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ほのじろ
ふりがな文庫
“
仄白
(
ほのじろ
)” の例文
チチ、チチと、
小禽
(
ことり
)
の声がする。客殿の戸のすきまから
仄白
(
ほのじろ
)
い光がさす。夜明けだ。頼朝は、声なく、叫びながら
衾
(
ふすま
)
を蹴って起きた。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ばかされながらもその頃までは、まだ前後を忘却していなかった筈ですが、路地を出ると、すぐ近く、高い
石磴
(
いしだん
)
が、くらがりに
仄白
(
ほのじろ
)
い。
雪柳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そして湖水のふちをぶらぶらしているうちに、ピラトゥスの日は暗く沈んで、空は湖水のように澄み渡った中に、
仄白
(
ほのじろ
)
い夕月が仰がれた。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
物の
透間
(
すきま
)
が
仄白
(
ほのじろ
)
くなって、戸の外に雀の寝覚が鈴の鳴るように聞える頃は、私はもう起きて、汗臭い身体に帯〆て、釜の下を
焚附
(
たきつ
)
けました。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
小腰を
屈
(
かが
)
めて鍵穴のあたりへ眼を付けたが、不思議な事に鍵穴の向うは一面に
仄白
(
ほのじろ
)
く光っているばかりで、室内の模様がチットモわからない。
一足お先に
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
▼ もっと見る
或る夜、庭の樹立がざわめいて、見ると、静かな雨が
野面
(
のづら
)
を、丘を、樹を
仄白
(
ほのじろ
)
く煙らせて、それらの上にふりそそいで居た。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
春琴の顔のありかと思われる
仄白
(
ほのじろ
)
い円光の射して来る方へ
盲
(
し
)
いた眼を向けるとよくも決心してくれました
嬉
(
うれ
)
しゅう思うぞえ
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
其等
(
それら
)
の人々の踏んで来、踏んで去った足跡は、自然、微かな道となって、この
仄白
(
ほのじろ
)
い月の下に認めることが出来るだろう。
薔薇と巫女
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
窓をあけると、
鳶色
(
とびいろ
)
に曇った空の果に、山々の峰続きが
仄白
(
ほのじろ
)
く見られて、その奥の方にあると聞いている、
鉱山
(
やま
)
の人達の生活が物悲しげに
思遣
(
おもいや
)
られた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
仄白
(
ほのじろ
)
い朝の光が天幕の中に吊してある小田原提灯をぼんやり映し出す。昨夜は暑かったので、掛けていた毛布もいつの間にか足もとに丸められてあった。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
甲板の下にある船室は、上から降りて来るものを立ち
竦
(
す
)
くませる。足の踏みばも見当らぬほど、不意に視界が暗くなる。間もなく
仄白
(
ほのじろ
)
い光りが見えて来た。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
その黄いろい渦が今は
仄白
(
ほのじろ
)
くみえるので、あたりがだんだんに薄暗くなって来たことが知られた。汽車の天井には旧式な灯の影がおぼつかなげに揺れている。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
その前には人々は折り重なって
覗
(
のぞ
)
き込んでいた。夕刻近いシャンデリヤの
仄白
(
ほのじろ
)
い光は、人いきれで乳白に
淀
(
よど
)
んでいた。植木鉢の
棕櫚
(
しゅろ
)
の葉が絶えず微動している。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
あらゆるものは静かな一色の灰色でなければ、それを一そう濃くしたような
仄白
(
ほのじろ
)
い色に充たされている。
みずうみ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
雑草が露の重味で頭を下げ霧に包まれた太陽の
仄白
(
ほのじろ
)
い光りの下に
胡麻
(
ごま
)
の花が開いていた。彼は空を仰ぎ朝の香を胸いっぱい吸った。庭の片隅の野井戸の側に兄が
蹲
(
うずく
)
まっていた。
青草
(新字新仮名)
/
十一谷義三郎
(著)
既に秋の
陽
(
ひ
)
は丘の彼方に落ち、真黒な大杉林の間からは暮れのこった
湖面
(
こめん
)
が、切れ切れに
仄白
(
ほのじろ
)
く光っていた。そして帆村探偵の姿も、やがて
忍
(
しの
)
び
闇
(
やみ
)
の中に
紛
(
まぎ
)
れこんでしまった。
爬虫館事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
オルガンティノは
吐息
(
といき
)
をした。この時偶然彼の眼は、点々と木かげの
苔
(
こけ
)
に落ちた、
仄白
(
ほのじろ
)
い桜の花を
捉
(
とら
)
えた。桜! オルガンティノは驚いたように、薄暗い
木立
(
こだ
)
ちの
間
(
あいだ
)
を見つめた。
神神の微笑
