)” の例文
も/\若氣わかげ思込おもひこんだやうな顏色かほいろをしてつた。川柳せんりう口吟くちずさんで、かむりづけをたのし結構けつこう部屋へやがしらの女房にようばうしからぬ。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と言うお雪ちゃんの言葉は、今晩に限って、たしかにものにとりつかれているに相違ないほど、たかぶったかんの物言いぶりです。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うのは全く此方こっちが悪い。人の勉強するのを面白くないとはしからぬ事だけれども、何分きょうがないからそっと両三人に相談して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「わたくしのしゅうと様すこし以前より、物のにでもかれましたか、乱心の気味にござりまするが、ご祈祷きとうをしてくだされましょうか」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「平次か、そちの子分の馬みたいな男はしからんぞ、——何、勘弁を願いたい。謝るなら謝る道がある、ここへ来て一パイ付き合え」
銭形平次捕物控:050 碁敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「ふーん、しからん。いったい、だれが、こんなぬすみ聞きの仕掛を、ここへ取りつけたか。さっそくきびしく、とり調べなくちゃ」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ミンチン先生はベッキイにこういわれて、なぜかよけいに腹を立てました、小使娘の分際で、セエラの肩を持つなんてしからん。
しかるを、多少の忠をいたし、労を積んだからといって、功にほこり、恩賞の不足を鳴らすなど、しからんことといわねばならん
「なあに、ちっとぐらい心配させたって構わんさ。われわれに内証でそんな美人を専有しようとするなんて心がけがしからんよ」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
典「だからいけぬと云うに、無理遣りに連れ出して、内々ない/\ならば仕様も無いが、ういう茶見世へ参って恥を与えるとはしからん事」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よしんば死刑になるかも分らない犯罪にしても、判決の下るまでは、天災を口実として死刑にすることは、はなはだ以てしからん。——
牢獄の半日 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
しからん、國語學が重要だと云ふのが何で可笑しい……」先生は教壇の板に靴底を叩き附けて立ち上つて、はげしく呶鳴どなつた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
しかし弟は実にしからん非道い奴です。私の出現がどれほど彼を苦しめたか知れないが、私を生きながら葬ろうとした罪はゆるせません。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
この道楽根性の発展も道徳家に言わせるとしからんとか言いましょう。がそれは徳義上の問題で事実上の問題にはなりません。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この当局の措置に対しては、しかるとかしからぬとかいろんな噂もあるが、要するにその筋では最穏健な措置を取ったつもりらしい。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
これまでモデルに使われていた白鹿毛が何かの物のでも付いたように狂い立って、手綱を振切って門の外へ飛び出したのです。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「スペンサア奴、しからん奴ぢや。早く邸から追ひ立ててしまふがよい。もつと読んで往つたら、乃公おれは身代限りをせざあなるまい。」
私新子さんを酒場バーになどご紹介するの、しからないと思いますから、証拠を掴んでおいて、たしなめてやりたいと思いますの。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「こりゃしからん。僕の発見は長谷川君を大いに幸福にしているはずじゃないか?——堀川君、君は伝熱作用の法則を知っているかい?」
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
時たま窓から人の顔などがのぞいていると、なんだかもののように無気味で、通りかかる付近の人を怖がらせるほどであった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あたりが俄に物気立ものけだつかと見る間もなく、吹落る疾風に葭簀よしずや何かの倒れる音がして、紙屑と塵芥ごみとが物ののように道の上を走って行く。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仏舎利弗はしからぬ不浄食をしたというを聞きて、舎利弗食べた物を吐き出し、一生馳走に招かれず布施を受けずと決心し常に乞食した。
芯をねじり上げてみた。と、光のない真黄色な灯がきゅうに大きくなって、ホヤの内部を真黒にくすべながら、物ののように燃え立った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それには及ばんと云ふのに、是非浜まで見送ると言うで、気の毒なと思うてをつたら、僕を送るのを名として君達は……しからんこつたぞ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いわば依託金いたくきんのごときものであるからして、これを無意味に浪費ろうひしすなわち土芥どかい同然に取り扱うことははなはだしからんこととも言える。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「それはどうもしからん。国へ帰って来てから復た関係をつけるなんて、実に言語道断だ。貴様も意志の弱い男じゃないか」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところで悪いことには、悪いことが重なるもので、唯でさえ衰弱している中宮に、またしてもものがとりついたのである。
