礼拝らいはい)” の例文
旧字:禮拜
そして二つの白い棺の前にうやうやしく礼拝らいはいしたのち、莫大な香奠こうでんを供えた。彼がそのまま帰ってゆこうとするのを、人々はたって引留めた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
ドノバンも富士男も賛成さんせいした。一同はうちつれて山田左門の墓にもうで、ゴルドンの慷慨淋漓こうがいりんりたる弔詞ちょうしのもとに礼拝らいはいをおわった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
皇孫命様こうそんのみことさま竜神様りゅうじんさままた産土神様うぶすなかみさま礼拝らいはいし、今日きょうにち任務つとめ無事ぶじつとめさせてくださいますようにと祈願きがんめることにしました。
ほとんど薬師如来やくしにょらいが来たか何ぞのように礼拝らいはいしてものを頼むという次第しだいで実に驚きまして、その翌六日午前二時パルテー駅出立
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この映画で自分のもっとも美しいと思った場面はおおぜいの白衣の回教徒がラマダンの断食月に寺院の広場に集まって礼拝らいはいする光景である。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
崖の崩れ、埋れた池——何といふびしさかな。本堂の仏殿の前に立つて、礼拝らいはいをしたが、腹の底からまぶたの熱くなる気がした。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
麻利耶観音と称するのは、切支丹宗門きりしたんしゅうもん禁制時代の天主教徒てんしゅきょうとが、しばしば聖母せいぼ麻利耶の代りに礼拝らいはいした、多くは白磁はくじの観音像である。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、こう偉いのが顔をそろえて、あだかもこの自分を、神の天童のごとく、礼拝らいはいしているのをみると、彼としても固くならないではいられない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「合掌礼拝らいはい。森君よ。ずっと向うに見えて居るのは何でしょう。あれは死ですね。最も賢き人は死をしかと認めて居ますね。十二月七日。祈祷きとう。」
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして又斯かる場合になほ官位につて礼拝らいはいの順序を譲り合ひ、其れが為に自分達に迄すくなからぬ時間を空費せしめた官人くわんじんの風習を忌忌いま/\しく思つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
森の中のたたずまいは、丁度名ある大寺院の礼拝らいはい堂に似て、その幾層倍も、神秘に、幽玄ゆうげんに、物凄く感じられるのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三たび与八に向って礼拝らいはいして出かけましたから、見送るほどの者共が、和尚気がちがったのではないかと怪しみました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
突当りには『死の記念碑』とした大理石の彫刻もあったし、丘にったような眺望ちょうぼうの好い地勢で、礼拝らいはい堂のある丘の上からは巴里もよく見えました。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔は十万石以上の大名がこの殿上に居並いならび、十万石以下の大名は外なる廻廊に参列して礼拝らいはいの式をなした。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
焼香供華くげ礼拝らいはい誦経じゅきょう、心しずかに称名しょうみょうしたろう真面目さ、おとなしさは、何という人柄の善いことだろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
最早かれの読経どきやうはかれのための読経ではなかつた。また仏に向つて合掌するかれの手は、かれのための合掌礼拝らいはいではなかつた。新しい力はかれの魂をよみがへらせた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
わたしは偶像の前にこうべをたれた。男もまた粛然として頭をたれた。わたしはやがて頭をあげて見返ると、男はまだ身動きもせずに、うやうやしく礼拝らいはいしていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
沖に漂いました大船たいせんの難破一そう、乗組んだ二百あまりが、方角を認め、救われまして、南無大権現なむだいごんげん、媛神様と、船の上に黒く並んで、礼拝らいはい恭礼をしましてござる。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寺の寮々に塗籠ぬりごめを置いて、おのおの器物を持ち、美服を好み、財物を貯え、放逸の言語にふける、そうして問訊もんじん礼拝らいはい等は衰微している。恐らくは余所よそもそうであろう。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それでわしごうが深くて悟れないのだと云って、毎朝かわやに向って礼拝らいはいされたくらいでありましたが、後にはあのような知識になられました。これなどはもっとも好い例です
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最後に、私は君らとともに、永平寺の小僧さんが、礼拝らいはいしながら鐘をついたという、あの敬虔けいけんな態度の意味を、もう一度深く味わって、けさの私の話を終わることにしたい。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
すぐ目の前で悟浄があわてて立上がり、礼拝らいはいをするのを、見るでもなく見ぬでもなく、ただ二、三度まばたきをした。しばらく無言の対坐たいざを続けたのち悟浄は恐る恐る口をきいた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
親鸞 皆ひざまずいて三宝を礼拝らいはいしていられる。金色のが枝をはなれて地に落ちた。皆それをあつめて十方の諸仏を供養なさるのじゃ……あ、花がふる。花がふる…………
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ず浅草の観音様へ参って礼拝らいはいを致し、是から何処どこゆこうか、うしたらよかろうと考えるうちに、ふと胸に浮んだのは勇治ゆうじと云う元屋敷の下男で、我が十二歳ぐらいの頃まで居たが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
