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暗澹
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あんたん
ふりがな文庫
“
暗澹
(
あんたん
)” の例文
そして詩的精神は
隠蔽
(
いんぺい
)
され、感情は押しつぶされ、詩は全く健全な発育を見ることができなかった。「こうした
暗澹
(
あんたん
)
たる事態の下に」
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
しかも、夢はやぶれて、業は半ばというよりは、時も
暗澹
(
あんたん
)
なうちに、世を終わられたことである。御無念はいうまでもなかったろう。
私本太平記:13 黒白帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
私の囲ったのは芸者上りの女でしたが、一たびそのことが先妻の耳にはいりますと、私の家は実に
暗澹
(
あんたん
)
たる空気に満たされました。
猫と村正
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
千三百年の
古
(
いにしえ
)
、太子が
寵
(
こも
)
らせ
給
(
たも
)
うた御姿を想像し、あの
暗澹
(
あんたん
)
たる日に美しい黎明を祈念された太子が、長身に剣をしかと握りしめ
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
怒る時は鼻柱から
眉宇
(
びう
)
にかけて
暗澹
(
あんたん
)
たる色を
漲
(
みなぎ
)
らし、落胆する時は鼻の表現があせ落ちて行くのが手に取るように見えるまで
悄気
(
しょげ
)
返る。
鼻の表現
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
▼ もっと見る
倭文子は先刻から沈んでいた心が、さらに
暗澹
(
あんたん
)
としてしまった。おとなしい彼女も、京子のわがままを、にくまずにはいられなかった。
第二の接吻
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
しかも、その
暗澹
(
あんたん
)
とした雰囲気を、さらにいちだん物々しくしているのが、周囲の壁面を飾っている各時代の古代武具だったのである。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
寒風に裸の皮膚をさらしているその煙突のような孤立した冷えびえとした気持ちが、さらに
暗澹
(
あんたん
)
としたものに深まって行くのをかんじる。
煙突
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
フランス芸術のもっとも
暗澹
(
あんたん
)
たる時代の間に、自分の信仰の宝と民族の天才とを、おのれのうちに完全に保有していたのである。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
古新聞を焚いて茶をわかしていると、
暗澹
(
あんたん
)
とした気持ちになってきて、一切合切が、うたかたの
泡
(
あわ
)
より
儚
(
はか
)
なく、めんどくさく思えて来る。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
従ってそういう意味では、我が国のこれから先一年とか二年とかの期間は、前途極めて
暗澹
(
あんたん
)
たるものがあることを覚悟しておく必要がある。
硝子を破る者
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
イエスは彼の死を聞いて
暗澹
(
あんたん
)
たる思いとともに、自己の使命に対するいっそうの愛着と熱心とを燃やされたに違いありません。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
吾人の住む社会は
暗澹
(
あんたん
)
たるものである。成功することこそ、まさに
潰
(
つぶ
)
れんとする腐敗より一滴また一滴としたたる教えである。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
前途は彼に取って唯
暗澹
(
あんたん
)
としている。父が投出して置いて行った家の後仕末もせねば成らぬ。多くの負債も引受けねば成らぬ。
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
夏目漱石を大いにケナして小説を書いている私は、我身のことに思い至って、まことに、
暗澹
(
あんたん
)
とした。まったく、人を笑うわけに行かないよ。
戯作者文学論:――平野謙へ・手紙に代えて――
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
正宗白鳥氏の教へる所によれば、人生はいつも
暗澹
(
あんたん
)
としてゐる。正宗氏はこの事実を教へる為に種々雑多の「話」を作つた。
文芸的な、余りに文芸的な
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
日本へ帰って来るとこんな苦しみがあったのかと、彼は
暗澹
(
あんたん
)
となりまさる胸の中に顔を埋めるようにして幾つも坂道を上ったり降りたりした。
厨房日記
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
が、それはすぐ消えて、室内はまた
暗澹
(
あんたん
)
の中に沈んだ。その代り、なにか重いものを
引擦
(
ひきず
)
るようにゴソリゴソリという気味のわるい音がした。
恐怖の口笛
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
