煉瓦れんが)” の例文
軒の肘木ひじきや屋根裏もなかなか面白い。煉瓦れんが甃石しきいしもいいものだね。台湾に住めばこういううちに住みたくなるのが当然なんだがなあ。
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
二、三人自動車でき殺してから、又煉瓦れんがを掘りかえして工事をはじめるよりも、めい/\の命が無事なうちに願い度いものである。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
平日は労役へ出るので、彼女はそちらへ出向いて行き、時には作業場、時には煉瓦れんが工場、時にはイルトゥイシュ河畔の小屋で会った。
その家は、オランダから持ってきた黄色い小さな煉瓦れんがで建てられ、格子窓こうしまどがあって、正面は破風はふ造りで、棟には風見がのっていた。
道路の真中に煉瓦れんがの欠けらがころがっていた。そこへ重い荷物を積んだ自動荷車が来かかって、その一つの車輪をこの煉瓦に乗り上げた。
鑢屑 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
また電車通りを新橋口まで、あのガード下の煉瓦れんが道を、暮れの売り出しで賑わっている東京デパートの前から、駅構内へ出て来ました。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
御維新後、煉瓦れんが焼きが流行はやった際に、村から半道ばかりかみの川添いの赤土山を、村の名主どんが半分ばかり切り取って売ってしまった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小屋の外に煉瓦れんがと石で組んだ即席かまどがあり、煮炊きをするようになっているが、そこに石油罐せきゆかんを掛け、買って来たぼろ布を入れて煮る。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
官銜燈カンシェントンらしい灯を中にして一団の人影が向って来るのを見ると、軽機を溝へ放り込み、側の煉瓦れんが塀に飛びついてそれを跳び越えた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
「なんだって?」課長は頭をイキナリ煉瓦れんがなぐられたような気がした。一体青竜王はどこまで先まわりをして調べあげているのだろう。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこにある広場にはけやきや桜の木がまばらに立っていて、大規模な増築のための材料が、煉瓦れんがや石や、ところどころに積み上げてあった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いわゆる貸間長屋デネメントハウスというやつで、一様に同じ作りの、汚点しみだらけの古い煉瓦れんが建てが、四六時中細民さいみん街に特有な、あの、物のえたような
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
たがいちがいの煉瓦れんがの急な切阿きりずまが上についてる十五世紀式の壁に沿って百歩ばかりも行くと、彼は大きな弓形の石門の前に出た。
かれは、いま、ひかりけて、ぎんか、水晶すいしょうつぶのように断層だんそうから、ぶらさがって、煉瓦れんがつたわろうとしているみずしずくていました。
空は煤煙でくろずみ、街の両側には、無限の煉瓦れんがの工場が並んでゐた。冬の日は鈍くかすんで、煙突から熊のやうな煙を吹き出してゐた。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
その奥は土地でたんと云っている煉瓦れんがのようなものが一ぱい積み上げてある。どうしても奥の壁に沿うて積み上げてあるとしか思われない。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あの洗い落したような空のすそに、色づいた樹が、所々あったかくかたまっている間から赤い煉瓦れんがが見える様子は、たしかにになりそうですね
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暗黒やみの中に恐ろしい化物かなんぞのようにそそり立った巨大な煉瓦れんが造りの建物のつづいた、だだッ広い通りを、私はまた独りで歩き出した。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「エエ、お墓ですよ。しかし、普通の墓ではありません。ありふれた石塔なんかじゃありません。煉瓦れんが造りでね、小さい蔵を建てるのです」
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
通天門と額を打った煉瓦れんがの石の門をくぐって、やはり紅葉の中を裏へ出ると、卯之吉うのきちという植木屋の庭を、庚申塚こうしんづかの手前へ抜けられますわ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また江州のかわら屋根に、煉瓦れんがの所をわざわざ二つに割っておく家がある。これはやはり、家相の悪い災難よけであるとのことだ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「荘田さんですか。それじゃあの停留場のぐ前の、白煉瓦れんがの洋館の、お屋敷がそれです。」と、小僧は言下に教えてれた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鉄柵と云うのは、ホンの腰位の高さの煉瓦れんがの柱の間に、やはり同じ位の高さでめぐらしてあるので、飛越えるには大した造作はないのです。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
彼はそうして白い煉瓦れんがの階段を一段一段あがりながら、うっかり女の誘惑に乗ると帰りの旅費まで無くする恐れがあるので
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
炉のすみ煉瓦れんがの上に、酒のはいった小さい土瓶どびんが置いてある。与平は、よごれたコップを取って波々と濁酒どぶろくをついで飲んだ。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
