多勢おおぜい)” の例文
純情少年の兄天魔太郎は、自分のためにめいわくしている多勢おおぜいのひとを見るといのちを投げだして名のってでる気になるのでしょう。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その様子は隣人の不幸をいたむというよりも、むしろ、多勢おおぜいの人の中で、立ち働く機会が降って湧いたのを喜んでいるという風だった。
誰が何故彼を殺したか (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
寺僧も多勢おおぜいいたのだが、そんな風に一人減り二人減って、今では和尚のほかにわしたち三人が残るばかりになってしまったのだ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
飛鳥山あすかやまの茶店で多勢おおぜい芸者や落語家はなしかを連れた一巻いちまきと落ち合って、向うがからかい半分に無理いした酒に、お前は恐ろしく酔ってしまって
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「さっそく困るだろ。君だって多勢おおぜいの子供をかかえて、仕事をしなくちゃならない。——待ちたまえ、僕にも心当りがないことはない。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
多勢おおぜいの不知火の弟子どもに送られて、かさを振り振り妻恋坂をくだりながら、もう道中気分の与の公は、馬鹿にいい気持になってしまって
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
正一しょういちは、かくれんぼうが好きであった。古くなって家を取り払われた、大きな屋敷跡で村の子供多勢おおぜいでよくかくれんぼうをして遊んだ。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夕方ゆうがたには多勢おおぜいのちいさな子供こどもこえにまじってれい光子みつこさんの甲高かんだかこえいえそとひびいたが、袖子そでこはそれをながらいていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
惣兵衞は土手づたいに綾瀬のかたへ逃げてくと、ガヤ/″\多勢おおぜい黒山のように人が立って居りまして、バラ/″\こいしほうりました。
手前てめえの間抜けから起って、多勢おおぜいの中からコチトラ二人だけがこうして引っ張られ、おまけに人殺しだァと証言するなんて、ふざけやがって……
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
多勢おおぜいの侍従官女がいつのにかみんな椅子へ腰をかけて、カーライルは面目を失わなかったと云うんだが随分御念の入った親切もあったもんだ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
波の様に揺れる駕籠の中で、藤左衛門が先刻さっきから呼んでいたが、多勢おおぜい掛声かけごえに消されて、駕籠屋の耳へ入らないのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「アナタのお宅の裏には大変な危険人物がいて、毎晩多勢おおぜい集って隠謀をたくらんでるそうです、」と告げたものもあった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
まゆを破って出たのように、その控え目な、内気な態度を脱却して、多勢おおぜいの若い書生たちの出入りする家で、天晴あっぱれ地歩を占めた夫人になりおおせた。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
就中なかんずく、恐ろしかったというのは、ある多勢おおぜいの人が来て、雨落あまおちのそばの大きな水瓶みずがめ種々いろいろ物品ものを入れて、その上に多勢おおぜいかかって、大石を持って来て乗せておいて、最早もうこれなら
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この口いさかいをいてはずかしくてたまらぬので、その甕を土の上にほうり出すと、甕は割れてかせを頸にかけたはだかの女房がころげ出したが、多勢おおぜいに見られるのがつらくて
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ちょうど召使めしつかいがそこいらに多勢おおぜいいましたので、お医者さんはその人たちに言いつけて、できるだけ早く寝台をぐるりとまわして、死神が足のそばに立つようなきになおしました。
それ手を取れ足を持ち上げよと多勢おおぜい口々に罵り騒ぐところへ、後園の花二枝にし三枝はさんで床の眺めにせんと、境内けいだいあちこち逍遙しょうようされし朗円上人、木蘭色もくらんじき無垢むくを着て左の手に女郎花おみなえし桔梗ききょう
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それとって、おせんを途中とちゅうりかこんだ多勢おおぜいは、飴屋あめや土平どへいがあっられていることなんぞ、うのむかしわすれたように、さきにと、ゆうぐれどきのあたりのくらさをさいわいにして
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あんなに多勢おおぜいの友達と一緒に遊びたいと思う心を強くするのみであった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「何分多勢おおぜいのことで御座いますから、つい、私共の不行届も生じまして……平素はあんなではありませんので、極く温厚な、どちらかと申しますと、成績も上の部なのですが……」とすこぶ叮嚀ていねい
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
多勢おおぜいの中には、もう菰田家の墓地の変事を聞知っているものもあって、「菰田の旦那が墓場から甦った」というどよめきが、一大奇蹟として、田舎人の口から口へと、つたわって行くのでありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夫人の家にはその二人の邪魔になるもののいないことは夫人から聞いていたが、書生しょせいじょちゅう多勢おおぜいいるので都合を聞いたうえでないとすぐには往けなかった。章一は省線の踏切の手前で車をおりた。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「大目付にも多勢おおぜいある。誰じゃ」
多勢おおぜいの子分を督励して、草を分け、瓦を剥ぐように下手人を嗅ぎ廻りましたが、相手が凄いせいか、まるっきり見当をつけさせません。
