あたゝか)” の例文
お二人のお心からの純眞なあたゝかい御同情を、あなたの福音の道にかなつた慈善のお心と同じやうに、本當に嬉しく有難く思つてをります。
ズボリと踏込ふみこんだ一息ひといきあひだは、つめた骨髓こつずゐてつするのですが、いきほひよく歩行あるいてるうちにはあたゝかります、ほか/\するくらゐです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雪吹にあひたる時は雪をほり身を其内にうづむれば雪暫時ざんじにつもり、雪中はかへつてあたゝかなる気味きみありてかつ気息いきもらし死をまぬがるゝ事あり。
地の上の暗黒が次第に濃く、あたゝかに、しめつぽくなつて来た。天は次第に高くなつた。そして天の川の銀色の霧の中にある星は次第に明るくなつた。
センツアマニ (新字旧仮名) / マクシム・ゴーリキー(著)
格之助も寺でよひあかつきとにあたゝかかゆ振舞ふるまはれてからは、霊薬れいやくを服したやうに元気を恢復して、もう遅れるやうな事はない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
突如、あたゝかき手は来つて梅子の右掌めてしかと握れり、彼女かれは総身の熱血、一時に沸騰ふつとうすると覚えて、恐ろしきまでに戦慄せんりつせり、額を上ぐれば、篠田の両眼は日の如く輝きて直ぐ前にかゝれり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
我ながら魔界へ落ちたと、ぐっとお竹を□□める途端に、あたゝかみでふと気が附いたお竹が、眼をいて見ますと、力に思う宗達和尚が、常にもない不行跡ふぎょうせきひげだらけのほおを我が顔へ当てゝ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かれ天性てんせいやさしいのと、ひと親切しんせつなのと、禮儀れいぎるのと、品行ひんかう方正はうせいなのと、着古きぶるしたフロツクコート、病人びやうにんらしい樣子やうす家庭かてい不遇ふぐう是等これらみなすべ人々ひと/″\あたゝか同情どうじやう引起ひきおこさしめたのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
二月にいたりても野山一面の雪の中に、清水ながれは水気すゐきあたゝかなるゆゑ雪のすこしきゆる処もあり、これ水鳥のをりる処也。
りながら外面おもて窮乏きうばふよそほひ、嚢中なうちうかへつあたゝかなる連中れんぢうには、あたまからこの一藝いちげいえんじて、其家そこ女房にようばう娘等むすめらいろへんずるにあらざれば、けつしてむることなし。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二個の長い食卓しよくたくには、何かしらあたゝかい物のはひつてゐる鉢から煙が出てゐた。ところが、面喰めんくらつたことには、食慾を起させるどころか、大變な臭氣を發してゐた。
大井は抜刀ばつたうを手にして新塾に這入はひつて来た。先づ寝所しんじよあたゝかみをさぐつてあたりを見廻して、便所の口に来て、立ちまつた。しばらくして便所の戸に手を掛けて開けた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
寒中雨雪うせつ歩行ありきひえたる人きふ湯火たうくわもちふべからず。おのれ人熱じんねつあたゝかならしむるをまつて用ふべし、長生ちやうせいの一じゆつなり。
私は何か香氣かうきあるものをはじめて味つた。飮むとあたゝかくて、新鮮な香り高い酒のやうだつた。そして後味あとあぢつぱく、腐敗して毒を呑まされたやうな氣持ちだつた。
はだへきぬすばかり、浴衣ゆかたあをいのにも、胸襟むねえりのほのめくいろはうつろはぬ、しか湯上ゆあがりかとおもあたゝかさを全身ぜんしんみなぎらして、かみつやさへしたゝるばかり濡々ぬれ/\として、それがそよいで
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いきりのつ、あたゝかいのを二串ふたくしつて、れい塗下駄ぬりげたをカタ/\と——敷居際しきゐぎは
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
湯氣ゆげあたゝかく、したなる湯殿ゆどの窓明まどあかりに、錦葉もみぢうつすがごといろづいて、むくりと二階にかいのきかすめて、中庭なかにはいけらしい、さら/\とみづおとれかゝるから、内湯うちゆ在所ありかかないでもわかる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)