鍛冶屋かじや)” の例文
遊んでいる金槌かなづちをこっそりにぎったりすると、鍛冶屋かじやのおやじは油汗あぶらあせで黒く光っているひたいにけわしいしわをつくっていうのだった。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
しかし、いちばん偉い連中はたいてい鍛冶屋かじやにあつまる。この人たちにとっては、駅馬車の通過は、いろいろと思索の種になる事件である。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
たちまち姿すがたは見えずなって、四五けん先の鍛冶屋かじやつちの音ばかりトンケンコン、トンケンコンと残る。亭主はちょっと考えしが
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「いや、武家なら刀で斬るだろう。これは金槌かなづちか何かで力任せにやられたんだ。手際のいい鍛冶屋かじやか何かの仕事じゃないか」
しかし、あまりやすかったのでになれなかったのですが、若者わかものは、そのこともけました。すると鍛冶屋かじや主人しゅじん
般若の面 (新字新仮名) / 小川未明(著)
智深はぽかんとふもとの空を眺めやっていたが、そのうちにふと、トンカン、トンカン、鍛冶屋かじや鎚音つちおとが風にのって聞えてきた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とッつきがなまけがちの鍛冶屋かじやで、いつもその山の神に怒鳴どなられてる。その次ぎが女髪結いで、男が何人代ったか分らない。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
鍛冶屋かじやのとんてんかんというあの音は好きらしい。蓄音器のレコードにあるじゃないか。“森の鍛冶屋”というのがね」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのうちに私はふと近くの町の鍛冶屋かじやの店につるしてあった芝刈りばさみを思い出した。例年とちがってことしは暇である。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「それはぞうさもないことだ。すぐに鍵をこしらえさせよう。」と言って、急いで上手な鍛冶屋かじやをおよびになりました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
動脈は両のこめかみに、鍛冶屋かじやつちのように激しく脈打っているのが聞こえ、胸から出る息は洞穴どうけつから出る風のような音を立ててるらしく思えた。
一、松の節くれ多く木材にならぬものはこれを炭となす、下等の炭なり、しかし東京の鍛冶屋かじやは一般にこれを用ゐる事
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
鍛冶屋かじや新吉しんきちは、頭ががーんとするほど、うちょうてんになり、今の曲馬団きょくばだんについて、何でもかまわず、めちゃくちゃにしゃべってみたくなりました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
工夫詰所を出た森君は後戻あともどりを始めた。すると、来る時には気がつかなかったが、一軒の小さい鍛冶屋かじやがあった。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
詩人しじんこれでは、鍛冶屋かじや職人しよくにん宛如さながらだ。が、そにる、る、りつゝあるはなんであらう。没薬もつやくたんしゆかうぎよく砂金さきんるゐではない。蝦蟇がまあぶらでもない。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ここの親方はへッついというあたまの見本を見せておいてくれた鍛冶屋かじやさん——表に大きな船板の水槽があって、丸子や琉金りゅうきんの美事なのが沢山飼養されていた。
新栄町の鍛冶屋かじやへ奉公中、主人のすきをうかがい、箪笥たんすの引き出しより十円紙幣一枚をぬすみ取り、なにくわぬ顔して、深川区成田山不動の開帳に参詣さんけい
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
西の方へ、道普請に使う石炭屑が段々少くなって、天然の砂の現れて来る町を、西鍛冶屋かじや町のはずれまで歩く。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
巡査じゅんさはまっかになっておこった。ホールはせいいっぱい気をきかせてつくえの上のナイフをとり、ちょうど応援おうえんにかけつけた鍛冶屋かじやのウォッジャーズにわたした。
鍛冶屋かじやに注文して置いたくわが出来た頃から、三吉は学校から帰ると直ぐそれを手にして、裏の畠の方へ出た。彼は家の持主から桑畠の一部を仕切って借りた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下駄屋の店には、中年のかみさんが下駄の鼻緒はなおの並んだ中に白い顔を見せてすわっていた。鍛冶屋かじやにはランプが薄暗くついて、奥では話し声が聞こえていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そこは小さな鍛冶屋かじやの工場で、ふいごの火がかんかんおこっている傍に、銀のような裏白な髪をした老婆がいた。それは鉄の焼けるのを待っているようなふうであった。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
次に天のヤスの河の河上にある堅いいわおを取つて來、また天の金山かなやまの鐵を取つて鍛冶屋かじやのアマツマラという人を尋ね求め、イシコリドメの命に命じて鏡を作らしめ
アーストロフ ロジジェストヴェンノエ村で、鍛冶屋かじやに寄って行かなくちゃなるまい。まあ仕方がない。
「寝ているに、ヴァルカンの子が来ましてね」「ヴァルカンて何です」「ヴァルカンは鍛冶屋かじやですよ。 ...
