わか)” の例文
旧字:
牡丹燈記の話は、明州めいしゅう即ち今の寧波にんぽう喬生きょうせいと云う妻君さいくんを無くしたばかしのわかい男があって、正月十五日の観燈かんとうの晩に門口かどぐちに立っていた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この時、群集ぐんじゅ押分おしわけて、捫着もんちゃくの中へ割って入ったのは、駐在所の塚田つかだ巡査。年のわかい、色の黒い、口鬚くちひげの薄い、小作りの男であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その心は色に出て、医師せんせいは小松原一人は遣らなかった。道しるべかたがた、介添かいぞえに附いたのは、正吉と云うわかい車夫。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どことなくわかき男のようなる処あること、あたかもジヤニイノに処女むすめ処女したる処あるに似ている。彼等の後方には一侍僮戸口から出て来る。手に打ち出し模様の銀の酒杯を携えている。
一方はもう五十を越えている老武士で、これは体つきも肉づきも、わかものをしのぐばかり頑健なのだ。すげの一文字笠に夕陽がつよく反射しているため、その紐下ひもしたの顔は、暗くてよく見えない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
書家細井広沢がまだわかかつた頃、ある日僧侶ばうずが一人訪ねて来て
なまのままの肉やロースにしたのや、さまざまの獣肉じゅうにく店頭みせさきつるした処には、二人のわかい男がいて庖丁ほうちょうで何かちょきちょきと刻んでいた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
築地明石町あかしちょうに山の井光起みつおきといって、府下第一流の国手がある、年紀としはまだわかいけれども、医科大学の業をえると、ぐ一年志願兵に出て軍隊附になった、その経験のある上に
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急に憂鬱ゆううつになった彼の目の前には、頭髪かみの毛の数多たくさんある頭を心持ち左へかしげる癖のあるわかい女の顔がちらとしたように思われた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかは、午前ごぜんうち爪皮つまかは高足駄たかげた外套ぐわいたうしづくしたゝ蛇目傘ぢやのめがさくも濡々ぬれ/\としたありさまで、(まだ四十にはがあるのに、わかくしてした)香川かがは或素封家あるそはうか婿むこであつた
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その喜兵衛は本妻を娶らずに二人のわかい妾を置いていたが、その妾の一人のおはなと云うのが妊娠した。喜兵衛は五十を過ぎていた。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その洋服の男の前のテーブルにも街路とおりの方を背にして、鳥打帽を筒袖つつそでの店員のようなわかい男がナイフとホークを動かしていた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
松山は周囲まわりに注意した。店員風のわかい男と、会社員風の洋服男が来てれちがおうとしていた。松山はしっと云って半ちゃんに注意した。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのかわりにわか和尚おしょうに頼んで手紙を夫人のもとへ送り、その返書を得て朝晩にそれを読みながら、わずかに恋恋れんれんじょうを慰めていた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「山西じゃないか」と、横合よこあいから声をかけた者があった。わかい男は耳なれた声を聞いて足を止めた。鳥打帽とりうちぼうた小柄な男が立っていた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
竹腰はそう云い云い己に向って来たわかい近侍の一人をたおして、ひらりと庭に飛びおり、池の傍から崖の木立の方へ逃げて姿を消した。
赤い土の壺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
真澄はその人といっしょにプラットホームに立ったところで、眼の前にわかい女の立っているのが見えた。それはあの女であった。
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
江戸川べりに住む小身者のわかい侍は、本郷の親類のもとまで往って、其処で酒を振舞われたので、好い気もちになって帰って来た。
花の咲く比 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わかい女の呼吸いきづかいまで聞えるような気配がする。それは玄関さきのようでもあれば表庭の方のようでもある。女房はふと夫に疑念を挟んだ。
宝蔵の短刀 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わかい艶かしい女が俯向けになって、白い脛をあらわに草の中に倒れているのが眼に注いた。平太郎は驚いて傍へ寄って其の肩に手をかけた。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、そのあとからわかい男が血に染まった白刃しらはりながら追っかけて来た。謙蔵は恐れて半町はんちょうばかりも逃げ走って、やっと背後うしろり向いた。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
岡本は一時間近くもお高のへやにいて引返して来た。離屋はなれには半ちゃんが酒を飲んでいる前に、あのわかい男とお杉が小さくなって坐っていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「だってそうじゃないか、それで事件が起ったじゃないか、やっぱり男に生れるなら、わかい、きれいな俳優やくしゃのような男に生れたいものだな」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
土佐藩の徒目付かちめつけ横山源兵衛の許へある日精悍な顔つきをしたわかい男が来た。取次の知らせによって横山が出ると、壮い男はこんなことを云った。
義人の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「ほんとだわ」と云ういせいの良いわかい男の声と、あまったれたような女の声が絡みあうなり、入口のガラス戸が敷居の上に重いきしりをさした。
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから五六日して蔦芳は、またわかい男が便所の口に立っているのを見たので、其の日中村座へ往って其の事を話した。