昨日きのうまでのあそびの友達ともだちからはにわかにとおのいて、多勢おおぜい友達ともだち先生達せんせいたち縄飛なわとびに鞠投まりなげに嬉戯きぎするさまを運動場うんどうじょうすみにさびしくながめつくした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
同君は今では立派な事務所をもって、多勢おおぜいの部下を使って活躍していることは諸君の既にご存じのことであろうと思います。
少年探偵呉田博士と与一 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
多勢おおぜいの警官たちはワッとばかりに柱の方へ飛びつくと、痣蟹の足を持ってエンヤエンヤと引張った。また別の警官は、黄色い皮服を引張った。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
其の娘を見ていると多勢おおぜい寄って其の娘を今晩は□いて□□の□かしめるのといい、しまいに仲間同志の争いになりましたが
「けさの番は、朱王房です、たしか参っているはずです」と、中庭を隔てた学僧の房で、多勢おおぜいの学僧たちが、新しい袈裟けさをつけながら返辞した。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庸三は多勢おおぜいの子供のなかでも、幼少のころから長男を一番余計手にもかけて来たし、いろいろな場所へもつれて行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「日本ばかりじゃ騒がし足りないと見えて、仏蘭西までも騒がして来たネ。すずめ百までおどりやまずで、コンナに多勢おおぜい子持こもちになってもやはり浮気はやまんと見えるネ」
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
むこうを、遊び人風の男につれられた若い女が、町内の多勢おおぜいにかこまれて何か慰められながら、泣き泣きお白洲しらすから下がって来た。おもてには、御門番と争う大声がしていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
村端むらはずれで、寺に休むと、此処ここ支度したくを替えて、多勢おおぜい口々くちぐちに、御苦労、御苦労というのを聞棄ききずてに、娘は、一人の若い者におんぶさせた私にちょっと頬摺ほおずりをして、それから、石高路いしだかみちの坂を越して
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するとそこへ誰とも知らぬ者がってきて彼を連れて行った。多勢おおぜいの人にまじって木のこずえを渡りあるきながら、処々方々の家をまわって、行く先々で白餅や汁粉しるこなどをたくさん御馳走ごちそうになっていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
牢は大きく、囚人めしうど多勢おおぜいでした。むやみに牢をひらいて、兇悪な曲者くせものを町にはなっては、世の人のめいわくが思いやられます。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「その道の玄人くろうと多勢おおぜいかかってわからんことがお前などに判ってたまるもんか。まあ危ない仕事には手を出さん方がいいね」
少年探偵呉田博士と与一 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「若くて、求法ぐほうに執心な者も多勢おおぜいいるから、いちど、範宴御房の華厳経けごんきょうの講義でもしてもらいたいものじゃ。——この身も、聴いておきたいし」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五「宜しゅうございます、其の積りに致しました、何も多勢おおぜい和尚様方を頼むじゃアなし、お手軽になすった方が、御道中ゆえ宜しゅうございましょう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
最初着いた時分には、よく浜へも出てみたし、小舟で川の流れを下ったり、汽車で一二時間の美しい海岸へ、多勢おおぜいでピクニックに行ったりしたものであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
玄心斎がそこまで言ったとき、廊下に多勢おおぜいの跫音がド、ドドッと崩れこんできました。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「それが土の中に入っていたのですよ。多勢おおぜいの人の靴に踏まれて入ったものでしょう」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
初めてシカシカが鹿だったということを知りました、と言ってきた人も多勢おおぜいある。或いはチカチカなんぼ・チケチケ何本・カチカチなんぼというところもある。京都はこの鹿々が犬にでもなったものか
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「人間の標準から見て、猫の容貌きりょういの悪いのというは間違ってる、この猫だって誰も褒めてくれ手がなくても猫同士が見たら案外な美人であるかも知れない、その証拠には交孳さかりの時には牡猫が多勢おおぜいりに来る、」
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その時木戸きどに立った多勢おおぜいの方を見向いて
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
優曇法印の堂へと一丁場——というところまで行くと、向うから多勢おおぜいの者が、縄付を追っ立て、ドカドカと近づいて来ました。
「社会もそうだ、山もそうだ」多勢おおぜいの声には、朱王房も、争えなかった。打たれた頬の片方を、赤くして黙りこんだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはし乱暴でも仕掛けたときは柱を楯に取って多勢おおぜいを相手に切捲きりまくろうという、そこで床柱のきわへ坐りました。
といって、ぞろぞろ部下の者を多勢おおぜいひきつれてきたんじゃ、折角の機会を逃がしてしまいますからな。
探偵戯曲 仮面の男 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
多勢おおぜいの司馬の弟子どもを斬りたおし、萩乃をさらって立ち去った……あのさわぎには、玄心斎をはじめ谷大八、どっちへついていいかとまちまちの議論がいたが、朝になってようすをうかがうと
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)