私の顔面筋肉はにわかに硬直して、苦虫を噛み潰したように醜くゆがんだに相違なかった。物のに襲われた気持というのは即ちこれであろう。
鹿の印象 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
男3 とにかく、それは死んだ行平ゆきひらものですよ。確かにそうです。……全く執拗しつこいったらありゃしない……(左へ退場)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
坂はかなり長いから、一番下にいたる時分には、梶をとることさへ出來なくなるであらう、今のうちに轉んでしまへば、我はするかも知れない。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
ものかれでもしたかのごとくふるえ声で叫んだ千之介の制止を、同じ物の怪に憑かれでもしたように林田が跳ね返し乍らつづけていった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「蒲団にこんな力があるのはしからん。ぶつかる物に対するたわむ物の勝利だ。しかしとにかく、大砲の勢いをそぐ蒲団は光栄なるかなだ。」
此の度の、あのしからぬうわさが、いったいどこ迄、事実なのか、此の朗読劇を御覧にいれて、ためしてみようという、——
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
一瞥いちべつしつ「篠田の奴、実にしからん放蕩漢はうたうものだ、芸妓げいしや誘拐かどわかして妾にする如き乱暴漢ならずものが、耶蘇ヤソ信者などと澄まして居たのだから驚くぢやないか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
どうしたと訊いたら、「K雑誌」はしからん、もう詩は書いてやらんというんだ。何か失礼なことでもし向けたのかと思ったら、こうなんだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
オ茶碗だ、オ箸だ、食器にまでオの字をつけてしからん。ナゼ怪しからん。ナゼ怪しからんてッたッて食器にオの字をつけて敬う必要があるか。
敬語論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「ぜんたい、こゝらの山はしからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構はないから、早くタンタアーンと、やつて見たいもんだなあ。」
注文の多い料理店 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ところが斯んな苦痛が、実は僕もそんなに不愉快でもないところをみると、百合子の云ふあの二人よりも僕の方がしからん男かも知れないのだ。
女優 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
遠くから見て、不埒ふらちな、しからぬ人物に見えていても、その人の立場に立てば、そうでないいろいろな点がある、ということになるのであろう。
藤村の個性 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それで先刻僕が此処ここへ来て見ると、意外にも貴様あなたが既にこの場処を占領して居たのです、驚きましたね、しからん人もあるものだ僕の酒庫を犯し
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「つまらんことを云って、夫婦の間をさこうとするのは、しからんじゃありませんか、私がこれから懲らしてあげる」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此の「ヴデット」といふやつ、甚だしからんもので、俳優に支払ふ給料の大部分を一人でせしめてしまふのである。
仏蘭西役者の裏表 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
その幹へさしかけにした葭簀囲いの間から、闇夜にもしるく象の巨体が物ののようにぼんやりと浮きあがっている。
盛衰記に書いてある通りならば、秀郷は随分しからぬ料簡方れうけんかたの男で、興世王の事をさずして終つたが、興世王の心をいだいてゐた人だと思はれる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
いまその時の想像に描いたすべての事が一つも違わずに身に覚えられて来るようなので、何だかものでもいて
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかしそれは忠之の方で、彼奴かやつどれだけの功臣にもせよ、其功をたのんで人もなげな振舞をするとはしからんと思ひ、又利章の方で、殿がいくら聰明でも
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
足元からくずれ落ちる真黒な山路も、物ののような岩の間をとどろき流れる渓川たにがわも、慣れない身ながら恐れもなく、このような死人の息さえきこえぬ山奥で
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
これはしからん奴じゃ、ひとの領分の扉を無断で閉ざす奴があるものかと、吾輩は用捨なくすぐに開けると、暫時しばらくしてまたノコノコ手を伸ばして閉める。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
我が大詩人を知らないとはしからんと同行の内藤理学士にさゝやながら、内にはひつて門番コンシエルジユの婆さんに尋ねると、愛嬌あいけうの好い田舎気質ゐなかかたぎを保つて居る婆さんは
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それが若しや時間を誤ることがあらうかなんぞと云ふことは、只それを思つたばかりでもしからん次第だと、たつたこなひだまで市民一同が信じてゐた。
十三時 (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)