頑固がんこ)” の例文
テナルディエはそれを翻訳して「徒刑場の仲間の一人」だとした。ブーラトリュエルは頑固がんこにその名前を言うことを拒んだのである。
有体ありていに言えば、少年の岸本に取っては、父というものはただただ恐いもの、頑固がんこなもの、窮屈でたまらないものとしか思われなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いいえね、女房たちが私らを頑固がんこ過ぎる女だと言いもし、思いもしているらしいから、いろいろとほかの道のことも考えたのですよ」
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
老医師はその妻子だけを瑞西スイスに帰してしまい、そうして今だにどういう気なのか頑固がんこに一人きりで看護婦を相手に暮しているのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
安斉先生は頑固がんこのようだが、けっしてわからず屋でない。正三君の努力を理解して、顔に似合わぬやさしいことばをかけてくれる。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
客観情勢がどんなに変化しても、一つの政策を頑固がんこ固執こしゅうしていると、基本目的が失われる危険がある。そうなると正に本末転倒ほんまつてんとうである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
彼女は頑固がんこに、圧倒的な悲痛さで自己流に歌いつづけた。——でついにある日クリストフは——もうよくわかったと冷やかに言い放った。
頑固がんこの——おっとおまえおっかさんを悪口あっこうしちゃ済まんがの——とにかくここにすわっておいでのこのおっかさんのように——やさしくない人だて。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
仕方がないと云えばそれまでだが、そう頑固がんこにしていないでもよかろう。人間はかどがあると世の中をころがって行くのが骨が折れて損だよ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや、なかなか以って、丹波屋さんは頑固がんこで始末は悪いが、人間は立派な人で、間違ったことなどをする人ではありません」
この絢尭斎というは文雅風流を以て聞えた著名なだいの殿様であったが、すこぶ頑固がんこな旧弊人で、洋医の薬が大嫌いで毎日持薬に漢方薬を用いていた。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「……田舎は日本語の発音でも下等で頑固がんこじゃから、それが癖になってしまって英語でもすらすらと音が出しにくいんじゃないかと思うがな」
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
頑固がんこというものよ。職掌がら、しめっぽい空気がご自分に毒なことぐらい、百も承知でいらっしゃるくせに、まだ私をやきもきさせたいのねえ。
となお手まねを続けながら、事務長はまくらもとにおいてある頑固がんこなパイプを取り上げて、指の先で灰を押しつけて、吸い残りの煙草たばこに火をつけた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これらの小さくて頑固がんこな部屋部屋との闘いにおいて——Kにはしばしば部屋部屋との闘いのように思われるのだった。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
スペインの争乱が日日銃火を切って殺し合う図を思い描いても、思想の戯れの恐怖より銭欲しさの生活の頑固がんこさが盗賊のように浮んで来るのであった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は熱湯と竹の棒とで、化学的及び物理的の作用を応用して、頑固がんこに凍りついた兄弟たちのきたない物を排除する。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
モー二時間ばかりくるしんでいるが段々激烈になって当人は死ぬような騒ぎだ。そらあの苦しむ声がかすかに聞えるだろう。あんな頑固がんこな吃逆は見た事がない。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
押問答をしているうちに、一人の青年がそう言って庸三を勧説かんぜいした。彼は頑固がんこに振り切るのもいさぎよくないと思ったので、彼らの好意にまかせることにした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
長い頑固がんこな病気を持てあましている堅吉は、自分の身辺に起こるあらゆる出来事を知らず知らず自分の病気と関係させて考えるような習慣が生じていた。
球根 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし頑固がんこな意見はそれに注意を配らずに、全作品について、全生涯しょうがいについて、同じ一つの批判——あるいは黒のあるいは白の批判——で満足している。
ところが、ある偉大な妖術者ようじゅつしゃがこの木を切って不思議な琴をこしらえた。そしてその頑固がんこな精を和らげるには、ただ楽聖の手にまつよりほかはなかった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
頑固がんこで困るというものもあった、が結局先生に対してはなにもいわなくなった、英語の先生とはいうものの、この朝井あさい先生は猛烈な国粋主義者こくすいしゅぎしゃであった
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あの頑固がんこな三河武士が、そんな大した通人に出来上ってしまったということが、やがて徳川の亡びた理由であると、さかしげに説いている人もありましたが
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かまの下の灰まで自分のもんや思たら大間違いやぞ、久離きゅうり切っての勘当……」を申し渡した父親の頑固がんこは死んだ母親もかねがね泣かされて来たくらいゆえ
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
彼の態度はひどく頑固がんこで、みちみち彼のくちびるをもれるのは「あのいまいましい虫めが」という言葉だけであった。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
