素人しろうと)” の例文
予は教育に於ては素人しろうとなれど、日本国民を如何いかに教育すべきか、換言せば教育の最大目的は如何いかんとの題下だいかに一げん述べてみようと思う。
教育の最大目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「とてもやすく仕切るので、素人しろうとの商売人にはかなわないよ。復一、お前は鼎造に気に入っているのだから、代りにたんまりふんだくれ」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
乗物の不自由な頃ですから、お祖母様と一緒に本郷の素人しろうと下宿に移り、そこから学校通いです。それでもう福羽邸通いはやめました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
よく慈善の目的で素人しろうと芝居を催して、自身は老将軍の役を買って出るのだったが、その際のせきのしっぷりがすこぶるもって滑稽だった。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「どうせ、素人しろうと衆のももんがあ見てえな細工だろうが、兎に角一応見て上げよう。長次が拝見いたしますって、丁寧に通すんだぞ」
小芝居こしばいや、素人しろうとまじりの改良文士劇や、女役者の一座の中で衰えさせてしまうのかと、その人の芸がおしくって、静枝は思わず涙ぐんだ。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「いろんな方法があって、一々べきれないが、素人しろうとに判りよい方法を三つ四つ、数えてみよう。まずお月様を征服することじゃ」
遊星植民説 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いま、ていったあのむすめだろう。あんな素人しろうとをごまかせないということがあるもんか。みんな、おまえが、商売しょうばい不熱心ふねっしんだからだ。」
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それで私は蓄音機をきらう音楽家のピュリタニズムを尊敬すると同時に蓄音機を愛好する素人しろうとを軽視する事はどうしてもできない。
蓄音機 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この結論に達するまでの理路は極めて井然せいぜんとしていたが、ツマリ泥水稼業どろみずかぎょうのものが素人しろうとよりは勝っているというが結論であるから
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼は画板の袋から二、三枚の写生を取り出して見せたが、その進歩はすこぶる現われて、もはや素人しろうとの域を脱しているようである。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いぬかわをかぶって、おせんのはだかおも存分ぞんぶんうえうつってるなんざ、素人しろうとにゃ、鯱鉾立しゃちほこだちをしても、かんがえられるげいじゃねえッてのよ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「いや、本気です。現代の婦人美は、玄人くろうとからすっかり素人しろうとに移りましたね。今の十七八歳から二十歳はたちまでのお嬢さんの美しさは……」
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「解んねえな。どうせ素人しろうとじゃあるめえ。莫迦ばかに意気な風だぜ、と言って、芸者にしちゃどこか渋皮のけねえところもあるし……。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
懐中電燈をさしつけて、調べてみると、心臓のあたりを撃たれていて、素人しろうと目にも、もう手のほどこしようがないことがわかった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その施主せしゅが旅行中であったにしても、ないにしてもやむを得ないが、同行の一隊の者が全く素人しろうとであったことが悲しいことでした。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし私はなにも美容の先生ではありませんから、専門のことはわかりませんが、素人しろうと目にもわかるのは、「厚化粧の悲哀」です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
下等の醤油やあるいは上等の偽物は甘味と粘着力を加えるためサッカリンといって砂糖より四百倍甘い薬品を交ぜて素人しろうとだましますが
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それから次手ついでに小説じみた事実談を一つ報告しましょう。もっともわたしは素人しろうとですから、小説になるかどうかはわかりません。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
無論、少し変わった学説が出ると、理屈に合おうがあうまいが、わかろうがわかるまいが、素人しろうとはすぐに感心してしまうものだ。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
私の考えるのにこの年輩の人は絵の好きである事と素人しろうととしてなぐさみに描く事はいいけれども決して専門に勉強してはいけないと思う。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
師匠は特にそういう風に作られたのですが、素人しろうとにはそういうことは分らないから、奇瑞きずいのようにも思われてよろこんだのでありました。
あの早稲田の学生であって、子規や僕らの俳友の藤野古白こはくは姿見橋——太田道灌どうかん山吹やまぶきの里の近所の——あたりの素人しろうと屋にいた。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同級生の誰とも親しく口をきかなかったのは勿論もちろん、その素人しろうと下宿の家族の人たちとも、滅多めったに打ち解けた話をする事は無かった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かはかたうして素人しろうとの手に刻まれねば、給仕を頼みて切りて貰ひ、片隅に割拠かつきよし、食ひつゝ四方を見るに、丸髷まるまげの夫人大口開いて焼鳥を召し
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
