口調くちょう)” の例文
女は例のごとく過去の権化ごんげと云うべきほどのきっとした口調くちょうで「犬ではありません。左りが熊、右が獅子ししでこれはダッドレーの紋章です」
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のない口にきゅうに奥歯おくばがはえたような気がするほど若がえった口調くちょうだった。治安維持法というものを、彼女はよく知らない。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
矢野は興奮こうふんした口調くちょうにいうのであった。わかりきったことでも、まじめに大木の口から聞かせられると、矢野はいつでも感奮かんぷんするのである。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「先生」と、これまで一言も言わなかった書生らしい人が言葉にその神経質らしい口調くちょうを帯びさせながら、初めて口を出した。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
かれは、帽子ぼうしをとっただけで、べつに頭もさげず、ジャンパー姿の次郎をじろじろ見ながら、いかにも横柄おうへい口調くちょうでたずねた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
投げつけるような口調くちょうでそう鋭く言ったと思うと、執拗なまで私の顔にそそいでいた視線をふいとらし、再び私の方を見ようともしなかった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
じいさんはしんみりとした口調くちょうで、ただそうッしゃられたのみでした。つづいて守護霊しゅごれいさんもくちひらかれました。——
如何にも他人の不都合をなじるような口調くちょうで、原田と私をめつけながら、自分の企てた計畫を堂々と攻撃した揚句、とうとう滅茶苦茶にして了った。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おまえは、わしたことがない。けれど、空想くうそうしたことはあったはずだ。おまえはわしをなんとおもうのだ。」と、おじいさんは、重々おもおもしい口調くちょうでいいました。
銀のつえ (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかも演説口調くちょうをもってあるいは高々に説明するにあらずして、平生の個人と個人との会話のごとき調子で
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
やがてはっきりとした口調くちょうで「さあ帰ろう、お母さんが待っているだろう」と強い足どりで歩き出した。
するとさすがに大井の顔にも、またた周章しゅうしょうしたらしい気色けしきが漲った。けれども口調くちょうだけは相不変あいかわらず傲然と
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
べつに怨恨えんこんなどいだいてはいないのだとこたえたが事実じじつとしては青流亭せいりゅうてい女将おかみおなじく、いつもよるになつてから老人ろうじんたずねるのがつねで、あるとき、ひどくはげしい口調くちょう
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
ほうに大きな絵蝋燭えろうそくをたて、呂宋兵衛るそんべえは、中央に毛皮けがわのしとねをしき、大あぐらをかいて、美酒びしゅをついだ琥珀こはくのさかずきをあげながら、いかにも傲慢ごうまんらしい口調くちょうでいった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわば当時の文壇は何にも知らないシロウトが白粉おしろいを塗って舞台に踊り出し、巡査が人民をさとすような口調くちょうで女の声色こわいろつかったり政談演説をしたりするようなものばかりで
トラ十の、毒々しいことばがきいたのか、師父は、このとき、急にすなおな口調くちょうになって
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今や文壇の趨勢既に『万葉』『古今集』以来古歌固有の音律を喜ばずまた枕詞まくらことば掛言葉かけことば等邦語固有の妙所をしりぞけこれに代ふるに各自辺土の方言と英語翻訳の口調くちょうを以てせんとす。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これだけはリズムの節調ではなく、散文の口調くちょうで、すらすらと口をついて出でました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
倹約家の父は珍しく金口を吹かしながら、いつになくニコニコした口調くちょうで申しました。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
外国と通商条約つうしょうじょうやくを取結びながら、産物さんぶつを或る一国に専売せんばいするがごとき万国公法ばんこくこうほう違反いはんしたる挙動きょどうならずやとの口調くちょうを以てきびしくだんまれたるがゆえに、政府においては一言いちごんもなく
と講義録の口調くちょうそっくりで申され候間、小生も思わずふきだし候
初孫 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すると為朝ためともはおそれもなく、はっきりとちからのこもった口調くちょう
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
彼は、私達にはわざとらしいように思われる口調くちょうで言った。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
という類の、近ごろの新文章口調くちょうで問うているものが多い。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と浩二がませた口調くちょうで云ったので、皆大笑いをした。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
