仰山ぎょうさん)” の例文
ああ、なんとその鴻益は仰山ぎょうさんなものにて、荷衣白蓮ホーイブレング先生のわが世界に鴻業偉勲を顕わしたるは、驚きいりたることではありませんか。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
またその色の変つた菊を、心あてに折らばやなどと仰山ぎょうさんに出掛けて躬恒が苦心して折らんとしたるにや、笑止とも何とも申様がなく候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「イヤイヤイヤイヤ」と大辻は仰山ぎょうさんにその手を払いのけた。「探すのは、わしにまかせなさい。貸すくらいなら、壊した方がましだ」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そんなよいところなら、一刻も早くやってもらいますわ。……わたし一人では淋しうおますよってに、仰山ぎょうさん友達をつれてきます」
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
云いながら素早く山吹の手をギュッと握ったが、そこは初心うぶの娘である。「あれ!」と仰山ぎょうさんな金切り声を上げ握られた手を振りほどいた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
美和子は、わざと仰山ぎょうさんなしかめっつらをして、低く笑ってみせた。前川は、不快なショックを感じて、云うべき言葉がなくなった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いいよ、知らせないでも。お秀なんかに知らせるのはあんまり仰山ぎょうさん過ぎるよ。それにあいつが来るとやかましくっていけないからね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あれ。……いやらしい」と、婆は仰山ぎょうさんに、男女ふたりを見くらべて、「まさかと思っていたら、なんてことなさるんですよ。人のうちでさ!」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天気がいいので女中たちははしゃぎきった冗談などを言い言いあらゆる部屋へやを明け放して、仰山ぎょうさんらしくはたきやほうきの音を立てた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
やれ理想、やれ人格、信仰だの高尚こうしょうだのと、看板かんばんさわぎばかり仰山ぎょうさんで、そのじつをはげむの誠心せいしんがない。卑俗ひぞくな腹でいて議論に高尚がる。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
女ひとりを引っ立てて来るのに四、五人の出張でばりはちっと仰山ぎょうさんらしいが、庄兵衛の申立てによって奉行所の方でも幾分か警戒したらしい。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あんた、大須おおすの観音さんは賑かでなも。東京なら浅草のようだも。活動写真が仰山ぎょうさんあって、店の小僧が毎晩行って困るわえも」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「いつ私が管を巻いたことがあります」と、小万は仰山ぎょうさんらしく西宮へ膝を向け、「さアお言いなさい。外聞の悪いことをお言いなさんなよ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
佐助は何という意気地なしぞ男のくせ些細ささいなことにこらしょうもなく声を立てて泣くゆえにさも仰山ぎょうさんらしく聞えおかげで私が叱られた
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ものを仰山ぎょうさんに言って易水の寒さを咏じておるところを、俳句であっては極めて卑近に「根深の流れる」という事を以て軽くそれを叙しておる。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
今こそ帝国意匠会社などいふ仰山ぎょうさんなものも出来たれ、凝つたこのみといへばこの中屋に極はまれり、二番息子の清二郎へ朝倉より雨をいてのむかえ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
双方から出た仰山ぎょうさんな脅し文句は沢山あったが、右の如く覚えやすくて口調のよい警句は、群衆心理を支配するに偉大なる効力があるものである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
この小さな町と自分のささやかな家とを訪れてきてくれて、無上の喜びと名誉とを得さしてくれた賓客にたいし、感動した仰山ぎょうさんな祝杯を挙げた。
「そして、大きな大事おおごと、ちゅうのか。お前のいうこた、わかっちょる。仰山ぎょうさんたらしいことばっかりぬかして、大体、人をめくさっちょるわい」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
大抵の女なら、別に美しいと思わないでもこうした場合に、「まあ素敵ですね」とか何とか仰山ぎょうさんな言葉をつかうものだ。
謎の女 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
大けな大けな軍艦がいつかしらん来たなあ、ほら、沖で晩に電気いっぱいつけて、仰山ぎょうさん仰山、ならんどったなあ、あんなんが来ても健は見えんの。
大根の葉 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
六平もまだや、さき方かゝあさ迎に行ったれどどっちも帰らんわいの。子供を仰山ぎょうさん連れとるさかいに大丈夫やろうけれど、あんまり遅いさかいまた子供を
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
だがもう蹄は延びなくなり、すり切れた鉄のすきまからは痛々しく血がにじみ出ていた。においで主人が判った。いつも訴えるような仰山ぎょうさんいななき声で迎える。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
ちと仰山ぎょうさんすぎましたな。それはそうとして、この窮屈な世の中で困った困ったといったって方図がありません。ないものもあるようにしたいものですが。
「いいや、こんなことに年寄りの出るところやおへん」と一克いっこくそうに、わざと仰山ぎょうさん頭振かぶりをふったかと思うと
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そしてあの小径こみちこの谷陰と、姫をさらう手立をさまざまに考えた。どういう積りかは知らぬが、仰山ぎょうさん薙刀なぎなたまでも抱えておった。いや飛んだ僧兵だわい。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
