すか)” の例文
昔は帝堯が己に譲位すべしと聞いて潁川えいせんに耳を洗うた変物あり、近くは屁を聞いて海に入り、屁を聞かせじと砂にすかし込む頑民あり
それをなだめたりすかしたりしながら、松井町まついちょううちへつれて来た時には、さすがに牧野も外套がいとうの下が、すっかり汗になっていたそうだ。……
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
署長はどうかして支倉の口を開かせようと思って、子供でも扱うように騙したりすかしたりして責め訊ねた。署長には元より他意はない。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
漸くのことで子供を言ひすかしまして、それから橋のたもとの方へ連れて行きました。そこに煙草と菓子とを賣る小さな店があります。
半七の素姓を聞かされて、若い女中はいよいよおびえたらしく見えたが、いろいろおどされて、すかされて、彼女はとうとう正直に白状した。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私も家へ入る早々あれを叱ったんじゃ面当てがましくなりますから、種々いろいろすかしましたが、矢張り、帰れ/\、と言い募ります。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と云ふのは、おなかかした大きな少女等は、機會さへあれば、下級生をすかしたり脅したりして、彼等の分前わけまへを掠めたのだから。
とう/\其の晩、一と晩中かゝって、啓太郎を宥めすかして吟味した末に、貝島は其の札の由来を委しく調べ上げる事が出来た。
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
威嚇おどしたり、すかしたりして、どうにかして彼女の機嫌を直し氣を變へさせようと焦りながらも、鞄を肩に掛け、草履袋ざうりぶくろを提げ
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
私はヤットの思いで彼女をなだめすかして病院に帰らせた。しかしその時にドンナ言葉で彼女を慰めたか、全く記憶していない。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
... とく思量しあんして返答せよ」ト、あるいはおどしあるいはすかし、言葉を尽していひ聞かすれば。聴水は何思ひけん、両眼より溢落はふりおつる涙きあへず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
金を少しやるからとようやくすかして出掛けたです。僅か三マイルか四哩しかないのですが、荷持は非常に疲れてなかなか動かない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
街々は暮の飾りで充満し、さういふ飾りの物陰で、呼出した不良少年を威したりすかしたり、死にたくなるやうなものである。
孤独閑談 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
呼んでもすかしても出て来ねえんで——いつにねえこったが変だなあ、と不審ぶって来て見るてえと、このざまじゃごわせんか。
だましつすかしつお浦を説いて、その品物を渡させようとした。今はすっかり貝十郎になつき、兄かのように思っているらしい。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いた声ですかすがごとく、顔を附着くッつけて云うのを聞いて、お妙は立留まって、おとなしくうなずいたが、(許す。)の態度で、しかも優しかった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いかにおどしてもすかしてもかないのである。——すると身寄りのうちで、いっそ蜂須賀はちすか村の彦右衛門様にお願いしてはとすすめる者があった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明日あしたればしてやんびやな、爺等ぢいらどうせよるなんぞりやすめえしなあ」おつぎはまたすかすやうにいつた。卯平うへいはもう反覆くりかへしていはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
最初、船頭をすかして、夜中ひそかに黒船に乗り込もうとしたけれども、いざその場合になると、船頭れんは皆しりごみした。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
物をべさせるのも、薬を飲ませるのもみんなわたしの手でするのでしょう。わたしの本を読んで聞かせる声にすかされて、寝る時は寝るでしょう。
しかし二十三歳になった鉄は、もう昔日の如く夫の甘言にすかされてはおらぬので、この土手町の住いは優善が身上しんじょうのクリジスを起す場所となった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
御聞成れた其上にて不實のかども御座るなら如何樣共思召次第に成されましと種々樣々になだすかしければお政は漸々やう/\に手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一つは御容姿のお美しさが心をよくすかして、結ぼれの解けぬ歎きを少しずつ語っていかれるのは非常に気の楽になることのように薫に思われたのである。
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼は戸口かどぐちうづくまりて動かず。婢は様々に言作いひこしらへてすかしけれど、一声も耳にはらざらんやうに、石仏いしぼとけの如く応ぜざるなり。彼はむ無くこれを奥へ告げぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それを妻のおばあさんが子供のように扱ってなだめたりすかしたりしていますのに、子供かと思えば白髪ではありますが立派な髭を生やしているからでしょう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
されど未練心にお糸をすかして見むとや、淋しさに堪へねば一日も早く帰りくるるやうと、筆にいはせてしばしばお糸の方へ送りたれど、重兵衛は義理ある娘を
