たん)” の例文
旧字:
と云ったがかないません事で、剣術は上手でもたんすわってゝも、感の悪い盲目のことゆえ、匹夫下郎の丈助の為に二刀ふたかたな程斬られました。
只違つてゐるのは、今度は今までよりも縦の方向が勝つて走るのでございます。わたくしはたんを据ゑて目を開いて周囲まはりの様子を見ました。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
さきに半円の酒銭さかてを投じて、他の一銭よりもしまざりしこの美人のたんは、拾人の乗り合いをしてそぞろに寒心せしめたりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
怒気天をくだの、暴慢なる露人だの、醜虜しゅうりょたんを寒からしむだの、すべてえらそうで安っぽい辞句はどこにも使ってない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「わははは。あの荒法師なかなかにたんが据っておるわ。いや、よいよい。ずんときびしく退屈払いが出来そうじゃ。ひと工夫致してつかわそうぞ」
ぼくはどうかして海蛇うみへび毒手どくしゅからのがれようとたんをくだいた、が、かれらはなかなか厳重げんじゅう警戒けいかいして目をはなさない、時機を待つよりしかたがない
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「いや、ただ笑っていては困る。これは本気で掛合致すのじゃから、チャンとたんを据えて掛ってくれねば、こちらにもいろいろと都合のある事じゃで」
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
三平は少しけむに巻かれて、がらにもなくおど/\して居ましたが、だん/\酔いが循って来ると、たんが落ち着き
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そんな際にも巡査の句調くちょうを改めないで、失敬するよなんていってるんです。よっぽどたんのすわった奴ですね。
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なほ次手ついで吹聴ふいちやうすれば、先生は時々夢の中にけものなどに追ひかけられても、逃げたことは一度もなきよし。先生のたん、恐らくは駝鳥だてうの卵よりも大ならん
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一時の豪気ごうきは以て懦夫だふたんおどろかすに足り、一場の詭言きげんは以て少年輩の心を籠絡ろうらくするに足るといえども、具眼卓識ぐがんたくしき君子くんしついあざむくべからずうべからざるなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
みごとの武者ぶりを見送りて、こわづくろいしていかめしき中将の玄関にかかれる山木は、幾多の権門をくぐりなれたる身の、常にはあるまじくたん落つるを覚えつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
と同時に、身をかがませて、横薙ぎに抜きつけた伝吉の大脇差。腕に正法な鍛えこそないが、満身のたんと、まずもって、命を剣の先に捨ててゆく、彼一流の斬り合い。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俄然としてめたムク犬の勇猛ぶりは、確かにこの犬殺しどものたんを奪うに充分でありました。
あるいは禅によりたんを練り、あるいは浄土宗、浄土真宗により心身を仏に委託し、あるいは日蓮宗により宇宙の生命力を唱題によって心身に享け容れた人たちでありました。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
総入れ歯をカッとき出して笑うところまで、満身これ精力、全身これたん渾身こんしんこれ智……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「相変わらず、いやにたんがすわっているぜ。いきすじだろう。ははは、こいつあお手の筋だ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人といふものは二気あれば即ち病む、といふ古い支那のことわざにある通り(中略)宜しくたんさかんにし、飲食を適宜にし、運動を怠らずして、無所むしよ畏心ゐしんに安住すべきである。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
これたまたまもって軍旅のえいぎ、貔貅ひきゅうたんを小にするに過ぎざるのみ、なりというからず。燕王と戦うに及びて、官軍時にあるいは勝つあるも、この令あるをもって、飛箭ひせん長槍ちょうそう、燕王をたおすに至らず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
昇のたんうばッて、叔母のねぶりを覚まして、若し愛想を尽かしているならばお勢の信用をも買戻して、そして……そして……自分も実に胆気が有ると……確信して見たいが、どうしたもので有ろう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
