、更に浅草のうばヶ池のほとりに住んでいたという。
自来也の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
不忍池しのばずのいけ今日こんにち市中に残された池のうちの最後のものである。江戸の名所に数へられたかゞみいけうばいけ今更いまさらたづねよしもない。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
草津の町の名代のうばもちに足をとめて、しきりにお砂糖を利かせた姥ヶ餅を賞翫しょうがんしているところの一行がありました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
背向うしろむきになって小腰をかがめ、うばは七輪の炭をがさがさと火箸ひばしで直すと、薬缶やかんの尻が合点で、ちゃんと据わる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうでない。戦場に立つ覚悟は覚悟、新嫁を迎えた祝事は祝事。友白髪しらがまでも、じょううばのようにまで、長寿ながいきもしようと心がけるのが、かえってまことの武士というものぞ」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
極込細工きめこみざいくじょううばや、西京さいきょう芥子けし人形、伏見人形、伊豆蔵いずくら人形などを二人のまわりへ綺麗に列べ、さま/″\の男女の姿をした首人形を二畳程の畳の目へ数知れず挿し込んで見せた。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さては白湾子はくわんしと共に名古屋に遊びし帰途伊勢を経て雪夜こゝに一夜を明かせし淋しさなどもさま/″\偲ばる。草津のうばもちも昔のなじみなれば求めんと思ううち汽車出でたれば果さず。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
京へ登りしよりこのかた文一本くれぬ不届者ふとどきもの、面談せば存分いいて面の皮をぐべしと思いしが、向うししには矢も立たず、門脇のうばにも用というを知らぬ人でもなし、のふずも大方直る年
箪笥たんすをゆずってくれと言われ箪笥の奥から姉が嫁してきた時の『部屋見舞』(関西では色や形とりどりの大きい饅頭を作る)松竹梅や高砂のじょううば、日の出、鶴亀、鯛等で今でも布袋ほていが白餡で
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
夏山は霞わけつつ持て来たる山桃ゆゑにそのよきうばを (母の乳母)
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
出雲いずもの川上というところにいたりたもう。そこにひとりのおきなうばとあり。ひとりの少女おとめをすえてかきなでつつ泣きけり。素戔烏尊すさのおのみことたぞと問いたもう。われはこの国神くにつかみなり。脚摩乳あしなずち手摩乳てなずちという。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
(柳緑花紅碑をたづぬ。夜いまだあけざる故尋不得。)矢弓茶店(奴茶屋といふ、片岡流射術の祖家なり)に小休す。数里行て夜まさにあけたり。うばふところより日の岡峠にいたる。かう高からず。踢揚茶店けあげちややに休す。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
鳥と魚との水底に沈みし時にこそ、このうばは汝が星のやどるところを見つれ。鷲よ。いで日に向ひて飛べ。老いたる母は巣にありて、喜の目もてそを見送らんとす。汝が翼をば、誰にも折らせじといふ。
「まあ、うまいことばっかし——あたしなんざあ、もう散りかかったうばざくら、見向きもしてくれる人はないと思っているよ。さあ、お坊さん、お酌、女のあたしが、一杯一杯のやりとりはきつすぎる——まあ、お重ねな」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ねいらせてうばがいなする蛍かな たゝ女
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
木原のうば
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
○北上川の中古の大洪水に白髪水というがあり、白髪のうばあざむき餅に似たる焼石を食わせしたたりなりという。この話によく似たり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ことに浪子のために八畳一間六畳二間四畳一間の離家はなれを建て、逗子よりうばのいくを呼び寄せて、浪子とともにここにましつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
六波羅北の探題邸たんだいやしきを、子を取られた鬼子母神のように、部屋から部屋、廊から廊と、鬼火のうばが喚きながら、金地院範覚を探し廻っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だからその肉づけの感じは急死した人の顔面にきわめてよく似ている。特にじょううばの面は強く死相を思わせるものである。
面とペルソナ (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ようべ家を出てから、女性によしやうには、一人も逢つて居ない。今そこに居るうばが、何だか、昔の知り人のやうに感ぜられるのも、無理はないのである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
不忍池は今日市中に残された池のうちの最後のものである。江戸の名所に数えられたかがみいけうばいけは今更たずねよしもない。
枇杷島橋びわじまばし以来の面ぶれ、ファッショイ連、安直、金茶、なめ六、三ぴん、よた者——草津のうばもちまでのしていたはずなのが引返して、ここは胆吹山麓
