きわ)” の例文
従ってまた死して行く処には迷わずにいられたのである。それが正しかったか否かは、私たち歴史をきわむる者の問うところではない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
というのは、不幸な飯塚薪左衛門親子を苦しめる、五郎蔵という、博徒の親分の正体を見きわめようために、やって来た彼だからである。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いや、それだけではすまされないのだ。そういう筋道を辿たどってきわめて行けば、思想の開顕という概念が得られそうに思うからだね。
同じ心持で清少納言や鴨長明かものちょうめいを読み、馬琴や京伝三馬の俗文学までもきわめ、課題の文章を練習するつもりで近松や馬琴の真似をしたり
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私はその間ここにいては邪魔じゃまになるから、例の小説の資料を採訪すべく、五六日の予定でさらに深く吉野川の源流地方をきわめて来る。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今迄むさぼっていた母の乳房を離して、その澄んだ瞳を上げて、それが何物であるかをきわめようとする時のような様子をしていたように思う。
幼い頃の記憶 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
童謡俚諺りげんを尋ね、あるいは古音旧辞をきわめ、歌詞楽舞を伝えて、古史研究に文献学に少からぬ寄与をされた功は特筆せねばなるまいと思う。
また、多少の身びいきや偏見がまじっていたとしても、自分というもののほんとうの姿を、だいたいにおいて正しく見きわめることが出来た。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
何よりは、そなたに取って、共につちを持ち、刀の鍛錬をきわめるに、よい相手がない。弟子もない。それを環は苦にしていやる。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに最も多く人世を観じ、最も多く人世の秘奥ひおうきわむるという詩人なる怪物の最も多く恋愛に罪業ざいごうを作るはそもそ如何いかなる理ぞ
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
事物の真実をきわめまたそれによって国民の思想と行動とをその上に立たせようとする学問の本質と価値とを理解するに至らないためであった。
これをお化け囃子と名づけ、天狗のいたずらと怖れてしまうのは、それをきわめる人に、究めるだけの勇気と根気とがないせいでありましょう。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
表現の直接の目的は、社会の実情を観照し、人情をきわめ、風俗を知り、旅行の到るところに観察を見出みいだすことに存している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
汝等世の人、ことわりきわむるにあたりて同一おなじひとつの路を歩まず、これ外見みえを飾るの慾と思ひとに迷はさるゝによりてなり 八五—八七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
眼に映ずると同時に心眼に映ずる処の物象の確実な相をつかみよく了解し、よく知りよくわきまえ、その成立ちをきわめる事が肝要ではないかと思う。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
朱雀すざく院は重い学問のほうは奥をきわめておいでになると言われておいでにならないが、芸術的な趣味の豊かな方としてすぐれておいでになりながら
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
然れどもこはいまだよく江戸演劇の性質をきわめざる者の謬見びゅうけんなり。余は江戸演劇を以て仏蘭西フランスのオペラコミックの如き物に比較せんと欲するなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
友釣でも、ドブ釣でも技術の真髄をきわめようとするには、どうしても鮎と水垢との関係をつまびらかにして置く必要がある。
水垢を凝視す (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
いまだ碌に御府内を見たことが無いというから同道して来たが、起倒流きとうりゅうの奥儀をきわめあるだけあって、膂力ちからが強いばかりで、頓と風流気ふうりゅうぎのない武骨者じゃ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すなわち前記W氏の観察と、三項の談話とを通じて、この事件の真相をきわむべき、観察要項を列挙すれば左の如し。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつぞはこの川の出ずるところをもきわめ、武蔵禰乃乎美禰といにしえの人のみけんあたりの山々をも見んなど思いしことの数次しばしばなりしが、ある時は須田の堤の上
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不可避にしたところの根本的矛盾をきわめることなしには、問題解決の糸口をつかむことこそ不可能であろう。
犬を愛し犬の習性を深くきわめ尽くした作者でなければ到底表現することのできない真実さを表現している。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
真を描く文学は、真をきわめさえすればよろしいとなる。その結果他の情操と衝突しても、まあ好いとする。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
別れた時の言葉はまるで忘れたような今の葉子の電話のさわやかさには、自身に閉じもってもいられないような衝動が感じられ、変転きわまりない彼女の行動を
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もっぱらひとりを慎んで古聖賢の道をきわめ、学んでしこうして時にこれを習っても、遠方から福音の訪れ来る気配はさらに無く、毎日毎日、忍び難い侮辱ばかり受けて
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