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
概
(
がい
)
して平安一路な航海、月や星の美しい甲板で、
浴衣
(
ゆかた
)
がけや、スポオツドレスのあなたが、近くに
仄白
(
ほのじろ
)
く浮いてみえるのを、意識しながら、照り輝く
大海原
(
おおうなばら
)
を、眺めているのは
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
彼は
磧
(
かわら
)
を、磧のむこうに流れる
仄白
(
ほのじろ
)
い河明りを、力無い瞳で眺めていた。ひどく胸が苦しい。どんな姿勢でいるのか自分でも判らない。水筒がずれて腹のあたりを押しているらしい。
日の果て
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
あたりは
仄白
(
ほのじろ
)
い光が
漲
(
みなぎ
)
って、森閑となんの物音もしない、いやどこか遠くで小鳥の
囀
(
さえず
)
りが始まっている、どきっとしてはね起き、恐る恐る見まわすと、自分の部屋に寝ているのだった。
恋の伝七郎
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
湖面は一たいに
小波
(
さゞなみ
)
が在ると見えて、曉とは云ひながら殊に
仄白
(
ほのじろ
)
かつた。そして水がずつと擴がつた向うの、布引あたりの山々は、明け急ぐ雲のけはひに包まれて、空との境を分明にしなかつた。
受験生の手記
(旧字旧仮名)
/
久米正雄
(著)
栄橋を渡ってしまうと、とにかく
吻
(
ほっ
)
として足どりも少し
緩
(
ゆる
)
くなる。鉄道の踏切を越え、
饒津
(
にぎつ
)
の堤に出ると、正三は背負っていた姪を叢に下ろす。川の水は
仄白
(
ほのじろ
)
く、杉の大木は黒い影を路に投げている。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
海面は
仄白
(
ほのじろ
)
くなったが、まだ陽はのぼらない、七ツすこし前。
顎十郎捕物帳:13 遠島船
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
血の気のない顔が
仄白
(
ほのじろ
)
く
鴨居
(
かもゐ
)
の下に浮いた。
曠日
(新字旧仮名)
/
佐佐木茂索
(著)
鬢
(
びん
)
の
香
(
か
)
吹かれ
仄白
(
ほのじろ
)
う急ぐ楽しさ
第二邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
仄白
(
ほのじろ
)
き八月の太陽。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
かゝる
汀
(
みぎは
)
に
仄白
(
ほのじろ
)
き
孔雀船
(旧字旧仮名)
/
伊良子清白
(著)
……大きな建物ばかり、四方に
聳立
(
しょうりつ
)
した中にこの
仄白
(
ほのじろ
)
いのが、四角に
暗夜
(
やみ
)
を
抽
(
ぬ
)
いた、どの窓にも光は見えず、
靄
(
もや
)
の曇りで陰々としている。
開扉一妖帖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ぼんやり浮いた月の
暈
(
かさ
)
——その光りに、土手の道も
仄白
(
ほのじろ
)
く見えだした二、三町先から、ここへ指してまッしぐらに駈けつけてくる黒い影。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
二人の女が冠つた手拭は夕闇に
仄白
(
ほのじろ
)
く、槌の音は
冷々
(
ひや/″\
)
とした空気に響いて、『藁を集めろ』などゝいふ声も
幽
(
かすか
)
に聞える。立つて
是方
(
こちら
)
を向いたのは省吾か。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
ぽうっと
仄白
(
ほのじろ
)
く
網膜
(
もうまく
)
に映じた彼にはそれが繃帯とは思えなかったつい二た月前までのお師匠様の円満微妙な色白の顔が
鈍
(
にぶ
)
い明りの
圏
(
けん
)
の中に
来迎仏
(
らいごうぶつ
)
のごとく
浮
(
う
)
かんだ
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ここは
仄白
(
ほのじろ
)
く靄がたちこめて、山はいずこ、今はなつかしい二つの峰も仰ぐことは出来なかった。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
ほんの
仄白
(
ほのじろ
)
く沙原が見えるようになった。夜が地平線から、頭を出して
此方
(
こちら
)
を覗いている。赤い夕焼は次第に彼方に、追いやられてしまった。夜が、
漸々
(
だんだん
)
此方に歩いて来る。
日没の幻影
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
うす暗い家の奥からは蚊やりの煙りが
仄白
(
ほのじろ
)
く流れ出て、家の前には涼み台が持ち出される頃、どこからとも知らず、一匹か二匹の小さい蝙蝠が迷って来て、あるいは
街
(
まち
)
を横切り
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
夜明けが近いとみえ、空がぼかしたように
仄白
(
ほのじろ
)
くなり、そうして小雨が降っていた。そのごく仄かな薄明りで、走って来る女の一人がこいそ、もう一人が千鳥であるのを十郎太は認めた。
日日平安
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そこに石燈籠があったので、台笠が落ちはしないかと