繊細なる者はたんを大にすべし、壮大なる者は心を小にすべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「剣道名誉の武士にしては、少しく態度が無頼ぶらいに過ぎる。といって市井しせいの無頼漢にしては、余りに腕がいている。……たんの据え方、機のつかみ方、とてもとても常人ではない。……そうしてあれは? あの巻軸は?」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
果して遣った! 意地にも立ったきりじゃ居られなくなって、ままよ、とたんを据えて、つかつかと出ようとすると、見事に膝まで突込つッこんだ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人を斬って置きながら顔の色も変りませんのは余程たんすわったもので、此の時に伊之助も正孝も危ういところはのがれましたが、鼻の先でザクリ、バタリ
「構わぬ、すておけ、すておけ。町人輩が小判で客止めしたとあらば、身共はたんと意気で鞘当さやあてして見しょうわ。——ほほう喃、なかなか風雅な住いよのう」
今の世界に居て人生誰か自国を愛せざる者あらんや。国のためとあればいばらに坐したんむるもはばからざるは人情の常なり。内行を慎むが如き、非常の辛苦にあらず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夜光虫のような燦々さんさんたる一騎がその先頭を切って来る。たん、驚くべし、女将軍の一丈青であった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲府勤番のそりの強さを見せつけて、駒井のたんを奪うてやるような仕事はないか、駒井が着く早々縮み上って尾を捲いて向うから逃げ出すようなはかりごとがあらば、これ以て甚だ痛快なる儀じゃ
つとに満身これ剣と化している栄三郎、声——は、たんをしぼって沈んでいた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
下女は心得貌こころえがおに起って行く。幅の狭い唐縮緬とうちりめんをちょきり結びに御臀おしりの上へ乗せて、かすり筒袖つつそでをつんつるてんに着ている。髪だけは一種異様の束髪そくはつに、だいぶ碌さんと圭さんのたんを寒からしめたようだ。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ずばりとそれを一かつすると、たんまことにのごとし! 声また爽やかにわが退屈男ならでは言えぬ一語です。
音羽は女ながらもたんすわったもので、今腰が抜けて坐ってる藤六を振向きながら一刀ひとかたなあびせる。
と——青年弦之丞が全身の熱血は、ここに、火ともならんほど燃えあがって、手はおのずから腰刀こしがたなつかへかかり、たん、気、力のちみなぎった五体は、徐々に岩を離れてヌーと伸びあがった。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
というよりせまってみたけれど、たん死し、気落ちたる時はぜひがない、徳川三百年来、はじめて行われたという将軍直々じきじきの免職で、万事は休す! そこで、西郷と勝とが大芝居を見せる段取りとなり
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芝の源助町に道場をひらいて荒剣こうけんぷう江府こうふの剣界を断然リードして、そのうで、そのたん、ともに無人の境を行くの概あった先生に、神保造酒じんぼうみきという暴れ者があった。神保造酒……無形むぎょう刀流とうりゅう正伝しょうでん
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彰義隊討伐、会津討伐と、息もつかずに戦火の間を駈けめぐったおそろしくたんの太い藪医者だった。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
と云って逃げにかゝる所へ如意で打ってかゝったからたまらんと存じまして、刄物で切ってかゝるのを、たんすわった坊さんだから少しも驚かず、刄物の光が眼の先へ見えたから引外ひっぱず
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼らはくに八幡大菩薩はちまんだいぼさつの船旗を下ろしていたが、海洋を見ること平野をるごときたんと、小事に顧みることなく爛々らんらんの眼をたえず海潮の彼方に向けて、男児の業はそこにありとしている気質とは
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言葉の威嚇もすばらしかったが、たんの冴え、あの眉間傷の圧倒的な威嚇が物を言ったに違いない。
鞍馬くらまの竹童、剣道けんどうは知らぬが、たんのごとしだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、これこそはまさしくわざの冴え、きもの太さ、たんの冴えの目に見えぬ威圧に違いないのです。
今こそ、自分のたんかかとにこもっているという感。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たんを以て、腕を以て、あの向う傷に物を言わせて、力ずくにこれを押し破ったならば破って破れないことはないが、そのため怪我人を出し、血を見るような事になったら
いわゆる、たんまず敵をのむのである。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がんの配りにひと癖もふた癖もありげなたんの坐りの見える町奴風まちやっこふうの中年男と、その妻女であるか、ぞれとも知り合いの者ででもあるか、江戸好みにすっきりと垢ぬけのした町家有ちの若新造でした。