足痕あしあと)” の例文
障子も普通なみよりは幅が広く、見上げるような天井に、血の足痕あしあともさて着いてはおらぬが、雨垂あまだれつたわったら墨汁インキが降りそうな古びよう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいや、あまりお騒ぎなさらぬ方が得策でしょう、かりそめにも天下の首城が、一盗賊に足痕あしあとしるされた事さえ名誉ではありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或いはまた山の麓の池川のつつみに、子供のかと思う小さな足痕あしあとの、無数に残っているのをみて、川童が山へ入ったという地方もある。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
以て役人をあざむく段不屆ふとゞき千萬なり其の申分甚だくらく且又すその血而已に有らず庭のとび石に足痕あしあとあるは既に捕手の役人より申立し如く其血を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
顔を洗って、朝食あさめしをやっていると、台所で下女が泥棒の足痕あしあとを見つけたとか、見つけないとか騒いでいる。面倒めんどうだから書斎へ引き取った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
盗人ぬすびと足痕あしあとを犬のように探れない鼻で実際香が嗅げようか、舌にしてもその例にもれない、触感も至って不完全なもので
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
「ハア、皆内側からネジがしめてありました。それに窓の外の地面には、丁度雨のあとで柔かくなっていましたけれど、別に足痕あしあともないのでございます」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「彼女の肌」と云う貴い聖地には、二人の賊の泥にまみれた足痕あしあとが永久に印せられてしまったのです。これを思えば思うほど口惜しいことの限りでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大ラマの行列 すると道というような道は無論ないのですけれど広く人の足痕あしあとのある所が道になって居る。その両脇につぶつぶと円い郵便函のような物が立って居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
昨日きのう降った雪がまだ残っていて高低定まらぬ茅屋根わらやねの南の軒先からは雨滴あまだれが風に吹かれて舞うて落ちている。草鞋わらじ足痕あしあとにたまった泥水にすら寒そうなさざなみが立っている。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
翌朝よくちょう出入でいりとびの者や、大工の棟梁とうりょう、警察署からの出張員が来て、父が居間の縁側づたいに土足の跡を検査して行くと、丁度冬の最中もなか、庭一面の霜柱しもばしらを踏み砕いた足痕あしあと
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
ここ何年にも何十年にも人の踏んだ足痕あしあとらしいものとてもなく、どこまでもただ山懐やまふところ深く分け入ってゆくのであったが、やがて銃をった我らの一隊が歩を停めたのは
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
だい泥岩でいがんで、どうせむかしぬまきしですから、何か哺乳類ほにゅうるい足痕あしあとのあることもいかにもありそうなことだけれども、教室でだって手獣しゅじゅう足痕あしあとの図まで黒板こくばんに書いたのだし
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「探偵小説作家は、必ずポオの足痕あしあとを踏んで行かねばならぬ」と言っているのを見ても、後世の探偵小説家の描く探偵は、畢竟ひっきょう、ヂュパンの型を受け継ぐことになるであろう。
ヂュパンとカリング (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
我が党の足痕あしあとへは、もう新しい世界の隻足かたあしが来ている、吾輩の魂も、これから永遠の安静にるべき時が来たから、最後のげんとして、君にまで懺悔ざんげして置きたいことがあってやって来た
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鬼目博士の論文ならかつて亜黎子未亡人の処で読んだ事がある。その頃まで、三十年前頃までは、微々として振わなかった日本の法医学界に、指紋と足痕あしあとの重要な研究を輸入した科学探偵の大家だ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
壬生みぶの源左衛門叔父の注意で、門弟たちはみな立ち去ってしまった。足痕あしあとだけが、その後の雪にきわだって黒く数えられる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吹通ふきとほしのかぜすなきて、雪駄せつたちやら/\とひととほる、此方こなた裾端折すそはしをりしか穿物はきものどろならぬ奧山住おくやまずみ足痕あしあとを、白晝はくちういんするがきまりわるしなどかこつ。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
御前ごぜん、訳ア御わせん。雪の上に足痕あしあとがついて居やす。足痕をつけて行きゃア、篠田しのだの森ア、直ぐと突止つきとめまさあ。去年中から、へーえ、お庭の崖に居たんでげすか。」
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
