夜鷹よたか)” の例文
成程このごろは物騒だというのに、夜鷹よたかじゃあるめえし、若い娘が五ツ過ぎに柳原の堤をうろうろしているというのがおかしい。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とうさんの田舍ゐなかでは、夕方ゆふがたになると夜鷹よたかといふとりそらびました。その夜鷹よたか時分じぶんには、蝙蝠かうもりまでが一しよしました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
夜鷹よたか真似まねをしなさいと言えば教えられた通りにして逆らわないものだから、殿様との相合傘もいつしか消えてしまっている。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あわてるなよ、八。お前の強いのはよく解つてゐるが、まだ辻斬や夜鷹よたかの出る刻限ぢやねえ。ゆつくり物を考へてよ」
銭形平次捕物控:126 辻斬 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
それで、今の小遣こづかいを貰い、帰りには、それで夜鷹よたかそばを食ったなどと……随分おかしな話しですが、それも習慣です。
コツコツコツコツと叫ぶのは餌をあさっている夜鷹よたかであって、ギャッ——と鋭く喚くのは敵に襲われた鵜烏うがらすである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
またたこの大きなのが流行り、十三枚十五枚などがある。げるのは浅草とか、夜鷹よたかの出た大根河岸だいこがしなどでした。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
寄席の帰りに腹が減って蕎麦そば屋に這入ると、妓夫が夜鷹よたかを大勢連れて来ていて、僕等はその百鬼夜行の姿をランプの下に見て、覚えず戦慄せんりつしたこともある。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おとら(五十余歳)夜鷹よたかが出来なくなって困窮している水熊の女主人の元の知人。破れた番傘を担ぎ、うしろ向きに水熊の台所口に立ち、裾の方だけ見える。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
男を探す夜鷹よたかと、夜鷹をさがす男とが夜もすがらの通行人だ。場末とはいえ、けっしてさびしい個所ではない。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
こもを抱えた夜鷹よたかむれ雲霞うんかの如くに身のまわりを取巻いていて一斉に手をって大声に笑いののしるのである。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「私は夜鷹よたかじゃないんだからね、誰がいつ、おまえなんぞに買われると言ったの。知らないわよ。ばか!」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弁慶が辻斬つじぎりをしたのは橋の袂である。鍋焼うどんや夜鷹よたかもまたしばしば橋の袂を選んで店を張った。
かような陋巷ろうこうにおったって引張りと近づきになった事もなし夜鷹よたかと話をした事もない。心の底までは受合わないがまず挙動だけは君子のやるべき事をやっているんだ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
血気な男が、かかる折から、おのずから猟奇と好色の慾念よくねんおどって、年の頃人の妻女か、素人ならば手でなさけを通わせようし、夜鷹よたかならば羽掻はがいをしめて抱こうとしたろう。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えたれども折々は夜鷹よたかなどを買ひ行て家を明る事もあり又は下女共にはやさしき事を言かけはぢをかく事も度々たび/\なれども其をはぢとも思はず近頃は彼お兼に思ひを掛け時々とき/″\袖褄そでつま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
寒くなりだしてから、宵のうちとか夜半過ぎなどに、夜鷹よたかの紛れこんで来ることがあった。
嘘アつかねえ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
オメカケというよりも売娼婦、それも最もすさみはてた夜鷹よたか、そういう感じで、私は正視に堪えなかったのである。その後、実際に、そういう生活におちたというようなうわさをきいた。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
熊公八公相手の夜鷹よたかもなけりゃな。どうだ。おぬし徹底して夜鷹になるか。
昼間でも、夜鷹よたか茣蓙ござを抱えて、うろついているような、淋しい場所だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
二人とも夜鷹よたかくらいまで落ちた事があるような気配も見え、とにかくあまり心根が悪すぎてみんなにあきれられ捨てられ、もういまでは誰からも相手にされなくなっていたようなのでございました。
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
初めは行き暮れた旅人を泊らしては路銀をぬすむ悪猟師の女房、次にはよめいびりの猫化郷士ねこばけごうしの妻、三転して追剥おいはぎの女房の女按摩となり、最後に折助おりすけかかあとなって亭主と馴れ合いに賊を働く夜鷹よたかとなり
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
支那に路上春をひさぐのぢよ野雉やちと云ふ。けだし徘徊行人かうじんいざなふ、あたかも野雉の如くなるを云ふなり。邦語にこの輩を夜鷹よたかと云ふ。ほとんど同一てつに出づと云ふべし。野雉の語行はれて、野雉車やちしやの語出づるに至る。
「知れたことじゃありませんか。つじ君ですよ。夜鷹よたかですよ」
遠くの谷で夜鷹よたかが不気味にギョギョギョといってき出した。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