仄白
(
ほのじろ
)
い石を見詰めていた。
童子
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
人は一人も
居
(
お
)
らず、……今渡った橋は、
魚
(
うお
)
の腹のように
仄白
(
ほのじろ
)
く水の上へ出ているが、その先の
小児
(
こども
)
などは、いつの間にか影も消えていた。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
田水や小川の
仄白
(
ほのじろ
)
さは、夜明け近くも見えるが、
四顧
(
しこ
)
は、黒綿のようなもやにつつまれ、空は未明の雲がひくい。
新書太閤記:10 第十分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
互に長い沈黙に
圧
(
お
)
し出されたような工合に、一と言ずつ口をきいた。けれども矢張正面を切ったままだった。妻には夫の、夫には妻の、鼻の
頭
(
あたま
)
だけが
仄白
(
ほのじろ
)
く映った。
蓼喰う虫
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
丁度小降のなかを暮れて、
仄白
(
ほのじろ
)
く雪の町々。そこにも、こゝにも、最早ちら/\
灯
(
あかり
)
が点く。其時蓮華寺で
撞
(
つ
)
く鐘の音が
黄昏
(
たそがれ
)
の空に響き渡る——あゝ、庄馬鹿が撞くのだ。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
果ものの花が
仄白
(
ほのじろ
)
く咲いて、国の春に見るような、派手な色がないだけに、落ちついた、重みのある、一と口に云えば、いかにもライン河らしい、春の感じを与えている。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
一
疋
(
ぴき
)
の
仄白
(
ほのじろ
)
い毒々しい夜の蛾が、ぼんやり手燭にぼやけて
烟
(
けむ
)
ってみえた。
蛾
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
徳さんの持っている薄の穂が夕闇のなかに
仄白
(
ほのじろ
)
くみえた。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
水
(
みづ
)
が
環
(
わ
)
に
成
(
な
)
つて、
颯
(
さつ
)
と
網
(
あみ
)
を
乗出
(
のりだ
)
して
展
(
ひろ
)
げた
中
(
なか
)
へ、
天守
(
てんしゆ
)
の
影
(
かげ
)
が、
壁
(
かべ
)
も
仄白
(
ほのじろ
)
く
見
(
み
)
えるまで、
三重
(
さんぢう
)
あたりを
樹
(
き
)
の
梢
(
こずゑ
)
に
囲
(
かこ
)
まれながら、
歴然
(
あり/\
)
と
映
(
うつ
)
つて
出
(
で
)
た。
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
こうした空想の糸は限りもなく
手繰
(
たぐ
)
り出された。新九郎はやがてその空想に疲れて顔を上げると座敷の隅の
短檠
(
たんけい
)
が、
冥途
(
よみ
)
の
灯
(
あかり
)
のように
仄白
(
ほのじろ
)
くなって行った。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
仄白
(
ほのじろ
)
い夜の雪ばかりで誰の影も見えません。
暫
(
しばら
)
く
佇立
(
たたず
)
んでおりましたが、「晴れたな」と口の中で言って、二
歩
(
あし
)
三
歩
(
あし
)
外へ
履出
(
ふみだ
)
して見ると、ぱらぱら冷いのが
襟首
(
えりくび
)
のところへ
被
(
かか
)
る。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
スタンドの光線を
遮蔽
(
しゃへい
)
して、室内のほんの一部分だけを、辛うじて新聞が読める程度に明るくしてあるのだが、その明るい光の
圏
(
けん
)
の端の方に、ライラックが
仄白
(
ほのじろ
)
く
匂
(
にお
)
っている、———その白い影を
鍵
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
地
(
つち
)
の下の、
仄白
(
ほのじろ
)
い寂しい
亡霊
(
もうれい
)
の道が、草がくれ
木
(
こ
)
の葉がくれに、
暗夜
(
やみ
)
には
著
(
しる
)
く、月には
幽
(
かす
)
けく、
冥々
(
めいめい
)
として
顕
(
あら
)
われる。
縷紅新草
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その
面
(
おもて
)
に、はや
仄白
(
ほのじろ
)
く、水明りがうごいていた。——
蕭条
(
しょうじょう
)
として、そよぐ
枯
(
か
)
れ
蘆
(
あし
)
、瀬の水音も耳を打ってくる。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
天は遠く濁つて、低いところに集る雲の群ばかり
稍
(
やゝ
)
仄白
(
ほのじろ
)
く、星は隠れて見えない中にも唯一つ姿を
顕
(
あらは
)
したのがあつた。往来に添ふ家々はもう戸を閉めた。ところ/″\灯は窓から
泄
(
も
)
れて居た。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
仄
漢検1級
部首:⼈
4画
白
常用漢字
小1
部首:⽩
5画
“仄白”で始まる語句
仄白々