冷笑あざわら)” の例文
衣服きものを剥がれたので痩肱やせひじこぶを立てているかきこずえには冷笑あざわらい顔の月が掛かり、青白くえわたッた地面には小枝さえだの影が破隙われめを作る。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
無数の征矢そやは煙りを目がけて飛んだ。女は下界げかいをみおろして冷笑あざわらうように、高く高く宙を舞って行った。千枝松はおそろしかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
神佛の感應かんおうまし/\天よりして養子やうしにせよと授け給ひし者成べし此家をつがせん者末頼母すゑたのもしと語合かたらふを吉之助ひそかに聞て心の内に冷笑あざわらへど時節を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
忽ち又いと高きつぎあししたる状師だいげんにんあり。我傍を過ぐとて、我を顧みて冷笑あざわらひていはく。あはれなる同業者なるかな。君が立脚點の低きことよ。
お蔭でこちらへ来てより、ついぞ鯛は見た事なきも、目玉の吸もの珍しからず、口唾は腹を癒せりと冷笑あざわらふもあるほどなり。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
葉子の姿を魔物か何かのように冷笑あざわらおうとする、葉子の旧友たちに対して、かつて葉子がいだいていた火のような憤りの心
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
折角の相好そうごうもどうやら崩れそうに成ッた……が、はッと心附いて、故意わざと苦々しそうに冷笑あざわらいながら率方そっぽうを向いてしまッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そうするとこれを聞いたこなたのきたな衣服なりの少年は、その眼鼻立めはなだちの悪く無い割には無愛想ぶあいそう薄淋うすさみしい顔に、いささか冷笑あざわらうようなわらいを現わした。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女は、掘りかけてくわをそこに捨てて休んだ。湿しめっぽい風は女の油気のない、赤茶けた髪をなぶって吹いた。木々の葉は、冷笑あざわらうように鳴っていた。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あの人は何でもや。来るたんびに何かないかって、茶棚を探すのや。お酒も好きですね」お絹は癖で、詰まったような鼻で冷笑あざわらうように言った。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「はい、引渡しましょう。秋や定。」と急込せきこむにぞ、側にさぶらいける侍女こしもとにん、ばらばらと立懸くるを、遮って冷笑あざわら
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腹立たしきよりは先ずあきれられて、更に何故なにゆえともきかねたる折から、の看守来りて妾に向かい、「景山かげやまさん今夜からさぞさびしかろう」と冷笑あざわらう。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
彼はぬすみ眼して部屋の中を覗くと、燈光はさながら輝き、下顎の骨はさながら冷笑あざわらっている。これは只事ただごとでないからもう一度向うを見る気にもなれない。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ふむ、とばかり綱雄は冷笑あざわらうごとく、あいつのことだそんなことがあるかも知れぬ。片言でもそれに類したことを口に出したが最後、思い入れ恥をかかせてやれ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
合乘り一臺の賃錢が折り合はずに、千代松は坂の半腹までさツさと歩いたが、竹丸の歩き澁るのに足元を見込んだ車夫は、冷笑あざわらひつゝ二人の後姿を見送つてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さて次日つぎのひの夕暮、聴水はくだんの黒衣が許に往きて、首尾怎麼いかにと尋ぬるに。黒衣まづ誇貌ほこりがお冷笑あざわらひて
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
わが云ひ付けし事は中々にけ引かず。わが折入つて頼み入る事も、平然と冷笑あざわらふのみにして、捗々はか/″\しき返答すら得せず。奈美女の言葉添なければ動かむともせざるさまなり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あらっ」と糸子の頬にわれを忘れた色が出る。敵はそれ見ろと心のうち冷笑あざわらって引き上げる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『しかし。』と文平は冷笑あざわらつて、『猪子蓮太郎だなんて言つたつて、高が穢多ぢやないか。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「お前さんは、じゃ、明日は、やめるつもり」と、女房は冷笑あざわらうような声で云った。
鮭の祟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
冷厳にして且つ壮大なる光景はあたかも人間の無力とはかなさとを冷笑あざわらふが如くに見えた。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
苦桃太郎にがもゝたらう冷笑あざわらひ、桃太郎もゝたらう風情ふぜい小童こわつぱ十人二十人、しらみひねるよりなほやすきに
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「さすがに東洋第一の大都會です。」と自分も口輕く冷笑あざわらつた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
警視ゴロネフは冷笑あざわらいながら、ぐんぐん訊問を続けて行く。
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
経之は冷笑あざわらった。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
