かな)” の例文
とらうる処法にかなえば、門番は立竦たちすくみになりて痛疼いたさにたまらず、「暴徒が起った。……大……大変、これ、一大事じゃ、来てくれい。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
歌声につれて、鼠は嚢中より出で来り、仮面めんを蒙り、衣装を着けて舞台に登場し、立ちて舞へり。男女悲歓のさま悉く劇中の関目にかなへりといふ。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
(『空華随筆くうげずいひつ』に曰く、「儒家の死後魂神飄散ひょうさんの説、西天の仏教にたがうのみにあらず、また、日本の神道にかなわず」と)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
今此二人神聖なる誓約を立て、婚姻の式を挙げんとす。諸君のうち此結婚に付きし道にかなわざる所ありと知る者あらば、此処に於て直ちに明言すべし……
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いづれ君子の意にかなうやを試むるなど、千変万化の方略を尽くせしに、さすがは文学士ともいはるる男だけに、君子も打聴く毎に有益に感ずる事も多ければにや。
当世二人娘 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
今、朕れ、丈六の仏を造りまつらむがために、き仏の像を求む。汝が所献たてまつれる仏のためし、即ち朕が心にかなへり。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「俗は天意にかなはんと思ひ、衲子のっすは仏意に合はんと思ふ。」「身を忘れて道を存する。」畢竟これが——絶対者の意志に合うように「私」を去って行為することが
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
這般こんな事をいふと例の大忠臣党が直ぐ犬畜生の言草だなんぞと云ひさうだが、人間様の仰しやる事が兎角御都合主義だから無慾な犬畜生の言草いひぐさが却て道理にかなつてる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
ヂュリ 巡禮じゅんれいどの、作法さはふかなうた御信仰ごしんかうぢゃに、其樣そのやうにおッしゃッては、そのいかァいどく聖者せいじゃがたにも御手みてはある、その御手みてるゝのが巡禮じゅんれい接吻禮キッスとやら。
彼は女四書じよししよ内訓ないくんに出でたりとてしばしば父に聴さるる「五綵服ごさいふくさかんにするも、以つて身のと為すに足らず、貞順道ていじゆんみちしたがへば、すなはち以つて婦徳を進むべし」の本文ほんもんかなひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
双方共背後うしろから押されてゐる。中にちよい/\理性にかなつた詞を出すものがあつても、周囲まはりの罵りさわぐ声に消されてしまふ。此場の危険は次第にはつきり意識に上つて来た。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
怖ろしく声のい人で、お経をむと、その調子が自然に律呂りつりよかなつて、まるで音楽でも聴くやうな気持がするので、道命が法華ほつけを誦むとなると、大峰おほみねから、熊野から、住吉すみよしから
いにしへに富める人は、あめの時にかなひ、くにの利をあきらめて、一〇六産を治めて富貴となる。これ天のまにまになる計策たばかりなれば、たからのここにあつまるも天のまにまになることわりなり。
また女は、羞恥を知り、慎みて宜しきにかなう衣もて己を飾り、編みたる頭髪かみのけと金と真珠とあたいたかき衣もては飾らず、善きわざをもて飾とせん事を。これ神をうやまわんと公言する女にかなえる事なり。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
旗野の主人あるじ血刀ちがたなひつさげ、「やをれ婦人をんなく覚めよ」とお村のあばら蹴返けかへせしが、くわつはふにやかなひけむ、うむと一声ひとこゑ呼吸いきでて、あれと驚き起返おきかへる。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
飯田町何丁目の、通りを除けし格子造り、表は三間奥行も、これにかなひたる小住居ながら。伊予簾の内や床しき爪弾の音に、涼みながら散歩する人の足を止めて覗へば。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「道にかないません。僕は明言する。此の結婚には反対です」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
し、なんぢところこゝろかなへり、かねもくをこそとおもひけれ、いまなんぢところによりて、愈々いよ/\かれ人材じんざいたしかめたり、もちゐてくにはしらとせむか、時機じきいまいたらず
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
取着とッつきの壁が残って、戸棚が真紅まっか、まるで毛氈もうせんを掛けたような棚を釣った上と下、一杯になって燃えてるのを私あお宅を行き抜けにお出入のかなったおかげにゃ、要害は知ってまさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うすいふすぼりが、うばの手が榊を清水にひたして冷すうちに、ブライツッケルの冷罨法れいあんぽうにもかなえるごとく、やや青く、薄紫にあせるとともに、が銀の露に汗ばんで、濡色の睫毛まつげが生きた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔にさわられまいと、俯向うつむきながら、あおぎ消すやうに、ヒラヒラと払ふと、そよ/\と起る風のすじは、仏の御加護おんかご、おのづから、魔を退しりぞくるほうかなつて、蠅の同勢どうぜいは漂ひ流れ、泳ぐが如くに
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
丹塗にぬりの柱、花狭間はなはざまうつばりの波の紺青こんじょうも、金色こんじきりゅうも色さみしく、昼の月、かやりて、唐戸からどちょうの影さす光景ありさま、古き土佐絵とさえの画面に似て、しかも名工の筆意ひついかない、まばゆからぬが奥床おくゆかしゅう
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
肩書の分限ぶげんに依って職を求むれば、すみやかに玄関を構えて、新夫人にかしずかるべき処を、へきして作家を志し、名は早く聞えはするが、名実あいかなわず、砕いて言えば収入みいりが少いから、かくの始末。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
言葉戦いかなうまじ、と大手を拡げてむずと寄って
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)