生娘きむすめ)” の例文
餅菓子店もちぐわしやみせにツンとましてる婦人をんななり。生娘きむすめそでたれいてか雉子きじこゑで、ケンもほろゝの無愛嬌者ぶあいけうもの其癖そのくせあまいから不思議ふしぎだとさ。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その時にやっと後家さんは、云い損ないに気が付いたらしく、生娘きむすめのように真赤になったが、やがて袖に顔を当てるとワーッと泣き出した。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
昔はどうだかわからねえが、当節はね、生娘きむすめのままで嫁にゆく女なんて、千人に一人、いや、五千人に一人もいやあしねえぜ。
はばかりながら妾はね、まだ立派な生娘きむすめさ、聾者つんぼのお六って聞いてごらん、神代原から萩原かけ、知らない人はありゃあしないよ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お此というのは、山城屋のひとり娘で、町内でも評判の容貌きりょう好しであるが、どういうわけか縁遠くて、二十六七になるまで白歯しらは生娘きむすめであった。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先刻、耳に入れた話、何か預かり物の一件、生娘きむすめだとかお邸奉公だとか言っていたが、あれは何、それを種に使えまいか。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
売女なら売女でもいいわよ、あなただって生娘きむすめのくせに、お金欲しさに夕方になると色男のところへいらっしゃったじゃありませんか、その器量を
だが、色々試してゐるうち、孔雀の世間馴れた素振そぶりが、これまで初心うぶ生娘きむすめでなかつた事を証拠立てて来た。草人は不安さうな目付をしてたづねた。
乙女心をとめごゝろ薔薇ばらの花、ああ、まだ口もきかれぬぼんやりした薄紅うすあか生娘きむすめ乙女心をとめごゝろ薔薇ばらの花、まだおまへには話がなからう、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
よしておくれよ、お嬢さんなんて、私はもう、生娘きむすめじゃない、男のために、さんざんになった女だよ。おまけに、癆咳ろうがいもちで、長生きのできない、女なんだよ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瑠璃子は生娘きむすめの様にソワソワして、どこか不安らしくさえ見えたが、その代り美しさは飛び切りであった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
化粧のないゆき子の顔は、あをざめてゐたが、女らしくて、昔の生娘きむすめには違ふなまめかしさを持つてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
かれは決してきむすめ以外には手出しをしなかったし、生娘きむすめなればたいがい大丈夫だとも言っていた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
レヴィー・クールは、富裕閑散な中流市民階級の腐敗した生娘きむすめらと、いたってよく気が合っていた。
その時分にはいくら淫奔いんぽんだといってもまだ肩や腰のあたりのどこやらに生娘きむすめらしい様子が残っていたのが、今ではほおからおとがいへかけて面長おもながの横顔がすっかり垢抜あかぬけして
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
莫連者ばくれんものの大姐御でも、恋となれば生娘きむすめも同然。まるで人が変わったように、かいがいしく左膳の世話をする。何かぽっと、一人で顔をあからめることもあるのでした。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
生娘きむすめの恋愛ぢやあるまいし、あんな男に二度と気まぐれを許すもんかといふ切ない矜りもあるにはあつたが、さうかと云つて、向うがあのまま黙つてゐるのでは、また
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
かえって当人をみすぼらしく、相手を引きたてるようなもので、加代子さんほどの清純な生娘きむすめでも、やっぱり聞き手に苦しい気持を与えるから、ヤキモチヤキの美しい鬼
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼女は枕もとの火鉢ひばちの前へ、生娘きむすめがするように、つつましくすわって、はにかみながら話した。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
患者の中には良家の者らしい若い女性もゐたが、産婦人科へ生娘きむすめが来るためしもすくなかつた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
おとよさんが人の妻でなかったらその親切を恋の意味に受けたかもしれないけれど、生娘きむすめにも恋したことのない省作は、まだおとよさんの微妙なそぶりに気づくほど経験はない。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
なによりさきわたし自墮落じだらく承知しやうちしてくだされ、もとより箱入はこいりの生娘きむすめならねばすこしはさつしてもくださろうが、口奇麗くちぎれいことはいひますともこのあたりのひとどろなかはすとやら
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この答へを生娘きむすめの口から引出すのは、錢形平次といへども容易のことではありません。
門跡の寝室近く妙齢の生娘きむすめを臥せさせもらい、以て光彩門戸もんこに生ずと大悦びした。
御嶽おんたけの雪のはだ清らかに、石楠しゃくなげの花の顔気高けだかく生れついてもお辰を嫁にせんという者、七蔵と云う名をきいては山抜け雪流なだれより恐ろしくおぞ毛ふるって思いとまれば、二十はたちして痛ましや生娘きむすめ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
