よそ)” の例文
また夜更けに話すのと、白晝に話すのとは、おのづから人の氣分も違ふ譯ですから、勢ひ周圍にある天然をよそにする譯に行かないでせう。
小説に用ふる天然 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
信一郎の心が、不快な動揺に悩まされてゐるのをよそに、秋山氏は、今火をけた金口の煙草をくゆらしながら、落着いた調子で云つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
若い頃の自分にはおや代々だいだいの薄暗い質屋の店先に坐ってうららかな春の日をよそに働きくらすのが、いかに辛くいかになさけなかったであろう。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
兵馬の行方ゆくえを知る由もあろうかと思い、それがわからぬ時は、いっそ、江戸へ出て、よそながら能登守やお君の身の上について知りたい
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
されば他国かのくにひじりの教も、ここの国土くにつちにふさはしからぬことすくなからず。かつ八三にもいはざるや。八四兄弟うちせめぐともよそあなどりふせげよと。
是等の者をよそにしても、元禄文学が大に我邦わがくに文学に罪を造りたる者あり、如何いかにと言ふに、恋愛を其自然なる地位より退けたる事、即ち是なり。
待てしばし、るにても立波たつなみあら大海わたつみの下にも、人知らぬ眞珠またまの光あり、よそには見えぬ木影こかげにも、なさけの露の宿するためし
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
細君は「虎」にこだわる良人をつとの心持とは違つて、「よそへ行くより」と云ふ言葉に、一種の意味を持たせて賛成した。
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
石の上で打つきぬたの音も静かな水に響けて来た。しばらく岸本は戦争をよそに砧の音を聞いていた。その時、つと見知らぬ少年が彼の側へ来て声を掛けた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はるかむこうに、さっき田原町を出て来た家主喜左衛門と鍛冶富、また大岡に会ったとよそながら慇懃いんぎんに小腰をかがめる。本所の鈴川方へ行く途中とみえる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そんな国柄だから、兵卒や水兵を徴集するにも、検査が一寸よその国のき方とはちがつてゐる。
「そんなら、行つて起こいて見て起きて呉れはらなんだら、よそへ連れてつて上げまほ。」
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
俺が法律を学んで、その蝋を噛むやうな学理に頭を作つて、物質の姿をのみ追つて、心霊の影をよそに見た結果、俺は一日一日の生活を作ることを知つて居る丈のものとなつてしまつた。
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
今までは野放しにしてよそながら白眼んでいたのだが、何時迄も容赦はならない。
土から手が (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
皆んなの驚きをよそに、ポール・ターラントは彼を助けようと前に進んで来た。
そして、いぬあとってもんのところまでてきてみますと、もはやいぬよそをもふりかずに三郎さぶろうについてあっちへゆきかけますので、なかにも一人ひとり子供こどもは、しくしくこえをたってしました。
少年の日の悲哀 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私が油絵をよそきに出るやうになつてこれが三度目です。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
世の上のさがなきことをよそにして杜鵑のみ聞くには如かじ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
戰場よそに逃るゝを思ひ得がたし、あゝ奮へ、 590
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
もうそのうちに、話はよそれてしまうのでした
よそから何かめづらしい貰ひものでもあると
時男さんのこと (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
「無作法ではないか、よそをお廻り」
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今夜はよそへいらしっちゃあいやよ。
青年と死 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一箇月いつかげつ三十一日はよそのこと
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その男性達は、美奈子の方には、殆ど注意を向けなかつた。たゞ美奈子の顔を、よそながら知つてゐる二三人が軽く会釈しただけだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
若いころの自分には親代々おやだい/\薄暗うすぐらい質屋の店先みせさきすわつてうらゝかな春の日をよそに働きくらすのが、いかにつらくいかになさけなかつたであらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
