金箔きんぱく)” の例文
そうして法王あるいは高等ラマの小便でそれをねて丸薬に拵え、その上へ金箔きんぱくを塗るとかまた赤く塗るとかして薬に用いますので
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今、その金箔きんぱくをほどこした円天井はかくも高くそばだっているが、やがて廃物になって足もとに横たわるときがかならず来るのだ。
沈香じんこう麝香じゃこう人参にんじんくま金箔きんぱくなどの仕入、遠国から来る薬の注文、小包の発送、その他達雄が監督すべきことは数々あった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
伊太利亜イタリア名家のえがける絵のほとんど真黒まくろになりたるを掛けあり。壁の貼紙はりがみは明色、ほとんど白色にして隠起いんきせる模様および金箔きんぱくの装飾を施せり。
前陳の各種を製作するにつき、これに附属する飾り金物かなもの、塗り、金箔きんぱく消粉けしこな彩色さいしき等の善悪よしあしを見分ける鑑識も必要であります。
全身に金箔きんぱくを置かれたお靜は、半死半生の儘此中に入れられて、捨てるか殺されるかする最後の運命を待つて居たのでした。
ずっと入ってゆくと、かどぐちの左右には、朱塗り金箔きんぱく聯牌れんがみえ、一方の華表はしらには「世間無比酒せけんにむひのさけ」。片方には「天下有名楼」と読まれる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ごく最近までは朱塗に金箔きんぱくを置いた美しい馬具も作りました。見返すと立派なのに驚くのは、剣術の道具類であります。今も需用は絶えません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
JUCHHEIMと金箔きんぱくで横文字の描いてある硝子戸ガラスどを押しあけて、五六段ある石段を下りて行きながら、男がさあと蝙蝠傘こうもりがさをひらくのが見えた。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
煙草たばこでもですね、朝日や、敷島しきしまをふかしていては幅がかんです」と云いながら、吸口に金箔きんぱくのついた埃及エジプト煙草を出して、すぱすぱ吸い出した
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、ほかの坊主共と一しょになって、同じ煙管の跡を、追いかけて歩くには、余りに、「金箔きんぱく」がつきすぎている。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その上の方の普通鏡が置かれる場所には、銀色のはげ落ちた銅製の十字架像が、金箔きんぱくのはげた木のわくのうちに、すり切れた黒ビロードに留めてあった。
そういう風な千二百石取り直参お旗本の金箔きんぱくつきな身分がさせる退屈ですから、いざ鎌首を抬げ出したとなると、知らぬ他国の旅だけに、わびしいのです。
成程これならば、この食客的紳士が、因ってもって身の金箔きんぱくとする処の知事の君をも呼棄てにしかねはせぬ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木のいちばんてっぺんには、金箔きんぱくをつけた、大きな星が一つ、かざられました。それはほんとうに美しく、まったくくらべものもないくらいりっぱなものでした。
三年まえにも金箔きんぱくが御停止になったでしょ、色刷りの錦絵にしきえが御停止になったり、縮緬ちりめん下布したのが御停止になったり、そのときどきでお上からいろいろ御禁制が出たわ
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いかに人に接して偉大なる感を与うることあるも、年をるにしたがい、その金箔きんぱくがだんだんにげると同時に、その人はますます小さく、臆病にかつ卑怯ひきょうになる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ほツほツと片頬かたほに寄する伯母の清らけき笑の波に、篠田は幽玄の気、胸にあふれつ、振り返つて一室ひとますゝげたる仏壇を見遣みやれば、金箔きんぱくげたる黒き位牌ゐはいの林の如き前に
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
といって、三にんは、ふなをらえてきて、それに金箔きんぱくって、いくひきもかわなかはなったのです。
金の魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつか疑問の男赤井さんが、その三右衛門の家から、金箔きんぱくだらけになって出て来たことを。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かの説明者が一々に勿体もったいつける欄間らんまの彫刻やふすまの絵画や金箔きんぱく張天井はりてんじょうの如き部分的の装飾ではなくて、霊廟と名付けられた建築とそれをめぐる平地全体の構造配置の法式であった。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
金箔きんぱくを押した磔刑柱はりつけばしらを馬の前に立てて上洛したのは此時の事で、それがしの花押かきはん鶺鴒せきれいの眼のたまは一月に三たび処をえまする、此の書面の花押はそれがしの致したるには無之これなく
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
金箔きんぱく付の発狂となって、赤煉瓦のアパート生活に、護衛付の資格が出来て来るのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
捨てんか捨てんか、捨てたりともしろかねの猫にあらねば門前の童子もよも拾はじ。売らんか売らんか、売りたりとも金箔きんぱくげたる羽子板にも劣りていたづらに屑屋くずやみ倒されん。
土達磨を毀つ辞 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それは翁をして単一的鑑賞家、あるいは優れたる好者として完全に生かしておきたいからである。彼が好者としての金箔きんぱくをなまなかな製陶の不成功によって醜く剥がしたくないからである。
歳末になると、父は車を引張ってお酉様とりさまの熊手を売りにゆく。いろんな張子を一年かかって拵え、家の中を胡粉ごふんの臭いでいっぱいにし、最後に金箔きんぱくをつけて荷車に積んで売りに行ったものだ。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
それもただバタで拵えただけに止らず、その上に金箔きんぱくあるいは五色でいろどりをしてあるから、あたかも美しい絹の着物を着て居るように見えて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