クラシズムの表現が欲するものは、何よりも骨骼のがっしりした、重量と安定のある、数学的頑固がんこを持った、言わば「物に動ぜぬ直立不動の精神」である。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「あいよ。」とおかあさんがって、はこなかから美麗きれい林檎りんごして、おんなにやりました。そのはこにはおおきな、おもふた頑固がんこてつじょうが、ついていました。
なお胸の奥底で「そうかなあ」と頑固がんこに渋って、首をひねっていたところも無いわけではなかったのである。
散華 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それを聞いた知人で、いぶかしがらぬ者はありません。祖父があまりに頑固がんこだと誹謗ひぼうする人さえあったのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
彼は、岩に立てかけた自分の背負いごから頑固がんこ火繩銃ひなわじゅうを取りだした。そして、下闇したやみに吸われて行った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
君は斎藤と正式に結婚したけれども、財産は手ばなさなかった。戦後成金なりきんだった君のなくなったお父さんに譲られた財産は、君自身のものとして頑固がんこに守っていた。
断崖 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
飲料のみものがほしければはいりそうなものであるが、若い人の、歓楽境のようにされてるそうしたところへは、女人おんなはまず近よらない方がいいという、変な頑固がんこなものが
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
建振熊命たけふるくまのみことは見る見るうちに宿禰すくねの軍勢を負かしくずして、ぐんぐんと、どこまでも追っかけて行きました。すると敵は山城やましろでふみとどまって、頑固がんこふせいくさをしだしました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
この老人の頑固がんこさ加減は立派な漢学者でありながらたれ一人ひとり相手にする者がないのでわかる。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
久しく隠れたる尼の発心、再び寡婦の胸に浮びしはこの沈黙の折にてありし、さりながら機会すでに過ぎ感情のうしおまたすでに退き一方には里方の頑固がんこ、他方には道なき絶峰
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
それを折角せっかくいろいろの新らしい便利なものがもうあたえられているのに、頑固がんこで物知らずで古いものにくっついているのだと言おうとする人もあるが、そんな事をいうのは
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あの節くれだって、そしてひねくれているところは、なんといっても頑固がんこなお爺さんです。併し、なんとなく気品のある老人です。それだけ梅の樹には、老人がよくうつります。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
彼は、お祖母さんが自分を叱るなら叱るで、さっさと叱ってくれるといい、と思ったが、恭一の背中に押しあてたその頭は、石のように頑固がんこだった。彼はそろそろ腹が立って来た。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この比較癖が頑固がんこな習性となって、僕らの信仰や愛情を知らず知らずの裡にゆがめているのではなかろうか。一つの茶碗ちゃわんを熱愛し、この唯一つにいのちを傾けるだけの時間をもたぬ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
真佐子が何気なく帯の上前の合せ目を直しながらそういうと、あれほど頑固がんこをとおすつもりの復一の拗ね方はたちまち性が抜けてしまうのだった。けれども復一は必死になっていった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
歌会の雅遊を風流としてたのしめないから頑固がんこで駄目だと後鳥羽院が『御口伝』に記された通りで、和歌の嗜みに風流をもとめず、和歌の上に「詩」をはじめようとしたのであったから
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
あれは、頑固がんこな佐幕方で、勤王派の者といえば、往来でもこじりを上げていどんでくる。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実は貴方の頑固がんこなのを私歯痒はがゆいやうに存じてをつたので御座います……ところが!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかし成親殿はまるで何ものかにつかれているように頑固がんこだった。わしは力の限り抵抗したけれども、彼の欲望に征服されてしまった。彼の欲望は奈落ならくの底に根を持っているように強かった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
旧式な頑固がんこおやじ、若いものの心などの解らぬ爺、それでもこの父は優しい父であった。母親は万事に気が附いて、よく面倒を見てくれたけれど、何故か芳子には母よりもこの父の方が好かった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この七人組の博士たちは、なかなか偉い人たちの集りで、少しも欠点がなかったが、しいて欠点をあげると、少しばかり頑固がんこなところがあった。他人の言うことを、あまり取上げないのであった。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
火山かざんかんする迷信めいしんがこのように國民こくみん腦裡のうり支配しはいしてゐるあひだ學問がくもんまつた進歩しんぽしなかつたのは當然とうぜんである。むかし雷公らいこう今日こんにち我々われ/\忠實ちゆうじつ使役しえきをなすのに、火山かざんかみのみ頑固がんこにおはすべきはずがない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
さて心の剛柔ごうじゅうとは、すでに前に女という字についていえるごとく、善意にも悪意にも解せられる。剛が過ぎれば剛情となり、頑固がんことなり、意気地いきじとなる。柔に過ぐれば木偶でくとなり、薄志はくし弱行となる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
餘程よほど頑固がんこひとのぞいてたいていみなしんずることになりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)