公卿くげ)” の例文
公武一和の説を抱いて供奉ぐぶの列の中にあった岩倉、千種ちぐさ富小路とみのこうじの三人の公卿くげが近く差し控えを命ぜられ、つづいて蟄居ちっきょを命ぜられ
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そうれみろ。庶民から上層の女まで、念仏に帰依きえした女性というものはたいへんな数だ。内裏だいりの女官のうちにも、公卿くげの家庭にも」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元は公卿くげの出ですが、子供の時から三要の手元に引取られて、坐禅ざぜん学問を勉強しながら、高貴の客があるときには接待の給仕に出ます。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いかなる階級の人も、かみはお公卿くげさまから、しもはいやしい民にいたるまで、天然痘の病原体は、なんの容赦ようしゃもなくおそいかかりました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
公卿くげ様にも無かろうと思われる位、品行がよろしゅう御座いましたので、これ位の夫婦は博多にもあるまいという噂で御座いました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
中世以前に於ける武家文化や公卿くげ文化の芸術は、その貴族的なことに於て、高翔感的なことに於て、西洋現代のものとやや一致している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
実際に京都に戦争があったのは初期の三四年であったが、此の僅かの間の市街戦で、洛中洛外の公卿くげ門跡がことごとく焼き払われて居るのである。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それを京都の外一歩も踏み出さぬ公卿くげたちが、歌人はながらに名所を知るなどと称して、名所の歌を詠むに至りては乱暴もまた極まれり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「とするとあたかも北条氏が、源氏の子孫を根絶やしとし、公卿くげの子息を将軍に立て、自身執権となりましたと同断! ……」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「兄分らしくもねえ、あんまりどじなかっこうすると、こちらのちっちゃなお公卿くげさまに笑われるぜ。なにがいったい考えに落ちねえのかい」
「何でもその道風とやらは、公卿くげの次男坊だそうだから、お冠でも着ていたかも知れない。そんな男の記憶はないかしら。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
これより先、五月の二十一日に、京都朔平門外さくへいもんがい、猿ヶ辻というところで、姉小路少将公知あねこうじしょうしょうきんともという若い公卿くげさんが斬られた。
公卿くげ、町人——総がかりで隠居隠居と、わしを持てはやし、さまざまな音物いんもつが、一日として新しく、わしのくらを充たさぬということもないのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それと共にそれはどう云ふ人であらう。当時二頭立の馬車を駆るものといへば、むかし大名であつた華族様でなければ、公卿くげか参議より外にはない。
冬の夜がたり (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なにもしらない公卿くげのくせによけいな出口でぐちをするはいいが、いまにあべこべにてきから夜討ようちをしかけられて、そのときにあわててもどうにもなるまい。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この度の戦乱の模様では、京の町なかは危いとのことで、どこのお公卿くげ様も主に愛宕あたごの南禅寺へお運びになります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
全く公卿くげにも似た馴致じゅんちと遊楽と、形式と慣習と、些末さまつな事務よりほか何ものも約束しない、奉公の将来が、すっかり、底の見えたものに考えられてきた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と云うのは、あなた方も名前は御存知であろうが、維新の際に功労のあった公卿くげ華族で御牧みまきと云う子爵ししゃくがある。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
伝統と血統を誇るお公卿くげさまとの縁組みは、とつひとが若く美貌びぼうであればあるだけ、愛惜と同情とは、物語りをつくり、物質が影にあるとおもうのは余儀ないことで
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それが公卿くげの出身であろうと、武家の出身であろうと、また庶民から出た者であろうと、かれらがいちど政治の権力をにぎれば、彼は、もはや彼自身ではなくなる。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女はただに女房たちの間の大姐御おおあねごであるのみならず、斉信のごとき公卿くげたちに対してもはるかに上手うわてである。あたかも男と女が所を異にしているようにさえも見える。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
私の父は何代となく宮廷に仕えた公卿くげの家で、明治維新めいじいしんのためにもいくらかの功労者でありましたから相当の役にもついていましたし父の妹は、官名を早蕨典侍さわらびのすけとよばれて
私の思い出 (新字新仮名) / 柳原白蓮(著)
攘夷派の公卿くげたちを買収するために、三万両を極秘で輸送した。その機密に参画した川路聖謨かわじとしあきらの旅日記を読むに及んで、私の構想は、ほとんど、出来上がったといってよい。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「それでは、やはり、公卿くげの出かも知れない」と言って、彼の虚栄心を満足させてやった。
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
当りを付けてやせ公卿くげの五六軒も尋ね廻らせたら、あの笛に似つこらしゅうて、あれよりもずんと好い、敦盛あつもりが持ったとか誰やらが持ったとかいう名物も何の訳無う金で手に入る。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
花園京子はなぞのきょうこといえば、新聞を読む程の人は誰でも知っているだろう。公卿くげ華族花園伯爵はくしゃくの令嬢で、華族様のくせにオペラの舞台に立った程の声楽家で、その上、非常な美人であった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
