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小田原
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をだはら
『
僕は四五日
前から
小田原の
友人の
宅へ
遊びに
行て
居たのだが、
雨ばかりで
閉口したから、これから
歸京うと
思ふんだ。』
後に
小田原の
町を
放れ、
函嶺の
湯本近に
一軒、
茶店の
娘、
窶れ
姿のいと
美しきが、
路傍の
筧、
前なる
山凡そ
三四百間遠き
處に
千歳久しき
靈水を
引いたりといふ
云はぬが花と
実入りのよい
大尽客を
引掛に、旅に出るのもありやうは、亭主の為めと夕暮の、
涼風慕ふ夏場をかけ、
湯治場近き
小田原で、
宿場稼ぎの旅芸者、知らぬ
土地故応頼の
小田原は
街まで
長い
其入口まで
來ると
細雨が
降りだしたが、それも
降りみ
降らずみたいした
事もなく
人車鐵道の
發車點へ
着いたのが
午後の
何時。
莟は
未だ
固くツてもお
天氣は
此の
通り、
又此の
小田原と
來た
日には、
暖いこと
日本一だ、
喃、
御亭主。
小田原から
先は
例の
人車鐵道。
僕は一
時も
早く
湯原へ
着きたいので
好きな
小田原に
半日を
送るほどの
樂も
捨て、
電車から
下りて
晝飯を
終るや
直ぐ
人車に
乘つた。
お
絹の
話が
出て、お
絹は
愈々小田原に
嫁にゆくことに
定まつた一
條を
聞かされた
時の
僕の
心持、
僕の
運命が
定つたやうで、
今更何とも
言へぬ
不快でならなかつた。
小田原へ
着いて
何時も
感ずるのは、
自分もどうせ
地上に
住むならば
此處に
住みたいといふことである。
古い
城、
高い
山、
天に
連らなる
大洋、
且つ
樹木が
繁つて
居る。
ところが
小田原から
熱海までの
人車鐵道に
此喇叭がある。
不愉快千萬な
此交通機關に
此鳴物が
附いてる
丈けで
如何か
興を
助けて
居るとは
兼て
自分の
思つて
居たところである。