毛脛けずね)” の例文
宗近君は脱いだ両袖をぐるぐると腰へ巻き付けると共に、毛脛けずねまつわる竪縞たてじますそをぐいと端折はしおって、同じく白縮緬しろちりめん周囲まわりに畳み込む。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
牛飼いの若者はその火に毛脛けずねを焼かれながら、悲鳴を挙げて飛び起きると、無我夢中に高這たかばいをして、裏手の方へ逃げ出そうとした。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
毛脛けずねが大の字を書いている。胸は、はだけているし、よだれは畳にベットリだ。鼻から提灯ちょうちんを出していないのがまだしもの寝顔であった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして教授の長い脛をズボン下からき出すと、商売ものの懐中電灯をさっと照らしつけて、教授の毛脛けずねをまざまざと検視した。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
島野は持余した様子で、苦り切って、ただ四辺あたりを見廻すばかり。多磨太は藁草履の片足を脱いで、砂だらけなので毛脛けずねこすった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
パリパリパリッ! と、うずら目天井板の真ン中が割れたかと思うと、太い毛脛けずねが一本、ニュウッ! と長くたれさがって来た。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのそば半襦袢はんじゅばん毛脛けずねの男たちが、養蚕ようさん用の円座えんざをさっさっと水に浸して勢いよく洗い立てる。からの高瀬舟が二、三ぞう
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
毛脛けずねを手で叩きながらみんなをにらみまわした、「ふん、どいつもこいつも田吾作たごさくづらあしてやがる、これからおれがちっとずつしょうをつけてやるぜ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「安心して下さい、ありゃ確かに男ですよ。毛脛けずねが大変で——その上切り立ての犢鼻褌ふんどしをして、威張って居ましたよ」
折角ねむらうとすればもしもしと呼び起され、少しとろとろしたと思ふと、頭を毛脛けずねで跳ね飛ばされなどして、一寸ちよつとも不自由な思ひをしないことはない。
脛押すねおしか。』と轟大尉とゞろきたいゐかほしかめたが、けぬ大尉たいゐ何程なにほどことやあらんとおなじく毛脛けずねあらはして、一押ひとおししたが、『あた、たゝゝゝ。』とうしろ飛退とびのいて
しまい忘れた枕の上に、どっかと腰かけて男のように膝を立てて、首を鏡台につき出しているもの。男のようにと言えば、裸の足が男の毛脛けずねのように毛深いもの。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
細い毛脛けずねを風になびかせ、だんだら模様の古風な水浴着マイヨオを一着におよんだコン吉は、蜘蛛くもの子のような小さい紅蟹べにがにが這い廻る岩の上へ、腰を掛けたり立ち上ったり
途中、阪急の夙川駅から、半ズボンの下に毛脛けずねを見せた兄のキリレンコが乗って来て、車室の中の色彩にはっと眼を見張ったが、貞之助達の前へ来てり革にぶら下りながら
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「左様、ここは空家でござる。……幽霊屋敷で通っている。外桜田の毛脛けずね屋敷でござる」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
足を洗って、三吉は涼しい風の来る表座敷へ行った。そこで畳の上に毛脛けずねを投出した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さア、どうだと言わんばかりに胡坐あぐらの腰をゆるがし、左手で毛脛けずねをさすりあげた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
こりゃ野郎のみえでするんじゃございません、さあ、この通り潔白、頭のてっぺんから、毛脛けずねの穴まで見通しておくんなせえ、イカサマ、インチキはの毛ほどもございやせん、という
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
骨太で、しかももの凄い毛脛けずねである。伸ばしたら二寸はあらうと思はれる真黒な太い毛が、脛骨の峯をさかひに渦を巻きながらひしめき合つてゐる。立派に行者ぐらゐは勤まりさうな脚である。
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
風呂ぎらいだった和一郎の毛脛けずねを考えて、伸子は笑い出した。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
のどぶえの飛び出た頸、骨ツぽい手足や毛脛けずねにも移つた。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
決して胡坐あぐらをかいたり毛脛けずねを出したりする事はない。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ころも、わんに至り、毛脛けずねれる。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
硝子越しの夏の日が毛脛けずねを照し
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
