あまね)” の例文
「尽日春を尋ねて春を得ず。茫鞋ぼうあい踏みあまね隴頭ろうとうの雲。還り来ってかえって梅花の下を過ぐれば、春は枝頭に在ってすでに十分」(宋戴益)
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
若し我邦の假名遣が廣く人民間に行はれて居なかつたならば、それは教育があまねく行はれて居らぬ爲めであらうと思ふのであります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
枕山が絶句の後半に「明夜将呈烟花戯。涼棚架遍水西東。」〔明夜将ニ呈セントス烟花ノ戯/涼棚架シテあまねシ水ノ西東〕と言ってある。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「中国の威は、四方にあまねく、諸州の害を掃って、予は今やいながらに天下を治めておる。なんで、交通の要路に野盗乱賊が出没しようか」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おまえは交游天下にあまねしというありさまだが、皆濫交らんこうだ。ただ一人患難かんなんを共にする人があるのに、かえって知らないのだ。」
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
今の世の識者の意見をあまねく参照して、文明人が安心して実行する事の出来るもっと堅固な、もっと立派な道徳を教育家自身が先ず体得して
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
汝の昇る王國をあまねくめぐらしかつ悦ばすところの善は、これらの大いなる物體において、己が攝理を力とならしむ 九七—九九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
襄の交遊天下にあまねし、必しも一々之を記す能はざる也。而して其尤も莫逆ばくぎやくなるは即ち篠崎承弼の如きあり。彼は襄に推服して置かざりしなり。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
どうぞ、その、あまねく御施しになろうという如露の水を一雫、一滴でうございます、わたくしの方へお配分すそわけなすってくださるわけには参りませんか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翁は外国にあって——わけても英・独・米等の地に永く留まって、フランス料理の醍醐味だいごみあまねからしめたので、『美食の大使』とも呼ばれていた。
ところが、春の雪がまだらに消えた跡へ物を育む麗かな遅日ちじつあまねくなると、灰色の滑らかな根雪の膚からポタポタと真珠のような露の玉が滴り落ちる。
早春の山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
疾翔大力、微笑して、金色こんじきの円光をもっかうべかぶれるに、その光、あまねく一座を照し、諸鳥歓喜充満せり。則ち説いていは
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
頃者このごろ年穀ねんこく豊かならず、疫癘やくらいしきりに至り、慙懼ざんくこもごも集りて、ひとりらうしておのれを罪す。これを以て広く蒼生さうせいためあまね景福けいふくを求む。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
はしりて場を出づれば、月光あまねく照して一塵動かず、古の劇場の石壁石柱は巋然きぜんとして、今のれ小屋のあなたに存じ、廣大なる黒影を地上に印せり。
平民主義は権利の享有をあまねくするに必要なり、ゆえに国民論派は衆議院の完全なる機制および選挙権の拡張を期す。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
国際的猜忌さいき、民族的嫉妬、宗教的悪感が釈然として解け、世界協同の利益を増進し、平和の光明あまねく我が絶東諸国民を照らすの時一日も早く到達せんこと
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
足跡、阿佐ヶ谷から国分寺あたりまでにあまねく、雨上りなぞにあの辺の田圃路を歩き廻れば、泥濘に長靴を取られまいとする努力丈けでも好い体育運動になる。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
異常興奮曲線を摘出てきしゅつしたばかりか、人間にあまねく異常性素質の潜在していることを指摘し、これをキド現象と名付けたのだから、誰しもおどろくのも無理はなかった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
室羅伐スラヴァスチ城の大長者の妻がはらんだ日、形貌かお非常に光彩つやあり、産んだ女児がなかなかの美人で、生まるる日室内明照日光のごとく、したがって嘉声かせい城邑じょうゆうあまねかった。
これでこそ深沈な研究とあまねき同情との上に立脚して動揺ゆるぎの無い確かな最新の芸術が沸き出るのだとうなづかれる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「光明、十方世界を照らす」「光明、河砂のごとくあまねし」「光明、日月を勝過す」等の言葉があります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「コーカサス軍道の風光の雄大秀麗は、あまねく日本内地を周遊した筆者も、その比を求むるに苦しむ」
小国寡民 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
何を尋ねても物言ふこと無く、ただにこ/\と打笑ふのみ也、食を与ふれども食はず水を与ふれば飲みたり。あまねく里人に尋ぬれども、仔細しさいを知る者無し。一村集まりて之を見物す。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今や足跡ほとんどあまねかられんとする日本アルプスにも、この山ばかりは、何人なんぴとも手をけ得ざるものとして、愛山家の間に功名の目標となれるが如き感ありしに、会員田部隆次氏は
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
江戸在学の間、二人は盛んに交際したものであるが、一方は江戸に留まって十八文の名、天下(?)にあまねく、一方は郷里なる山城田辺に引込んで、先祖代々の医業を継承している。
