勾欄こうらん)” の例文
そこは十じょうほどの平座敷で、上段はなく、三方に丹塗にぬり勾欄こうらんのある廊をまわし、坐ったままひろい展望をたのしむことができた。
そう云う時平は、これも正体なく酔っていて、車が勾欄こうらんきわへぴったりと引き寄せられても、そこまで歩いて行くことさえ困難に見えた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
勾欄こうらん、廻廊、すべて異國的で、戸一枚、柱一本にも、並々ならぬ仕掛がありさうですが、平次の眼も其處までは及びません。
すでに壊れている勾欄こうらんの一部をもぎ取り、また内陣から、経机だの、木彫仏の頭だのを抱えて来て、手当り次第に、焚火の群へ、投げやった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
社の大いさ三間二面、廻廊があって勾欄こうらんが付き、床が高く上っている我等が祖先大和民族の、最古の様式の社なのである。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まず廊下であるが、板の張り方は日本風でありながら、外側にペンキ塗りの勾欄こうらんがついていて、すぐ庭へ下りることができないようになっていた。
漱石の人物 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
穹窿アーチ形の天井から下っている純白しゃのように薄い垂れ幕……ふうわりと眼も醒めんばかりの羽根蒲団クッションが掛けられて、瑪瑙めのう勾欄こうらん……きらびやかな寝台の飾り!
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
私はその時、月下美人と云ふ尺八寸位の大きさの絹本に、勾欄こうらんのところに美人がゐる絵を描いて出しました。
旧い記憶を辿つて (新字旧仮名) / 上村松園(著)
朱塗りの雪洞ぼんぼりが、いくつも点いて、勾欄こうらんつきの縁側まで見えているが、その広い座敷に誰一人もおりません。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
勾欄こうらんの下をめぐって流れる水に浮いているこいを眺めながら、彼の舌にもかなうような酒をんだりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すると兵衛佐は勾欄こうらんにもたれて手水などされてから、こちらへおはいりになって入らしった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
宗助そうすけまへに、宜道ぎだうれだつて、老師らうしもと一寸ちよつと暇乞いとまごひつた。老師らうし二人ふたり蓮池れんちうへの、えん勾欄こうらんいた座敷ざしきとほした。宜道ぎだうみづかつぎつて、ちやれてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
東から北へと勾欄こうらんへついて眼を移すと、柔かな物悲しい赤と乾酪チーズ色の丘陵のうねりがのどかな日光の反射にうき出している隣に、二つのまるい緑の丘陵が大和絵さながらの色調で並んで
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
激しい往来のため、車輪のちりを容赦もなくあびせるままにしてありますが、琉球の彫刻を想う者には、涙を誘う無情な措置なのです。その勾欄こうらんの浮彫は当然国宝に列すべき一雄作です。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
たちまち境内のお寺は残らずからッぽとなり、金属かねけのものは勾欄こうらんの金具や、擬宝珠ぎぼうしの頭などを奪って行くという騒ぎで、実に散々なていたらく……暫くこの騒ぎのまま、日は暮れ、夜に入り
両人ともに言葉なくただ平伏ひれふして拝謝おがみけるが、それより宝塔とこしなえに天にそびえて、西よりれば飛檐ひえんある時素月を吐き、東より望めば勾欄こうらん夕べに紅日を呑んで、百有余年の今になるまで
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また六樹園ろくじゅえんが狂文『吾嬬あずまなまり』に鶯谷のさくら会と題する一文ありて、勾欄こうらんの前なる桜の咲きみだれたるが今日の風にやや散りそむといへど、今はそれかとおぼしき桜の古木もさぐるによしなし。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いかさまこれならば伏見ふしみから船でおくだりになってそのまま釣殿の勾欄こうらんの下へともづなをおつなぎになることも出来、都との往復も自由であるから
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこは、母屋から渡り廊下を架けた、別棟の建物で、床が高く、広縁には勾欄こうらんがまわしてあり、妻戸やしとみなどもみえるし、ひさしには青銅の燈籠とうろうが吊ってあった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大宮の庭の名残りの黄菊紫蘭とも見え、月の光に暗い勾欄こうらんの奥からはの袴をした待宵まつよい小侍従こじじゅうが現われ、木連格子きつれごうしの下から、ものかわの蔵人くらんども出て来そうです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
