みだり)” の例文
謙遜けんそんか、傲慢ごうまんか、はた彼の国体論はみだりに仕うるを欲せざりしか。いずれにもせよ彼は依然として饅頭焼豆腐の境涯を離れざりしなり。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
宋人のみだりに変改を加へたのはおもんぱかりの足らなかつたものである。題号の外台は、徐春甫が「天宝中出守大寧、故以外台名其書」と云つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかも巽斎はその詩文にさへ、みだりに才力をろうさうとしない。たとひ応酬の義理は欠いても、唯好句の嗒然とうぜんと懐に入る至楽を守つてゐる。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分一個のおぼつかない標準によって、みだりに古句の価値を判定してかかるよりも、もう少し広い意味から古句に注意を払いたいのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
されどもほしいままに謝張を殺し、みだりに年号を去る、何ぞ法を奉ずると云わんや。後苑こうえんに軍器を作り、密室に機謀を錬る、これぶんしたがうにあらず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
哲学にあらざる哲学は吾人の尤も多く敬服する所なり、吾人も亦た詩人哲学者小説家等がみだりに真理を貪るをにくむ者なり。
人生の意義 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
兎に角鱷は人の所有物ですから、それをみだりに切り開ける事は出来ません。と申すのはその持主に代価を辨償せずに、切り開ける事は出来ないのです。
つねに儒仏の道を唱えてみだりに泰西の学説を口にせざるがゆえに、俗人は誤りてこれを保守論派と名づけたるに似たり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
再読するにまのあたり生ける先生の言を聞くが如し。みだりにこれを左に録する所以ゆえん感慨全く禁ずべからざるがためなり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
淫慾いんよく財慾ざいよくよくはいづれも身をほろぼすの香餌うまきゑさ也。至善よき人は路に千金をいへ美人びじんたいすれどもこゝろみだりうごかざるは、とゞまることをりてさだまる事あるゆゑ也。
〔評〕南洲人にせつして、みだりまじへず、人之をはゞかる。然れども其の人を知るに及んでは、則ち心をかたむけて之をたすく。其人に非ざれば則ち終身しゆうしんはず。
その翌日、三宅は役所に召喚され、みだりに浪人を滞在させ云々のかどをもって、閉門謹慎を申付けられ、これをもって、連島貿易の一件は、けりとなった。
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
自分の男性に対する魅力を、楽しむために、無用に男性を魅していることを知った。丁度、激しい毒薬の所有者が、その毒の効果を自慢してみだりに人を毒殺するように。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
血気けっきはいが、ただ社会の騒動を企望きぼうして変を好み、自己の利益をもかえりみずしてみだりに殺伐をこととするは、平安の主義にもとるが如くなれども、つまびらかにその内情を察すれば
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
衛生の事を知らずしてみだりに衛生の名をかぶせる如きは最も生意気といわざるを得ない。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その結果、我々はすこしでも動き廻れば背中がつかえるか、頭をぶつけるかで、ドクタアはこの背骨折りの経験中、絶えず第三の誡命〔「汝の神エホバの名を、みだりに口にあぐべからず」
これはみだりに虚説を信ずる者をいましめた譬喩だが、この話の体はいわゆる逓累話キユミユラチブ・ストリーというもので、グリンム、クラウストンその他の俚話をあつめた著書に多く見える、「クラウストン」より一例を引くと
みだりに言へるならんとおもへど、如何いかにせん貫一が胸はひそかとどろけるを。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我輩ヲ海外ニ送テみだりニ害ヲ加ヘントスル為メナリ。
高言みだりに吐く汝、デーイポボスよ認むるや?