皇威が、中国より九州にあまねく及ぶに至つて、朝鮮から大加羅国おほからこくの使が入朝し来つた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
太子せたまいければ、太孫をして事に当らしめたまいけるが、太孫もまた寛厚の性、おのずから徳を植えたもうこと多く、又太祖に請いて、あまね礼経れいけいを考え、歴代の刑法を参酌さんしゃく
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かくの如く互によしみを通ずる時に当って、独り国をとざして万国と相親まざるは、人のみする処にあらず。 貴国歴代の法に異国の人と交りを結ぶ事を厳禁し給うは、欧羅巴ヨーロッパ洲にてあまねく知る所なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
中屋敷下屋敷へもあまねく聞え渡ったので、血気の若侍共は我れその変化の正体を見届けて、渡辺綱、阪田公時にも優る武名を轟かさんと、いずれも腕をさすって上屋敷へ詰かけ、代る代る宿直とのいたが
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
宣長翁の『古事記』研究から得た結果は「こ」は「古」も「許」もあまねく使った中において、子の場合は「古」を使って「許」を使わないというような、特別の語における文字の定りであったのですが
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
私はこの手前勝手の流儀をあまねく同好の士に奨めたいと思っている。
赫燿たる顔色にあまねく法廷を白昼の如く照し出します。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
春色未だあまねからざる野の景色であろうと思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
紀路きぢあまね金風あきかぜ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
わが軍をあまねく照らすかの日輪にしるさるゝごとく、戰鬪たゝかひあづかる寺院にては彼より多くの望みをいだく子一人ひとりだになし 五二—五四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
平塚さんが日本における女流思想家の冠冕かんべんであることは、女史の言説や行動に服すると否とにかかわらず、社会があまねくこれを認めております。
去頃さるころより御老中ごろうじゅう水野越前守様みずのえちぜんのかみさま寛政かんせい御改革の御趣意をそのままに天下奢侈しゃしの悪弊を矯正きょうせいすべき有難き思召おぼしめしによりあまねく江戸町々へ御触おふれがあってから
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仏教では、三世にわたり、十方にあまねく、たくさんの仏さまが、おられると説いているのです。けだし、これは果たしてどんな意味なのでしょうか。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
疾翔大力、微笑みしょうして、金色こんじきの円光をもっこうべかぶれるに、その光、あまねく一座を照し、諸鳥歓喜かんぎ充満じゅうまんせり。則ち説いて曰く
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ゆくりなくも童心に返って丸い大きな月があまねく照らす芒野にさまよいいで、幼きころ都にて習いおぼえし月の歌の踊り。
わが童心 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
聞説きくならく、貴方は若年より足跡諸国にあまねく、また失礼ながら藤孝も、ひとかど御見識ある具眼の士と敬服している次第です。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と歎息するように独言ひとりごとして、しごいて片頬かたほでた手をそのまま、欄干にひじをついて、あまねく境内をずらりとながめた。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後来海警屡〻至るに及んで天下の人心俄然がぜんとして覚め、尊皇攘夷の声四海にあまねかりしもの、いづくんぞ知らん彼が教訓の結果に非るを。嗚呼あゝ是れ頼襄の事業也。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
羅馬には女子多し。野にあまねき花のいろ/\は人の摘み人のるに任するにあらずや。
これがその本来の理想の実現を妨げて、地上に刃をもたらす事が屡次るじである。その結果は枕骸ちんがい野にあまねく草木もために凄悲するという惨憺たる光景を呈するに至る。生きながらの地獄である。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
我国でも西鶴の『武道伝来記』に松前の武士が人魚を射たという話を載せているが、他には人魚の話を書いたのは少く、人魚という名があまねく知られている割合に、その怪談は伝わっていないらしい。
妖怪漫談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あまねく諸州を飛行したそうだが、本居ほんきょは常陸の岩間山の頂上にあった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
目をあまねくこの園の上にせよ、これを見ば汝の視力は、神の光を分けていよ/\遠くのぼるをうるべければなり 九七—九九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
疾翔大力微笑して、金色こんじきの円光をもっかうべかぶれるに、その光あまねく一座を照し、諸鳥歓喜充満せり。則ち説いて曰く
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
……何不足のない身の上とて、諸芸に携わり、風雅をたのしむ、就中なかんずく、好んで心学一派のごとき通俗なる仏教を講じて、あまねく近国を教導する知識だそうである。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)