よはひ)” の例文
旧字:
夫れ春水杏坪共によはひ古稀こきを超へたり、頼氏固より長寿也、襄にして自愛せば其五十三齢に猶十年若くは二十年を加へ得べかりし也。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
思ひに思ふのみにて別れて後の事は知らず、如何いかなるわづらひをやさまでは積みけん、よはひよりは面瘁おもやつれして、あやしうも物々しき分別顔ふんべつかほに老いにけるよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
此孫が順養子となつたさうである。按ずるに梧陰は蘭門の玄道で榛門の安策の父ではなからうか。梧陰のよはひはるかに榛軒より長じてゐたらしい。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼は其の辺に有名な行者で、梅林の奥に小さなほこらを守つて居た。彼自らの言ふ所によると、よはひは既に九十を過ぎて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
マア/\皆さん、ちよつとわたしのいふことを聞いて下さい。一体鶴は千年のよはひをもつといふものですから、この鶴はだ/\永く生きのびることが出来ます。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
略解りゃくげに、「袖のなれにしとは、年経て袖のなれしと、その男の馴来なれこしとをかね言ひて、君も我もよはひのおとろへ行につけて、したしみのことになれるを言へり」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
たとひ三百歳のよはひを保ち、楽しみ身に余ると云ふとも、未来永々の果しなき楽しみに比ぶれば、夢幻ゆめまぼろしの如し。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
老母あはれみて四四をさなき心をけ給はんや。左門よろこびにへず。母なる者常に我が孤独をうれふ。まことあることばを告げなば、よはひびなんにと、ともなひて家に帰る。
此時七十老僧らうそう也しが、まへにいへる何村なにむらの人の不幸ふかうくらぶれば万死に一生をえられたる天幸てんかうといひつべし。よはひも八十余まで无病むびやうにして文政のすゑに遷化せんげせられき。
人々は正月もなくよはひも知らず、涙がこんこんたる大雪と化して天地を埋めた。南風の爽やかなその海辺の町にも、古老も知らぬといふ牡丹雪が夜を徹して降り止まなかつた。
サクラの花びら (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
主人が人間のよはひの尋常の境をはるかに越してゐて、老後に罹り易い病のどれにも罹らずに、壮んな気力を養つてゐるのは、好い空気のたまものである。主人は生涯に赫々たる功名を遂げた人である。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
焼山やけやまについてやすんだところで、渋茶しぶちやむのはさだめししわくたの……ういへば、みちさか一つ、ながれちかく、がけぶちの捨石すていしに、竹杖たけづゑを、ひよろ/\と、猫背ねこぜいて、よはひ、八十にもあまんなむ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
偉大なる殿堂のよはひを数へよ
傾ける殿堂 (新字旧仮名) / 上里春生(著)
朝のよはひを数ふべし
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あし田鶴たづよはひながゝれとにや千代ちよとなづけし親心おやごゝろにぞゆらんものよ栴檀せんだん二葉ふたば三ツ四ツより行末ゆくすゑさぞとひとのほめものにせし姿すがたはなあめさそふ弥生やよひやまほころびめしつぼみにながめそはりてさかりはいつとまつのごしのつきいざよふといふも可愛かあいらしき十六さい高島田たかしまだにかくるやさしきなまこしぼりくれなゐは
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
勝手掛として幕府の財政を行ふこと十年、海岸防禦事務取扱、後の所謂海防掛として外交の衝に当ること九年にして、よはひは三十五歳であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
七十を越したよはひであるから、もはや定命ぢやうみやうてもいとおもふが、それでもやはり寂しい心が連日いた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
よはひはなほ六十に遠けれど、かしらおびただし白髪しらがにて、長く生ひたるひげなども六分は白く、かたちせたれどいまだ老のおとろへも見えず、眉目温厚びもくおんこうにしてすこぶ古井こせい波無きの風あり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おのれ牧之ぼくしわらべのころはかゝるあそびの大将たいしやうをもせしが、むなしく犬馬けんばよはひて今はゆめのやう也けり。
きのふの雨のやどりの御めぐみに、まことある御方にこそと九九おもふ物から、一〇〇今より後のよはひをもて一〇一御宮づかへし奉らばやと願ふを、一〇二きたなき物に捨て給はずば
ならかつら山毛欅ぶなかしつき大木たいぼく大樹たいじゆよはひ幾干いくばくなるをれないのが、蘚苔せんたい蘿蔦らてうを、烏金しやくどうに、青銅せいどうに、錬鉄れんてつに、きざんでけ、まとうて、左右さいうも、前後ぜんごも、もりやまつゝみ、やまいはたゝ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして若し更に墓石に就いて検したなら、実母の名、其歿年、その竹田と語つた時のよはひをも知ることが出来るであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
よはひおとろへぬれば白細布しろたへそでれにしきみをしぞおもふ 〔巻十二・二九五二〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そのよはひと深慮と誠実とのゆゑを以つて、彼は他の同学の先輩として推服するところたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
見つゝ思はず悚然ぞつとして、いしくも咲いたり、可愛かはゆき花、あざみ鬼百合おにゆりたけくんば、我がことばに憤りもせめ、姿形のしをらしさにつけ、汝優しき心より、百年もゝとせよはひを捧げて、一朝の盛を見するならずや
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
岡野は重ねて、自分はよはひ五十歳を過ぎて、跡取あととりせがれもあり、此度の事を奉公のしをさめにしたいから、一番を譲つてもらつて、次の二番から八番までのくじを人々に引かせたいと云つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
媼は私の世話になつたころは、既に六十に手が届くぐらゐのよはひに達してゐた。
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)