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見覚えのある場末の鍛冶屋かじや桶屋おけやが、二三月前の自分の生活を懐かしく想出させた。軒の低い家のなかには、そっちこっちに白いまゆられてあるのが目についた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
畔草あぜくさも刈っねばなんねい……山刈りを一丁に草刈りを二丁ばかり、何処どこ鍛冶屋かじやでもえいからって。
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
道場を出た伝七郎、武家町へ曲るつじまで来ると、そこで立止まってちょっと考えたが、家の方へはゆかずに本町通りをぬけ、鍛冶屋かじや町のとある路次裏へと入っていった。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ついに町はずれ近くなった時、ふと小さな鍛冶屋かじやが目に止った。狭い店に低い棚を設け、品物がほんの少しまばらに置いてあった。往来のほこりが店を一層貧乏くさくさせた。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
太い電燈の柱の立っているあたりにはいつの間に誰がこしらえたのか大きな雪達磨ゆきだるまが二つも出来ていた。自動車の運転手と鍛冶屋かじやの職人が野球の身構みがまえで雪投げをしている。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一番最下の族は先にもいいましたように渡船者とせんしゃ、漁師、鍛冶屋かじや屠者としゃの四つで、これらの中でも渡船者と漁師とは少しく地位が高い。決して鍛冶屋や屠者のようではない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
鍛冶屋かじやの薄暗い軒下で青年がヴァイオリンを練習していた。往来の雑音にその音は忽ち掻消かきけされるのだが、ああして、あの男はあの場所にいることを疑わないもののようだ。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
幕があくと、天幕張テントばりの漂浪生活の前に、二三のジプシー族の若者が鍛冶屋かじやをしている。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これが非常ひじやう有効ゆうかうであつたので、(勿論もちろん先輩中せんぱいちうすで小萬鍬せうまんぐわもちゐてひとつたさうだが、それは三ぼんづめの、きはめてせうなるものまへ鍛冶屋かじやに四ほん大形おほがたのを別誂べつあつらへするなど
炭を使うのは鍛冶屋かじや鋳物師いものしか、そうでなければ化学の研究室ぐらいのものであった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ぶっそうなことを言ってゆくのは、この横町第一の火事きちがい、鍛冶屋かじや松公まつこうだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鴨なら、あすの朝でも田圃たんぼへ出て十羽くらいすぐ落して見せる。朝めし前に、五十八羽撃ち落した事さえあるんだ。嘘だと思うなら、橋のそばの鍛冶屋かじやの笠井三郎のところへ行って聞いて見ろ。
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鍛冶屋かじやつちをおき、八百屋の小僧は驢馬ろばをつなぎ、政治家と軍人は盛装し、女房と娘は「牛の光栄」のため古めかしくいでたって、みんなが同じ赤と黄の華やかさにはしゃぎ切って急いでいる。
江戸中の大きな鍛冶屋かじやたちに、鉄砲造りを仰せつけるとき、その検分の役に廻されたそのそばに、何時いつもついていた家の父親——衣笠貞之進きぬがさていのしんというのだが、律儀りちぎの根性から、これも一生懸命になって
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
どこかで鍛冶屋かじやつちの音と精米機のサアサア云う音が聞える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「一、へそ問答、二、風や海や空、三、瘰癧るいれきのある人生、四、不格好な女、五、鍛冶屋かじや同士の耳打話と、どうだい、どれだって面白そうじゃないか、それなのに、これが一本の酒手にもならんというのだから不思議だよ……」
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
鍛冶屋かじや、仕立屋、水車小屋、せんべや、樽屋たるや。それから自転車屋など。それらはなんというすばらしい見物みものだったことだろう。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
翁は、早速用意してあった大きな十字架の上に娘を仰向にさせた。——鍛冶屋かじやから五寸釘を五本買って来るように命じた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
鍛冶屋かじやの煙突から吹き出る真赤な焔が黒い樹に映えて遠い森の上に青い月が出ている絵も欲しかったが、何となく静かなこの「森の絵」にきめた。
森の絵 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「近頃、あの家の者か、出入りの者で、鍵を拵えさせた者はないだろうか、山の手一円の鍛冶屋かじや鋳掛屋いかけやを、ごく内緒で調べて貰いたいんだが——」
「でまかせをこけ。この村には、ここともう一けん鍛冶屋かじやよりほかに人はいやしない。そんなことは承知しょうちのうえで、柿泥棒かきどろぼうにきやがったくせにして」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ですから新吉は、いなかの鍛冶屋かじやにいた時分じぶんよりは、もっとまっ黒けになって、朝っから夜まで、その夜も十一時から十二時ごろまで働きつづけました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
表通りは何処どこか閑散として、古鉄屋ふるがねやや、かもじ屋や、鍛冶屋かじや位が目に立ったが、横町は小奇麗こぎれいだった。
待て待て、さきはま鍛冶屋かじやばんばじゃの、海鬼ふなゆうれいじゃの、七人御崎みさきじゃの、それから皆がよく云う、弘法大師こうぼうだいし石芋いしいもじゃの云う物は、皆仮作つくりごとじゃが、真箇ほんとの神様は在るぞ
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やがて夜がすっかり明けはなれ、明るい太陽たいようの光がまばゆくかがやきはじめると、黒馬旅館くろうまりょかんには、鍛冶屋かじやのウォッジャーズ、雑貨屋ざっかやのハクスターがよび集められた。