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
例へばまだ無邪気なる小児が他人の家に入りてみだりにその家の所有物(玩器なりとも)を持ち帰るが如き、児にありては悪意と認むべき者なきも
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
私は御同業の芸術家諸君をみだりに貶しめる無礼もなく、安んじて龍村さんの女帯を天下に推称する事が出来るのである。
竜村平蔵氏の芸術 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
諸子はたと奈何いかなる事に遭遇するとも、従容としてこれに処し、みだりに言動すること無く、天下をして柏軒門下の面目を知らしむる様に心掛けるが好い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
俳人が別離の情を叙するに当ってみだりに悲しまず、必ずしも相手の健康を祈らず、不即不離のうちに或情味を寓するの妙は、この句からも十分受取ることが出来る。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
野人の分を忘れおのれを省ずしてみだりに尊王愛国の説をなすもの多きを見て枕山はこれを諷刺ふうししたのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼にも粋あり、此にも粋あり、彼にもかうあり、此にも糠あり、みだりに此の粋を以て、彼の粋を撃たんとするは誰ぞ。ほしいまゝに此の糠を以て、彼の糠を排せんとするは誰ぞ。
頑執妄排の弊 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
南洲曰ふ、夫れ復古は易事いじに非ず、且つ九重阻絶そぜつし、みだりに藩人を通ずるを得ず、必ずや縉紳しんしん死を致す有らば、則ち事或は成らんと。又後藤象ごとうしやう次郎にいて之を説く。
爐中の炭火をみだりに暴露せざるが如きものであつて、たとひ之を惜むこと至極するにせよ、あらたに炭を加ふる有るにあらざれば、別に其の火勢火力の増殖する次第でも無い。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
丁度、激しい毒薬の所有者が、その毒の効果を自慢してみだりに人を毒殺するやうに。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
豈料あたはからんや藤原実美さねとみ等、鄙野匹夫ひやひっぷの暴説を信用し、宇内うだいの形勢を察せず国家の危殆きたいを思はず、ちんが命をためて軽率に攘夷の令を布告し、みだりに討幕のいくさおこさんとし、長門宰相の暴臣のごと
尊攘戦略史 (新字新仮名) / 服部之総(著)
唯、予が告白せんとする事実の、余りに意想外なるの故を以て、みだりに予をふるに、神経病患者の名をる事なかれ。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし口碑などと云ふものは、もとよりかろがろしく信ずべきでは無いが、さればとて又みだりに疑ふべきでも無い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
○我国にては扇は昔より男子の携持たずさえもちたるものなれど、人の面前にてみだりに涼を取るものにはあらず、形容をつくらんがため手に持つのみにて開閉すべきものにはあらざるべし。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
みだりに動けば くいあり
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
みだりに道徳に反するものは経済の念に乏しいものである。妄に道徳に屈するものは臆病ものか怠けものである。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
街頭の俗謡といへどももとより作者の存するあり。当時教科書編纂者のなすが如くだまつて他人の文を盗用するは礼にあらず。故に一言してみだりにその断片を採つてここに録する所以ゆえんを述ぶ。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
みだりに道徳に反するものは経済の念に乏しいものである。妄に道徳に屈するものは臆病おくびょうものか怠けものである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしは毅堂が日録の全文を取ってみだりに次の如くに書きかえた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
云うこと勿れ、巴毗弇はびあん、天魔の愚弄する所となり、みだり胡乱うろんの言をなすと。天主と云う名におどされて、正法しょうぼうあきらかなるをさとらざるなんじ提宇子でうすこそ、愚痴のただ中よ。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
みだりおくり仮名を附して次の如く書き改めた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その故に他の作家、殊に本来密を喜ぶ作家が、みだりに菊池の小説作法を踏襲たふしふしたら、いきほひ雑俗のへいおちいらざるを得ぬ。自分なぞは気質の上では、可也かなり菊池とへだたつてゐる。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この一家の主人にしてみだりに発狂する権利ありや否や? 吾人はかかる疑問の前に断乎だんことして否と答うるものなり。試みに天下の夫にして発狂する権利を得たりとせよ。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
横川よかわの僧都は、今あめした法誉無上ほうよむじょう大和尚だいおしょうと承わったが、この法師の眼から見れば、天上皇帝の照覧をくらまし奉って、みだりに鬼神を使役する、云おうようない火宅僧かたくそうじゃ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや、たとひ恩を着ぬにもせよ、みだり生類しやうるゐの命を断つなどとは、言語道断ごんごだうだんでござらう。」
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すると芭蕉以外の人には五六年は勿論、三百年たつても、一変化することは出来ぬかも知れぬ。七合の俳諧も同じことである。芭蕉はみだりに街頭の売卜ばいぼく先生を真似る人ではない。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
予の梅花を見るごとに、文人趣味をび起さるるは既に述べし所の如し。然れどもみだりに予を以て所謂いはゆる文人とすことなかれ。予を以て詐偽師さぎしみなすは可なり。謀殺犯人と做すは可なり。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
われらが寝所には、久遠本地くおんほんじの諸法、無作法身むさほっしんの諸仏等、悉く影顕えいげんし給うぞよ。されば、道命が住所は霊鷲宝土りょうじゅほうどじゃ。その方づれ如き、小乗臭糞しょうじょうしゅうふんの持戒者が、みだりに足をるべきの仏国でない。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その三は傲慢がうまん也。傲慢とはみだりに他の前に自己の所信を屈せざるを言ふ。
阿諛あゆは、恐らく、かう云ふ時に、もつとも自然に生れて来るものであらう。読者は、今後、赤鼻の五位の態度に、幇間ほうかんのやうな何物かを見出しても、それだけでみだりにこの男の人格を、疑ふ可きではない。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何か仔細しさいがなくては、みだり主家しゅかを駈落ちなどする男ではない。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)