うちのか、よそのか、かさなりたゝんだむねがなぞへに、次第低しだいびくに、溪流けいりうきしのぞんで、通廊下かよひらうかが、屋根やねながら、斜違はすかひにゆるのぼり、またきふりる。……
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いま主膳を驚かしたその血の塊は、よそから出たのではありません、自分の鼻から出た鼻血でありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ご用が御座いませんでしたらさうなさいよ。よそへ行くよりかへつて気が晴れるかも知れませんよ。」
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
「そのこと! わしもよそながら出羽の動静を——いや、言わぬというて、また——続けい話を。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ヱゴイズムをよそにし、狂熱を冷散するとも別に諷刺の元質、世に充盈じゆうえいせりと見るは非か。
私は戦争をよそに見て、全く自分の製作に耽るほど静かな気分には成れない。私の心は外物の為に刺戟され易くて困る。私の始めたことは私の心を左様さう静かにさせては置かないやうなものだ。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
花ならば蕾、月ならば新月、いづれ末は玉の輿こしにも乘るべき人が、品もあらんに世をよそなる尼法師に樣を變へたるは、慕ふをつとに別れてか、つれなき人を思うてか、みち、戀路ならんとの噂。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
無慙なるかな、あゝ汝、汝はよその卑怯なる
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
華奢くしや街家まちやよそに見て
妄動 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
よその国より胆太きもぶと
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
信一郎の心が、不快な動揺に悩まされているのをよそに、秋山氏は、今火をけた金口の煙草たばこくゆらしながら、落着いた調子で云った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
弱い者がみずからその弱い事を忘れ軽々しく浮薄なる時代の声に誘惑されようとするのは、誠によその見る目も痛ましい限りといわねばならぬ。
素人八卦は当ったのかわれながら不思議なぐらいだが、幽明の境を弁えぬ凝性こりしょうの一念迷執、真偽虚実をよそに、これはありそうなことだと藤吉は思った。帰り着いたのは短夜の引明ひきあけだった。
(前略)鹿島の神宮にまうで候へば、つい鹿島のなだよそに致し難く、すでに鹿島洋に出でて、その豪宕がうたうなる海と、太古さながらの景を見るうちに、縁あつて陸奥の松島まで遊意飛躍つかまつり候事
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
諸神並に諸將らの終夜の休みよそにして
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
その男性達は、美奈子の方には、ほとんど注意を向けなかった。たゞ美奈子の顔を、よそながら知っている二三人が軽く会釈えしゃくした丈だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さればこの水上にもを載せ酒をむの屋形船なく、花をよそなる釣舟といかだかもめとを浮ばしむるのみ。この傾向は吉原を描きし図において殊に顕著なるを覚ゆ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それでこの老女は、薩摩の家老の母親で、天璋院殿のためにはよそながら後見の地位におり、ややもすれば暗雲のわだかまる大奥の勢力争いを、ここに離れて見張っているのだということであります。
否、自分に訣別するため、よそながら自分を見ようとした時、偶然自分が危難に遭遇したため、前後の思慮もなく飛び込んだのではないだらうか。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
薄倖多病の才人が都門の栄華をよそにして海辺かいへん茅屋ぼうおく松風しょうふうを聴くという仮設的哀愁の生活をば、いかにも稚気ちきを帯びた調子でかつ厭味いやみらしく飾って書いてある。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いな、自分に訣別けつべつするため、よそながら自分を見ようとした時、偶然自分が危難に遭遇したため、前後の思慮もなく飛び込んだのではないだろうか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
道端みちばたの人家は道よりも一段低い地面に建てられてあるので、春の日の光をよそに女房共がせっせと内職している薄暗い家内かないのさまが、通りながらにすっかりと見透みとおされる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
道端みちばた人家じんかは道よりも一段低い地面に建てられてあるので、春の日の光をよそに女房共がせつせと内職ないしよくして薄暗うすぐら家内かないのさまが、とほりながらにすつかりと見透みとほされる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
木賀は、新子の心の一抹の不安をよそに、他意なく微笑んだ。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)