可成かな)” の例文
武尊なども可成かなり下まで現れて居るのですけれども、矢張り雲が懸っている、雪が遅くまで降るので雲がねばって居るのであります。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
何とつても探偵小説でその構想の卓拔、トリツクの妙味、筋の複雜、心理解剖の巧さ、文章の流麗、それに可成かなりな藝術味を加へて
探偵小説の魅力 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
捜査の苦心、証拠蒐集の不備の為の焦慮、当時の世論の囂々ごう/\たる毀誉褒貶きよほうへんの声、呪の手紙、そんなものが可成かなり彼を苦しめた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「純粋な芸術」というような言葉は、可成かなり滑稽な言葉である。社会的効果を標準にして、芸術の高下は定める可きである。
愚言二十七箇条 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何でも現金や債券を可成かなり持っているという噂であったが、近所の人と顔を合せる毎に、貧乏で困るとか、不景気だとかいうのが口癖であった。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
もっと、くわしく紹介したいのであるが、いまは、それよりも、この家族全部で連作した一つの可成かなり長い「小説」を、お知らせしたいのである。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
が、二分っても、五分過ぎても、冷凍船虎丸タイガーまるの火薬庫は爆発しそうにもなく、本船は悠々潮流に乗って、可成かなりの速さで、僕等を遠ざかってく。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
可成かなおほきいけれど、わづかに一小破片せうはへん見出みいだしたのみといふ八木やぎ水谷みづたに談話だんわなどかんがへて、はおぼろながら。
何しろ可成かなり距離はあるんだし、暗くはあるし、けれども私は体中の神経を目に集めて、その一固りを見詰めた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
誰も拾いてのない川の中に、彼らのいるところよりは可成かなり低い水面に、抛物線ほうぶつせんを描いてずぶりと墜ちた。流れの下にすッともぐったような落ちかたであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
が幸にも細田氏はあの駅を下りて私の方とは反対の側に行ったところなんですけれども駅から二丁ばかりのところにあって可成かなり大きな家を構えて居りました。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
可成かな手重ておもくて二月ふたつきばかり隔離室かくりしつに寝ていた後のこと、若い軍医が、『大佐殿のチブスには症状しょうじょうに特別のところがありましたから、実はお案じ申上げて居りました』
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ああら、玉子とは丸いものかや。わらわは初めて拝見しまする」と、下情に通じさせながら、毎月のお買上げ金二万円也も、可成かなり古いおうわさであるが、——その先祖以来
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
倭文子さんの生涯に、他人の恨みを受けたことがあるとすれば、この谷山二郎君の外にはない。倭文子さんは、一度は同棲までした二郎君に、可成かなり残酷なしうちをした。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
可成かなり重大な事でもごく無雑作にかたをつけるあつさりした人達があるものです。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
みち三浦みうら東海岸ひがしかいがん沿った街道かいどうで、たしか武山たけやまとかもうす、可成かなたかひとつのやますそをめぐってくのですが、そのおりよくそらあがっていましたので、馬上ばじょうからながむるうみやまとの景色けしき
その筈です、こんどの船も可成かなりの借金をして出したのですから——
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
たれもがからだをぐらつかせながら、まるで出來できわる機械人形きかいにんぎやうのやうなあしはこんでゐたのだつた。隊列たいれつ可成かなみだれてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
尤も後世になって竜王信仰の衰えと共に祭神の変ったものもあるであろうから、それらをも合せたならば全国では可成かなりの数に上ることと信ずる。
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
夜がもう可成かなけた時、ヒョッコリ酒場へ出て来たのは、支配人やボーイに冷遇された例の貧弱な紳士であった。
闘牛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
可成かなりの変質者なのです。以後、浮気は固くつつしまなければいけません。このみそかは、それじゃ困るのでしょう? 私は、もうお世話ごめんこうむります。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「それなら、僕もそうおもうね。渦巻く海面から、忽然こつぜんと消えて無くなるなンか、やっぱり幽霊船だった」そのまに、飛行機は、もう可成かなり遠くまで飛んでいた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
彼女はまたたきをした。彼女は見ていたのだ。そして呼吸も可成かなり整っているのだった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
けれども、この母のこの返事は、可成かなり秋成に世の中を住みよくさしてれた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
然しうして見たところで硬張った死人を運ぶのは可成かなりの重荷であったが、他に工夫のしようもなかったのでその儘歩き続けた。この露路をぬけてドンドン橋を渡ると瓦斯会社の横に出る。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「これです。男の靴の跡が、可成かなりハッキリ出ているでしょう」