橘諸兄に告げしめて「三宝の奴と仕え奉る」と、そして敬々しく礼拝らいはいした。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
面白いことには、父は今もなお大の迷信家らしく、居間の壁には、天井裏に近く棚が吊ってあって稲荷いなりさんだとか荒神こうじんさんだとかがまつられてあり、毎朝それに向って礼拝らいはいをしているのだった。
これはやはり私の暮らしが生真面目なせいだろう。うちの応接間にはオルガンが置いてあって、教会の連中が日曜毎に礼拝らいはいにくる。生活も質素一方で、酒も煙草ものまず、遊びというものを知らない。
平次と生きた二十七年 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
日輪に礼拝らいはいしたる獅子王の威とぞたたへむうらわかき君
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
太陽たいやうをマタハリといひて礼拝らいはいすまた「感天大帝かんてんたいてい」の文字もじ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
折から礼拝らいはいが終ったところで信徒がゾロ/\出て来る。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かくてたふれぬ、礼拝らいはいの事了りて。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
だからここで礼拝らいはいしてお別れを告げてまた後にもう一遍ここへ巡礼に来た時お逢い申せるように願いを掛けて置くとこう申して礼拝をするから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ただしとびらはしまっている。その前に礼拝らいはいしている何人かの人々。少年はそこへ歩みより、こちらへ後ろを見せたまま、ちょっと観音堂を仰いで見る。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
事業界に名を知られた川手氏のことゆえ、告別式参拝者の数もおびただしく、予定の一時間では礼拝らいはいしきれない程の混雑であったが、斎場の内陣に整列して
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
駒井は花と香とをあげて礼拝らいはいする。父母と先祖と、それから、親戚のものにいちいち礼拝をして廻って、やがて、例の天樹院殿てんじゅいんでんの前までやって来ました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まだ岸本はあの古いソルボンヌの礼拝らいはい堂などに結びつけて見て来た旅の印象を忘れることが出来なかった。不思議にも死んだ物語が彼の胸にきて来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このとき、はや衆僧は、如海にょかいに引率されて、奥の法要の道場へ乗込んでいた。香煙こうえんるるとけいを合図に礼拝らいはいする。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みぎ御鏡みかがみ早速さっそく岩屋いわやおくの、ほどよきたかさのかべ凹所くぼみえられ、わたくし礼拝らいはいもっと神聖しんせい目標もくひょうとなりました。
その木挽の与吉よきちは、朝から晩まで、同じことをして木を挽いて居る、黙って大鋸おおのこぎりを以て巨材きょざいもとひざまずいて、そして仰いで礼拝らいはいする如く、上から挽きおろし、挽きおろす。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巴里パリイのノオトル・ダムを観る暇の無かつた晶子はこれ見恍みとれて居る。周囲の礼拝らいはい室に静かに黙祷もくたうに耽つて居る五六人の女が居た。響くものは僕等の靴と草履ざうりの音だけである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
吾輩の尊敬する尻尾大明神を礼拝らいはいしてニャン運長久を祈らばやと、ちょっと低頭して見たが、どうも少し見当けんとうが違うようである。なるべく尻尾の方を見て三拝しなければならん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其の前を礼拝らいはいして過ぐるのを見た、と云われたほど時人じじん尊崇そんそうされた菅三品の門に遊んで、才識日に長じて、声名世にいた保胤は、に応じて及第し、官も進んで大内記だいないきにまでなった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大辻珍探偵は、岩の足跡から取った白い石膏せっこう靴型くつがたを、大事そうに礼拝らいはいした。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この合唱たびたび繰り返さる、一同礼拝らいはいす、沈黙。立ち上がり無言のまま左右のふすまをあけて退場。舞台しばらく空虚。小僧登場。夕ぐれの鐘をつく。この所作二分間かかる。無言のまま退場。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
礼拝らいはいが終ってから、牧師館へ寄って話し込んだ。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
礼拝らいはいをしながらついたまででございます。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
黙つて礼拝らいはい合掌した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
寂寞じやくまく大海だいかい礼拝らいはいして
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
少くとも、南蛮寺なんばんじ泥烏須如来でうすによらい礼拝らいはいする奉教人ほうけうにんあひだには、それが疑ふ余地のない事実だつたと云ふ事である。
悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
男の蔭になって見えぬテーブルの上に、その対象がのせてあるに相違ないのだが、この深夜、空家みたいな部屋で、何かを礼拝らいはいしているというのも変な話だ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)