ぬえ)” の例文
けると、多勢おほぜい通學生つうがくせいをつかまへて、山田やまだその吹聽ふいちやうといつたらない。ぬえいけ行水ぎやうずゐ使つかつたほどに、こと大袈裟おほげさ立到たちいたる。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぬえは単に未明の空を飛んで鳴くために、その声を聴いた者は呪言を唱え、鷺もふくろうも魔の鳥として、その異常な挙動を見た者は祭をした。
そこで道誉は、高氏の先を越して、伊吹の館で、彼を待つつもりらしいが、その行動も意図も依然、彼はぬえそのものといってよい。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急転直下、内藤村島両夫人のお礼詣りとなり、その又お礼返しに橋口君が「ぬえ」を歌いに来た晩が千吉君の家の稽古日と定った。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
所謂ぬえのやうな一種変妙な形式を作り出してゐる。この変妙な文体は今日の吾々に対しては著作の内容よりも一層多大の興味を覚えさせる。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そうして背中の斑がとらのようだから「ぬえ」だというものもあった。この鵺だけが雌で、他の三匹はいずれも男性であった。
子猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
少青年期の大事な部分を実家で療養に暮すうち中学生上りともつかず田舎紳士ともつかないぬえの青年になったらしい弟は
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
アームメットは鰐首がくしゅ獅胴河馬尻かばじりぬえ的合成獣で、もし死人の心臓と直な羽の重量めかたが合わば死人の魂は天に往き得るも
わたしが脚本というものに筆を染めた処女作は「紫宸殿ししんでん」という一幕物で、頼政よりまさぬえ退治を主題にした史劇であった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
現に邑井貞吉翁は、「頼政ぬえ退治」に音吐朗々あの調子で「時鳥がホーホケキョウと啼いた」と演ってのけたことがあったが、客はほとんど気がつかなかった。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ぬえ退治たいじられてしまいますと、天子てんしさまのおやまいはそれなりふきとったようになおってしまいました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
せめて御賓頭顱おびんずるでもでて行こうかと思ったが、どこにあるか忘れてしまったので、本堂へあがって、魚河岸うおがし大提灯おおぢょうちん頼政よりまさぬえ退治たいじている額だけ見てすぐ雷門かみなりもんを出た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俺ら、山男というからにゃ、頭の髪が足まで垂れ、身長せいの高さが八尺もあって、鳴く声ぬえに似たりという、そういう奴だと思ってたんだが、篦棒べらぼうな話さ、ただの人間だあ
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
源頼政のぬえ退治のくだりであった。居士の顔は眼鏡をかけるとやさしくなる。また居士は太鼓腹で恰幅のいい人で、みかけは土方の親方のようであったが、声はやさしかった。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
そこへ勝峯晉風かつみねしんぷう氏をも知るやうになり、七部集しちぶしふなどものぞきたれば、いよいよぬえの如しと言はざるべからず。今日こんにちは唯一游亭いちいうてい魚眠洞等ぎよみんどうらひまに俳諧を愛するのみ。俳壇のことなどはとんと知らず。
わが俳諧修業 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ぬえ退治たいじた伝説で有名な源三位頼政げんざんみよりまさ、西行法師、大原おおはらの三寂といわれた寂超じゃくちょう寂然じゃくぜん寂念じゃくねんの三兄弟、『金葉集』を撰んだ源俊頼の子の歌林苑の俊恵しゅんえ、少し若手では『方丈記』の鴨長明かものちょうめいなど
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
だい五の怪動物くわいどうぶつは、人間にんげん想像さうざう捏造ねつざうしたもので、日本にほんぬえ希臘ぎりしやのキミーラおよびグリフインとうこれぞくする。りう麒麟等きりんとう此中このなかるものとおもふ。天狗てんぐ印度いんどではとりとしてあるから、矢張やはり此中このうちる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ごらんなさい、あそこの額のなかには、ひとの鬼婆あや、天子様の御病気に取憑とりついたぬえという怪鳥けちょうまであがっているじゃありませんか、それだのに、切支丹の神様がなぜいけないんでしょう?
