)” の例文
婆さんもその物音に目をさましました。そして起きて戸を開けてみますと、吃驚びつくりして、思はずアッと言つて、尻餅しりもちくところでした。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
あゝ、おさだ迄かと思うとペタ/\と臀餅しりもちいて、ただ夢のような心持で、呆然ぼんやりとして四辺を見まわし、やがて気が付いたと見えて
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まるっきりきたての餅も同様だからな、ちょっと手荒に扱ってもすぐにひっちゃぶけちゃうもんなんだ、万吉、なにが可笑おかしいんだ
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
臼も柱も新しいのであろう、餅をいていると、松の木の匂がする。住み古りた所帯、持ち伝えた臼では、こんな匂がしそうもない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
スルト其奴そいつが矢庭にペタリ尻餠をいて、狼狽うろたえた眼を円くして、ウッとおれのかおを看た其口から血が滴々々たらたらたら……いや眼に見えるようだ。
宮武粛門氏説に、讃岐国高松で玄猪げんちょの夜藁で円い二重の輪を作り、五色の幣を挿し込み、大人子供集りそれを以て町内をき廻る。
白樺しらかばの皮、がして来たか。」タネリがうちに着いたとき、タネリのおっかさんが、小屋の前で、こならの実をきながら云いました。
昔は節季の餅はきのわるいものとして、おとくいも餅屋も通用して来たものですが、私たちが初めてちん餅をやった時の糯米もちごめ
「あの万年橋という橋の下に、水車の小屋がありますそうな、そこでお米をいたり、粉をふるったりしてかせぐつもりでございます」
洗い清めた白米を或る時間水に浸し、それが柔かくなったのを見測みはからって小さな臼に入れて、手杵てぎねすなわちたての杵でき砕くのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たとえば明月の薄黒い処のあるは兎が餅をいているのであるとか、地震は地下の大なまずが動くのであるとかいうのは主観的妄想である。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
しばらく溜めて日に干しておくとカラカラになりますから擂鉢すりばちかあるいは石臼いしうすき砕いてふるい幾度いくども篩いますと立派なパン粉が出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
薪を採つてそれを眞木割まきわりで裂いて干して置く。石灰に塊があれば臼でいて置く。忙しい暇には炭俵を坂の中途の小屋まで背負ひあげる。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もみくきねが二三本床に転がっているばかりで柱ももはや朽ち始めていた。に似た匂いがうっすらと四辺に立ちこめていた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
或日、良寛さんは国仙和尚から、米をけと命ぜられた。良寛さんは黙つて本を閉ぢて、台唐臼だいがら蹈台ふみだいにのぼつた。そして搗きはじめた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
き立てのもちを、金巾かなきんに包んだように、綿は綿でかたまって、表布かわとはまるで縁故がないほどの、こちこちしたものである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第三の演目を「ペエル・ギュント」とき変え、これを三演出家の共同演出のもとに、近衛氏の新交響楽団と岩村舞踊研究所の援助を得て
イプセン百年祭講演 (新字新仮名) / 久保栄(著)
お小夜は食事あたたかく父に満足させて後、病母の臥床ふしどをも見舞い、それから再び庭場におりて米をき始めた。父は驚いて
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
木人はそれを刈ってんで、たちまちに七、八升の蕎麦粉を製した。彼女はさらに小さいうすを持ち出すと、木人はそれをいて麺を作った。
時も時とて飯料はんりょうの麦をきらしたので、水車に持て行って一晩ひとばんずの番をしていて来ねばならぬ。最早甲州の繭買まゆかいが甲州街道に入り込んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ト思いながら文三が力無さそうに、とある桜の樹のもとに据え付けてあッたペンキ塗りの腰掛へ腰を掛ける、と云うよりはむし尻餅しりもちいた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一々言立ことだてをするのや、近年まであったカチカチ団子と言う小さいきねうすいて、カチカチと拍子を取るものが現われた。
梵雲庵漫録 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
もつと便たよりよきはとしこそつたれ、大根だいこんく、屋根やねく、みづめばこめく、達者たつしやなればと、この老僕おやぢえらんだのが、おほいなる過失くわしつになつた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うとうとしている間に二三軒横の言問団子の製餅場で明日のもちき初める。しかしそれを気にして床上に輾転てんてんしているのは久野だけである。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
あるとき、相川の青年二、三人づれにてこの岩窟へたずねて来たときに、きたての柔らかな餅が石の上に供えてあった。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
米をくのには、大きな木造の臼を使用する。槌或は杵は、大きくて非常に重く、頂上はるかに振り上げる(図641)。
