千歳ちとせ)” の例文
のりかへの千歳ちとせ駅で四十分ばかり時間があるので構外に出てみると、駅のすぐ側の茶店で食事をする人たちもゐた。どんぶりの御飯に煮魚。
東北の家 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
今は更に、千歳ちとせの命、継ぎたりと心の落居おちいたるにや、疵口を縫いつくろう折、仲々、堪えがたくて人々に笑われたりき。このとき全く日暮れたり。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
『近代の偉人故五代友厚ごだいともあつ伝』という本を見たら、友厚が文久二年に幕府の千歳ちとせ丸に水夫に化けて乗込んで上海へゆき
咸臨丸その他 (新字新仮名) / 服部之総(著)
「ハーモニカですか。あれは、おとといの晩千歳ちとせ女将おかみさんと警察署のお方が預けておいでになった、トムさんです」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
常盤ときはの松を名に呼べれば、千歳ちとせならずとも枯野の末まではあるべきを、はぎの花ちりこぼるゝやがて声せずなり行く。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
石狩いしかり千歳ちとせのどこかの村にウエピカンという若い美貌の酋長がいた。ある日いつものように山から降りてくると、川岸で大勢の男女がにぎやかに踊っている。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
鼓草たんぽぽの花の散るように、娘の身体からだは幻に消えても、その黒髪は、金輪こんりん、奈落、長く深く残って朽ちぬ。百年ももとせ千歳ちとせせず、枯れず、次第に伸びて艶を増す。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな場合の歌は文学者らしくしている男の人たちの作も、平生よりできの悪いのが普通で、松の千歳ちとせから解放されて心の琴線に触れるようなものはないからである。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
山形市より遠くない。窯は千歳ちとせ山のふもとに散在する。歴史はそう古くはさかのぼらないが、化政かせいの頃は既に盛である。今は磁器陶器を焼くが、土地では一方を石焼、一方を土焼どやきと呼ぶ。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
籠釣瓶花街酔醒かごつるべさとのえひざめ」として、三世河竹新七が、初代市川左団次のため劇化したのは、明治廿一年五月の千歳ちとせ座(のちの明治座)でもちろん講談や人情噺の方が、その以前からあつた。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
それから北へ連なる雁戸がんど山、もっと近くて低い千歳ちとせ山、丘と云っていいさかずき山、また西方には朝日岳あさひだけ連峰がつらなり、それから北方へかけて、月山がっさん、湯殿山、羽黒山などが望見された。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
胆振国千歳ちとせ町内千歳川第四発電所より下流に、シュネチセ(9)という所がある。
其年九月のはじめ安産あんざんしてしかも男子なりければ、掌中てのうちたまたる心地こゝちにて家内かないよろこびいさみ、産婦さんふすこやか肥立ひだち乳汁ちゝも一子にあまるほどなれば小児せうに肥太こえふと可賀名めでたきなをつけて千歳ちとせ寿ことぶきけり。
明くれば夜のさまをかたり、暮るれば明くるを慕ひて、一七一此の月日頃千歳ちとせを過ぐるよりも久し。かの鬼も夜ごとに家をめぐり、或は屋のむねに叫びて、忿いかれる声一七二夜ましにすざまし。
文壇の聖者といわれた蘆花ろか徳富健次郎氏、市外千歳ちとせ村の邸に閉じ籠って、いっさい客を絶ち俗界と絶縁、京王電車の下高井戸で下車、畑道を約五丁ばかり、生垣をめぐらした一軒の平家建て
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
僕はたぶん明日親父おやじに会いに千歳ちとせまで帰ってくる。都合ではむこうの滞在が少し長びくかもしれない。できるなら僕は秋のうちに……冬にならないうちに東京に出たいと思っているんだがね。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
炭層たんそう千歳ちとせうづもる蓮の実も芽を吹き花の日に匂ふちふ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
立ち並ぶかひこそなけれ桜花さくらばな松に千歳ちとせの色はならはで
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
胆振いぶり千歳ちとせ郡マオイ沼 タンネ、エンルム 長崎
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ごふのかげ、輪廻りんね千歳ちとせ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
千歳ちとせわざを立てましぬ。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
千歳ちとせの色をうつすとも
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
千歳ちとせ女将おかみは、朝詣りの帰りを、呼びこまれた常盤町ときわまち金春こんぱるで、三十分ほど縁喜棚えんぎだなの下でしゃべりこんでいた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のち小田原をだはらまちはなれ、函嶺はこね湯本ゆもとぢか一軒いつけん茶店ちやみせむすめやつ姿すがたのいとうつくしきが、路傍みちばたかけひまへなるやまおよ三四百間さんしひやくけんとほところ千歳ちとせひさしき靈水かたちみづいたりといふ
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おいとこたへてこめかしをけはかすほどのろさ、くておはらば千歳ちとせうつくしきゆめなかすぎぬべうぞえし。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
開拓されるまえの札幌は、乾いた大川という意味のサッポロベツの乱流が密林を左右にわけているところを、川口からいまの米軍事基地千歳ちとせまで通じる一条の小径が、はっていたにすぎない。
其江戸の元日をきけ縉紳朱門しんしんしゆもんことはしらず、市中しちゆうは千もん千歳ちとせの松をかざり、すぐなる 御代みよの竹をたて、太平の七五三しめを引たるに、新年しんねん賀客れいしや麻上下のかたをつらねて往来ゆきゝするに万歳もうちまじりつ。
ツウツンボ 安房あわ千歳ちとせ
ゆくて千歳ちとせとりてあと
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
千歳ちとせこよみひるがえし
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「あ……千歳ちとせ女将おかみからだろう、大隈伯がお目ざめになったら、知らせてくれるように頼んでおいたから」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひろつてたのは雄鹿をじかつのをれやまふかければ千歳ちとせまつふるとく、伏苓ふくれうふものめいたが、なにべつに……尋常たゞえだをんなかひなぐらゐのほそさで、一尺いつしやく有余いうよなり
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其江戸の元日をきけ縉紳朱門しんしんしゆもんことはしらず、市中しちゆうは千もん千歳ちとせの松をかざり、すぐなる 御代みよの竹をたて、太平の七五三しめを引たるに、新年しんねん賀客れいしや麻上下のかたをつらねて往来ゆきゝするに万歳もうちまじりつ。
門長屋の兵六老爺ひょうろくおやじ、大手を開けに朝く起出でて、眼と鼻をこすりながら、御家の万代よろずよを表して、千歳ちとせみどりこまやかなる老松おいまつの下を通りかかれば、朝霜解けた枝より、ぽたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……千歳ちとせ百歳ももとせにただ一度、たった一度の恋だのに。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)