出發前、その旅先の苫小牧とまこまいでと計畫けいくわくしてゐた處女作しよぢよさく雪消ゆきげの日まで」は可成かなりな苦心努力にも拘らず、遂に一部分をさへ書き上げることが出來なかつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
廊下は可成かなり長かったが、さりとて一町もありはしない。ところが彼には其廊下が一里もあるように思われた。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其の範囲は一府八県にわたり、九ヶ国に跨って居りますから、可成かなり広い区域を含んで居ります。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
僕は、いくたびかすべり落ちて、やっと、怪物の背中へい上ることが出来た。そこは、やはりつべつべしているが、小丘のように広い。足もとに気をつけて、歩いてみると、可成かなりある。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
そして、家の中での人ぶつ撮影さつえいは、いふまでもなく日よう日には可成かなおもいそれの鞄をかついで郊外こうぐわい撮影さつえいに行く。
その中の二人が可成かなり大きい檻を支えて居た。「やあ!」と新井君が声をかけると警官も背広服も一様に丁寧に頭を下げながら、「お蔭さまで」と云っていた。
広東葱 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まったく、ドイツの火焔砲はウエルスが頭脳の中で創造した殺人光線放射器に可成かなり似ているのである。
今昔茶話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それに自分じぶんでも可成かな後悔こうくわいしかけてゐる矢先やさきだつたのが、反撥的はんぱつてきに、をつと氣持きもちをあまのじやくにした。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
当時は世間でも随分騒ぎ、警察方面でも可成かなり熱心に、そうして勿論同情をって、手を尽くして八方捜索しましたが、行衛を知ることが出来なかったそうです。
が、もうひとつは氣質きしつ相違そうゐによるものだらう。へると、支那人しなじん技法ぎはふ巧拙かうせつ別問題べつもんだいとして、可成かな自由じいうびと麻雀マージヤンあそたのしむからではあるまいか?
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
氏の世界と夫人及び坊ちゃんやお嬢さんの世界とは、可成かなりハッキリ区別されていたように思う。これは氏が理性に富んでいると共に人情に富んでいたからである。
名古屋の小酒井不木氏 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とはむかうの消息通せうそくつうぼくかせたことばだが、ばくちきで、またばくちの天才てんさい支那人しなじんだけに麻雀道マアジヤンだうおいてもなかにはおそろしい詐欺さぎ、いんちきをくはだてるものが可成かなりあるらしい。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
……ところが其奴は執念深く、可成かなり、そうです、相当長く、門口に立ってせがむんです、『開けて下さいよ、開けて下さいよ!』——何んの私が開けますものか。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つまり人間のありきたりの心的葛藤かつとうや、因果關係の紛糾に、ピストルだの短刀だのと單純に含ませた古い型の探偵小説では、一面に科學知識の可成かなり深くなつてゐる私達には物足りない。
探偵小説の魅力 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
この作を読んだ大方の人は、可成かなり長い間考えさせられ、憂鬱になるだろうと思われます。
御存与太話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこは町からも可成かなり離れてゐて、あたりには一軒の家もなく、人影も見えず、ただ「はまなし」と云ふ野薔薇のばらに似たやうな赤い花がところどころにぽつぽつ咲いてゐるばかりであつたが
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
満載したのは当然としても「苦楽」「現代」「サンデー毎日」「大衆文芸」「講談倶楽部」これらの雑誌が多くの頁を、そのために裂いたということは、可成かなり目立った傾向でした。
探偵文壇鳥瞰 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その刹那せつなから可成かなりな心身の疲れにもかゝはらず、こまかく推敲すゐかうしつつ全部を書き直し、更にそれを三度書き直して、最後のふでを置いたのが忘れもしない十月十七日の夜の十二時近くなのであつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
だが其中今も云った通り可成かなり隆盛になったので、『うっちゃって置くことも出来ないだろう、不本意ながら論じてやろうぜ』すなわち恩恵的態度をもって、これを論じたというものです。
大衆文芸問答 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
例へば可成かなり世間を騷がしたとふやうな、實際に起つた探偵事件が文章に書かれたとしても、一たい現實の事件には讀物的興味をそぐやうな無駄や、まはりくどいいきさつなどのあるのが普通だから
探偵小説の魅力 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
バンガローの横手まで歩いて行くと広い後庭の中央に可成かなり大きな温室が夕陽に硝子屋根を反射させて秋霧の中に横倒わっていた。と、その温室の戸が開いて姿を現わした者がある。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それと同がくぐらゐの足し前を母にせがんでやうや理想りそうに近い寫眞器しやしんきを買つたそれは可成かなあかるいアナスチグマツトレンズに百分の一べうまで利くオオトシヤツタア裝置そうちを持つプレモかたの二まいかけ寫眞器しやしんき
「探偵雑誌とはおどしつけるもの」こう思っていた人もあったでしょうが、それを相当ぶちこわしました。可成かな是迄これまでは嚇し付けていたのですから、是からは笑わせた方がいでしょう。
ああいう場合にトップを切るということは可成かなりの勇気の要ることさ。ヤンキー達はポーカをやったりトランプをやったりして仲々踊り出さない。で無駄にバンドは数番演奏したというものさ。
赤げっと 支那あちこち (新字新仮名) / 国枝史郎(著)