屏風びょうぶ)” の例文
コードは屏風びょうぶの蔭を這わす等、いろ/\考えた揚句、中には神経質に作為をし過ぎて、却ってうるさく感ぜられるような場合もある。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
表具師ひょうぐしの使う言葉にも「蓑貼みのばり」というのがある。ふすま屏風びょうぶの裏打などに蓑の如く紙を重ねて貼るをいう。また「蓑おさえ」などともいう。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
源氏はすぐ隣の室でもあったからこの座敷の奥に立ててある二つの屏風びょうぶの合わせ目を少し引きあけて、人を呼ぶために扇を鳴らした。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「この紙きれは、これは確かに奈良朝ものですよ、古手屋の屏風びょうぶの破れにほの見えたのを、そのまま引っぺがさせて持って来たのだ」
大書院の一隅に、屏風びょうぶがある。一双全面にわたり、日本全国の地図が金泥きんでいのうえに描かれてあった。秀吉は、それへ眼をやるとふと
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
故郷の家で、お祖母様ばあさまのお部屋に、錦絵にしきえ屏風びょうぶがあった。その絵に、どこの神社であったか知らぬが、こんな瑞垣たまがきがあったと思う。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
深い眠りの底から、少しずつさめてき、やがて、暗くしてある行燈の光りで、立てまわした屏風びょうぶの絵が、ぼんやりと眼にうつった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
屏風びょうぶとか双六盤すごろくばんとかは、もとは京鎌倉きようかまくらの家々だけにるもので、ひさしく名はきいて見たことのないという女や子どもが多かった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
西洋技法の表面を借用して六曲屏風びょうぶに用い、座敷を下手なパノラマ館としてしまった実例はかなり混乱の現代日本に多い例である。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
彼女はその薄暗い中に青貝あおがいちりばめた古代の楽器がっきや古代の屏風びょうぶを発見した。が、肝腎かんじん篤介あつすけの姿は生憎あいにくこの部屋には見当らなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
屏風びょうぶの上へ、肩のあたりがあらわれると、潮たれ髪はなお乾かず、動くに連れて柔かにがっくりと傾くのを、軽く振って、根をおさえて
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
屏風びょうぶや、ふすまの絵模様など見るともなしにみています。悲しみにもなれた淋しい気持ちです。あなたの学業や仕事のよい実りを祈ります。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
暮れてから町々の提灯ちょうちんは美しくともった。すだれ捲上まきあげ、店先に毛氈もうせんなぞを敷き、屏風びょうぶを立て廻して、人々は端近く座りながら涼んでいた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夏は翡翠ひすい屏風びょうぶ光琳こうりんの筆で描いた様に、青萱あおかやまじりに萱草かんぞうあかい花が咲く。萱、葭の穂が薄紫に出ると、秋は此小川のつつみに立つ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小十郎はひざから上にまるで屏風びょうぶのような白い波をたてながらコンパスのように足を抜き差しして口を少し曲げながらやって来る。
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
桃山時代の名手によって、描かれたとかいう六枚折りの屏風びょうぶが、いつもは部屋に立てられてあったが、今は姿が見られなかった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それに対してO市の町の灯の列はどす赤く、その腰を屏風びょうぶのように背後の南へ拡がるじぐざぐの屏嶺へいれい墨色すみいろ幼稚ようちしわを険立たしている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
宗助はもう少しいっしょに歩いて、屏風びょうぶの事を聞きたかったが、わざわざまわみちをするのも変だと心づいて、それなり分れた。分れる時
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
校長秋山先生は、台所口の一枚の障子のきわに納まって、屏風びょうぶをたて、机をおき——机の上に孔雀くじゃくの羽根が一本突立っていた。
その垂幕の間から、隣りの化粧部屋と、その向うの白い浴槽バスがホノ暗くのぞいている。浴槽バスの向うには鏡の屏風びょうぶが立っている。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こう言ってから、伯爵夫人はお化粧を済ませるために、三人の侍女を連れて屏風びょうぶのうしろへ行った。トムスキイは若い婦人とあとに残った。
つかつかと下りてきた外人教師は、私が、二枚折り屏風びょうぶのように立てているフランス法律書の中をのぞきこんで、早口で、何かいっている。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
肉体の凹凸おうとつに応じて、紫色の隈を置いた、それ故に一層陰影の多く見える裸体が、背景の真赤な花の屏風びょうぶの前に、次々と浮出して来るのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
白い岩のうえに、目のさめるような躑躅つつじが、古風の屏風びょうぶの絵にでもある様なあざやかさで、咲いていたりした。水がその巌間いわまから流れおちていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
屏風びょうぶの陰に見ゆる菓子盆」の揚げ句に終わる芭蕉のパートにはいったいにピッチの高いアクセントの強い句が目に立つ。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