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ようよう妹をすかして、鉛筆と半紙を借り受け急ぎ消息はなしけるも、くわしき有様を書きしるすべきひまもなかりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
笹村の従弟いとこにあたる甥の義兄が、すかして連れて行ってからも、笹村の頭には始終一種の痛みが残っていた。変人の笹村は、従弟などによく思われていなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なんのかのとすかしにくるのさへ腹だたしく、部屋の隅にひとりひつこんで草双紙をひろげたりおもちやをいぢくつたりして慰めてると、お犬様や、牛や、才槌や
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
嫂と順一とは康子をめぐってなだめたりすかしたりしようとするのであったが、もう夜もけかかっていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
いろいろなだめたりすかしたりしていたが、それから何日たっても、あの方からは音信おとずれさえもなかった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
をぢは我をも驢背ろはいに抱き上げたるに、かの童は後より一鞭加へて驅けいださせつ。途すがらをぢは、いつもの厭はしきさまにすかし慰めき。見よ吾兒。よき驢にあらずや。
桜島は今だに鹿児島湾のなかに突立つきたつて、暢気坊のんきばうのやうにすぱり/\とけぶりを吹いてゐる。梅玉が今度の巡業に、すかされて鹿児島へ乗込むかは一寸見物みものである。
なんと同役、とてものことにその山崎という奴を、うまくすかして押片付けてしまおうじゃねえか
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『まア、うにでもするから、兎に角体が二つになるまで辛抱しておで』かうなだめたりすかしたりしたが、今朝けさつて来る時にも、町のはづれまで送つて来て、大きな腹をして
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「胸は騒ぐに何事ぞ。早く大聖威怒王だいしょういぬおうの御手にたよりて祈ろうに……発矢はッし、祈ろうと心をばすかしてもなおすかし甲斐もなく、心はいとど荒れに荒れて忍藻のことを思い出すよ」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
なだめすかして立退かせてさえおけば、後は心安く落付いて祭をすることが出来たのだけれども、余り熱心に多くの死者を供養するようになると、もう一度その日を過ぎてから
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「なに、お前を?」と、ちやうど、ほんものの大きな馬に乗せよと言つて駄々をこねる、四つぐらゐの子供でもすかしなだめる小父さんといつた調子で、ザポロージェ人が答へた。
威しつすかしつ、後ろさまに身を退きながら、爪立ちになって一斉に覗き込んでいる。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
物語の書物に書かれてる怪物のようである、ソロモンの印璽いんじの下にアラビアの手箱の中に閉じ込められてる悪鬼のようである。——またあるものはびてくる。だますかそうとつとめる。
予はしょうことなしに、新聞の記事をよい加減に読み聞かして、これだからそんなに心配しなくともえい、とすかした。しかし予の不安は児供等を安心させるのに寧ろ苦痛を感ずるのである。
大雨の前日 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いろいろになだめてもすかしても無駄であるばかりか、恐水病にでもかかっているようなこの犬に咬みつかれて、なにかの毒にでも感じてはならないと思ったので、わたしはかれを打ち捨てて
小供の世話はなかなか六ヶむつかしいもので、ちょっとでも意に満たぬときに声を揚げて泣く。これをすかなだめるなど容易なことで無く、到底天賦の性情の粗雑なる男子の出来る仕事でない。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
長三が家出の後でも猶夏子をすかしつ欺しつし、遂に其の手段として、自分の所有金を悉く銀行から引き集め、それを夏子の目の前へ積み上げて、此の家の財産は現金だけでも是ほどある
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
彼はすかすようにまたなだめるように真事の手を引いて広い往来をぶらぶら歩いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其度そのたびに気が附いて自分は次第に発狂するのでは無いかと思ふとおそろしさに身をふるはさずには居られない。良人をつとあるひは叱つたりあるひすかしたりして自分の気鬱症きうつしやうを紛らさせやうとつとめて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
このことばを聞きて、さては前日の児殺こころしよなと心付きたれば、更に気味あしく、いかにもして振離して逃げんとすれど、狂女の力常の女のかひなにあらず、しばしがほどは或はすかしつ或はなだめつ
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
といろ/\と勝五郎をすかしこしらえるうちに、切れるような言葉あるをきゝましたお若は、プッと頬をふくらすのを見ましたから、眼付で合図いたし、ヤッと勝五郎を追いかえしますると
藤野さんが二人の従兄弟に苛責いぢめられて泣いたので、阿母さんが簪を呉れてすかしたのであらうと想像して、何といふ事もなく富太郎のノツペリした面相つらつきが憎らしく、妙な心地で家に帰つた事があつた。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ええ、うるさい! どうなと勝手におし」とすかされてしまッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)