じゅつ)” の例文
いながらにして百里の先をも見とおす果心居士かしんこじの遠知のじゅつ、となりの部屋へやに寝ている竹童ちくどうのはらを読むぐらいなことはなんでもない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは勿論もちろん、これは我々われわれだけのはなしだが、かれあま尊敬そんけいをすべき人格じんかくおとこではいが、じゅつけてはまたなかなかあなどられんとおもう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
若者わかものは、きんや、ぎんに、象眼ぞうがんをするじゅつや、また陶器とうきや、いろいろな木箱きばこに、樹木じゅもくや、人間にんげん姿すがたけるじゅつならいました。
あほう鳥の鳴く日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お蔦は急に起上った身体からだのあがきで、寝床に添った押入の暗い方へ顔の向いたを、こなたへ見返すさえじゅつなそうであった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこでそっとものえるじゅつ使つかって、お三方さんぽうの中の品物しなもの素早すばやえてしまいました。そしてすましたかおをしながら
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それから、かねがね、母親から魔法まほうじゅつをならっておいたので、この肌着をぬいながら魔法をしかけておきました。
「このたび私が人形をひとりでおどらせるじゅつを、かみからさずかりましたので、それを皆様みなさまにお目にかけます。このとおり人形には、なんの仕掛しかけもございません」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
松明たいまつは再びとぼされたが、広い穴の中に何者の影も見えなかった。幾ら𤢖でも隠形おんぎょうじゅつを心得ている筈はない。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そんな事も無かろう」とじゅつなげに答える。さっきまで迷亭の悪口を随分ついた揚句ここで無暗むやみな事を云うと、主人のような無法者はどんな事を破抜ぱぬくか知れない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでこのじゅつには熟練じゅくれんしていた。わたしはとび上がって、いちばん下のえだにとびついた。
母は、ストーヴやなべや、ナイフやフォークや、布巾ふきんやアイロンや、そういうものに生命いのちきこみ、話をさせるじゅつを心得ていた。つまり彼女は、たくまないお伽話とぎばなし作者さくしゃだった。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
ただすと、源三はじゅつなさそうに、かつは憐愍あわれみ宥恕ゆるしとをうようなかおをしてかすか点頭うなずいた。源三の腹の中はかくしきれなくなって、ここに至ってその継子根性ままここんじょう本相ほんしょうを現してしまった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なる程人に催眠術をほどこそうと云う女の、ひとみの光は違ったものだ、と己はすぐに感心した。事に依ったら、己は最初ちらりと彼の女に見られた時に、もうじゅつを施されて居たのかも知れない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
阿弗利加アフリカ黒奴こくどけものの如く口を開いて哄笑こうしょうする事を知っているが、声もなく言葉にも出さぬ美しい微笑ほほえみによって、いうにいわれぬ複雑な内心の感情を表白するじゅつを知らないそうである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「おっとみなまでのたまうな。手前てまえ孫呉そんごじゅつ心得こころえりやす」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
これは兵法へいほうでいう八もん遁甲とんこう諸葛孔明しょかつこうめい司馬仲達しばちゅうたつをおとし入れたじゅつでもある。秀吉、それをこころみて、滝川一益たきがわかずますをなぶったのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じつは、あたしのまま母はわるいじゅつをつかいますし、それに、よそのかたにはしんせつにしないんですの。」
そこで天子てんしさまは阿倍あべ晴明親子せいめいおやこをおしになり、御前ごぜんじゅつくらべさせてごらんになることになりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ゆきが、あのようにもっては、どんなおとこやましてくることはできぬだろう。……しかし、その勇士ゆうしは、また非凡ひぼんじゅつで、ゆきうえわたってこないともかぎらない。
びんの中の世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの、押入の奥のサイダの函から首を出してじゅつなさそうに見ていた時、———あの時から彼女の眼差に哀愁の影が宿り始めて、そののち老衰が加わるほどだんだん濃くなって来たのである。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そうかも——知れないです」と小野さんはじゅつなげながら、正直に白状した。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ボブは犬どろぼうのじゅつを知っているのだ
これこそ、剣、やり薙刀なぎなたの武術のほかのかくしわざ吹針ふきばりじゅつということを、竹童も、話には聞いていたが、であったのは、きょうがはじめてである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間にんげんは、このごろいろいろのはなを、自分じぶんたちで変化へんかをさせるじゅつおぼえたので、みごとにかしています。あんなうつくしいはなは、この天国てんごくにきましても容易よういることはできません。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
じつは天災てんさいというのもわたしがじゅつをつかってさせたのですが、おうはこれをらないものですから、わたしのいうとおりに、毎日まいにちつみのない人民じんみんを十にんずつころして、千にんくびをまつりました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「あなた、いつまでこうしていらっしゃるの」と細君はじゅつなげに聞いた。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それほどまでにいうなら、三にん姿すがたをかえてまちのほうへ、とんでゆけるようにしてあげよう……。」と、おばあさんはいわれました。おばあさんは、ふしぎなじゅつっていました。
すももの花の国から (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分は嘲弄ちょうろうのうちに、じゅつなくこの南京米ナンキンまいを呑み下した。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのおんなは、なんでも、魔術まじゅつをインドじんからおそわったということです。人間にんげんをはとにしたり、からすにしたり、また、はとをさらにしたり、りんごにしたりする不思議ふしぎじゅつっていました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)