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襞
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ひだ
ふりがな文庫
“
襞
(
ひだ
)” の例文
もう、沓脱ぎ石へ片足をかけて靴の紐をといていた泰造は、紺の
襞
(
ひだ
)
の深いスカートをふくらませたままそこへ膝をついた宏子を見ると
雑沓
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
いま午後四時すこし過ぎ、
裳
(
も
)
の
襞
(
ひだ
)
が次第に暗く紫色へ移つてゆく女身像をみつめながら、私は自分の胸のあやしい高鳴りに耳を澄ます。
恢復期
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
襞
(
ひだ
)
の多い、白っぽい絹の洋装をした若い女性であった。胸のあたりに手提げの懐中電燈をかかげて、その光線を窓のそとへ向けている。
暗黒星
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
ちやうど彼の身につけた袴の
襞
(
ひだ
)
と同じやうに、一種云ふべからざる古雅な端正さがあり、それは同時に低い枯れた
声音
(
こわね
)
の中にも響いた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
流出速度が極めて
緩慢
(
かんまん
)
だったために、園長の体内に潜入していた
弾丸
(
たま
)
は流れ去るに至らず、そのまま
襞
(
ひだ
)
の間に
残留
(
ざんりゅう
)
してしまったんです。
爬虫館事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
▼ もっと見る
そして、取り囲まれ、押しのめされ、
微笑
(
ほほえ
)
みながら、感動しつつ、自分のフロックの
襞
(
ひだ
)
を、破れない程度に引き寄せる努力をしていた。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
白きは空を見よがしに貫ぬく。白きものの一段を尽くせば、
紫
(
むらさき
)
の
襞
(
ひだ
)
と
藍
(
あい
)
の襞とを
斜
(
なな
)
めに畳んで、白き
地
(
じ
)
を不規則なる
幾条
(
いくすじ
)
に裂いて行く。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
薔薇色
繻子
(
じゆす
)
の、非常に短かい、スカアトには出來るだけたつぷりと
襞
(
ひだ
)
がとつてある服が、今まで着てゐた茶色の
上衣
(
うはぎ
)
と代つてゐた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
チチ、チチ、と
沢千禽
(
さわちどり
)
の声に、春はまだ、
峠
(
とうげ
)
はまだ、寒かった。木の芽頃の
疎林
(
そりん
)
にすいて見える山々の
襞
(
ひだ
)
には、あざやかに雪の
斑
(
ふ
)
が白い。
野槌の百
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
旗
(
フラフ
)
は
戦
(
そよ
)
と風もない炎天の下に死んだ様に
低頭
(
うなだ
)
れて
襞
(
ひだ
)
一つ揺がぬ。赤い縁だけが、手が触つたら焼けさうに思はれる迄燃えてゐる。
氷屋の旗
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
その時、菓子屋の方に接近している最後の窓のカーテンが動き出して、片手が、と思う間に一本の腕がその
襞
(
ひだ
)
の間から現われた。
世界怪談名作集:10 廃宅
(新字新仮名)
/
エルンスト・テオドーア・アマーデウス・ホフマン
(著)
男の顔は、白い
条痕
(
しま
)
をなしている間に、赤い溝が交錯し、額に黒ずんだ
襞
(
ひだ
)
が灼きついていて二タ目と見られぬ物凄い形相だった。
暗中の接吻
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
灰白色に煙る海は、不気味に濁った
襞
(
ひだ
)
をつぎつぎと重ねながら、無表情に岸壁に迫ってきて、はなやかな白い泡を盛りあげてはまた去る。
一人ぼっちのプレゼント
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
そして、四肢のどこにも、その部分だけがいやに銅光りをしていて、妙に汚いながらも触りたくなるような、
襞
(
ひだ
)
や段だらに覆われていた。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
飛騨といふ
詞
(
ことば
)
は
襞
(
ひだ
)
を意味して、一国の
中
(
うち
)
に山多く、さながら
衣
(
きぬ
)
に襞多きが如くに見ゆる所から、昔の人が
此
(
この
)
国の名を
斯
(
か
)
く呼んだのである。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
頼母は黙って、あけてある障子の向うの、中庭のあたりを眺めていたが、やがて、扇子で袴の
襞
(
ひだ
)
を
撫
(
な
)
でながら、静かな眼で幹太郎を見た。
花も刀も
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
だが、
忽
(
たちま
)
ち彼の笑声が
鎮
(
しず
)
まると、彼の腹は獣を入れた袋のように波打ち出した。彼はがばと
跳
(
は
)
