附木つけぎ)” の例文
従来は附木つけぎだけはあったが「はや」なる形容詞をかぶせて通用させようとしても通用しなかった。「ランプ」を行燈あんどんとも手燭てしょくとも翻訳ほんやくしない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
茶店の老爺おやじも気の毒がって、炉辺のござまでめくって見せたけれども、附木つけぎと、ごみと、耳白みみじろが三つばかりあるほかは何物もありませんでした。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三味線さみせん弾きて折々わがかどきたるもの、溝川にどじょうを捕うるもの、附木つけぎ、草履などひさぎに来るものだちは、皆この児どもが母なり、父なり、祖母などなり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
懐中から用意の火打道具を取出しまして、附木つけぎに移し、四辺あたりを見ますと、何時いつか熊は何処どこへか往ってしまいました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鐵瓶の湯が沸つたのでお袋は二つの茶碗へ箱篩から附木つけぎで蕎麥粉をしやくつて移す。鐵瓶の湯を注いで箸で掻き交ぜる。お袋は小皿へ醤油を垂らして出す。
芋掘り (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
金吾は燧打ひうちぶくろを解いて、青白い火花をチカチカとすっていましたが、やがて、それを附木つけぎに移して
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伯母は二人に麦香煎むぎこがし宛行あてがった。お房は附木つけぎで甘そうにめたが妹の方はどうかすると茶椀ちゃわんかしげた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの時は、お越をげようかと思つたが、どうも證擔がアヤフヤだ。附木つけぎに書いた下手な字も、お越は全くの明文盲あきめくらのふりをして居たので、手のつけやうがなかつた。
附木つけぎ一枚を手形がわりにして持っていったりしたことを、風通しのよい、青い林檎りんごの実ったのが目のさきにある奥二階の明り窓のきわで、小粒こつぶ二朱金にしゅきん金盥かなだらいで洗ったり
しかもその附木つけぎというものがまた一つの新発明であって、やはり火吹竹の社会上の価値を、否認しようとする力であったのだが、普通の火の歴史ではわざとかも知らぬが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
へっついの火皿を二段に組んで、上の段には附木つけぎと薪をのせ、中の段には、ちょうど一日か一日半もえるだけの硫黄の塊に火をつけてのせ、下の段には、焔硝えんしょう炭粉すみこをつめておく。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
貢さんは兄の命令通いひつけどほ仏前ぶつぜんの蝋燭を取つて、台所へ行つて附木つけぎで火をけて来た。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
取出し平としるの中へ附木つけぎにてすくこみ何知ぬていにて元の處へ來り油掃除あぶらさうぢして居たりけり善助はいかで斯る事と知るべき水を汲終くみをはり神ならぬ身の是非ぜひもなや感應院の前へ彼膳部かのぜんぶを持出し給仕を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やがて彼女の手より閃めき出でし蘭法附木つけぎの火、四方に並べし胡麻ごま燈油の切子硝子きりこ燈籠とうろに入れば、天井四壁一面に架けつらねしギヤマン鏡に、何千、何百となく映りはえて、二十余畳にも及ぶべき室内
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だから附木つけぎを持って来な!