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と真顔で法師の言うのを聞いて、うばは、いかさまな、その年少としわかで、出家でもしそうな人、とさもあわれんだ趣で
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうかこのうばが一しやうのおねがひでございますから、たとひ草木くさきけましても、むすめ行方ゆくへをおたづくださいまし。なんいたにくいのは、その多襄丸たじやうまるとかなんとかまをす、盜人ぬすびとのやつでございます。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
風かよふ蘆のまろ屋に息ほそり白鷺のごとやるうばはや
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
子ども遊びにかきなど切り刻みて、呼んだり呼ばれたりすることなりとあるが、これは呼ばれごとでなく、うばごとの方から出ているかと思う。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「あなた様にお言葉をかけましたは、いかにもわたしにござりまする。……返り忠おすすめしましたも、このうばにござりまする」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其で、この山陰の一つ家に居ても、いき一つもらすのではなかった。の内此処へ送りこまれた時、一人のうばのついて来たことは、知って居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
うばの幾らに同情を寄せ、死せる孔明こうめいのそれならねども、何かにつけてみまかりし人の影をよび起こしてわれと争わすが、はなはだ快からざりしなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
城下金沢より約三里、第一の建場たてばにて、両側の茶店軒を並べ、くだんのあんころ餅をひさぐ……伊勢に名高き、赤福餅、草津のおなじうばヶ餅、相似たるたぐいのものなり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とにかく、道庵先生だけが急に胆吹入りという模様がえになったために、この際、草津のうばもちの別室で、安直、金茶の一行に一つの緊急動議が持ち出されました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どうかこのうばが一生のお願いでございますから、たとい草木くさきを分けましても、娘の行方ゆくえをお尋ね下さいまし。何に致せ憎いのは、その多襄丸たじょうまるとか何とか申す、盗人ぬすびとのやつでございます。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ゴコというのは中国で、若い女性を意味するよい言葉であるが、そのゴコとうばとの応対を真似たことが、ゴコトンボの名の起りであった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何処からか吹きこんだ朝山おろしに、御灯みあかしが消えたのである。当麻語部たぎまかたりうばも、薄闇にうずくまって居るのであろう。姫は再、この老女の事を忘れていた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
一人は男、一人は女、男は若々しい武士姿、女も若々しい女房姿、しかし二人ながら首から上は白髪と皺とに埋められた、醜いじょううばとであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白雪 うば、どう思うても私はく。剣ヶ峰へ行かねばならぬ。鐘さえなくば盟約ちかいもあるまい……皆が、あの鐘、取って落して、微塵みじんになるまで砕いておしまい。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて渋いところで政所まんどころのお茶を一服いただき、お茶うけには甘いところで磨針峠すりはりとうげのあん餅、多賀の糸切餅、草津のうばもち、これらをばお茶うけとしてよばれ候上は右と左の分け使い
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浅草には今から四十年ほど前まで、うばふちという池が小さくなって残っていて、一つ家石の枕の物凄ものすごい昔話が、語り伝えられておりました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
焚火の光にぼんやり照らされ、闇に浮き出た二人の顔は、源之丞でもなければ園女でもなく、百歳を過ごしたじょううばの、醜い恐ろしい相好そうごうであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しずかきざはしりてお沢に居寄いより)ずっとお立ち——わたしの袖に引添うて、(巫女みこに)うば、弓をお持ちか。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
曼陀羅縁起以来のつながりあいらしい。私の場合も、語部かたりべうばが、後に化尼の役になって来ている。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その声はじょううばとの声でもなく、寿老神が呼びかけたのでもない、あまりにあたりまえ過ぎる人間の声でありましたから、不意であったとはいえ、白雲を驚かすには足りないで、かえって
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
款待かんたいの厚薄によって武塔むとう天神に賞罰せられた話、世くだっては弘法大師が来って水を求めた時、悪いうばはこれをいなんで罰せられ
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)