あわく音 炉ばたで寝そべっているときなど、ふと地下で盛んに粟なぞ搗いている音が聞えてくることがある。そういう年は豊年だなどという。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
町の突き当りが遊廓になつてゝ近くに寺がある。これをき合せて『坊つちやん』の中には『山門のなかに遊廓があるなんて、前代未聞の現象だ』
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
八五郎の言ふ『井戸端のき立ての餅』は、本人が氣が付いたら、死んでしまひたくなるほどの恥かしさだつたでせう。
栄三郎が、黙って振り向くと、前垂れ姿のお店者たなものらしい男が、すぐ眼の下で米きばったのようにおじぎをしている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
餅がけたという。立ち振舞に、餅をたべる者と酒を酌む者とが、一つ座にあつまって、聟どのをことほはやしたりする。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとへ稀れな場合に若い人等が贅沢なローマンスに耽けるとも、かれ等は年長者の監視を受け、かれ等が『性根づく』まで訓練せられ、くだかれる。
結婚と恋愛 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
こんなことをする間にも、時間は余程たって、彼は、幾たびか上りかけては、下に落ちて穴の中で、尻餅をいた。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
小屋の中には、直徑二間もありさうな大きい水車が、朝から晩までギウ/\と鈍い音を立てて𢌞つてゐて、十二本の大杵おおきね斷間たえまもなく米をいてゐた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
舊の正月前には、夫婦して餅をきに來て、次手ついでに知人の家を廻つて私の家へ一晩泊つて歸つた。私は異郷の話でも聞くやうに島の樣子を面白く聞いた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
すると奥さんは椅子があると思って腰を下して、さじを持ったまま尻餅をいた。幸い人間だったから宜かったが、し瀬戸物だったら壊れて了ったろう。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
正直に平たく白状さしたなら自分の作った脚色を餅にいた経験の無い作者は殆んどなかろう。長篇小説の多くが尻切蜻蜒しりきれとんぼである原因の過半はこれである。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
明日は旧三月節句に当るので、路傍のどの家でも草餅をいていた。若い娘や子供などが田舎風に着飾って歩いているのも、土地に調和した長閑さであった。
春の大方山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
窮した彼は、近所の山から掘り出す白土——米をくときに混ぜたり、磨き粉に使ったりする白い泥——を、町の入口まで運搬する人足になっていたのである。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
子供は白い女唐服めとうふくを着ながら広い部屋のなかを、よちよちと笹村の跡へついて来ては歩いていた。そして少し歩くと畳の上に尻餅をいた。口も少しは利けた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その中で正太郎の鏡餅はうすいっぱいにくのだという自慢のもので、上下の区別がほとんど分らないほど大きく、それを正太郎は紋付袴もんつきはかまで持ってくるのであった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
そら、聞えはせぬか——どこかはるかに高く、金の杯のなかで水晶のかけらをき砕いているのが……。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
元日に草履ぞうりばきで年始が勤まったなんて、木曾きそじゃ聞いたこともない。おまけに、寺道の向こうに椿つばきが咲き出す、若餅わかもちでもこうという時分によもぎが青々としてる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鉄瓶てつびんがかかってるだろう。正月の用意のもちけてあるだろう。子供がそれをねだっているであろう。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
さらに、打楽器としては、米麦をく臼など、それのもっているリズムが、太鼓、鼓の原始的な出発となったであろうことは、その形によっても人々が認めている。
美学入門 (新字新仮名) / 中井正一(著)
「このあいだもこの人に『うすへ入れてき殺すぞ』っておっしゃいましたわ」とマリヤが口を添えた。
宝泉寺では村人がもちくたびに持つて行くので、餅の食べきれないときにはそれを水飴に作つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
……へッ、越後から米をきに来やしめえし、たのまれて凧をあげるやつがあるかい、笑わせやがら
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それにしても、あのまアるいお月さまの中には、いつも兎がきねをもつて餅をいてゐる筈でしたね。
お月さまいくつ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
文吾の小ひさな手は、女の直ぐ前に、小兎が餅でもくやうな音を立てたと思ふと、其の呑まれたやうに大きな丹前を着た姿が、元の通り火桶を前にして坐つてゐた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)