野呂はその二十坪余りの畠にさまざまな野菜を栽培しましたが、素人しろうと菜園にしてはかなり上成績で、彼は毎日それをんでは食べている。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
素人しろうとのくせにしやがって、諸国の親分が出張っている盆へ行って、商売人の金を取ろうっていう量見が、第一、押しがふてえ」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬鈴薯から安価な焼酎しょうちゅうと、そのころ恐ろしく高価なウ※スキーとが造りだされる化学上の手続を素人しろうとわかりがするように話して聞かせた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
磯五の酌はおせい様が引きうけて、器用に銚子ちょうしを持っていた。料理は、素人しろうとの家のものとは思えないほど、立派なものであった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
○「お慈悲深い旦那だから本当の事を喋って其の上でお慈悲を願え、おめえだって万更まんざら素人しろうとじゃアなし、い道楽者じゃアねえか」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
非人には通例足を洗うて素人しろうとに成ることが出来るという道が開いていたのに反して、エタには殆どこれが認められてないのが普通であった。
遠州地方の足洗 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
そればかりか、生きているうちはぬらぬらしているから、これをつかんでくしに刺すということだけでも、素人しろうとには容易に、手際てぎわよくいかない。
鮎の食い方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ただの一平信徒であるにすぎぬから、本書のごときも専門の宗教家から見ればいたって素人しろうとくさい、素朴な解説であるだろう。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
「おれは素人しろうとで、こんな物の眼利きは出来ねえが、彩色いろどりといい、木目もくめといい、どう見ても拵え物じゃあねえらしい。こりゃあ確かに本物だ」
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かく呼んだのであろう〕今にうで一本で食べて行かなければならない者が素人しろうとのこいさんに及ばないようでは心細いぞといった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
して紙数しすうは無かつたけれど、素人しろうと手拵てごしらえにした物としては、すこぶ上出来じやうできで、好雑誌こうざつしひやうが有つたので、これ我楽多文庫がらくたぶんこの第四期です
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ビスマアク街一五五にブラッチ夫人というのがやはり素人しろうと下宿をやっている。まもなくロイド夫妻はこの家へ現われて間借りを申し込んだ。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
……僕はほとんど法律家とは言えず、たかだか素人しろうと検事というくらいのところだが、その僕をして言わしむれば、こういうことになるんだ。
その他弁護士に関する諺は随分沢山あるが、おおむね皆な素人しろうとこしらえた悪口であって、ちょうど我邦の川柳に医者の悪口が多いのと同様である。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
商売人の船頭にはよく釣れて、素人しろうと釣りにはさっぱり釣れない。しかし、船頭の餌にも同じ率で魚は窺い寄っているものだ。
鯛釣り素人咄 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
今それをアニリン染料せんりょうの紫にくらぶれば、地色じいろ派手はででないから、玄人くろうとが見ればっているが、素人しろうとの前では損をするわけだ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
油断をすると此方こっちの方があぶないぞ、馬鹿なやつだあれを知らぬかなどゝ、い加減に饒舌しゃべれば、書生の素人しろうとへた囲碁で、助言じょげんもとより勝手次第で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
素人しろうとの浄瑠璃は鼻の先に巣くつてゐるが、呂昇のやうな黒人くろうとのは、何処に隠れてゐるのか医者にも一寸判らないといふ事だ。
素人しろうとながらも、何らせいある音を聞き得ない。水をいたかと聞けば、吐かないという。しかし腹に水のあるようすもない。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
たるむとは一句の聞えおのずかゆるみてしまらぬ心地するをいふ。たとへば琴の糸のしまりをるとしまりをらぬとは素人しろうとが聞きても自ら差違あるが如し。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これは下層民に金が多いのと、射倖心しゃこうしんが旺盛なのと、素人しろうと賭博が殖えたのと、家がバラックで露見し易いなぞいう原因からこうなったのである。
素人しろうと下宿の二階の一室になったへやの中には、洋燈ランプの石油の泡のような匂いがあって、それがノートのページをるたびにそそりと動くのであった。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
以上は舞踊について全然素人しろうとである自分の印象である。いろいろ間違った個所もあるかと思うが、とにかく印象の薄らがない内に書きつけておく。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その素人しろうとっぽい素朴なリアリズムの態度にふれた、彼の言葉の一部にある浅さをも、蒲原に自覚させているらしかった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
仲麿は作歌の素人しろうとなために、この差別があるともおもうが、抒情詩の根本問題は、素人しろうと玄人くろうとなどの問題などではない。よって此歌を選んで置いた。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)