みだ)” の例文
みだらな仕草しぐさは平気、下卑げびた戯談はおかまひなしで、あたくしなぞ、そばにゐたたまれないやうなことが、しよつちゆうでございます。
緑の星 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
少し手を上げると、袖がまくれ落ちて、ひじの上まで素肌すはだだった。クリストフはそれを見て、見苦しいようなまたみだらなような気がした。
通りかかると六、七名の兵が一人のみやびな女性にょしょうをとらえ、必死な悲鳴もなんの、見るにたえぬみだらな乱暴におよぼうとしておった
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世の中はようやく押詰って、人民安からず、去年は諸国に盗賊が起り、今年は洛中らくちゅうにてみだりに兵器を携うるものを捕うるの令が出さるるに至った。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
帰りのおそい浅井を待っているお増の耳に、美しい情婦おんなの笑い声が聞えたり、みだらな目つきをした、白い顔が浮んだりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
伝統をみだりに崩さぬためと思われます。もし今後醜いものが現れますなら、それは新しく試みた品物に限るでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「君は他人の娘を侮辱するつもりですか、富美子がそんなみだらな娘だということを親の私に面と向かって云うんですか」
花咲かぬリラ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
茶の湯の方式など全然知らない代りには、みだりに酔いれることをのみ知り、孤独の家居にいて、床の間などというものに一顧を与えたこともない。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それがあまりにしつこいのとみだりがましいのとで、帳場にいた金兵衛が聞き兼ねて、大きい声で長太郎を叱り付けた。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何しろ江戸一の大祭なので、当日は往来を止めてみだりに通行を許さず、傍小路わきこうじには矢来やらいを結い、辻々には、大小名だいしょうみょう長柄ながえや槍を出して厳重に警固する。
雨はまた一としきり硝子窓をつ、淋しい秋の雨と風との間にみだりがましい子守女の声が絶えてはまた聞えて来る。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
こうして手前どもがお茶屋へ奉公いたしておりますのをどうやら好きこのんでみだらな事でもいたすように仰有いますが、まアお聞きなすって下さいまし。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼らは家に妻子を蓄え、口に腥膻なまぐさくらい、私に髪を剃りみだりに法服をつけて、形は沙門の如きも心は屠児すなわちエトリに似たものであると云っている。
牛捨場馬捨場 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
予壮時諸方のサーカスに随い行きし時、黒人などがほめき盛りの牝牡猴に種々みだりな事をして示すと、あるいは喜んで注視しあるいはねたんで騒ぐを毎度た。
みだりに刀を抜き敵に狙撃せられた例が少なくない。そうすれば指揮刀なるものは自然必要なくなる。日本軍人が指揮刀を腰にするのはどうも私の気に入らない。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
ほれっぽくて、物の道理もわからないのが、此時代の江戸の市井に、幾多の物語と伝説とを作ったことは事実で、芝居と絵本と、みだらな話で、娘をこう教育した
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
この外藩政に関係する役人の詰所は、この御次ぎを離れた場所にそれぞれあって、それらの役人はこの御次ぎへはみだりに一歩も踏み入ることを許されていない。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
古来、仏教では「法をみだりにおかしたものは、その罪、死に値す」とまでいましめておりますが、この意味において、私もおそらく、死に値する一人でありましょう。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
さうかと思ふとまたの日は急に朗らかで、いそ/\して来て、どこから探し出して来たか、古風なみだらな絵巻物をかの女にそつと拡げかけるやうなこともあつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
それが近年高山植物保護指定地になって、みだりに採取することを禁じて以来、またぽつぽつ目に入るようになったから、幾年かの後には面影を恢復するであろう。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その時お前たちが芝生で腰を下して休んでいたら、やはり近くで休んでいた労働者風の男が二・三人、明らかに故意わざと聞えるような声でみだらな話を交していたろう。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
百万の烝民じようみんくこの神を拝するときは死後生を波羅葦増雲の楽園にく。然るに、耳目あれども此神を知らず、みだりに神徳をそこなふものは、即ちいんへるのの苦淵に沈む。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
結婚というものはごく打ち解けたおおやけの祝いであり、淳朴じゅんぼくな祝宴は家庭の尊厳を汚するものではなく、たといそのにぎわいは度を越えようと、みだらなものでさえなければ
独言ひとりごとをいいながら元の座敷へ参りましたが、忠義も度をはずすとかえって不忠にちて、お米は決して主人にみだらな事をさせる積りではないが、何時いつも嬢様は別におたのしみもなく
永らく英国に暮していた私は、見知らぬ他人からみだりに言葉をかけられるのを快く思わなかった。ことに態度が気に入らない。私はムッとして相手の顔を視詰めた。男は肩をすぼめて
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