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ほら昔のことだが、源三位頼政が退治をしたぬえという動物が居たね」
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
の高らかな声に、人々は手に手に炬火かがりびを持って駆けよってきた。恐るおそる眺めると、見たこともない異形の化物である。頭は猿、胴は狸、尾は蛇であり、四つ足は虎の如く、鳴く声はぬえに似ていた。
「鳴く声、ぬえに似たりけりって奴だ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
寝殿を中央に、左右の対屋から北の母屋もや、奥のつぼねまでも、為に、夜空の雲にぬえでも現われたように——鳴りしずまって、しんとしてしまった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなら観音堂のがくを見たろう。あのなかに源三位げんざんみ頼政のぬえ退治がある。頼政が鵺を射て落すと、家来の猪早太いのはやたが刀をぬいて刺し透すのだ。な、判ったか。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「謡曲に『ぬえ』ってのがあるんだってね。猿虎蛇のお礼に、家へ来てその鵺を歌いたいと仰有るんだがね」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
大きにさうかも知れない。然しこの間違つた、滑稽な、ぬえのやうな、故意こいになした奇妙の形式は、しろ言現いひあらはされた叙事よりも、内容の思想をなほ能く窺ひ知らしめるのである。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
猫のつらで、犬の胴、狐の尻尾しりっぽで、おおきさはいたちの如く、啼声なくこえぬえに似たりとしてある。おっ可考かんがうべし
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
満を持してしばらくもたせたが「えい!」という矢声! さながら裂帛! 同時に鷲鳥の嘯くような、鏑の鳴音響き渡ったが、源三位頼政げんざんみよりまさぬえを射つや、鳴笛めいてき紫宸殿ししんでんに充つとある
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
全くこの二席の空高く浮く昼月の美しさに比べ見て、なんと他のことごとくの闇汁のゴッタ煮のぬえ料理の、ただいたずらに持って廻り、捏ねっ返して、下らなくでき過ぎていることよ。
たいまつをとぼし、ろうそくをつけて正体しょうたいをよくますと、あたまはさる、背中せなかはとら、はきつね、あしはたぬきという不思議ふしぎなばけもので、ぬえのようなごえしていたことがわかりました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それは獅の首山羊の胴蛇の尾で火を吐くぬえ同然の怪物だ。
ぬえ
いやいかに道義がすたった今でも彼のごときは全くれです。稀れなぬえです。箱根合戦の後陣ごじんから裏切って、この義貞を死地におとしたのも彼の才覚。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我国では、先ずぬえ五位鷺ごいさぎを怪鳥の部に編入し、支那では鵂※きゅうしを怪鳥としている。鵂※は鷹に似てよく人語をなし、好んで小児の脳をくらうなどと伝えられている。
妖怪漫談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と頼政のぬえ退治を焼き直したような物語を始め、それが無間の鐘から夜泣石へと移って行った。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
種をくわえて来ましたのは、定めし怪鳥けちょうぬえじゃろうかに手前どもが存じまする。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぬえのようなごえこえました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ぬえを舞う時に着けるんですの」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
額堂の北の柱を見ると、釘の先で、「ぬえる」と落書がしてある。——仰向いて、そこにある幾つもの絵馬を見ると、源三位頼政げんざんみよりまさの図をいた一つの額がある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歴然ありありと、ああ、あれが、嬰児あかんぼの時から桃太郎と一所にお馴染なじみの城か、と思って見ていると、城のその屋根の上へ、山も見えぬのに、ぬえが乗って来そうな雲が、真黒まっくろな壁で上から圧附おしつけるばかり
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それだ。そのように、あなたのすること、いうことは、すべて矛盾だらけなのだ。尻尾と頭とが一つでない。道誉をぬえというが、兄者こそ上手うわてをこす大鵺おおぬえだわ!」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしぬえふはこれかとおもつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だが元々、ぬえの道誉の本性は尊氏がよく見抜いてい、尊氏の矛盾だらけな気の弱さや大ざっぱな特質も道誉にすればむかしからつきあい好い男として来たものである。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有名な鵺退治ぬえたいじの俗話があるが、ぼくの考えでは、頼政自身がその“ぬえ”だと思っている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、ぬえだと思う。——志を朝廷によせ、若公卿のあいだに密々の交友をもつかと思えば、この鎌倉にあっては、執権お気に入り第一の御用人だ。まさに神変の鵺といっていい。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その道誉は、まま自身筆を執って、田楽狂言の戯作げさくをこころみたり、世に流行はやらせている自作の歌謡なども多いと聞くが、なるほど、それくらいな才はあろう。彼は才能のぬえでもある。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぬえだ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぬえを射る
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)