昨夜ゆうべ)” の例文
おれは昨夜ゆうべあの混血児あひのこの女がはうりこんだ、薔薇ばら百合ゆりの花を踏みながら、わざわざ玄関まで下りて行つて、電鈴の具合ぐあひを調べて見た。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「そんな人聞きの悪い事を言っちゃいけない——昨夜ゆうべ遅くまで麻雀マージャンを付き合って、寝が不足のせいだろう、頭痛がしてかなわないんだ」
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
昨夜ゆうべもすがらしづかねぶりて、今朝けされよりいちはなけにさまし、かほあらかみでつけて着物きものもみづからりしを取出とりいだ
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
昨夜ゆうべ、あなたのお兄さんからいただいた金が、別に盗賊も入ったようにもないのに、そっくりなくなったのです、どうしたのでしょう」
白っぽい洋服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
昨夜ゆうべはお客様方がいらっしゃいますので、久しぶりで金庫からお出しになりましたの。早く見つかってくれれば、嬉しいと思いますわ
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それだのに、今朝は、最初のひとつきが鳴る前に、昨夜ゆうべあんまりまぐさをふるいすぎたその疲れが出て、椅子いすにかけたまま居眠りをした。
昨夜ゆうべ一晩中思い続けていたお増は、朝になると、いくらか気が晴れて、頭脳あたまのなかのもやもやした妄想もうそうが、拭うように消えて行った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「なんとどうでございます。声が悪くって節は附かぬが、新聞種には面白いよ。大方こんな事だろうと、昨夜ゆうべうちこせえておいた。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
テントはまだ手が着けられずに、昨夜ゆうべのままになっている。焚火は燃えている。人夫と一行の者とは、それぞれのことをしている。
烏帽子岳の頂上 (新字新仮名) / 窪田空穂(著)
あくる朝俊夫君は、昨夜ゆうべ、叔父さんてに書いたという手紙を投函してくると言って出かけたまま、正午ひる頃まで帰ってきませんでした。
紅色ダイヤ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
昨夜ゆうべのことが気がかりなので、教会堂へ行っても上の空でったり膝まずいたりして、弥撒ミサもろくろく耳に入らなかったのである。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「ああこの怪ったいな臭いですかいな。これ昨夜ゆうべからしてましたがな。さよう、十時ごろでしたな。おう今、えらいプンプンしますな」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新聞配達 実は今朝早く女中さんに頼んだんですけど、みなさん昨夜ゆうべからお留守で、そんな話はわからないつていふもんですから……。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
昨夜ゆうべのことは、みんなゆめではなかったか、あのひとたちは、どうなったのだろう?」と、すずめは、ちいさなあたまかたむけておもいました。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この記事を夕刊の佐賀版で見た時枝のおやじが、昨夜ゆうべのうちに佐賀から自動車を飛ばして来て、今朝けさ暗いうちに僕をタタキ起したんだ。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お前が昨夜ゆうべ、あの二人の逃げ出すのを、気がつかなかったというのがおかしいわね、あの二人は当然ここを出て行くべき人なんだから
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そうですよ。昨夜ゆうべは私の所へ来て泊まりましたよ。身体からだが悪いからあなたに尼の戒を受けさせてほしいと言っておられましたよ」
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「わしに、手紙をよこした昨夜ゆうべの酔っぱらい、あれは、本位田又八というて、昔の友達なのだ。あの人に会ってもらいたいのだが」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おい昨夜ゆうべ枕元で大きな音がしたのは、やっぱり夢じゃなかったんだ。泥棒だよ。泥棒が坂井さんのがけの上からうちの庭へ飛び下りた音だ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「細君」と「丸善」とは学校教員が住むでる世界の二大人格だが、蚤は昨夜ゆうべ二人ともそれにされて、とうと寝付かれなかつたからだ。
昨夜ゆうべ豪雨ごううは幸にからりれて、道も大抵乾いて居る。風が南からソヨ/\吹いて、「諸行無常」「是生滅法」の紙幟はたがヒラ/\なびく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
由「昨夜ゆうべちっとも寝られませんでしたから、此処で昼寝をして顔を洗ってから、何かあつらい物を致しましょう……姉さん何が出来るかい」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先刻さっき突然いきなり這入ッて来て、今朝慈母おッかさんがこうこう言ッたがどうしようと相談するから、それから昨夜ゆうべ慈母さんが言た通りに……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
Aは昨夜ゆうべギンザ・シネマへいったので今日寝坊してしまったのです。大急ぎで学校へくる道で、学校の方から帰ってくるBにいました。
もっとあとだって、昨夜ゆうべは大財産をなすったなんて、財産と散財と、とんちんかんなのを、どうしてもとく出来なかったものさえある。
おこらないでもいゝよ。でも周子、お前昨夜ゆうべはよく来たな。どうだい、お父さんが芸者にのろけてゐたところは、どうだ。……驚いたか。」
