縦横たてよこ)” の例文
この寺の墓地と六間堀の裏河岸との間に、平家建ひらやだての長屋が秩序なく建てられていて、でこぼこした歩きにくい路地が縦横たてよこに通じていた。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それが無くなる、ある時は机の上に置いた英和辞典を縦横たてよこ絶切たちきって、それにインキで、輪のようなものを、目茶苦茶に悪書あくがきをしてある。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日の出だ! 大きく盆のようなのが、黒々と見ゆる山査子さんざしの枝に縦横たてよこ断截たちきられて血潮のようにくれないに、今日も大方熱い事であろう。
妙なことは、その写真版を光線に当ててよく見ますと、厚いアートペーパの上に、縦横たてよこに爪の跡の様なものがついているのです。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ある日この子は大きなとりの紙をどこからか買って来て、綺麗きれいにボール紙にりつけて、四十八に割った細いけい縦横たてよこに引いて、その一つ一つの目に
祖母 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「むだだ、むしろさまたげになる。それよりは、時の来るまで、随所に身をひそめ、縦横たてよこの結びを密にし、再び、正成が招く日の合図を山野に待っておれ」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黄色い、黒ずんだ紅玉かうぎよくの色の、花やかな桃色の、青い白いが水に泳いで居る。窓から引いた光と船から引いた光とがまじつて縦横たてよこに縞を作つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
一つ掘っては鳴動させ、二つ掘っては鳴動させ、とうとう大連を縦横たてよこ十文字に鳴動させるまでに掘り尽くしたと云う評判のある、——評判だから、本当の事は分らないが
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
扉は格子型こうしがたになっている。だから周囲と、中央を通る縦横たてよこには、厚い木材を使ってあるが、それらにはさまれた四カ所には、うすい板が張ってある。ナイフでごしごしと切っていった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
我住わがすむ魚沼郡うをぬまこほりは東南のいん地にして○巻機山まきはたやま苗場山なへばやま八海山はつかいさんうしたけ金城山きんじやうさんこまたけうさぎたけ浅艸山あさくさやまとう高山かうざん其余そのよ他国たこくきこえざる山々波濤はたうのごとく東南につらなり、大小の河々かは/″\縦横たてよこをなし
すたりし市邑しゆうはふたたび起りました。新たに町村は設けられました。地価は非常に騰貴とうきしました、あるところにおいては四十年前の百五十倍に達しました。道路と鉄道とは縦横たてよこに築かれました。
金三はこう云いかけたなり、桑畑のあぜへもぐりこんだ。桑畑の中生十文字なかてじゅうもんじはもう縦横たてよこに伸ばした枝に、二銭銅貨ほどの葉をつけていた。良平もその枝をくぐりくぐり、金三のあとを追って行った。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
といいながら顔を縦横たてよこズタ/\に切りまして、又源次郎に向い
ライ麦の青き縞目しまめ縦横たてよこに赤々し冬の日の沁みてける
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
大荒原だいこうげん縦横たてよこを、あら、万眼まんがん魚鱗うろくづや。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
縦横たてよこ十文字に跳ね廻っては行かん。
縦横たてよこみち
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
……たびに、銀杏返いてふがへしくろあたまが、縦横たてよこはげしくれて、まんまるかほのふら/\とせはしくまはるのが、おほき影法師かげばうしつて、障子しやうじうつる……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
艶書は誰にも知られぬ間に縦横たてよこきれぎれに細かく引裂ひきさかれて江戸川の流に投げてられたのである。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とおせていた目を、すぐ真下ました作事場さくじば——内濠うちぼりのところにうつすと、そこには数千の人夫にんぷ工匠こうしょうが、朝顔あさがおのかこいのように縦横たてよこまれた丸太足場まるたあしばで、エイヤエイヤと
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
考え出すたびに、昔の自分の事だから遠慮なく厳密なる解剖の刀をふるって、縦横たてよこ十文字に自分の心緒しんしょを切りさいなんで見るが、その結果はいつも千遍一律で、要するに分らないとなる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
縦横たてよこにかず知れず走るひび
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一ツずつそのなかばを取りしに思いがけず真黒なる蛇の小さきが紫の蜘蛛くも追いけて、縦横たてよこに走りたれば、見るからに毒々しく、あまれるは残してみぬ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は繊維の強い包み紙を引き掻くようにき破った。中から出たものは、縦横たてよこに引いたけいの中へ行儀よく書いた原稿ようのものであった。そうして封じる便宜のために、おりたたまれてあった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こひともおもふが、ちつこい。どぜうでは可笑をかしかんべい。ふなひとこさへてせつせえ。ざつかたちえ。うろこ縦横たてよこすぢくだ、……わしおなじにらかすで、くらべてるだね。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雪は小止おやみなく、今は雨も交らず乾いた軽いのがさらさらとおもてを打ち、よいながらかどとざした敦賀のとおりはひっそりして一条二条縦横たてよこに、つじの角は広々と、白く積った中を、道のほど八町ばかりで
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆき小止をやみなく、いまあめまじらずかわいたかるいのがさら/\とおもち、よひながらもんとざした敦賀つるがまちはひつそりして一すぢすぢ縦横たてよこに、つじかど広々ひろ/″\と、しろつもつたなかを、みちほどちやうばかりで
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
縦横たてよこに道は通ったが、段の下は、まだ苗代にならない水溜みずたまりの田と、荒れたはたけだから——農屋漁宿のうおくぎょしゅく、なお言えば商家の町も遠くはないが、ざわめく風の間には、海の音もおどろに寂しく響いている。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
縦横たてよこに並んだのは、いずれも絵の具の大瓶おおがめである。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と花火にまねて、縦横たてよこや十文字。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)