少佐はそれを打消されるような口調くちょう
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
と富士男は謹厳きんげんなる口調くちょうでいった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「なかなか器用きようには作者のねらったところは一貫しています」と、天神さまみたような顔つきの人が熱心な口調くちょうで口を出した。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「なに、そんな大切な草稿でも書ける暇があるようだといいんだけれども——駄目だ」と自分を軽蔑けいべつしたような口調くちょうで云う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるものは演説口調くちょうで郷土の偉人いじんや、名所旧蹟きゅうせきや、特殊とくしゅの産業などを紹介しょうかいし、あるものは郷土の民謡みんよう舞踊ぶよう披露ひろうした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
電話機の具合が悪く、夜光虫、というのが仲々なかなか通じないらしかった。その声に混って、外の準士官等の、疲れたような口調くちょうの会話を耳にとめていた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ようやくのこと、すこし年上としうえらしいほうの男が、顔のようすをつくろうて、あらたまった口調くちょう口上こうじょうをのべる。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「みんながさわいで、わったのだから、みんなで弁償べんしょうするのがあたりまえでしょう。一人ひとり半分はんぶんさせるほうはないだろう。」と、おどすような口調くちょうで、いいました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とはなはだ尋常茶飯事じんじょうさはんじのごとき口調くちょうで答えた。これが日本ならいろいろな嫌疑けんぎも受けるであろうが、自由の天地は違うと思いながら、僕はそのほうに足を運んだ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼は中学校で同級だったときのあの飾り気のない口調くちょうで、こんな風に最後の解決を語った。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それらのひとについて調査ちょうさ結果けっかは、ついに発表はっぴょうされなかつたが、事件解決後じけんかいけつご青流亭女将せいりゅうていおかみ進藤富子しんどうとみこは、つてはらてた口調くちょうになつて、やはり、ある料亭りょうてい女将おかみである女友達おんなともだちむか
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
そのしんみりした口調くちょうに涙ぐんだ女の子もいた。この小林先生だけは、これまでの女先生の例をやぶって、まえの先生が病気でやめたあと、三年半も岬の村を動かなかった先生であった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
何も知らぬ頑是がんぜない私に、宥恕ゆうじょうような口調くちょうで言ったのを私は覚えている。
何か目算が立って居中きょちゅう悠々としているもののごとく、天堂一角が朗吟口調くちょう
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牧野の口調くちょうや顔色では、この意外な消息しょうそくも、満更冗談とは思われなかった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
七兵衛はお松の説明のあとをついで、やはり律儀りちぎな百姓の口調くちょう
厭味いやみのある言い方ではなかった。ただ三四郎にとって自分は興味のないものとあきらめるように静かな口調くちょうであった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
田川は、例のしゃがれた、はげしい号令口調くちょうで、ほかの塾生たちをせきたてながら、自分でも椅子や机を運んで敏捷びんしょうにたちはたらいていた。これに反して、青山の態度はきわめて冷静だった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
すると漢師長は、あたりをはばかるような口調くちょうになって、私に云ったことに
という口調くちょうを放つときは、かみならぬわれわれは肉も血もあり、多くの弱点を備うるものなれば、時にこれしきの罪業ざいごうをするのはまぬかれぬと、半獣性はんじゅうせいの欠点に富めることをいいあらわすにもちいられる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
暫くして、また改まったように、甘えた口調くちょうで呼びかけました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は突然口調くちょうを変え Brother と僕に声をかけた。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まるでそれは、とんでもないといわぬばかりの口調くちょうである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
とつぜん、龍太郎りゅうたろうがこうふんした口調くちょう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三四郎はこれも大事に手帳に筆記しておいた。午後は大教室に出た。その教室には約七、八十人ほどの聴講者がいた。したがって先生も演説口調くちょうであった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)