洗い髪に大絞りの浴衣ゆかたを着て、西施せいしいきにしたような年増の阿娜女あだものが、姿とはやや不調和な、りの勾欄こうらんに身をもたせて、不思議そうに美しい眼をみはっていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
各層の勾欄こうらん斗拱ときょうもおのおの五通りに違う。その軒や勾欄や斗拱がまた相互間に距離を異にしている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
宗助は立つ前に、宜道と連れだって、老師のもとへちょっと暇乞いとまごいに行った。老師は二人を蓮池れんちの上の、縁に勾欄こうらんの着いた座敷に通した。宜道はみずから次の間に立って、茶を入れて出た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天守閣の最上層の勾欄こうらんへ出たところで、私たちはまず両方の大平野を瞰望かんぼうした。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかしはなはだ笑止なことに、平中は去年以来此の忍び歩きを繰り返して、或る時はこゝぞと思う遣戸やりどの外で息をらしてみたり、勾欄こうらんのほとりにたゝずんでみたり
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
屋根の垂木たるき、廊の勾欄こうらんまでが、雪とうつり合って面白い。浴室の鎧窓よろいまどから、湯煙の立ちのぼるのも面白い。湯滝の音が、とうとうと鳴るのも歌になると思いました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうづくりのいただき、四ほう屋根やね、千ぼんびさし垂木たるき勾欄こうらん外型そとがたち、または内部八じょう書院しょいん天井てんじょうまどなどのありさま、すべて、藤原式ふじわらしきの源氏づくりにできているばかりでなく
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
各層とも勾欄こうらんの付いた広縁ひろえんが廻してあり、そこへ出ると、ちょうど断崖だんがいの端に立った感じで、眼の下から地勢が急にさがってゆき、はるかに青い海のかなたまで、気の遠くなるほど広く
とある渡殿わたどの勾欄こうらんのもとにうずくまって、所在なさそうに前栽せんざいのけしきを眺めている自分の童姿であった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ここへめおいてもこまるし、どうしたものか、と咲耶子さくやこがふとかんがえまどっていると、——キイッ、キイッ、キイ、と、また三太郎猿さんたろうざる勾欄こうらんの上をいったりきたりしながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたりは、ぼうっとべにのように明るい。それに、この座敷の襖が、すっかり通して取払われ、大きな踊りの間になっている。踊りの間は勾欄こうらんつきで、提灯や雪洞ぼんぼりが華やかにいている——
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その宏大な建物を中心に、楼台高閣をめぐらして、一座の閣を玉龍と名づけ、一座の楼を金鳳きんほうととなえ、それらの勾欄こうらんから勾欄へ架するに虹のように七つの反橋そりばしをもってした。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四面四方に築墻ついぢをつき、三方に門を立て、東西南北に池を掘り、島を築き、松杉を植ゑ、島より陸地へ反橋そりはしをかけ、勾欄こうらん擬宝珠ぎぼしを磨き、誠に結構世に越えたり、十二間の遠侍とほざむらひ、九間の渡廊、釣殿
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紫金殿の勾欄こうらん瑠璃楼るりろうかわら、八十八門の金碧きんぺき鴛鴦池えんおうちたまの橋、そのほか後宮の院舎、親王寮、議政廟ぎせいびょうの宏大な建築物など、あらゆる伝統の形見は、炎々たる熱風のうちに見捨てられた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青銅瓦せいどうがわらのご殿てん屋根やね樹林じゅりんからすいてみえる高楼たかどのづくりのしゅ勾欄こうらんしば土手どてにのびのびと枝ぶりをわせている松のすがたなど城というよりは、まことに、たちとよぶほうがふさわしい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
答えにつまって、そして羞恥はじらってでもいるような気配がおぼろ勾欄こうらんのあたりでしていた。その間には、細殿のが垂れている。義貞はもどかしくなり、われから立って、簾を押しはらった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『ははあ。糸を染めておいでなさるのだ。染桶そめおけがあるし、勾欄こうらんから紅葉もみじの木へ、すすぎあげた五色の糸を、懸けつらねて、干してもある。……はて、何とおとなおう。おどろかしてもよくないし』
勾欄こうらんめぐらした高舞台そのものが土俵である。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はやくも床下柱ゆかしたばしらから勾欄こうらんをよじ登って来て
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして高舞台の勾欄こうらんの端から下を臨んで
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)