船の針路をながめると、二三間もあるような、大きなうねりが、屏風びょうぶをおし立てたように、あとからあとから続いて来ます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その時静にふすまく音がして、屏風びょうぶの前に立った男の姿を、誰かと見れば昨夜から名残惜しく思っていた木村義男である。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お前がまっ二つにやられた後は、私の番じゃあるまいかと、さっきから、屏風びょうぶの後で息を凝らして見ていたのさ。が、ほんとうにいい塩梅あんばいだったね。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
脚下きゃっかは文字通りの屏風びょうぶのごとき壁立千仭へきりつせんじん、遥か真下に糸のような細さに見える渓流けいりゅうをちょっと覗いただけでたちまち眩暈めまいを感ずるほどの高さである。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
あっさりした象牙の扇子に漆で少数の絵を、実に素晴しく描いたものが九十ドル。雪景色を画いた屏風びょうぶが九十五ドル。
定雄は部屋の一隅に二枚に畳んで立ててある古い屏風びょうぶの絵が眼につくと、もう子供たちのことも忘れてながめ入った。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「吾君いかにむつかり給う、こうめでたき御契おんちぎりなるは」と云って屏風びょうぶのうしろから出て来たのはの少女であった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
頭の上に、上越国境を遮る六千五百尺の中ヶ岳が、屏風びょうぶのように乗りだしていて、それから北方へ八海山、越後駒ヶ岳が雄偉の座を構えて続いている。
(新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
隅に、短冊たんざくを散らしりにした屏風びょうぶが置いてある。ふと見ると、それが、何時の間にかさかさ屏風になっているのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いやだよ。そんな大きな眼をしてながら、よく御覧なね。その屏風びょうぶの向うに、芋虫いもむしのように寝てるじゃないか」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しかもそのコップは上部の壁の一部が開いて屏風びょうぶのような形になっていて、上から見ると六角の螺旋形らせんけいき込んでいるという念の入ったものであった。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あんずるに——と彼らの行路を説明する阿賀妻であった、——北西の海から吹きあげる冷気を間断なく防いでいる屏風びょうぶのごとき山つづきになやまされたのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
男はおもむろにへやの四方を看まわした。屏風びょうぶ衝立ついたて御厨子みずし、調度、皆驚くべき奢侈しゃしのものばかりであった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
天井や鏡板かがみいたについてる画題は、小さくして肱掛椅子ひじかけいすにも施されていた。またその寝台は、コロマンデル製のラック塗りの大きな九枚折り屏風びょうぶで囲まれていた。
長「えゝ大きな声をするな、見っともねえから二枚折にめえおり屏風びょうぶうしろへ引込んでな、え、もう開けてもうがす」
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
裾の方は屏風びょうぶで囲われ、かみの方の障子の破隙やぶれから吹き込む夜風は、油の尽きかかッた行燈の火をあおッている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
もう暁刻の百舌鳥もずも来なくなった。そしてある日、屏風びょうぶのように立ち並んだかしの木へ鉛色の椋鳥むくどりが何百羽と知れず下りた頃から、だんだん霜は鋭くなってきた。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
京都や安土あづちのエケレジヤの建築様式については、南蛮屏風びょうぶや扇面洛中らくちゅう洛外らくがい名所図などに徴して、ほぼ仏寺のていであつたと推定されてゐるが、これが地方へ行くと
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
三十三間堂の塀ときては塀の中の巨人であるし、智積院ちじゃくいん屏風びょうぶときては、あの前に坐った秀吉が花の中の小猿のように見えたであろう。芸術も糞もないようである。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
茶室の広さはその以前に十五世紀の有名な宗匠紹鴎じょうおうによって定められていた。初期の茶室はただ普通の客間の一部分を茶の会のために屏風びょうぶで仕切ったものであった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
あの屏風びょうぶが輸入品であるかどうかは知らないが、とにかく当時の美人の標準はこれによって察することができよう。吉祥天女は明らかにこの標準による美人である。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
江戸絵を貼った屏風びょうぶをうしろにして、若い旅人が白い腕をまくっていると、若い遊女が紅さした口に水をふくんで、これを三栖紙みすがみにひたして男の腕を拭いています。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
パール・エンド・ハーミーズの珊瑚礁さんごしょうは、きりたった岩で、深い海のそこから、屏風びょうぶのように岩がつき立って、海面には、その頭を、ほんの少し出しているのだから
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
更に眼を定めてよく見ると内裏様だいりさまもあれば、官女かんじょもあり、五人囃子ばやしもあり、衛士えじもあり、小町姫もあり、また雛道具としては箪笥たんす、両替、膳、鏡台、ボンボリ、屏風びょうぶ
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
これに類したものでは、なみだで床の上に画いた鼠が、本物の鼠になったとか、屏風びょうぶの虎がぬけ出したとか、ふすまの雀が毎朝庭へとび降りて餌を拾った、などという話もある。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)