しかるに久保さん、病院の他の人々はみだらな、卑しい眼で二人を見ました。そしていろいろな不愉快な事情の後に、お絹さんは私の室にもはや訪れられないことになってしまいました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そして彼が去らうとした時、眼の前にあつて手に取るやうにみだらな高声の聞こえて来る和蘭屋敷の二階に女の叫び声が聞こえて、けたゝましい跫音あしおとと同時に大きな菊の鉢が窓から落ちた。
「暑い、暑い。」と腰紐こしひもを取る。「暑いんだもの。」とすらりと脱ぐ。そのしろさは、雪よりもひきしまって、玉のようであった。おきゃんで、りんとしているから、いささかもみだりがましい処がない。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かのかきを越えてはしるなどのみだりがましき類ならねば、た何をか包みかくさんとて、やがて東上の途中大阪の親戚に立ち寄らんとの意をらしけるに、さらばその親戚はれ町名番地は如何いかになど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
夏のある夕べ、かの雑居房の四人がひとしきりみだらな話に興じたあげく、そのうちの一人が、いきなり四ツんばいになって動物のある時期の姿態を真似ながら、げらげらと笑い出したのを見た時には
(新字新仮名) / 島木健作(著)
ししむらめるみだらなるのほほゑみに。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
見兼みかねたりけん客人には餘程草臥くたびれしと見えたり遠慮ゑんりよなく勝手かつてに休み給へ今に家内の者共が大勢おほぜい歸り來るが態々わざ/\おき挨拶あいさつには及ばず明朝までゆるりとねられよ夜具やぐ押入おしいれ澤山たくさんありどれでも勝手に着玉へまくら鴨居かもゐの上に幾許いくつもありいざ/\と進めながら奧座敷おくざしき差支さしつかへ有れば是へはみだりに這入はいり給ふな此儀は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小宰相はしいんと眸を澄まして、そういう能登のみだらな唇を憎むようにめかえした。ぱっと紅葉をちらした顔でもない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現にゆうべの祈祷の休息のあいだに、彼はお姫様をとらえてみだらなことを云い出した。実に言語道断の不埒ふらちである。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから話の花が咲いて、あることないこと、果ては聴くに忍びないようなみだりがましい噂に落ちて、ドッと笑う。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
機嫌のいい時には、これまで口にしたこともなかった、みだらな端唄はうたの文句などを低声こごえうたって、一人ではしゃいでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
肉欲的な陰険な輝いた眼で、狡猾こうかつそうな横目を使い、あらゆる冗談を待ち受け、あらゆるみだらな話を拾い取り、どこかで男の心をろうとつとめていた。
ほれつぽくて、物の道理もわからないのが、この時代の江戸の市井に、幾多の物語と傳説とを作つたことは事實で、芝居と繪本と、みだらな話で、娘をかう教育した
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
そして隠岐ではその「みょう」の数に制限があってみだりにそれを殖やさぬ慣例であったと見え、間脇のものが百姓に仲間入りするにはその株を買う必要があったのだ。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
むしろときによると身のこなしをことさらみだらがましくして相手の注意にこたえるようでさえあった。
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この蝮は平生頭のみ露わして体を沙中に埋め、その烈毒をたのんでみだりに動ぜず。人畜近くに及び、わずかに首をもたぐ。人はもとより馬もこれに咬まるれば数時の後たおる。
在営期間も最も有利に活用すべく、幹部候補生の特別教育は極めて合理的であるが、みだりに将校に任命するのは同意し難い。除隊当時の能力に応ずる階級を附与すべきである。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
他人に見られるやうなところで、どんな必要の場合でも肌を脱いだり、すそをからげたりは決してしなかつた。兄弟同志の間では、なほ更それはみだらなものを見るやうに嫌つた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
その村に伝わる一定の形や作り方があり、また好んで用いる材料もまっていて、凡てが伝統的な仕事だと知れる。式をみだりにくずさないから、背後には遠い歴史が重なるのであろう。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
入口に林区署員の外みだりに入るべからずという意味のことが立てかけた板に書いてある。去年は見なかったものだ。むを得ないから片隅を借用することにした。田部君は夕食の支度にかかる。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
というとぞっとするようなみだらがましい流眄ながしめをつかいながら
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
乗円 咄、此老狐らうこみだりに愚民をたぶらかし居るな。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
新開しんかいまちびて、色赤くみだるる屋根を
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
みだらな厭らしいものゝ限りであつた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
たとえ、太守のおことばがあろうとも、兵器をたずさえて動くからには、兵部や他の重臣たちの同意ないうちに、みだりに、立ちさわぐことは相成らぬ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)