附木つけぎの帆
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
三味線さみせんきて折々おりおりわがかどきたるもの、溝川みぞかわどじようを捕ふるもの、附木つけぎ草履ぞうりなどひさぎに来るものだちは、皆このどもが母なり、父なり、祖母などなり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
例えば、富士川の急流には富士川の急流に向くように底までがちゃんと附木つけぎッパのように薄くしてある。利根川の舟でも、上流、中流、下流、皆それぞれ違う。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ようやく火打箱を取出しましてカチ/\打ちまするが、石は丸くなって火が出ない、漸くの事で火を附木つけぎに移し、破れ行燈あんどうを引出してあかりけ、善々よく/\お累の顔を見ると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、一人の黒衣が火打石ひうち附木つけぎをとって、カチッ、カチッ、と三つ四つ火花をすりつけました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このうちに附木つけぎの字に似たのはありませんか」
「それやかとても、火道具はちゃんとここに持っておるがや、燐寸マッチなぞは使わんぞ、もぐさにうつす附木つけぎには、浅間山秘密な場所の硫黄が使うてあるほどに。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
火を見た美人連は、せっかく励まされた勇気が一時に沮喪そそうしました。莚張むしろばりと幕と板囲いの小屋、火の手は附木つけぎを焼くよりも早い、メラメラと天井まで揚る赤い舌。
すぐあとの附木つけぎへまた火を移して、そこらを照らして見ますに、やはり金吾の察しにたがわず、そこは何処の城にも必ずあるべきはずの間道で、殊に、開鑿者かいさくしゃの名とおぼしく、岩壁面の一端に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
附木つけぎは見つかりました。待つて下さい」
その身動きに、いたちにおいぷんとさせて、ひょこひょこと足取あしどり蜘蛛くもの巣を渡るようで、大天窓おおあたま頸窪ぼんのくぼに、附木つけぎほどな腰板が、ちょこなんと見えたのを憶起おもいおこす。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
燧道具ひうちどうぐ附木つけぎだけは、辛うじて船頭小屋からかっぱらって来たが、それ以外には何物もない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
肩が離れて、おおきな白足袋の色新しく、附木つけぎを売る女房のあわれなともしびちかづいたのは円髷で。実直ものの丁寧に、かがみ腰になって手を出したは、志を恵んだらしい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ようやく附木つけぎの火はついた。室には何の変ったこともなく、盤面の石もそのままに。
欠茶碗にもりつけた麦こがしを、しきりに前刻さっきから、たばせた。が、さじ附木つけぎもえさしである。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三束みたば五束いつたば附木つけぎを並べたのを前に置いて、手をいて、もつれ髪のうなじ清らかに、襟脚白く、女房がお辞儀をした、仰向けになって、踏反ふんぞって、泣寐入なきねいりに寐入ったらしい嬰児あかんぼが懐に
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちやうどまち場末ばすゑむでる日傭取ひようとり土方どかた人足にんそく、それから、三味線さみせんいたり、太鼓たいこらしてあめつたりするもの越後獅子ゑちごじゝやら、猿廻さるまはしやら、附木つけぎものだの、うたうたふものだの
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
若狹鰈わかさがれひ——だいすきですが、それ附木つけぎのやうにこほつてます——白子魚乾しらすぼし切干大根きりぼしだいこわんはまた白子魚乾しらすぼしに、とろゝ昆布こぶすひもの——しかし、なんとなく可懷なつかしくつてなみだぐまるゝやうでした
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三枚ばかり附木つけぎの表へ、(ひとくみ)も仮名で書き、(二せん)も仮名で記して、前に並べて、きざ柿の熟したのが、こつこつと揃ったような、昔はたにしが尼になる、これは紅茸べにたけさとりを開いて
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若狭鰈わかさがれい——大すきですが、それが附木つけぎのように凍っています——白子魚乾しらすぼし切干大根きりぼしだいこんの酢、椀はまた白子魚乾に、とろろ昆布の吸もの——しかし、何となく可懐なつかしくって涙ぐまるるようでした
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうどまちの場末に住んでる日傭取ひようとり、土方、人足、それから、三味線さみせんを弾いたり、太鼓をならしてあめを売ったりする者、越後獅子えちごじしやら、猿廻さるまわしやら、附木つけぎを売る者だの、唄を謡うものだの、元結もっといよりだの
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
床店とこみせ筋向すじむこうが、やはりその荒物店あらものみせでありますところ戸外おもてへは水を打って、のき提灯ちょうちんにはまだ火をともさぬ、溝石みぞいしから往来へ縁台えんだいまたがせて、差向さしむかいに将棊しょうぎっています。はし附木つけぎ、おさだまりの奴で。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)