行者ぎょうじゃ)” の例文
来年らいねんなつは、方々ほうぼうやまへまいります。わたしつけなければ、おちおうた行者ぎょうじゃたのんで、どうにかして、れてまいります。」
山に雪光る (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうしてこんな人にわずかな思索力、ないしはわずかな信心があれば、すなわち行者ぎょうじゃであり、或いは仙人せんにんであり得るかと思われる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
博士が身を多難たなんにさらして、各地をめぐり、心霊学者や行者ぎょうじゃに会い、親しく見聞し、あるいは共に研究したところについて概略がいりゃくをのべた。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これ以上車が通らないというところまで行って、そこから赤岳のふもとの行者ぎょうじゃ小屋まで歩いた。疲れたら、その夜はここに泊る筈であった。
親鸞はその弥陀への信を自己の生活に具現する意味において、徹底的な行者ぎょうじゃであった。そうしてその信の強い力はこの行の中から輝き出た。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「さては寒行の行者ぎょうじゃ修験者しゅげんじゃが、霧の中を通って行くと見える。天の与えじゃ、がしてはならぬ。声を揃えて呼んで見ようぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人間の頭ぐらいげんこくだくことができると云っている。んだか山師やましのようでもあるが、また真箇ほんとう真言しんごん行者ぎょうじゃのようでもある。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
まことによいところへ気がついてくれたと、そう思った乳母は不安がる娘をうながし立てゝ、行者ぎょうじゃに案内されながら河原へ降りて行ったのである。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
可厭いやなものは連れては参らぬ。いや、お行者ぎょうじゃ御覧の通りだ。御苦労には及ぶまい。——屑屋、法衣ころもそでを取れ、しかと取れ、江戸へ帰すぞ。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
遠山の家をうおりには必ずこの禰宜のところへ来て泊まったが、来て見るたびに変わって行く行者ぎょうじゃ宿の光景が目につく。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのうちに大野屋の総領息子、すなわち要次郎の兄が或る人から下谷に偉い行者ぎょうじゃがあるということを聞いて来たが、要次郎はそれを信じなかった。
影を踏まれた女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雨の音は、お通の泣き声を打ちたたいたが、お通は、滝つぼの中にある行者ぎょうじゃのように、合わせたをかたくして
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此処が偶々たまたま滋賀津彦の塚の前だったので、この魂呼いの行者ぎょうじゃたちは、滋賀津彦のためにも、魂呼いの行をする。
『死者の書』 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
男3 御修法みずほうをやっておもらいなさい。……北山の何とか云うお寺にとてもかしこい行者ぎょうじゃさんがいるそうです。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
大山おおやま登山の行者ぎょうじゃなどはお得意のものであった。行者を白い紙で拵え、山を、小さな、芝居の岩山のようなものにして、登山のさまを見るようにこしらえました。
いかにも沈黙ちんもく行者ぎょうじゃといった感銘かんめいをかれにあたえていたので、口をきるのがよけいにためらわれるのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この本を読んだ人がえん行者ぎょうじゃになれる——というような世俗的魅力がお銀様をとらえたのですが、その直下じきげにこれをこなすの機会と時間とを与えられなかったから
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして、しばらくすると、この大胆なる恋愛行者ぎょうじゃは、もうかすかな寝息を立てているのであった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのうちに、ひたいから汗を流して一生懸命に祈っていた行者ぎょうじゃは、はたと祈りをやめて言いました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
土瓶の絵附師と念仏の行者ぎょうじゃと、道はことなっても同じ歩み方をしているのではないでしょうか。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
衆僧 ——(一度に声を合せ)清浄法身本体の生命、円満報身導きの生命、すがたに在す現実の生命、今われらにじきを与えて道に進む行者ぎょうじゃの歩みを健かならしめらるるを感謝する。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかも私はまだ天香師をそのままにナハフォルゲンできない心のありさまにありながら、私のすぐそばにかかる愛と犠牲の行者ぎょうじゃを持っているのはどのように不安だか知れません。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
医者いしゃというお医者いしゃ行者ぎょうじゃという行者ぎょうじゃあつめて、いろいろ手をつくして療治りょうじをしたり、祈祷きとうをしたりしているが、一向いっこうにしるしがえない。それはそのはずさ、あれは病気びょうきではないんだからなあ。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ある時馬が柴橋から落ちて死んだから馬ころばし、その馬の供養くよう馬頭観世音ばとうかんぜおんをまつると観音岩、そこに行者ぎょうじゃでもいれば行者谷というような名が附く。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
待て/\、お行者ぎょうじゃ。灸と言へば、煙草たばこ一吹ひとふかし吹したい。ちょうど、あの岨道そばみちほたるほどのものが見える。猟師が出たな。火縄ひなわらしい。借りるぞよ。来い。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
神主や僧侶や山伏や行者ぎょうじゃなどを代るがわるに呼び迎えて、あらゆる加持祈祷をさしてみたが、いずれも効験がない。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