かわらの一枚一枚が金箔きんぱくにつつまれている大坂城の宇宙の大屋根は、時の力と、時の富と、時の志向しこうを、象徴シンボルしている。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瀧五郎の指した方、丁度死骸の枕元一間位のところ、金箔きんぱくを置いた襖に指の先ほどの穴があいて、隣の部屋から午後の光線が明々と射してゐるのでした。
けれども彼には近藤の美的偽善ぎぜんとも称すべきものが——自家の卑猥ひわいな興味の上へ芸術的と云う金箔きんぱくを塗りつけるのが、不愉快だったのもまた事実だった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「一体うぬあ何者だい、尋常ただねずみじゃなさそうだ。」「あい、わっちあ、鮫ヶ橋で丹という、金箔きんぱく附の乞食だよ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蒼黒あおぐろの中に茶の唐草からくさ模様を浮かした重そうな窓掛、三隅みすみ金箔きんぱくを置いた装飾用のアルバム、——こういうものの強い刺戟しげきが、すでに明るい電灯のもとを去って
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戸口には大きな百合ゆりの茎が描かれすっかり金箔きんぱくをかぶせられた、彼のどっしりした四輪箱馬車は、騒がしい音を立てて走った。ちらと見るまにもうそれは通りすぎていた。
すると、だれいうとなく、きんうおは、ふなに金箔きんぱくってかわはなしたのだということがわかりました。二人ふたりはたいへんがっかりして、らえたうおかわててしまいました。
金の魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
地は黒塗で、牡丹の花弁かべんは朱、葉は緑、幹は黄、これに金箔きんぱくをあしらいます。蓋には二つのさん、胴には二段のたが、その間に線描せんがきの葉を散らします。作るのは盛岡であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
金箔きんぱく入りの型模様のある革製のハンド・バッグを抱え、厚いグラスのめがねをかけていて、ちょろの側まで来ると、そのめがねのふちをつまみ、グラスを前方へ押し出して
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
金箔きんぱく銀箔瑠璃るり真珠水精すいしょう以上合わせて五宝、丁子ちょうじ沈香じんこう白膠はくきょう薫陸くんろく白檀びゃくだん以上合わせて五香、そのほか五薬五穀まで備えて大土祖神おおつちみおやのかみ埴山彦神はにやまひこのかみ埴山媛神はにやまひめのかみあらゆる鎮護の神々を祭る地鎮の式もすみ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すべての物を滅して行く恐しい「時間」の力に思い及ぶ時、この哀れなる朱と金箔きんぱくうるしの宮殿は、その命の今日か明日あすかと危ぶまれる美しい姫君のやつれきった面影にも等しいではないか。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
金箔きんぱく付の迷探偵が一人出来上った。八幡様の一銭がチット利き過ぎたかな。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
武蔵の生れた郷里、作州吉野郡讃甘さぬも村大字宮本という村に、有馬喜兵衛なるものが矢来を組み、金箔きんぱく高札こうさつを立てて試合の者を求めたというのである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水槽は十坪ほどの二つに仕切つて、奧の四坪ほどのところ、水中にやゝ淺く木彫赤塗の龍を沈め、その深い口の端に金箔きんぱくを置いた寶珠を含んで居ります。
主人は少からざる尊敬をもって反覆読誦どくしょうした書翰しょかんの差出人が金箔きんぱくつきの狂人であると知ってから、最前の熱心と苦心が何だか無駄骨のような気がして腹立たしくもあり
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一八一七年に、その同じ練兵場の側道には、わしはちとの模様の金箔きんぱくははげ落ちて、青く塗られてる大きな木の円筒が、幾つも雨に打たれ雑草の中に朽ちてるのが見られた。
舞台と云うのは、高さ三尺ばかり、幅二間ばかりの金箔きんぱくを押した歩衝ついたてである。Kの説によると、これを「手摺てすり」と称するので、いつでも取壊せるように出来ていると云う。
野呂松人形 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
で、そのバタの光沢と金箔きんぱく、銀箔及び五色の色に映ずるところの幾千万の燈明とうみょうとが互いに相照すその美しさは、ほとんどこの世の物とも思えないほどの壮観そうかん及び美観をていして居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
聞くと……真鍮台、またの名を銀流しの藤助とうすけと言う、金箔きんぱくつきの鋳掛屋で、これが三味線の持ぬしであった。面構つらがまえでも知れる……このしたたかものが、やがて涙ぐんで……話したのである。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このような美しい多彩な刺繍の和鞍を作るのは、ただこの下野と常陸ひたちとの二ヵ国だけであります。正月の初荷はつにの時や、嫁入よめいりの時に新しくあつらえます。少し前までは朱塗金箔きんぱくの革も用いました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
寂心は出塵しゅつじんしてから僅に二三年だが、今は既に泥水全く分れて、湛然たんぜん清照、もとより浮世の膠も無ければ、仏の金箔きんぱく臭い飾り気も無くなっていて、ただ平等慈悲の三昧ざんまいに住していたのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ああ可笑おかし……ああたまらない……おこってはいけないよ君……今まで云ったのは嘘にも何にも、真赤な真赤な金箔きんぱく付のヨタなんだよ……アハ……アハ……併し決して悪気で云ったんじゃないんだよ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高い金箔きんぱくの天井にパチリパチリと響き渡る碁石の音は、廊下を隔てた向うのへやから聞えて来る玉突のキュウの音にまじわる。初めてこの光景に接した時自分は無論いうべからざる奇異なる感に打たれた。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)