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
昨夜ゆうべ、そうだ、この船での第二夜、一等の食堂で、期せずして私たちの間に童謡音楽会が開かれた。どうせみんなが酔っていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
昨夜ゆうべ小母さんがにわかに黙ってしまったのは、眠いからばかりではなかったらしい。どういうことなのであろうかとしきりに考えてみる。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
昨夜ゆうべいといくさのことに胸なやませていたていじゃに、さてもここぞまだ児女わらわじゃ。今はかほどまでに熟睡うまいして、さばれ、いざ呼び起そう」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
「今日から始めて頂きましょうか。」準之助氏は、昨夜ゆうべと今朝と、新子と話をするごとに、よりふかく新子に満足してくれるらしかった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
時々、番頭だの手代だのが、ねむそうな顔つきをして、昨夜ゆうべは持てたの振られたのと、こそ/\話をやって居るのを聞く事がある。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「すみちゃん。おれは昨夜ゆうべから急に何だか若くなったような気がしているんだ。昨夜だけでもいきがいがあったような気がしているんだ。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
平田さんから私んとこへ来た手紙の中で、反故ほごにしちゃ、あんまり義理が悪いと思うのだけ、昨夜ゆうべ調べて別にしておいたんだよ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
昨夜ゆうべよりも一層やつれている。色情狂じみたまなこの光! ふとその眼で認めたのは、衣裳乱れた若い女! 死んだように動かない一人の娘!
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お! こちらの松島さんはよ、昨夜ゆうべ、夜業をして怪我けがをしてな。うんで病院のほうへ行ったからよ、そのつもりで心配しねえでいてくれ」
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
垣根の外には村の小供等が鼻汁はなを嘗めながら珍らしさうに眺めて居る。今度の洪水に就て、急に用事が出来たので昨夜ゆうべ出で来たと云ふお話。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
子爵は昨夜ゆうべの疲れでまだ寝ていた。しかし龍介のきたことを聞くと、寝不足な顔をこすりながら、起き出てきた。——それを見るより龍介。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ところが、僕はあれでひどい目に逢っちまったんですよ。実は僕昨夜ゆうべ浅草公園へ行ったのです」紋三はきまり悪そうにいった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
昨夜ゆうべは僕の枕頭まくらもとへも来た。れなければ、鼠だつて気味が悪いぢやないか。あまり不思議だから、今朝其話をしたら、奥様の言草が面白い。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼女は昨夜ゆうべよりもいい服装なりをして、黒っぽい着物をきていたが、頭巾はもう被っていなかった。けれど、頸にはやはり何か巻きつけていた。
……昨夜ゆうべのおでんはうまかったナ……と思ったら、もういけません。……しみ/″\、かなしくなったわ、あたし、心の住処すみかのないことが……
三の酉 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「そうですね。診断は僕もお上さんに同意します。両側下顎脱臼りょうそくかがくだっきゅうです。昨夜ゆうべ脱臼したのなら、直ぐに整復が出来る見込です」
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
昨夜ゆうべの座敷の様子が、また鮮かに私の目に浮んだ。然うだ、菊池君の住んで居る世界と、私達の住んで居る世界との間には、余程の間隔へだたりがある。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
昨夜ゆうべ出されたきりで、ものも云えない宮口を今朝からどうしても働かさなけアならないって、さっき足でってるんだよ」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
昨夜ゆうべから変に心細い気がしてならない。こんな気のすることはこの島に来てからはじめてだ。不幸が近づいてくるような……
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
通りに臨んだ三階の明るい窓硝子がらす日蔽ひおひおろして、自分達は昨夜ゆうべの不眠を補ふ為に倫敦ロンドンへ着いた第一日を昼過ぎまで寝て居ねば成らなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かれは昨夜ゆうべも二人の涙が床を浸したことを思ひ起した。その涙をとゞめるためにすら二人は互ひに相抱かなければならなかつたことを思ひ起した。
浴室 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
林中のふくろうは、今夜は一人も泣いてはいませんでしたがおこっていることはみんな、昨夜ゆうべどころではありませんでした。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
お前がやれ量炭も買えんだのッてしく言うから昨夜ゆうべ金公の家へって借りようとしてないってやがる。それから直ぐ初公のとこへ往ったのだ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかし、昨夜ゆうべこの人形のいた最初の位置が、もし扉口でなかったとしたら、昨夜はこのへやから、一歩も外へ出なかったと云うことが出来るのだよ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)