あさひは
暗澹
(
あんたん
)
たる前途を見透し、地獄へ
墜
(
お
)
ちる瞬間の光景を
垣間
(
かいま
)
見たひとのような悲愴な顔で、生きにくい東京という土地を離れる決心をした。
虹の橋
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
暗澹
(
あんたん
)
とした息ぐるしい日がつづいた、そしてある日、槍ぐみ番がしらの平田玄蕃と実家の兄の正之進とがおとずれて来た。
日本婦道記:春三たび
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
こう毒づいた上で、僕は、我が心の墓地に眠っている、あの薄倖な詩人たち、宿命の病人たちの生涯を憶っては、
暗澹
(
あんたん
)
たる悲憤に打たれるのだ。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
忽
(
たちま
)
ち、
暗澹
(
あんたん
)
たる
海上
(
かいじやう
)
に、
不意
(
ふい
)
に
大叫喚
(
だいけうくわん
)
の
起
(
おこ
)
つたのは、
本船
(
ほんせん
)
を
遁
(
のが
)
れ
去
(
さ
)
つた
端艇
(
たんてい
)
の
餘
(
あま
)
りに
多人數
(
たにんずう
)
を
載
(
の
)
せたため一二
艘
(
そう
)
波
(
なみ
)
を
被
(
かぶ
)
つて
沈沒
(
ちんぼつ
)
したのであらう。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
日中なれども
暗澹
(
あんたん
)
として日の光
幽
(
かすか
)
に、陰々たる
中
(
うち
)
に
異形
(
いぎやう
)
なる
雨漏
(
あまもり
)
の壁に染みたるが
仄見
(
ほのみ
)
えて、鬼気人に
逼
(
せま
)
るの感あり。
妖怪年代記
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
誰もいないのに弁信は、こんなことを言いながら、
暗澹
(
あんたん
)
たる土蔵の中の隅っこで、しきりに
鑿
(
のみ
)
を
揮
(
ふる
)
っておりました。
大菩薩峠:19 小名路の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
唯
(
ただ
)
天地
暗澹
(
あんたん
)
の
中
(
うち
)
に、寒い日が
静
(
しずか
)
に暮れて、寒い夜が
静
(
しずか
)
に明けた。この沈黙は恐るべき大雪を
齎
(
もたら
)
す前兆である。里の人家では
何
(
いず
)
れも
冬籠
(
ふゆごもり
)
の準備に
掛
(
かか
)
った。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
暗澹
(
あんたん
)
たる空は低く垂れ、立木の梢は雲のように
霞
(
かす
)
み渡って居ながら、紛々として降る雪、満々として積る雪に、庭一面は
朦朧
(
もうろう
)
として
薄暮
(
たそがれ
)
よりも明かった。
狐
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
いま、この化物屋敷には、
暗澹
(
あんたん
)
として雲のたれる空の下に、
戟渦
(
げきか
)
巻きあふれて
惨雨
(
さんう
)
いつやむべしとも見えない。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
濃い、
暗澹
(
あんたん
)
とした果てしのない雲が、とこしえにお前の希望と天国とのあいだにかかっているのではないか?
ウィリアム・ウィルスン
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
おそらく、
墨汁
(
ぼくじゅう
)
を流したように
暗澹
(
あんたん
)
とした空と巨鯨のように起き伏した激浪が視界を
蔽
(
おお
)
っているに違いない。
秘境の日輪旗
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
己は
何
(
なん
)
だか、自分の周囲を包んで居た
暗澹
(
あんたん
)
たる雲の隙間から、遥かに
天日
(
てんじつ
)
の光を仰いだような
心地
(
こゝち
)
がした。
小僧の夢
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
私は
従姉
(
いとこ
)
をたずねていって、
暗澹
(
あんたん
)
たる有様に胸をうたれて途方にくれたことがある。これが、あのはなやかに、あでやかに見える、
左褄
(
ひだりづま
)
をとる
女
(
ひと
)
の
背
(
せびら
)
に負う影かと——
旧聞日本橋:13 お墓のすげかえ
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
殊にあの村はずれで御一緒に美しい虹を仰いだときは、本当にこれまで何やら行き詰っていたようで
暗澹
(
あんたん
)
としていた私の気もちも急に開けだしたような気がしました。
楡の家
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
当時私が時代精神の圧力に対して
抱
(
いだ
)
きつづけた対抗と緊張と恐怖との肉体的感覚や、
暗澹
(
あんたん
)
たる無力感や、それにもかかわらず働きつづける批評的意識やを思いおこして
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
雑誌がつぶれ、出版社が倒れ、微力な作家が葬られてゆく情勢に、みんな
暗澹
(
あんたん
)
とした気分だった。
永遠のみどり
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