取次とりつはゝことばたず儀右衞門ぎゑもん冷笑あざわらつてかんともせずさりとは口賢くちがしこくさま/″\のことがいへたものかな父親てゝおや薫陶しこまれては其筈そのはずことながらもう其手そのてりはせぬぞよ餘計よけいくち風引かぜひかさんよりはや歸宅きたくくさるゝがさゝうなものまことおもひてくものは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
七兵衛は息を切って制したが、お葉はただ冷笑あざわらうのみで何とも答えなかった。余りの意外に驚いたのであろう、冬子は声をも立てなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ヘ、ヘ、ヘ」とまた思出して冷笑あざわらッた……が、ふと心附いてみれば、今はそんな、つまらぬ、くだらぬ、薬袋やくたいも無い事にかかわッている時ではない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「なに、昨日きのうれたのだろう。」と、主人しゅじん冷笑あざわらいながらいいました。すると、おんなは、ほおをすこしあかくしながら
女の魚売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
源太は聞いて冷笑あざわらい、何が汝にわかるものか、我のすることを好いとおもうていてさえくるればそれでよいのよ。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「君は職人だから、自分の都合のいいように考えるんだけれど、実地にはそうは行かないよ」小野田は冷笑あざわらった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
英吉利人なりしよと云へば、外の一人冷笑あざわらひて、君はいづれの國をも同じやうに視給ふか、劵面にも北方より來しことを記せり、無論魯西亞ロシア領なりといふ。
お丹は脈を伺いて、「ああ失策しまった。」と叫びしが、気を変えて冷笑あざわらい、「おい婆様ばあさん、お前の口に合うように料理をしたばかりに、とうとうこのを殺したよ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
訝り集ふ人々の、贔負心に冷笑あざわらふ、これも名残の一ツなると。お心強くも背後に聞きなしたまひて、我を東京あづまへ携へ出でたまひたるは、我七ツのほどの事なりき。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
おこすべきといかりつ泣つあらさうに番頭久兵衞は左右とかく冷笑あざわらひナニサ其樣に子供だましの泣聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
妻木君は冷笑あざわらっているらしかったが、その時に私の眼に妙なものが見えた。それは正面の壁にかかっている一本の短かい革製の鞭で、初め私は壁の汚染しみかと思っていたものだった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
葉子は田川夫人のこんな仕打ちを受けても、心の中で冷笑あざわらっているのみだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
書記官と聞きたる綱雄は、浮世の波に漂わさるるこのあわれなるやっこと見下し、去年哲学の業をえたる学士と聞きたる辰弥は、迂遠うえん極まる空理の中に一生を葬る馬鹿者かとひそかに冷笑あざわらう。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
ありければ、苦桃太郎冷笑あざわら
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
いはせも果てず冷笑あざわら
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
源太は聞いて冷笑あざわらひ、何が汝に解るものか、我の為ることを好いとおもふて居てさへ呉るればそれで可いのよ。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
何をおくらがしても、柿村屋は干渉がましいことを言ったこともなく、いつも、冷然として、気にとめずにそばから見ぬ風をして、見ては冷笑あざわらっていたらしい。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ああいう人は、女さえ見れアじき金にしようと、そんなことばかり思っているで。」と、伯母は冷笑あざわらった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ある人々はそれを臆病者の噂と聞き流して、いわゆる高箒たかぼうきを鬼と見るたぐいに過ぎないと冷笑あざわらっていた。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
坐っている事も出来ぬように弱り果てた私の身体からだ、どこへも参りは致しませぬ。といえば得三冷笑あざわら
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さればわれは稍〻やゝ小なるものをとて、ダンテを撰びぬ、ハツバス・ダアダア冷笑あざわらひていふ。ダンテを詠ずとならば、定めて傑作をなすなるべし。そは聞きものなり。
昇も些しムッとした趣きで、立止ッて暫らく文三を疾視付にらみつけていたが、やがてニヤリと冷笑あざわらッて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
胸に定めまづまちたまへ長庵殿最早もはや委細は分つたり然ば外には言分いひぶんなし勘辨なして下されと千太郎はくやしくも兩手をついわびければ長庵呵々かゝ冷笑あざわらひ夫みられよ最初さいしよより某しが言通り其方がかたりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すぐ次の瞬間に来ると、君はしかし私を疑うような、自分を冷笑あざわらうような冷ややかな表情をして、しばらくの間私と絵とを等分に見くらべていたが、ふいと庭のほうへ顔をそむけてしまった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いぶかり問へば冷笑あざわらひて
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)