幽霊の衣裳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、加賀にある妻を呼ぼうと思っていたが、気の広い彼は何時いつの間にかそれを忘れてしまって、土佐のわかい女を妻にして男の子を産ませた。
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わかい男は首をすくめて俯向うつむいておりました。見張の男は背後うしろの方で、手鼻をかむ音をさせました。長者はへやの内をあっちこっちと歩きだしました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
むすめと壮い男はその火の光にそむいて、北へ北へと逃げました。修験者はそのあとを激しく追っかけました。むすめわかい男は手をりあっておりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ある禅寺にわかい美男の僧があって附近の女と関係しているうちに、僧はじぶんの非行を悟るとともにおおいに後悔して、田舎へ往って修行をすることにした。
這って来る紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
山形県最上郡もがみぐん豊田村とよだむら沓澤仁蔵くつざわにぞうと云う行商人があった。仁蔵はわかいに似あわず、家業に熱心で、毎日のように村から村へと行商に出かけて往った。
狸と同棲する人妻 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは放胆ほうたんな露骨な話であった。旧派俳人の子で文学志望者のわかい男のした話は、某婦人が奇怪な牛乳を用いたために妊娠したと云う話であった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
枕頭に点けた丁字の出来た有明の行灯の微暗うすぐらい光が、今まで己と並んで寝ていたと思われるわかい男の姿を照らしていた。
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わかい芳郎の眼はその花にひきつけられた。冬薔薇のような赤いいきいきとした花は、ねずみ色にぼかされた四辺あたりの物象の中にみょうにきわ立って見えた。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
随筆家の友人と話題を多く持っているわかい新聞記者が、糠雨ぬかあめのちらちら降る中を外の方へ歩いて往った姿も浮んで来た。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わかいおどおどした女にも以合わず、荊棘の上も、萱の中もかまわず、ひらひらと歩いて来た。さては、と、彼は思った。
村の怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「やめるとするか、お坊さんの云うことじゃ」と、わかい男はその隣にいる前歯の一本無くなった顔の大きな男にささやいた。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わかい男はその日から昼間は塗籠ぬりかごの中へ入れられ、夜になると長者のへやへ引き出されて、切燈台きりとうだいの用をさせられました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼はその雲を見たのちに川の土手の方へ往こうと思って、板橋の上に眼をやったところで橋のむこう側に立ってこっちの方を見ているわかい女を見つけた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
哲郎は戸のしまった蕎麦屋そばやの前へ来ていた。かすかに優しい声で笑うのが聞えた。彼はその方へ顔をやった。わかい女が電柱に身を隠すようにして笑っていた。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
伊沢もその仲間入りをして近比ちかごろにないわかわかしい気もちになって笑っていたが、何時いつの間にか女をそっちのけにして昔の追懐へその話を持って往った。
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
千住か熊谷かのことであるが、其処にある尼寺があって、その住職の尼僧と親しいわかい男が何時も寺へ遊びに来ていたが、それがふっつりと来なくなった。
法衣 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
別に客もないので甚九郎は煙管きせるをくわえたなりで、うとうととしていると何か重くるしい物音がした。店の上框あがりかまちへ腰をかけたわかい女の黒い髪と背が見えた。
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
太郎左衛門はそのへやへ出入して、二人の者をいたわっていたが、その目前めのまえにはわかい白い顔が浮ぶようになっていた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二人は吾妻橋のたもとの交番の前を通って往った。入口に立っていた一人の巡査は、小女こむすめわかい男の姿をじろじろと見ていた。山西はそれがうす鬼魅きみ悪かった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
入口の処に小間使こまづかい風のわかい女が用ありそうに立っていた。山西はまた怪しい小女こむすめではないかと思って好く見たが、それは十八九に見える円顔まるがおの女であった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
広島県の者だと云うわかい木客の一人が、その時ふらふらとって外へ出て往った。一座の者は便所にでも往ったろうと思っていると、小舎こやの外の崖の方から
死んでいた狒狒 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
提燈の落ちたこと白い犬になったこと中敷ちゅうじきから裸足でおりたこと、裏門を開けたこと丘の上の石のことそれからわかい女のこと、皆順序だって思い出されるが
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは紙燭しそくのようなものを手にした島田髷しまだまげわかい女であった。傍にはの年増が小さくなって俯向うつむいていた。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
太郎左衛門は二人の女をれて、じぶんの家へ帰り女房やじょちゅうに云いつけて二人の世話をさした。二人は江州ごうしゅうから来た者でわかい方の女は色の白いきれいな顔をしていた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)