心配しんぱいくださいますな、けっして、わたしはなんともありゃしませんで。ハイ、行者ぎょうじゃさまわたしはきのうのことを
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当麻の寺がえん行者ぎょうじゃと結びつき、中将姫ちゅうじょうひめ奇蹟の伝説を育てて行ったのは、恐らくこの種の印象の結果であろう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
七分通り燃え盡した蝋燭の火に今や睫毛まつげが焦げそうになって居ても、婆羅門ばらもん行者ぎょうじゃの如く胡坐あぐらをかいて拳を後手うしろでに括られたまゝ、大人おとなしく端然と控えて居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なかなかしぶといやつだ」とも一人の男が言いました。「この上は行者ぎょうじゃに祈ってもらおう」
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
念仏は、行者ぎょうじゃのために、非行非善なり。わがはからひにて行ずるにあらざれば、非行といふ。わがはからひにてつくる善にあらざれば、非善といふ。ひとへに他力たりきにして、自力を
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
勇吉ゆうきちは、そのようすつきで、たびをするおぼうさんか、行者ぎょうじゃであろうとおもいましたから、自分じぶん母親ははおや病気びょうきなので、これからまちへお医者いしゃさまをむかえにいくのだということをはなしました。
一粒の真珠 (新字新仮名) / 小川未明(著)
文字が示す通り一種の秘密宗派であるが、篤心な念仏行者ぎょうじゃの集団である。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
羽黒の小法師こほうし、秋葉の行者ぎょうじゃ、二個はうたがいもなく、魔界の一党、狗賓ぐひんの類属。東海、奥州、ともに名代なだい天狗てんぐであつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この者達は、三年に一度くらい大峰の修築をするとか、えん行者ぎょうじゃまつるとか、いい加減な名目を設けて、諸国の手蔓を手繰たぐって勧進の悪銭をあつめ廻るやからだった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
定めて行者ぎょうじゃかなんぞのように、長い髪でも垂れているのか、ひげでもぼうぼうと生やしているのか、冠のような帽子でもかぶっているのか、白い袴でも穿いているのか。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
富士の行者ぎょうじゃは山に登る時に特に歩みをつつしんで石などを踏み落さぬようにしていたそうですし、また近江国の土を持って来て、お山に納める者もあったそうであります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして自分たちはえん行者ぎょうじゃ前鬼ぜんき後裔こうえいだと称している。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
変な奴の正体は女の行者ぎょうじゃだ。案外に年を食っているかも知れねえが、見たところは十七か十八ぐらいの美しい女で、何かいろいろの祈祷きとうのようなことをするのだそうだ。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
貴客あなたには限りませず、薬売の衆、行者ぎょうじゃ、巡礼、この村里の人たちにも、お間に合うものがござんして、そのお代をと云う方には、誰方どなたにも、お談話を一条ひとつずつ伺います。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何か、感動するか、事にぶつかると彼は行者ぎょうじゃの念仏のように、今に! を胸の底で繰り返した。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち五鬼は五人の山伏の家であろうと思うにかかわらず、前鬼後鬼ぜんきごきとも書いてえん行者ぎょうじゃの二人の侍者じしゃの子孫といい、従ってまた御善鬼様などと称して、これを崇敬した地方もありました。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「高野詣りか三とう行者ぎょうじゃか……それともただの通行人か、なにしろ四、五人でございますな」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんでも浅草の方に大層えらい行者ぎょうじゃがありますそうで、御新造はこの間そこへ何かおいのりを
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大神宮様のおかげで、繁昌はんじょうをいたしまするが、旧の大晦日おおみそかと申しますと、諸国の講中こうじゅう道者どうじゃ行者ぎょうじゃしゅ、京、大阪は申すに及びませぬ、夜一夜、古市でおこもりをいたしまして、元朝、宇治橋を渡りまして
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……そして行者ぎょうじゃ作りに、髪も切りそろえ、ひたいの金印(いれずみ)のとこは、前髪でかくし、もっと念入りに、小さい膏薬こうやくでもっておけば、おそらく、ちょっとやそっとじゃ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここには、崔道成さいどうせいという悪僧と、きゅうしょう一という行者ぎょうじゃの悪いのが、わがもの顔に住んでおる。……わしらはその二人に寺を奪われて、やっと粟粥あわがゆをすすって生きているばかりなのじゃ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逢曳あいびきの寝疲れなどで、からすの声にも目覚めずにすごしたら大変だから、朝まわりの頭陀ずだ朝勤行あさごんぎょうに町の軒々を歩く暁の行者ぎょうじゃ)をたのみ、朝々裏口で木魚もくぎょを叩いて貰うことにしておけば
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「金吾様、まちがいなくお出かけ下さいよ。ただし、人目にふれるといけませんから、例の白い行者ぎょうじゃごしらえはやめてください。そして、鼻寺の山門から、ズッと離れたところで待っていておくんなさい」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃあ引ッこめ、引ッこめ! 鉦叩かねたたきのやせ行者ぎょうじゃめ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)