只〻數多き公卿くげ殿上人てんじやうびとの中にて、知盛とももり教經のりつねの二人こそ天晴あつぱれ未來事みらいことある時の大將軍と覺ゆれども、これとても螺鈿らでん細太刀ほそだち風雅ふうがを誇る六波羅上下の武士を如何にするを得べき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
君は維新のおん帝、御十七の若帝わかみかど、御束帯に御冠みかんむり御板輿おんいたごしに打乗らせ、天下取ったる公卿くげ将卒に前後左右をまもらして、錦の御旗を五十三つぐの雄風にひるがへし、東下りをはたし玉ひぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もっともおれ一人が、沙金しゃきんを自由にする男でないという事も、知っていなかったわけではない。沙金自身さえ、関係した公卿くげの名や法師の名を、何度も自慢らしくおれに話した事がある。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山崎流の学旨をはさんで、堂上どうじょう公卿くげ遊説ゆうぜいし、上は後桃園天皇を動かし奉り、下は市井しせいの豪富に結び、その隠謀暴露して、追放せられたるが如き、もしくは明和四年、王政復古、政権統一
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そのうち、京都の万里小路までのこうじというお公卿くげのお姫さまの殺手姫さでひめさまというお方にお見知りをいただき、その後二度三度、大音寺だいおんじ前の田川屋たがわや三谷橋さんやばし八百善やおぜんなどでお目にかかっておりました。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「これも昔こゝで殺されたお公卿くげさまです。この人の亡霊が俊基朝臣の亡霊を教唆きょうさして蛇身鳥刃の雉に化けさしたのですから、この石塊いしっころ見たいな墓が謂わばこの辺の名所旧蹟一体の築源地ちくげんちです」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それは昔京都のお公卿くげ様に対して非常の金持の商工人が威張ることが出来なかったのと同じようなものであるです。平民はトムバというて居る。で、トムバの中にもトムバとトムズーの二つがある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この阿波守は只今東京で医を開業しいる重次郎君の先祖であろう。予君の父君に久しく止宿して後渡米の時その家から出で立った。父君は京生まれで、しょうを吹き、碁を囲んで悠々公卿くげ風の人であった。
いよいよ将軍家参内さんだいのおりには、多くの公卿くげ衆はお供の格で、いずれも装束しょうぞく着用で、先に立って案内役を勤めたものであったという。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
竹屋三位卿さんみきょうは、年まだ十八の頃、かの宝暦変ほうれきへんの陰謀にくみして、徳川討つべしを熱叫ねっきょうしたため、真ッ先に幕府から睨まれた公卿くげである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時流に染まず世間にびざる処、例の物数奇ものずき連中や死に歌よみの公卿くげたちととても同日には論じがたく、人間として立派な見識のある人間ならでは
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
正面切ったのは、色の白い、ちょっとぼうぼう眉のお公卿くげさんと見えるような大姐御おおあねご、どてらを引っかけて、立膝で、手札と場札とを見比べている。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つづいてそのわきの下をくぐりぬけながら、まめまめしく飛び出したのは、のどかなお公卿くげさまの善光寺たつでした。
ちなみに、『土御門泰重卿記』に依れば京の御所では公卿くげ衆が清凉殿の屋根から大阪城の火の手を見物して居たと云う。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この度の戦乱の模様では、京の町なかは危いとのことで、どこのお公卿くげ様も主に愛宕あたごの南禅寺へお運びになります。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
これは一にちはやくこのあやしいものを退治たいじして、天子てんしさまのおなやみをしずめてあげなければならないというので、お公卿くげさまたちがみんなって相談そうだんをしました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ある日禁裏に参内してゐた五六人の公卿くげ達は日当たりのいいたまりの間で暢気さうに雑談を交してゐた。
年に一回京都の宮廷から、公卿くげが江戸に下って、将軍家に政治上の勅旨ちょくしを伝える例になっていた。その天奏衆てんそうしゅうの江戸滞在中、色いろ取持ちするのが、この饗応役だった。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
新古今集しんこきんしゅうの和歌は、ほろび行く公卿くげ階級の悲哀と、その虚無的厭世感えんせいかんの底で歔欷きょきしているところの、えんあやしくなまめかしいエロチシズムとを、暮春の空ににおかすみのように
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
みました。それをお公卿くげ様へ送りました。一度逢って二度とは来ない、薄情な薄情なお公卿様へ
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いかにも公卿くげの血を引いている、衣冠束帯の似合いそうな風貌ふうぼうの持主で、せた、面長の、象牙ぞうげのような血色をした、ちょっと能役者と云った感じの人で、見たところ
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いささか由緒ゆいしょのある公卿くげの血筋を受けて、むかしはなかなか羽振りのよかった人であるが、名誉心が強すぎて、なおその上の出世を望み、附合いを派手にして日夜顕官に饗応きょうおう
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ましてお公卿くげ様などは、それはそれは甚だ窘乏きんぼうに陥っておられたものだろう。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、如才なく迎へてくれたのは、二十四五のこれは拔群の美しい内儀ないぎでした。色白なのが青いあはせとよく似合つて、眉の跡が公卿くげ衆のやうに霞んで見えるのも、何んとなく氣高い感じがします。