あばら)” の例文
確かに手応えはあったが、ガーンという音と共に、太刀持つ拙者の手がピーンとしびれて厶る。黒装束の下に、南蛮鉄の一枚あばらよろい
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昨年の八月三日の晩に私が槍を持って庭先へ忍び込み、源次郎と心得突懸つッかけたは間違いで、主人平左衞門のあばらを深く突きました
その腹に一千人をひそませているトロイの馬! ディープ・カットの踏切りで迎え撃ってこの思いあがった悪獣のあばらに復讐の槍を投げつける
あばらを切り取る無気味の音が、ひとしきり部屋の中へ響いたが、やがて左右十本の肋骨ほねが、血にまみれながら、抜き取られた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あばらの骨がみな踏み砕かれているのを見ても、かの馬がよほど巨大な動物であることが想像されて、人々は顔をみあわせた。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
旗野の主人あるじ血刀ちがたなひつさげ、「やをれ婦人をんなく覚めよ」とお村のあばら蹴返けかへせしが、くわつはふにやかなひけむ、うむと一声ひとこゑ呼吸いきでて、あれと驚き起返おきかへる。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夜がけて、四隣あたりが静かな所為せゐかとも思つたが、念のため、右の手を心臓の上に載せて、あばらのはづれにたゞしくあたおとたしかめながらねむりに就いた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わが命のみなもとは、と、おどろきを新たにいたします、アダムのあばらから生れたなんて、西洋人も想像力が足りないことね。
隙もれた裏屋根の、冴えたあばらに入り交ふものは、しらじらと西風に光る利鎌、はやくも鉤なりに、彼等の額にまつはる何ものの翳であらう。ひと時の寂寞。
逸見猶吉詩集 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
「よウし!」一角のはらがきまッた。「多少の心得はあろうとも、およそは知れた虚無僧ずれ、その構えを割りつけて、天蓋からあばらの下までただ一刀!」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小林文吾も仰天ぎょうてんしないわけにはゆきません。押取刀おっとりがたなでその場へ駈けつけて見ると、岡村は左の肩から右のあばらを斜めに断たれて、二つになって無残の最期さいご
まだ焮衝きんしょうが残っているらしく、こころもち潮紅ちょうこうしたまましなつぶれていて、乳首とあばらとを間近く引き寄せた縫い目の処には、黒い血のかたまりがコビリ着いたまま
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
太刀の先があばらの骨に触れて、強い抵抗を受けたのを感じた。そうしてまた、断末魔の相手が、ふみつけた彼の藁沓わろうずに、下から何度もかみついたのを感じた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
拇指おやゆびあばらの所で背負帶に挾んで兩肘を張つてうつむきながらそろそろと歩く。榾は五尺程の長さである。横に背負つて居るのだから岩角へぶつつかりさうである。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この兒をさほどしと思はゞ、直に連れて歸りても好し。若しあばら二三本打ち折りて、おなじやうなる畸形かたはとなし、往來ゆきゝの人の袖に縋らせんとならば、それも好し。
六人前もたいらげるとおっしゃいますがそんなお方に限って牛肉は背の肉が良いかももの肉が良いか、あばらの肉はどんな味だか、舌や尾はどんなものだか少しも御存知ありません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ザックセン王宮の女官はみにくしといふ世のうわさむなしからず、いづれも顔立かおだちよからぬに、人の世の春さへはや過ぎたるが多く、なかにはおいしわみてあばら一つ一つに数ふべき胸を
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
これはチベットの仏具に使うために倒れた人があると通る人が皆持って行ってしまうのでただ残って居るのはあばらの骨位です。そういう物を見る度に無常の観念に打たれるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
病犬のように痩せほそった左膳のあばら骨の奥と、膝わきに引きつけた妖刀濡れ燕のほかは。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さる時には容赦は致さぬ。お上の縄にかけられて竹やりあばらを縫わるる前、せめては朋友の情に依り、此の拙者がこの場で命を貰うばかり——世評がまことと解りなば、呉羽之介どのその場を
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「併し君、あばらはあるだらう。胃だの腸だの肝臓だの心臓だのもあるだらう。」
この動作をもっとも強く助勢するは蛇の腹なる多くの横ひろい麟板で、その後端のへりが蛇が這いいる場面のいかな微細の凸起にも引っ掛かり得る。この麟板は一枚ごとに左右一対のあばらと相伴う。
投げられた拍子に石ころであばらを打ちやしてね、おまけに溝板どぶいたを蹴上げてあごを叩いたもんでげすから、今見舞いに寄ってみたら、あの気丈なお師匠さんが蒲団をかぶってうんうん唸ってやしたよ。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
開きコリヤ/\假令たとへかくしたりとて出家の境界きやうがい今更其をあかすべきや然而まして一向知らぬこと此身體は素よりかりの世なり殺さば殺せ勝手にしろと云を兩人は聞イヤハヤ此奴こいつ硬情しぶとき坊主めと云樣力に任せて一打あばら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
正賓はあばらきずつけられて卒倒し、一場いちじょうは無茶苦茶になった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