沙漠さばくの中に参りますとその公道といわれて居ったものも風が一遍吹くと足痕あしあとも何も消えてしまう。でチベットには本当の道はラサの近所に少しあるだけの事で外には道らしい道はない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
竜頭峯りゅうずほうの山のぬし竜筑房、神之沢の山の主白髪童子、山住奥の院の常光房は、すなわちともにその山姥の子であって、今も各地の神に祀られるのみか、しばしば深山の雪の上に足痕あしあとを留め
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「先生、岩に何かの足痕あしあとあらんす。」
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
城下民の中にまぎれていたり、他国の隠密の仕事の足痕あしあとを、後から発見したりすることが、のべつといっていいほどあった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄砲疵てツぱうきづのございますさるだの、貴僧あなたあしつた五位鷺ごゐさぎ種々いろ/\ものゆあみにまゐりますから足痕あしあとがけみち出来できますくらゐきツそれいたのでございませう。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「先生、岩に何かの足痕あしあとあらんす。」
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
草履ぞうり足痕あしあとがつく程、縁の先の大地には、青白い柿の花がいっぱいにこぼれていた。一学は釣竿つりざおを納屋の横へ置いて来て
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それとにはか心着こゝろづけば、天窓あたまより爪先まで氷を浴ぶる心地して、歯の根も合はずわなゝきつゝ、不気味にへぬ顔をげて、手燭ぼんぼりの影かすかに血の足痕あしあと仰見あふぎみる時しも、天井より糸を引きて一疋いつぴきの蜘蛛垂下たれさが
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すらすらと霜の土橋に足痕あしあとをのこして、今——その川向うの道を歩いてゆく、女と男のクッキリと見える影があった。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われら附添って眷属けんぞくども一同守護をいたすに、元来、人足ひとあしの絶えた空屋を求めて便たよった処を、唯今ただいま眠りおる少年の、身にも命にも替うるねがいあって、身命を賭物かけものにして、推して草叢くさむら足痕あしあとを留めた以来
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夢というほどまとまっている夢ではないから、幼少の頃の記憶が、何かの作用で、眠っている脳細胞の上へ虫みたいにムズムズ這い出し、神経の足の足痕あしあと
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すっぽん足痕あしあと辿たどるよとも疑われた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つぶやいてち上がり、そこも狐狸妖怪の足痕あしあとだらけな廊下をとおって、奥の炉のある部屋をさがしてゆく。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今朝も、まだ川洲かわすの砂に千鳥の足痕あしあとさえない夜明け方に、率八の舟は、かすみの中からゆうべの岸へ戻って来て
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ、狼藉ろうぜきの夜の足痕あしあとの残る、裏庭の連翹れんぎょうの花は、春をいたずらに、みだれて咲いて——。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おおこれだな、足痕あしあとは。ウム、やはり例の賽銭さいせん荒しをする不埒者ふらちものに相違なかろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「憎いやつめ」腹だたしげに、踏み折れている草の足痕あしあとを、めつけている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分の踏んで行く先に何者の足痕あしあとか、その草露はおびただしく汚れていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泥の足痕あしあとを畳に残して、ぬす猫のように台所から出てゆこうとすると
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鐘楼しょうろうや堂宇は崩れ放題、本堂のうちも雀羅じゃくらの巣らしい。のぞいてみれば、観音像はツル草にからまれ、屋根には大穴があいている。そこらの足痕あしあとは、狐のか狸のか、鳥糞獣糞ちょうふんじゅうふん、すべて異界のものだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と記録的な足痕あしあとを、この土地へのこすことだ。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵の大きな足痕あしあとを、お杉婆は後から見た。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おッ、足痕あしあと
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)