だけれど生娘きむすめでいた時より美しくはなっても、醜くはなっていない。その上どうしたのが男に気に入ると云うことは、不為合ふしあわせな目に逢った物怪もっけさいわいに、次第に分かって来ているのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
いや、たまたまこれはお粂の生娘きむすめであった証拠で、おとこおんなの契りを一大事のように思い込み、その一生に一度の晴れの儀式の前に目がくらんだものであろう、と言って見るものもある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
破ることに世間見ずの千太郎と又相手は遊女とは云へまだ生娘きむすめも同樣なる小夜衣のことなれば後先あとさきかんがへも無く千太郎を招き田舍ゐなかありては見る事も成らぬかゝる御人と連理れんりちぎりをむすぶ嬉しさは身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
勤めの身でいてまるで生娘きむすめのような恋をしようとするのですからね。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
一、 生娘きむすめそで誰が引いて雉の声 也有
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
お前が本当の生娘きむすめの倅と云うのだ。
氣のれやすい生娘きむすめ暮らし
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
青地に金モールの給仕服ユニフォーム身体からだにピッタリと吸付すいついているが、振袖ふりそでを着せたら、お化粧をしなくとも坊主頭のまんま、生娘きむすめに見えるだろう。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お紋かな? いやちがう! 似ても似つかない生娘きむすめだ!」悩乱した頭脳にも感じられたのは、処女性を備えた豊満の肉体。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
生娘きむすめが初夜をおそれるようなもので、そこを踏み越えればなんでもなくなるのだ、などというのであった。
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから乳母ばあや、七兵衛入道が押しつけられて来た南部の生娘きむすめのお喜代——番外としては、ほとんど監禁同様に船室に留められている兵部の娘、それだけのもので
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それに、生娘きむすめでもない彼女は、はしたなく悲鳴を上げる様なことはなかったけれど、でもやっぱり、いい知れぬ恐怖に胸の辺がビクビク震え出すのをどうすることも出来なかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その両手といふのは、従来これまで幾度か観音様を半殺しにした事があるので、仏様はそれが目につくと、急に生娘きむすめのやうに真青な顔になつて、平素ふだんのたしなみも何も忘れておしまひになる。
他の一人は銀座のあるダンスホールでクラリネットを吹いている音楽師を恋人にしていたが、あとの三、四人は年も二十になるかならず、手入らずの生娘きむすめだかどうだか、それは分らないが
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
生娘きむすめの役をしてる女優が「腐ったソースのような」鈍い声を出してると言ったり、花形女優が「ランプのかさのような」着物をつけてると言ったりした。——あるいはまた、夜会へ出かけた。
土蔵の中には大きな蛇がまつってあるんだそうで……。それに三度の食物を供える。それには男の肌を知らない生娘きむすめでなければいけないというので、お通がその役を云い付けられたのでございます。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その生娘きむすめのお園が、あぶらぎつた丹右衞門の餌になつて、夜となく晝となく毒々しいほどさいなまれ、一寸試し五分試しに玩具おもちやにされてゐるのを見て、小半次はすつかり氣が變つてしまつたことだらう
もとより箱入りの生娘きむすめならねば少しは察してもゐて下さろうが、口奇麗な事はいひますともこのあたりの人に泥の中のはすとやら、悪業わるさに染まらぬ女子おなごがあらば、繁昌どころか見に来る人もあるまじ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ヒソヒソとい進んで行くのであったが、そのうちに闇夜の草花の水っぽい、清新な芳香においが、生娘きむすめの体臭のように、彼の空腹にみ透って来た。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
生娘きむすめだ生娘だ、この女は! お紋とはちがう、全然まるで異う! ……胸の円さ、乳房のふくよかさ! ……そうして何んと清浄なんだ! ……見たこともない
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おい、しっかりしろ」と彼は云った、「生娘きむすめだから遠慮をしていたんだ、それだけのこった、こんどこそ、力ずくでもものにしてみせるから見ていやあがれ」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
気前と心意気にはうぶなところがまる残りなんだから掘出し物さ、いわば、生娘きむすめと、お部屋様と、お女郎と、間男まおとことを、ひっくるめたような相手なんだから、近ごろ気の悪くなる代物しろものだあ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
五十を越しても生娘きむすめのように肌を見せるのを嫌がったので、行く先々の鍼灸はりきゅう治療師が困らせられる事が多かった。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの淫蕩いんとうな習慣からぬけだして、生娘きむすめのようにきりっとし、清潔な女になった。
上様、あなたはお気の毒なお方、だまされているのでございます。田沼に、ええ、田沼の爺に! ……わたし生娘きむすめではなかったのです。……妾の生娘は田沼めが……だのに上様はご存知なく、妾を
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)