益々ますます雄弁ゆうべんに「ほんとにいやらし。山田さんや高橋さんみたいに、仰山ぎょうさん白粉おしろいや紅をべたべたるひといるからやわ」
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
金助が、けたたましい声を上げて、仰山ぎょうさんな驚き方をして、打たれた頭を、盛んに撫でさすりましたから、お絹が
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仰山ぎょうさんな声を立て顔色をかえて逃廻ったが、新吉は平気で指でつまんで縁側から捨てた。彼は決して殺さなかった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
少しく仰山ぎょうさんに言いますと、娘が恋慕の情はにわかに恐怖の情と憂愁ゆうしゅうの情に変って、それでは自分の母が死んだのではないか知らんという考えを起したです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「うん、よかよか。とっときなさい。短冊でんくれてやんなさり。そっでよかたい。」と片手を仰山ぎょうさんにうち振ると、それからまた麦酒をグッとひとあおりだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「アコン、旦那に言って山羊やぎというもんを飼って貰いなさらんか。山羊の乳は仰山ぎょうさんに滋養があるそうですど」
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
「お前とこの、子供は、まあ、中学校へやるんじゃないかいな。ぜに仰山ぎょうさんあるせになんぼでも入れたらえいわいな。ひゝゝゝ。」と、他の内儀おかみ達に皮肉られた。
電報 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
長崎やお江戸から赤紙付やら早文はやぶみやらあの通り仰山ぎょうさんに届いておりますんだすが、当の唐木屋さんの行先がわからんことだすさかえ、どうしようもござりませんで
満月どののために仰山ぎょうさん施餓鬼せがきをなされまして、御自身も頭を丸めて法体ほったいとなり、法名を友月ゆうげつと名乗り、朝から晩までかねをたたいて京洛の町中を念仏してまわり
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
例えば河内山宗俊こうちやまそうしゅんのごとく慌てて仰山ぎょうさんらしく高頬たかほのほくろを平手で隠したりするような甚だ拙劣な、友達なら注意してやりたいと思うような挙動不審を犯すのであるが
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
なるほどさっきのおしまいの喜劇役者にた人はたった一人異教徒席に座ってうでを組んだり髪をきむしったりいかにも仰山ぎょうさんなのでみんなはとうとうひどく笑いました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
死減一等の連中を地方監獄に送る途中警護の仰山ぎょうさんさ、始終短銃を囚徒の頭に差つけるなぞ、——その恐がりようもあまりひどいではないか。幸徳らはさぞ笑っているであろう。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
仰山ぎょうさんに二人がおびえた。女弟子の驚いたのなぞは構はないが、読者をおびやかしては不可いけない。滝壺たきつぼ投沈なげしずめた同じ白金プラチナの釵が、其の日のうちに再び紫玉の黒髪に戻つた仔細を言はう。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼は素早くその一端をつまみ上げてそうっと裏返し、いかにも面白そうにくまでその行方を見守った。ところがものの二三分もせぬ中に突然彼は目をむいて仰山ぎょうさんに驚き上った。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
見掛けははなは仰山ぎょうさんな、その現われるや陰惨な翳によって四囲をたちま黄昏たそがれの中へ暗まし、その毒々しい体臭によって、相手の気持を仮借かしゃくなく圧倒する底の我無者羅がむしゃらな人物であった。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
我々われわれ地方ちほう不作ふさくなのはピンぬまなどをからしてしまったからだ、非常ひじょう乱暴らんぼうをしたものだとか、などとって、ほとんひとにはくちかせぬ、そうしてその相間あいまには高笑たかわらいと、仰山ぎょうさん身振みぶり
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
セエラはほんとうは、そんな仰山ぎょうさんな真似はしたくなかったのでしたが、ミンチン先生はわざわざセエラを自分の部屋に呼んで、自分と一緒に行列の先頭に立てと仰しゃったのでした。
それで、皇后はすぐ軍勢をお集めになり、神々のお言葉ことばのとおりに、すべてご用意をおととのえになって、仰山ぎょうさんなお船をめしつらねて、勇ましく大海のまん中へお乗り出でになりました.
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
いくら恩人の子供にしたところでこうまで莫迦ばか莫迦しい時代離れのした取扱いをする必要がなぜあるのだろうかと、この亡国連中の礼儀の仰山ぎょうさんなのにはほとほと腹を抱える思いがした。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と、もうまえに何度も話したらしいことを、もう一度仰山ぎょうさんに言った。それから
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一疋で穀六十ポンド、また豆ハンドレッド・エートを蓄うるものありとは仰山ぎょうさんな。しかしこの事を心得た百姓は、その巣を掘って穀を過分に得、またその肉を常翫するから満更まんざら丸損まるそんにならぬ。
皆一度にと最初源氏は思ったのであるが、仰山ぎょうさんらしくなることを思って、中宮のおはいりになることは少しお延ばしさせた。おとなしい、自我を出さない花散里を同じ日に東の院から移転させた。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
木之助の胡弓は大層うまいとほめてくれた。木之助はうれしかった。「こんど来るときはもっと仰山ぎょうさん弾けるようにして来て、いろんな曲をきかしてくれや」といったので木之助は「ああ」といった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
おばさんはまるで桜の花盛りでもほめるような仰山ぎょうさんな口調で
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)