法師たちの高歯の下駄や木履ぼくりが彼の背をふんづけた。牛若はくやしがって、その毛脛けずねへしがみついたが、荒縄でくくりあげられてしまった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いちばん明るい窓の下で、毛脛けずねを撫でているところへ、例によって案内もわず、友人の鳴海三郎なるみさぶろうがぬっと入ってきた。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
手の裏かえす無情さは、足も手もぐたりとした、烈日に裂けかかる氷のような練絹ねりぎぬの、紫玉のふくよかな胸を、酒焼さかやけの胸に引掴ひッつかみ、毛脛けずねに挟んで
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「安心して下さい、ありや確かに男ですよ。毛脛けずねが大變で——その上切り立ての犢鼻褌ふんどしをして威張つてゐましたよ」
僕は山賊のような毛脛けずね露出むきだしにした叔父と、静御前しずかごぜんかさに似た恰好かっこう麦藁帽むぎわらぼうかぶった女二人と、黒い兵児帯へこおびをこま結びにした弟を、縁の上から見下して
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と学士に言われて、子安は随分苦学もして来たらしい締った毛脛けずねでた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
殘念ざんねんだな、よし。』と武村兵曹たけむらへいそうたちま毛脛けずね突出つきだした。
少々くらい毛脛けずねでも人間の脚ならば我慢がまんしますから。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
毛脛けずね屋敷の床の下に、大きな地下室が出来ていた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
硝子越しの夏の日が毛脛けずねを照し
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
左次郎は、この男のザラザラした毛脛けずねも、日に焦けた皮膚も光る目も、すべて親切気に富んだ特質のように見えて、一ぺんに頼もしくなった。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するすると向うへ流れて、横ざまに近づいた、細い黒い毛脛けずねかすめて、蒼い水の上をかもめ弓形ゆみなりに大きくあざやかに飛んだ。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋本と余は、勢いよく浴衣ゆかたげて、競争的に毛脛けずね突込つっこんで、急に顔を見合せながらちぢんだ事がある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は自分の脚の毛脛けずねを——いや、これはあのとき売物を買って取付けたものであるが、今はこれが自分の脛の第二世となっている——それを撫でるともなしに撫で始めたが
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八五郎は寒空に毛脛けずねを出し駈け出しさうにして居ります。
「賛成賛成」といずれも疲れ切ったる毛脛けずねを叩く。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
見ると、そこに一人の体の巨きな僧が、毛脛けずねをだし、袖をたくしあげて、まるで土工のように真っ黒になって働いている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
する/\とむかうへながれて、よこざまにちかづいた、ほそくろ毛脛けずねかすめて、あをみづうへかもめ弓形ゆみなりおほきくあざやかにんだ。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちに総身そうしんの毛穴が急にあいて、焼酎しょうちゅうを吹きかけた毛脛けずねのように、勇気、胆力、分別、沈着などと号するお客様がすうすうと蒸発して行く。心臓が肋骨の下でステテコを踊り出す。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
八五郎は寒空に毛脛けずねを出し駆け出しそうにしております。
「よくも——、ちイッ……」と死にものぐるい、迂濶うかつにのしかかった宅助の毛脛けずねへ、すすきの葉で切ったほどなあとをつけた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちと気がれて血相変り、取乱してはいるけれど、すらっとして中肉中脊、戦慄ぞっとするほどい女さ。と空嘯そらうそぶいて毛脛けずねの蚊をびしゃりと叩く憎体面にくていづら
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
膝にった頃の、幼心おさなごころに返って——形こそ皆、腕枕をかったり、足の裏を天井にあげたり、毛脛けずねをむき出したりして、ごろごろ寝転んではいたが
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手の裏かへす無情さは、足も手もぐたりとした、烈日れつじつに裂けかゝる氷のやうな練絹ねりぎぬの、紫玉の、ふくよかな胸を、酒焼さかやけの胸に引掴ひっつかみ、毛脛けずねに挟んで
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ほうり出していた毛脛けずねをひっ込めたり、横にしていた体を起して、絃歌げんかようやく盛んならんとする頃おい、小女が来て
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縁のすぐわきに居て、ぐるりと毛脛けずねまくったなりで、真三に声を掛けたものがある。ことばつきで、軍人の猛者もさか、田舎出の紳士かと思われるが、そうでない。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)