ね返った。彼の片手は緞帳の
襞
(
ひだ
)
をひっ
攫
(
つか
)
んだ。
ナポレオンと田虫
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
彼らはそのとき気にも止めなかった。夜の平穏はすぐにまた町へ落ちてきて、その重い
襞
(
ひだ
)
の中に生者をも死者をも包み込んだ。
ジャン・クリストフ:08 第六巻 アントアネット
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
造るために焼くやうな事はしません。なんて此の口は赤いんでせう、そして端の方は美しい
襞
(
ひだ
)
になつてゐるではありませんか。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
田中は袴の
襞
(
ひだ
)
を正して、しゃんと坐ったまま、多く二尺先位の畳をのみ見ていた。服従という態度よりも反抗という態度が
歴々
(
ありあり
)
としていた。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
と、同時に法衣の
襞
(
ひだ
)
が、一筋白く浮き出した。しかし次の瞬間には、閉ざされた眼が仄かに開き、その代り法衣の襞が消えた。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
襞
(
ひだ
)
と云ふ
襞
(
ひだ
)
を白く
曵
(
ひ
)
いたアルプス連山の姿は
予
(
かね
)
て想像して居た様な雄大な
趣
(
おもむき
)
で無く、白い盛装をした欧洲婦人の
群
(
むれ
)
を望む様に優美であつた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
肩の円みと顔が見えて、
仙台平
(
せんだいひら
)
の
袴
(
はかま
)
を
穿
(
は
)
いた男が眼の前に立った。三造はその
中古
(
ちゅうぶる
)
になった袴の
襞
(
ひだ
)
の具合に見覚えがあった。
雨夜草紙
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
「もうこれで、私がここにいてもいいでしょう。」とコゼットは勝ち誇ったようにちょっと口をとがらして化粧着の
襞
(
ひだ
)
をなおしながら言った。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
僕の頭には、あの荘厳な宗教画の埋葬の姿が渦巻き、沈んだセピア色と燃える紅と、光と翳の
襞
(
ひだ
)
につつまれ、いま僕の父親の死が納まっていた。
雲の裂け目
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
五、
潮騒
(
しおさい
)
はサラサラ発動機船はポンポン。
鴎
(
かもめ
)
は雑巾のような漁舟の帆にまつわり、塩虫は岩壁の
襞
(
ひだ
)
で背中を温める、——いとも
長閑
(
のどか
)
なる朝景色。
ノンシャラン道中記:01 八人の小悪魔
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
丸い肩から流れる線の末端を留めて花弁を
揃
(
そろ
)
へたやうな——それも自然に薄紅の肉色を思はせる指、なよやかな下半身に打ちなびく
羅衣
(
らい
)
の
襞
(
ひだ
)
の
老主の一時期
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
わしは其時クラリモンドが大理石像のやうに青白く、両手を組んでゐるのを見た。彼女の白い経帷子は、頭から足迄たゞ一つの
襞
(
ひだ
)
を造つてゐる。
クラリモンド
(新字旧仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
遠山の雲、
襞
(
ひだ
)
から襞にかけておりてゐる白雲を、降りこめられた
旅籠屋
(
はたごや
)
の窓から眺める気持も雨のひとつの
風情
(
ふぜい
)
である。
なまけ者と雨
(新字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
長老がかう云ひ終るか否や群がる男女達は各々のその胸に十字をかき、長老の傍に集まり
跪
(
ひざまづ
)
いてその衣の
襞
(
ひだ
)
に接吻した。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
これは秀真君の作である飴売の
襞
(
ひだ
)
が型にはまった襞であって面白くない、ぜひ共実際の衣の襞を研究してその写生をせねばいかぬというのである。
子規居士と余
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
ただそこには薄暗い
洋灯
(
ランプ
)
に照らされて、家内の脱ぎ棄てた衣裳が
衣桁
(
いこう
)
から深い
襞
(
ひだ
)
を作っているばかりでございました。
蒲団
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
後
(
うしろ
)
には、色のぱつとした、赤やもえぎや紫の五色に染め別けた、だんだらの綺麗な大幅な絹の布が、柔かい垂れ
襞
(
ひだ
)
を見せてふうはりと吊るされてゐた。
桑の実
(新字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
「心理の
襞
(
ひだ
)
」に食ひ入る執拗さに至つては、聊か日本人離れがしてゐるくらゐで、ここが戯曲家として、今後、伊賀山君の独自性を示し得る点であらう。
伊賀山精三君の『騒音』
