りつ)” の例文
慎太郎は咄嗟とっさに身を起すと、もう次の瞬間には、隣の座敷へ飛びこんでいた。そうしてたくましい両腕に、しっかりおりつを抱き上げていた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幕開まくあきうたと三味線が聞え引かれた幕が次第にこまかく早める拍子木のりつにつれて片寄せられて行く。大向おおむこうから早くも役者の名をよぶ掛け声。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
必ず音節とおなじようなりつがございますものですから、それが音律の好きな私には、ひとりでに、すらすらと覚えられてしまう所以ゆえんでございます
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
畢竟ひつきやうにんいろで、けつして一りつにはかぬものでしよく本義ほんぎとか理想りそうとかをいてところ實際問題じつさいもんだいとしてはあまやくたぬ。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
腹の底から花魁おいらん崇拜で、伜をまでもその道徳でりつしようとするのは、手のつけやうのないお宗旨見たいなものです。
本来は、粛然たる趣のある雅楽のはずだが、酒興の乱痴気を沸かせるだけの目的であるから、りょりつもあったものではない。えんとして、神楽調である。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前主のとするところこれがりつとなり、後主の是とするところこれがりょうとなる。当時の君主の意のほかになんの法があろうぞと。群臣皆この廷尉の類であった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そのとき横町よこちやうたて見通みとほしの眞空まぞらさら黒煙こくえん舞起まひおこつて、北東ほくとう一天いつてん一寸いつすんあまさず眞暗まつくらかはると、たちまち、どゞどゞどゞどゞどゞとふ、陰々いん/\たるりつびたおもすご
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
頼るに秩序なく訴えるに法もりつもなくすがるに道徳人情なく、しかも落魄らくはく窮乏のどん底に追い詰められたとき、人間は赤児のように聞分けなく奇跡の顕現を熱望するものだ
涙は流れ、笑はこぼれ、いのちの同じりつつて、底知れぬ淵穴ふちあな共々とも/″\落込んで了ふのである。
落葉 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
良人をつと小松原東二郎こまつばらとうじらう西洋小間物せいやうこまものみせばかりに、ありあまる身代しんだいくらなかかして、さりとは當世たうせい算用さんようらぬひとよしをとこに、戀女房こひにようばうのおりつばしこさおくおもて平手ひらてんで
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
過度に厳格なりつの生活を緩和する一種の逃げ道として、むかしから行われている方法だというが、そんなものを飲んでいる間、比丘尼たちの表情に黄昏たそがれのようなものしずかな情緒がつき
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
流行の心理は模倣もはう憑依ひようい概念がいねんを以てりつすべからず夏の都会とくわい
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
うつや鉦皷しやうこりつゆう
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
淡窓をりょ黄鐘こうしょうとすれば、山陽のはりつでしょう。いつは温雅にして沈痛、一は慷慨にして激越とでも言いましょうか。では、ひとつその淡窓流をまねてやってみます
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼等はおりつの診察が終ってから、その診察の結果を聞くために、博士をこの二階に招じたのだった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
専門たるりつれきえきのほかに道家どうかの教えにくわしくまたひろじゅぼくほうめい諸家しょかの説にも通じていたが、それらをすべて一家のけんをもってべて自己のものとしていた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
拍子木ひやうしぎがチヨン/\とふたツ鳴つた。幕開まくあきうた三味線しやみせんきこえ引かれたまく次第しだいこまかく早める拍子木ひやうしぎりつにつれて片寄かたよせられてく。大向おほむかうから早くも役者の名をよぶけ声。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ひとらじとみづかくらませども、やさしき良人をつとこゝろざし生憎あやにくまつはる心地こゝちしておりつ路傍ろばうたちすくみしまゝ、くまいかくまいか、いつそおもつてくまいか、今日けふまでのつみ今日けふまでのつみ
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
妻のりつは志田郡松山にいた。松山の館では、茂庭佐月が病臥びょうがちゅうなので、看護のためにゆかせたのである。それは甲斐が帰国するとすぐのことで、律はそのまま松山にとめられていた。
外人ぐわいじん地震説ぢしんせつは一けんはなは適切てきせつであるがごとくであるが、えうするにそは、今日こんにち世態せたいをもつて、いにしへの世態せたいりつせんとするもので、いはゆる自家じかちからもつ自家じか強壓けうあつするものであるとおもふ。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
浅川の叔母の言葉には、軽い侮蔑ぶべつを帯びた中に、かえって親しそうな調子があった。三人きょうだいがある内でも、おりつの腹を痛めないお絹が、一番叔母には気に入りらしい。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
妻のりつとは十六年の余もいっしょに暮し、四人の子を生んだ。けれども、他の幾人かの女たちと同じように、これが自分の女、これが自分の妻である、という実感をもったことはなかった。
到底たうてい單純たんじゆん理屈りくつぺんりつすることが出來できない。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
りつの離縁をまだ不審に思っているのか」
だが、りつはなんで出て来たのだろう。