上方かみがたでは昔から夜なきうどんの名があったが、江戸は夜そば売りで、俗に風鈴ふうりんそばとか夜鷹よたかそばとか呼んでいたのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あわてるなよ、八。お前の強いのはよく解っているが、まだ辻斬や夜鷹よたかの出る刻限じゃねえ。ゆっくり物を考えてよ」
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
やがて因州の家中も引き揚げて行き、街道の空には夜鷹よたかも飛び出すころになると、石屋の坂のあたりは人通りも絶えた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
本所の鐘撞堂の相模屋という夜鷹よたかの親分の許へ、米友は御無沙汰廻りに行こうという覚悟が定まったのであります。
この辺に、夜鷹よたかが出るということや、夜鷹の相場や、夜の女の様々のれ話は、いつも部屋の者が話すのを聞かない振りをしつつ、ある好奇心が熱心に覚えさせていた。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔法まはふ妖術えうじゆつ五月暗さつきやみにふさはしい。……よひののホウ、ホウは、あれは、夜鷹よたかだとおもはれよ。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
慶安年間の四谷左門町ときては、いわゆる悪漢わる巣窟そうくつで、微禄の御家人とか香具師やしとか、猿廻しとか夜鷹よたかとかないしは怪しげな浪人者とか、そんな者ばかりが住んでいた。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
我が家に近い桃林寺とうりんじの裏手では酒買いに行く小坊主の大胆に驚き、大岡殿おおおかどのの塀外の暗さには夜鷹よたかいど仲間ちゅうげんむれに思わずも眼を外向そむけつつ、種彦はようやくそのいえかどにたどりついた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おう帰ったな夜鷹よたかあま、あがって来い、飯を返してやるから此処へ来やあがれ」
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ハンベリイ街二九番の家には、当時この夜鷹よたかがだいぶ間借りしていたので、それらが夜中に客をくわえ込む便宜べんぎのために、おもての戸は夜じゅう鍵をかけずにおくことになっていたのだ。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
しかしいくら骨を折つたつて結局子供だましの夜鷹よたか仕事だ。
貧乏人の子かは知らないが、お駒は生無垢きむくの素人娘だ。賣女ばいた夜鷹よたかおとるやうに言はれて、親の俺はどんな心持だと思ふ
夕空に飛びかう蝙蝠こうもりの群れを追い回しながら、遊び戯れているのもその子供らだ。山の中のことで、夜鷹よたかもなき出す。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やがて、柳原河岸近くまで来た時分、ここは貧窮組ひんきゅうぐみの騒いだところ。自分が金包を落して、それを夜鷹よたかのお蝶に拾ってもらったところ。そのお蝶こそ恩人である。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いやはや俺も夜鷹よたか風情ふぜいに声をかけられる身分となったか。どこまでおっこちて行くことやら」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土手の松へは夜鷹よたかが来る。築土つくどの森では木兎ずくが鳴く。……折から宵月よいづきの頃であった。親雀は、可恐おそろしいものの目に触れないように、なるたけ、葉の暗い中に隠したに違いない。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうかいもねえもンです、あれほど、船待の小屋と念を押したじゃありませんか。それをこんな所で、夜鷹よたかみてえにしゃがみこんでいるンだもの、分りッこありゃしねえ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歌麿と相並んで豊国もまた『絵本時世粧いまようすがた』において見る如く、しわだらけの老婆が髪を島田に結ひ顔には処々ところどころ膏薬こうやく張りむしろかかへて三々伍々さんさんごご相携へて橋辺きょうへんを歩む夜鷹よたかを写生したる画家なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あんたが側にいて護ってくれたから、あたしこうして生きて来られたし、悪い女にならずにも済んだのよ、もしかあんたがいなかったら、あたしきっと死んじまうか、ぐれて夜鷹よたかにでもなっていたわ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ねえ、姐さん。今時分そんなところにうろ付いていると、夜鷹よたかか引っ張りと間違えられる。この寒いのにぼんやりしていねえで、早くうちへ帰ってあったまった方がいいぜ。悪いことは云わねえ。早く帰んなせえ」
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
貧乏人の子かは知らないが、お駒は生無垢きむくの素人娘だ。売女ばいた夜鷹よたかに劣るように言われて、親の俺はどんな心持だと思う
気味の悪い夜鷹よたかが夕方にはよく頭の上を飛び廻ったことを思出した。彼は初めて入学した村の小学校で狐がついたという生徒の一人を見たことを思出した……
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうまで下がった商売しようぞ! 先の出世、行く末の安楽、何んでましてやそんなことを思って、私娼じごく夜鷹よたか零落おちぶれよう! ……思っておくれ妾の心を! 好きだからだよ
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やあ、えらいことりました。……柳原やなぎはらやけあとへ、うです。……夜鷹よたかよりさき幽靈いうれいます。……わかをんな眞白まつしろなんで。——自警隊じけいたい一豪傑あるがうけつがつかまへてると、それがばゞあだ。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
落した金をお蝶という夜鷹よたかの女から受取った米友は、不思議な感じに打たれます。