私はその話を一時は子供威しと思ったのであったが、しかしその
暗澹
(
あんたん
)
たる真相を知るにつれて、私はその後感じさせられた気味悪さを、今更にまた深く感じさせられた。
暗号舞踏人の謎
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
わたくしは母の心を深くは察し兼ねながら
暗澹
(
あんたん
)
とした気持にならないわけにはゆきませんでした。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
夜は
暗澹
(
あんたん
)
として、わたしたちの戸外の散策は拘束され、感情もまた外にさまよい出て行かずに、内にとじこめられ、わたしたちは互いの交歓に愉しみを見つけようとする。
クリスマス
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
背後に
蔚然
(
うつぜん
)
たる五山文学の学芸あり、世は南北朝の
暗澹
(
あんたん
)
たる底流の上に立って興廃常なき中に足利義満等の夢幻の如き栄華は一時に噴火山上の享楽を世上に流通せしめた。
美の日本的源泉
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
私のこの時の幸福感は、かつて
暗澹
(
あんたん
)
たる孤独感を味はつたことのない人には恐らく分るまい。私はその夜一晩中、この九四歩の一手と二人でゐた。もう私は孤独でなかつた。
聴雨
(新字旧仮名)
/
織田作之助
(著)
一時間、酒が切れると、すぐ手がふるえ、舌が痺れる、よるべないその頃のアル中の私、重ねて言うが、明日の知れない、人生いとも
暗澹
(
あんたん
)
のその頃の「私」だったのだった。
随筆 寄席囃子
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
春めいた
麗
(
うらら
)
かな日光の
讃岐
(
さぬき
)
の山々に煙っていることもあれば、西風が吹荒れて、海には漁船の影もなくって、北国のような
暗澹
(
あんたん
)
たる色を現わしていることもたまにはあった。
入江のほとり
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
どこにか春をほのめかすような日が来たりしたあとなので、ことさら世の中が
暗澹
(
あんたん
)
と見えた。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
暗澹
(
あんたん
)
たる闇の中に
一縷
(
いちる
)
の光明が燃え始めた。それは犯罪者の屡々
陥
(
おちい
)
る馬鹿馬鹿しい妄想であったかも知れない。第三者から見れば
一顧
(
いっこ
)
の価値もない愚挙であったかも知れない。
灰神楽
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
然
(
しか
)
し
幾
(
いく
)
らも
耕
(
たがや
)
さぬうちに
日
(
ひ
)
は
落
(
お
)
ちて
俄
(
には
)
かに
冷
(
つめ
)
たく
成
(
な
)
つた
世間
(
せけん
)
は
暗澹
(
あんたん
)
として
來
(
き
)
た。お
品
(
しな
)
は
勘次
(
かんじ
)
を
出
(
だ
)
して
酷
(
ひど
)
く
遣瀬
(
やるせ
)
ないやうな
心持
(
こゝろもち
)
になつて、
雨戸
(
あまど
)
を
引
(
ひか
)
せて
闇
(
くら
)
い
方
(
はう
)
へ
向
(
むい
)
て
目
(
め
)
を
閉
(
と
)
ぢた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
... 松島の気焔は楽しかったが、今夜の告白は、
暗澹
(
あんたん
)
たるものです。」と言って、にっと笑い
惜別
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
星ばかりが空へ穴を
穿
(
あ
)
けていた。その
暗澹
(
あんたん
)
たる漆色の夜を、二つの焔が遠ざかって行った。一つは陸を行く仮面の城主の、身に纏っている
袍
(
ほう
)
であり、一つは帆船の帆であった。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
暗澹
(
あんたん
)
たる水のうえを、幻のごとく飛んで行く
鴎
(
かもめ
)
も寂しいものだったが、寝ざめに耳にする川蒸汽や汽車の汽笛の音も、旅の空では何となく物悲しく、倉持を駅まで送って行って
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
北海道の原野はもう
蒼茫
(
そうぼう
)
と暮れ果てて雪もよいの空は
暗澹
(
あんたん
)
として低く垂れ下っていた。
生不動
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
普通チェーホフが最も
暗澹
(
あんたん
)
たる精神的危機に瀕していた年代とされているが、その年の手紙の一つ(五月、スヴォーリン宛)には、——知識の諸部門は平和のうちに共存して来た。
チェーホフ序説:――一つの反措定として――
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
もっとも、多くの者は、彼のことばに驚いて、そこに
暗澹
(
あんたん
)
たるものを認めていた……。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
“暗澹”の意味
《名詞・形容動詞》
薄暗く不明瞭なさま。
将来が見通せず不安であるさま。
(出典:Wiktionary)
暗
常用漢字
小3
部首:⽇
13画
澹
漢検1級
部首:⽔
16画
“暗澹”で始まる語句
暗澹たる奈落の中で