この力は大変強いので、北満ほくまんでは煉瓦れんが造りの家屋がそのために崩壊したり、それよりも困るのは、鉄道線路に凹凸おうとつが出来て汽車が走れなくなる。
塚のやや円形まるがた空虚うつろにして畳二ひら三ひらを敷くべく、すべて平めなる石をつみかさねたるさま、たとえば今の人の煉瓦れんがを用いてなせるが如し。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
遠路とおみち痩馬やせうまかした荷車が二輛にりょうも三輛も引続いて或時あるときは米俵或時は材木煉瓦れんがなぞ、重い荷物を坂道の頂きなる監獄署の裏門うちへと運び入れる。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
東鶏冠山とうけいかんざん北堡塁ほくほうるいや、松樹山の補備砲台は、平生へいぜいセメントや煉瓦れんがをいぢくる商売がら、つい熱心に見て廻つたが、けつきよく僕にわかつたことは
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
そこに広げられた道路をおよそ何間なんげんと数え、めずらしい煉瓦れんが建築の並んだ二階建ての家々の窓と丸柱とがいずれも同じ意匠から成るのをながめた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
向う側は古い禅寺の杉の立木が道路の上へ覆いかかり、煉瓦れんが造りの便所の上まで枝を垂れていた。こんな坂の中途に便所がどうして建っているのか。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
が、「煉瓦れんが」と呼ばれた、東京唯一の歩道時代からのいろ/\のうつりかわりにはまた語るべきことも多い様である。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
私はこの時計台とその洋館をいつも立ち止って観賞するのである。赤い煉瓦れんがづくりであり二階の両側にはブロンズの人像も決してまずいものではない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
たましいをむしりたいほど退屈なパアム街のなかほどに、109という番号字のげかかった茶煉瓦れんがの立体が、赤く枯れたつたをいっぱいに絡ませて
そこで菊五郎の徳兵衛がいろいろ話すうちに、天竺には銀座通りという賑かい町があると言った。そこには大きい煉瓦れんがづくりの店がならんでいると言った。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
並木路のつきるところ、正面に赤い化粧煉瓦れんがの大建築物。これは講堂である。われはこの内部を入学式のとき、ただいちど見た。寺院の如き印象を受けた。
逆行 (新字新仮名) / 太宰治(著)
其のうしろに西洋館の褪紅緋色たいこうひいろ煉瓦れんががちら/\見えて、いかにも物持の住むらしい、奥床しい構えであった。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たとえばもとの煉瓦れんがづくりの時分九尺だった間口が今度の奈良朝づくりになってから平均八尺(というのは中には七尺八寸のところもあるのだそうである)
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
それは東京大学の工学部の赤煉瓦れんがの建物があったころで、もう四十年ぐらい前になるかと思うが、木下杢太郎きのしたもくたろう君にさそわれて、佐野利器さのとしかた博士を研究室に訪ね
麦積山塑像の示唆するもの (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この絵ハガキの道庁の写真には「赤煉瓦れんが古風床しき」と書いてあるのだが、いつ建ったものか聞きもらした。
くずれかかった煉瓦れんが肥溜こえだめの中にはビールのようにあわがもりあがっています。さあ順番じゅんばんおけもう。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
街の小道の上に煉瓦れんが積みのトンネルが幅広く架け渡され、その上は二階家のようにして住んでいるらしい。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
見るたびに妻の顔は、明確なテンポをとって段階を描きながら、克明に死線の方へ近寄っていた。——山上の煉瓦れんがの中から、不意に一群の看護婦たちがくずした。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
汽車が停ったから、外を見ると赤い煉瓦れんがの大きな煙突えんとつがあって、ここも工場町と見える。このあたりで大きな煙突のあるのは十中八九砂糖会社の工場なのである。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
「地面にはすっかり煉瓦れんがが敷いてあるんでね、それほど骨を折らずにすみましたよ。煉瓦のあいだのこけを調べたんだが、動かされていないことがわかったのです」
それを彼は四方の壁や、剥げ落ちた漆喰しっくいや、庭に転がっている煉瓦れんが陶瓦タイル破片かけらの上に読んだのだ。家屋と庭園の一切の歴史は、それらのものの上に記されていた。
あるいは高い赤い煉瓦れんがへいを越えて、囚人が社会の空を望む時に、彼らはそこに実際以上の自由があり幸福があるように考えると、ドストエーフスキーは言ったが
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
彼等の周囲にあるものは、はてしない雪の曠野こうやと、四角ばった煉瓦れんがの兵営と、撃ち合いばかりだ。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
へやのゆかは煉瓦れんがが半分くずれた上を掘りかえしたようなていさいでした。こうもりが天井てんじょうの下をとびまわって、へやのなかから、むっとくさいにおいがしました——。
煉瓦れんが石材を用いるやや永続的な様式は移動できないようにしたであろう、奈良朝ならちょう以後シナの鞏固きょうこな重々しい木造建築を採用するに及んで実際移動不可能になったように。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)