背中よりあばらの方がくすぐったかった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ひからびたあばらにだけつづりながら
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
また見るはあばらのにほひ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふたりともに顔や身体の内を何かにい取られて、手足やあばらの骨があらわれて、実にふた目とは見られないむごたらしい姿になっていたそうです。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夜がけて、四隣あたりが静かな所為せいかとも思ったが、念のため、右の手を心臓の上に載せて、あばらのはずれに正しくあたる血の音を確かめながらねむりに就いた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云いつゝ短刀を右手のあばらへ引き廻せば、おいさは取付とりつなげきましたが、丈助は立派に咽喉のど掻切かききり、相果てました。
久しく錬磨を怠ったれど、桶皮胴おけがわどうの二枚あばら、三つ重ねを一町先から裏掻うらかしまでに射通すことさして困難とも覚え申さぬ、論より証拠、いざ、ご覧あれや
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この時、浪士の右の足がねたかと思うと、米友の胸板むないためがけて、あばらも砕けよと蹴りが一つ入ったものです。普通ならば、これだけで事は解決してしまうのですが
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
深く、あばらへかけたその切ッ先は、ななめに通った床框とこがまちの一端にポトッ——と赤い糸をひいていました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしシチュウにするバラーはこの中のあばらの方にあるのです。それからまた首の方へ戻って来てショーランドの一、二、三とありますがこれも挽肉ひきにくで肉挽器械へかける処です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ザックセン王宮の女官はみにくしという世のうわさむなしからず、いずれも顔立ちよからぬに、人の世の春さえはや過ぎたるが多く、なかにはおいしわみてあばら一つ一つに数うべき胸を
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
拾った場所へもとの通り差置こうというではなく、ともあれ、沼の底へ葬り返そうとしたのであるが、いざ、となるとみぎわが浅い、ト白骨はあばらの数も隠されず、蝶々蜻蛉とんぼの影はよし
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
モニカの千太郎は顔面に三ヶ所とあばらを五寸ほど斬り下げられ、生命危篤であった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
いつの間にか私は一糸もまとわぬ裸体ぱだかになって、青白いあばら骨を骸骨のように波打たせて、骨だらけの左手に麻酔薬の残った小瓶を……右手にはギラギラ光る舶来の鋏を振りまわしながら
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
陰翳いんえいは彼があばら
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
突然何者か表の雨戸をれるほどたたく。そら来たと心臓が飛び上ってあばらの四枚目をる。何か云うようだが叩く音と共に耳を襲うので、よく聞き取れぬ。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
虚無僧は其の上へ片足かけて脊筋からあばらへ深く突き通し、鍔元の血振いをしながら落着いてあと退さがりました。
かたじけない!」と飛びちがえ、腰を捻ると真の居合い。抜いた時には斬っていた。左の耳の附け根からあごを割り咽喉のどを裂き脇のあばら三枚を切り皮を残して真っ二つ……
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
色を失って飛び退いたが、時遅し、法月弦之丞に持たれた一刀は、あだかも名刀に変ったかと思われるばかりな冴えを増して、片手打ちに、ズウンと弥助のあばらまで斬りこんでしまった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きっとなって、さあ始めやがった、あン畜生、またあばらの骨で遣ってるな、このままじゃ居られないと、突立つッたちました小宮山は、早く既にお雪が話の内の一員に、化しおおしたのでありまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あんじょう、その当人は、老いぼれのせこけた、あばらの骨が一本一本透いて見える、髪の毛の真白なのを振りかぶり、腰巻の真紅まっかなのを一腰しめただけで、そのほかは、しなびきった裸体のまま
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
妻君「ハイ」お登和「西洋料理屋のシチュウのようにお美味いしく出来ますまい」妻君「出来ません。ナゼでしょう」お登和「シチュウにする肉はバラーといってあばらところの肉でなければ美味おいしくなりません。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と云いながら懐よりすらりと短刀を抜いて權六のあばらを目懸けてプツーり突掛けると、早くも身をかわして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ガッ」という悲鳴、そのとたんに、飛び込んで来たもう一人の山窩、野太刀を揮うを払い上げ、片膝敷くとすくい切り、五枚目のあばらを三日月に、内臓深く切り込んだ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
騒動のあったあくる朝、何かの必要にうながされて、あばらの左右に横たえた手を、顔の所まで持ってようとすると、急に持主でも変ったように、自分の腕ながらまるで動かなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)