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
袴の
襞
(
ひだ
)
を
崩
(
くず
)
さずに、前屈みになって据わったまま、主人は
誰
(
たれ
)
に話をするでもなく、正面を向いて目を据えている。
百物語
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
脚は幾分円っこく、
踝
(
くるぶし
)
もそうだが、美しい緑色の靴下をはいている。靴——桃色の
鞣革
(
なめしがわ
)
の——はキャベツの形に
襞
(
ひだ
)
を取った黄色のリボンの房で結んである。
鐘塔の悪魔
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
晩秋の夕
陽
(
ひ
)
が、西の山端に近づくと、赤城の肌に陽影が
茜
(
あかね
)
色に長々と這う。そして山
襞
(
ひだ
)
がはっきりと、地肌に割れ込んでいるのが、手に取るように見える。
わが童心
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
こちらが照れてしまうほど
真
(
ま
)
ッ
赧
(
か
)
になり、大きな
身体
(
からだ
)
をもじもじさせ、スカアトの
襞
(
ひだ
)
を直したりして
体裁
(
ていさい
)
を
繕
(
つくろ
)
ってから、大急ぎで
駆
(
か
)
け去ってしまいました。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
源吉は、しっとりとした重みを胸に受け、彼女の血に
溢
(
あふ
)
れた
紅唇
(
くち
)
に、吸い寄せられた時、彼の脳の
襞
(
ひだ
)
の
何処
(
どこ
)
を捜しても「轢殺の苦」なぞは、まるでなかった。
鉄路
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
襞
(
ひだ
)
を丸鑿で木を深く削り込んで彫ってゆく意味がはっきり
把
(
つか
)
んである。顔のようなところには肉を減らさない為に丸鑿は使わず、平鑿で突きつけて彫っている。
回想録
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
ぼんやりと
淀
(
よど
)
んだような朝の空気の中で、しめりを含んだ垣根いっぱいに繁っている朝顔の葉のみどりの中に、
瑠璃
(
るり
)
色の十三センチ五ミリは
襞
(
ひだ
)
をゆるく波打たせ
暦
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
生水・ENOの果実塩・
亜米利加
(
アメリカ
)
産
肉豆蔲
(
にくずく
)
・
芽玉菜
(
めたまな
)
だけの食養生を厳守することによって辛うじて
絵具付
(
ペインテド
)
シフォンの
襞
(
ひだ
)
着物を着れる程度に肥満を食いとめている
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
やがて彼は小さな身体と大きな頭を地中に棒のように立っている鋤の大きな
把手
(
ハンドル
)
にもたれさせた。その眼はからっぽで額には
幾条
(
いくすじ
)
も
襞
(
ひだ
)
がただしくならんでおった。
作男・ゴーの名誉
(新字新仮名)
/
ギルバート・キース・チェスタートン
(著)
主人の
足裏
(
あしうら
)
も
鯊
(
さめ
)
の
顋
(
あご
)
の様に
幾重
(
いくえ
)
も
襞
(
ひだ
)
をなして口をあいた。あまり
手荒
(
てあら
)
い攻撃に、虎伏す野辺までもと
跟
(
つ
)
いて来た
糟糠
(
そうこう
)
の
御台所
(
みだいどころ
)
も、ぽろ/\涙をこぼす日があった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
体躯をめぐるかような光りの流れに、伴奏のごとくまつわっているのは、云うまでもなく衣の
襞
(
ひだ
)
である。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
天の方に立ち騰るかの女の胸の
襞
(
ひだ
)
を、夢のやうに萎れたかの女の肩の襞を私は昔のやうにいとほしむ。
秋の悲歎
(新字旧仮名)
/
富永太郎
(著)
六枚のすり
硝子
(
ガラス
)
の
合
(
あわ
)
せめをクリーム色のリボンでぴしりとしめあわせたもので、
襞
(
ひだ
)
飾りがしてある。
小品四つ
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
そして私は、私たちのまえにただ一つの
皺
(
しわ
)
も、ただ一つの
襞
(
ひだ
)
も、ただ一つのささやきもなしに開いている、
寂
(
しず
)
かな寂かなこの青空に、不思議な和やかさを見いだした。
美学入門
(新字新仮名)
/
中井正一
(著)
床屋はそれを着けて幾度か姿見の前を往つたり来たりしたが、その都度百匹の南京鼠が裾の
周囲
(
まはり
)
に潜り込んでるやうに、袴の
襞
(
ひだ
)
はきゆうきゆう音を出して
啼
(
な
)
き立てた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
雪深い東北の山
襞
(
ひだ
)
の中の村落にも、正月は福寿草のように、何かしら明るい影を持って終始する。
手品
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
襞
漢検1級
部首:⾐
19画
“襞”を含む語句
皺襞
襞襀
襞々
小襞
襞飾
褶襞
山襞
一襞
襞襟
襞状
襞付
襞目
襞縁
襞績目
襞衿
襞襀捩
覆瓦襞
谿襞
飾襞
襞折
...