座頭ざとう)” の例文
座頭ざとうまをすやう、吾等われら去年いぬるとしおとにきゝし信濃しなのなる木曾きそ掛橋かけはしとほまをすに、橋杭はしぐひまをさず、たによりたに掛渡かけわたしのてつくさりにてつな申候まをしさふらふ
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ラサリーリョ少年が奸黠かんかつ座頭ざとうの手引きとなって連れて行かれる途中で、橋飾りの牡牛おうしの石像に耳をつけて聞けばどえらい音がしているといって
この馬に乗ったお松は、犬目新田も過ぎ、矢壺やつぼ座頭ざとうころがしの険も無事に通って、例の鶴川の渡し場まで来ました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
享保きょうほの初年である。利根川のむこう河岸がし、江戸の方角からいえば奥州寄りの岸のほとりに一人の座頭ざとうが立っていた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「今晩にかぎって、いやに座頭ざとうさんのかたを持つじゃないか」あざけるように云ってさかずきをおき、「それじゃ、親孝行のお嬢さんの、おことばどおりにするかね」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
勾当こうとう座頭ざとうの四階位から十六階位までの瞽官こかん制度のゆるしを得、瞽官の授与やその他で上がる金で、全盲人のうえに希望と保護をもたらした人でもある。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秩父ちちぶ地方では子供が行方不明になるのを、かく座頭ざとうに連れて行かれたといい、またはヤドウカイに捕られたというそうだが、これなどは単純な誤解であった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そちのしたことは忠義のようで忠義にあらず、餘人よじんあざむくことは出来ても此の三成を欺くことはかなわぬぞ、その方座頭ざとうに相成ったのは一時の方便ではないか
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
不思議に思っているうちに、その鈴のがだんだん近くなって、しまいに座頭ざとうのぼって来たんだと云う。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この辺の鮎は昔の座頭ざとうと同じように京へ上りますが、品の好い丈けに弱い魚ですから、生かして持って行くのに大骨を折ります。あれでは値の高い道理ですよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また、外道げどうと唱うる迷信もあるが、これは犬神の種類である。また、余が豊後ぶんごにて聞くに、座頭ざとう、物知りなどと唱うる、吉凶禍福の予言するものが多いとのことである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そのいわゆる頼朝公のお墨付なるものによると、座頭ざとう・舞々・猿楽・陰陽師以下、いわゆる二十八座の遊芸者・工業者等は、みな長吏支配の下に置くということになっている。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
見て非人共は耳語さゝやきあひ何と彼の座頭ざとうは幸手の富右衞門とやらの由縁ゆかりの人と見えるがどうだ少しでも酒代さかてもらつてくびやらうではないかと相談なしモシ/\御座頭おざとうさん高くは云れねへが首を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
また巴里パリー人ジヨオ蒐集板画目録中岩井半四郎いわいはんしろう座頭ざとうふんせる所作事しょさごとの図あり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と——ある、ある! 俗称白縫しらぬいのおよし、窃盗きんちゃっ切りの罪重なるをもって四月三日死罪に処せられしうえ梟首獄門きょうしゅごくもん座頭ざとう松の市、朋輩ほうばいをあやめしかどにより四月四日斬罪ざんざいのうえ梟首獄門。
四階とは検校けんぎょう別当べっとう勾当こうとう座頭ざとう、十六官とは座頭に四度の階級があり、勾当、別当、検校それぞれ次第があって、都合十六に分れていることを言い、七十三刻とは、半打掛から中老引ちゅうろうびきまで六十七刻
たとえば、『座頭ざとう』とか、『傾城けいせい』とか、『しおくみ』とか、『鷺娘』とかというふうのものは、読む詩としてもある情調を印象するには相違ないが、「叙情詩」として優れたものと言えるであろうか。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
衣更ころもがえ独り笑み行く座頭ざとうの坊 暁台きょうたい
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
座頭ざとうまをすは、しからばしつぺい張競はりくら仕候つかまつりさふらはんまゝ、わが天窓あたま御張おんはさふらへとふ。越中ゑつちうしからばうけさふらへとて、座頭ざとう天窓あたまへしたゝかにしつぺいをる。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「十年ばかり前だったが、女角力が流行はやったものでなあ、その中でも、女と座頭ざとうの取組みというのはヒドかったよ」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夕方になると、露八は、法界坊のように伸びかかった頭を、柿色の木綿もめん座頭ざとうみたいに巻いて、三味線を胸に
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、もう此のくらいと思う時分に動物の真似を切り上げると、今度は酔いどれや、薄馬鹿や、座頭ざとうの真似をし出したので、忽ち新たな笑いの嵐がどよめき起った。
しかし彼の徳兵衛は実に巧いものであった。例の座頭ざとうの木琴のくだりで“かねて手管てくだとわしゃ知りながら”の粋なび声は、この人でなければ聞かれまいと思われた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
も知っていた舌切雀したきりすずめ、お宿はどこじゃなどもその一つの場合であり、東北ではまめばなしなどといって、座頭ざとうがよく人を笑わせた大話おおばなしも、是から導かれているようだ。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
爲居たる所に其頃江戸長谷川はせがは町に城重と言座頭ざとうもと幸手出生の者なりしが偶然ふと此事を聞故郷の者なれば幸ひ我が養子やうしもらはんとて其趣きを相談するに富右衞門も早速さつそく承知しようちなしけるゆゑ此子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふ。われすこちからありて、やわか座頭ざとうおとるまじい大力だいりきのほどがおもはれる。みづからくま張殺はりころしたと名乗なのるのと、どちらが点首うなづかれるかはろんおよばぬ。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「大津絵といえば、藤娘、ひょうたんなまず、鬼の念仏、弁慶、やっこ、矢の根、座頭ざとう、そんなようなものに限られていると思うのは後世の誤り、初代の大津絵は皆このような仏画なのだ」
座頭ざとう同様の心得を以て女中共の気散じ役や取り持ちを勤めることになったが、生来の機智と諧謔かいぎゃくとは日ならず彼を人気者にしてしまい、彼方でも此方でも「道阿弥々々々」と珍重がって
呼び止めると、座頭ざとうは足をとめて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木偶之坊でくのばうこしらへれば、内職ないしよくにお玉杓子たまじやくしつたでがす。獅子頭しゝがしら閻魔様えんまさま姉様あねさまくびの、天狗てんぐめん座頭ざとうかほ白粉おしろひればべにもなする、青絵具あをゑのぐもべつたりぢや。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
明月や座頭ざとうの妻の泣く夜かな、といにしえの人がみましたそうでございますが、人様の世にこそ月、雪、花の差別はあれ、私共にとりましては、この世が一味平等の無明むみょうの世界なのでございます。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
みせけものかはだの、獅子頭しゝがしらきつねさるめん般若はんにやめん二升樽にしやうだるぐらゐな座頭ざとうくび、——いやそれしろをぐるりといて、亀裂ひゞはいつたかべ仰向あふむいたかたちなんぞあんま気味きみいものではなかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)