たとい八万の法蔵をきわめたとて、極楽の門が開けるわけではありません。念仏だけが正定しょうじょうごうです。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ものの真相はなかなか小さな虫の生活でさえきわめられるものではない。人間と人間との交渉など、どうして満足にそのすべてを見尽せよう。到底及びもつかないことだ。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
野村の生れや育ちにだけたよって、作家である現在の野村をきわめなかったことは、誰も彼もうかつであったというしかない。その限りでは閑子をせめることは出来ない。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
蜘蛛くもの巣に顔を包まれては土蜘蛛の精を思い出して逃げかえった。しかしこうして踏み馴れた道を知らず知らずに造って私はついにわが家の庭の奥底をきわめたのであった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
私は、いささかながらあの魔境について知っております。あなたが、五か年の辛苦のすえやっときわめたもの以上を、私は、ヨーロッパにおりながら不思議にも存じているのです。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
煙草を口元からってその物の音をきわめようとする間もなく、家がぐらぐらと揺れだし、畳は性のあるものが飛び出そうとでもするかのように、むくむくと持ちあがりだした。
死体の匂い (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
国語に「あやし」といふ語幾様の意味に用うるや能くきわめずといへども、昔は見苦しきしずをあやしげなる家など言ひたるは少からず。されどそは此処ここに用うべきにあらず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これより外に、その夫人が良人おっとのいい土産でありその上彼女の可愛い小さな娘たちのいい友達を人手に渡そうなどと思い立つ理由を、わたしは思いきわめることが出来ないのです。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
申されるのじゃ。このに及んで武儀の頓着は一切無用じゃ。愚僧は、もはや分別をきわめ申した。御身を敵と思う妄念は一切断ち申す。もし、貴僧にお志あらば、亡父の後生菩提を
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これを利用すればまたすこぶる有用のものであることも論をまたない。しかしあくまで科学的の研究をしてその性質をきわめなければ、利用の効果を十分に挙げ得ないことも明かである。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
藤井はしょう何人なんびとなるかを問いきわむる暇もなく、その人にひかれて来り見れば、何ぞはからん従妹じゅうまいの妾なりけるに、更に思い寄らぬていにて、何故なにゆえの東上にや、両親には許可を得たりやなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
教ゆる者の説明如何いかねんごろなるも学ぶ者が熱心に練習せざれば料理の道をきわがたし。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いわゆる蛇は寸にしてその気ありだ。蟾蜍ひきがえるなど蛙類に進退きわまる時頭を以て敵を押し退けんとする性あり。コープ博士だったかかくてこの輩の頭に追々角がえる筈といったと覚える。
十年相かさなりて百年たり。一日なお遠し、一時にあり。一時なお長し、一刻にあり。一刻なおあまれり、一分にあり。ここを以っていう時は千万歳のつもりも、一分より出で、一日にきわまれり
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
民情に通じ、下賤げせんきわめることをもって奉行職の一必要事とかんじている越前守は、お役の暇を見てよくこうして江戸の巷を漫然まんぜんと散策することを心がけてもいたし、またこのんでもいたのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
江戸司直の手は、最近ことに手きびしく、この怪人の行方ゆくえを、追いきわめていた。あまりに屡々しばしば、権門富家の厳重なしまりを、自由に破られるので、今や、警吏の威信が疑われて来ているのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
二つの道をいかにすべきかをきわめあぐんだ時、人はたまりかねて解決以外の解決に走る。なんでもいいから気の落ち付く方法を作りたい。人と人とが互いに不安の眼を張って顔を合わせたくない。
二つの道 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
なるほど、なにごとにしても、理をきわめんとすれば心理学の原理に入らざるを得ないから、容易よういならざる専門的研究となるが、吾人ごじんの平常むべき道はやぶの中にあるでなし、絶壁ぜっぺき断巌だんがん沿うでもない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
正不正をきわむる事をせずに請け売りして騒ぐ。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「それ程、無念と思うなら、この後は心をいましめて、一心に道をきわめて行くことじゃ。……涙などこぼして、見苦しい。その顔を拭きなされ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまだきわめられざる文化史上の大いなる動力、殊に近世における複雑なる変遷が、原因であったということを認めるをもって足るかと思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
またはその事件その行動によって如何なる社会状態が形成し得られたかをきわめるか、いずれかの方法をとらねばなるまい。
「そこまではきわめてみませんでしたが、斎藤先生の門下であり、流儀が神道無念流であることは、争われません」
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もう天命きわまったと思うと、一寸指の先へ障りましたのは、先刻さっきふと女房に聞いた柿の皮を剥く庖丁と云う鯵切あじきりの様な物が、これが手に障ったのをさいわい
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)