いしずゑ)” の例文
つやゝかな天鵞絨びろうどのやうな芝生が、邸宅のいしずゑを近く圍み、公園程もある野には昔ながらの森林が點在し、焦茶色こげちやいろの、葉の落ちた森は
だ、予は従来の一切の経験を以て、わが不動の信念のいしずゑとせんには、尚ほしかすがに一点の虧隙きげきあるを感ぜざるを得ざりし也。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
クリストはその最初の弟子達に向ひ、往きて徒言あだことを世に宣傳のべつたへといひ給はず、まこといしずゑをかれらに授け給ひたり 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ても角ても叶はぬ命ならば、御所のいしずゑまくらにして、魚山ぎよさん夜嵐よあらしかばねを吹かせてこそ、りてもかんばしき天晴あつぱれ名門めいもん末路まつろなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
島を囲む黒いさゞなみがぴたぴたとそのいしずゑを洗ふ如くに、夜よりもくらい無数の房々がその明るい大広間を取り巻いてゐる。
いしずゑの朽ちた塔のやうに、幾度いくたびもゆらゆらと立ちすくんだが、雨風よりも更に難儀だつたは、けしからず肩のわらんべが次第に重うなつたことでおぢやる。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
是れは神の前に耻づべきことです、万国は互にきそうて滅亡に急ぎつゝあるです、私共は彼等を呼び留めますまい、むし退しりぞいて新しき王国のいしずゑを据ゑませう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
八五郎は平次に言はれた通り、燒跡の眞ん中のいしずゑの上に、その竿を据ゑて、精一杯眞つ直ぐに押つ立てます。
はしらまる材木もくざいをそのまゝ、あるひはかはをむいてもちひ、はしらしたにはいしずゑもない、掘立ほつた小屋ごやといふふうなものであつたので、今日こんにちそのあとはなにものこつてをりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
勘次かんじ依然いぜんとして俛首うなだれたまゝつひとなり主人しゆじんもんくゞつた。燒趾やけあといしずゑとゞめて清潔きれいはらはれてあつた。中央ちうあうおほきかつた建物たてものうしなつてには喬木けうぼくかこまれてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
天守てんしゆいしずゑつち後脚あとあしんで、前脚まへあしうへげて、たかむねいだくやうにけたとおもふと、一階目いつかいめ廻廊くわいらうめいた板敷いたじきへ、ぬい、とのぼつて外周囲そとまはりをぐるりと歩行あるいた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こゝろなく投げかさねたらむやうに見ゆる、いしずゑの間より、水流れ落ちて、月はあたかも好し棟の上にぞ照りわたれる。河伯うみのかみの像は、重き石衣いしごろもを風に吹かせて、大なる瀧を見おろしたり。
到るところ苔むすいしずゑのみがのこつて、穗を吹いてゐる薄や名も知れぬ雜草に蔽はれてゐる。
滑川畔にて (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
其れを取囲とりかこんだ一町四方もある広い敷地は、桑畑や大根畑に成つて居て、出入でいりの百姓が折々をり/\植附うゑつけ草取くさとりに来るが、てらの入口の、昔は大門だいもんがあつたと云ふ、いしずゑの残つて居るあたりから
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
わかくして思ひ合ひたる楽しみをいしずゑとする人間の塔
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いづれ大厦たいかいしずゑや、彼方かなたを見れば斷え續く
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
彼れ、いしずゑの堅牢のその宮殿の壁のそば
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
わづかに残るいしずゑに寄せてめる
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
すたれ立ついしずゑえて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その不思議な感情の衝動ショックは、ポオルとサイラスの牢獄のいしずゑを搖り動かした地震のやうにやつて來たのである。
三年前まで、萬兩分限の榮華を誇つた菱屋の跡は、取壞した跡のいしずゑと、少しばかりの板塀を殘すだけ。
たゞ、今少いますこのち時代じだいのおてら宮殿きゆうでんなどから、はしらいしずゑかはらがたくさんみつかるだけであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
唯今たゞいまはなしをする、……わたし出會であひましたのは、うもにはつくつた大池おほいけつたらしい。もつとも、居周圍ゐまはりはしらあとらしいいしずゑ見當みあたりません。が、それとてもうもれたのかもれません。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕等の散文も羅馬ロオマのやうに一日に成つたものではない。僕等の散文は明治の昔からじりじり成長をつづけて来たものである。そのいしずゑゑたものは明治初期の作家たちであらう。
わが滿身の鮮血はとろけ散りて氣となり、この天この水と同化し去らんと欲す。われは小兒の如く啼きて、涙は兩頬に垂れたり。市に大なる白堊しろつちの屋ありて、波はそのいしずゑを打てり。
一切の徳のいしずゑなるこの貴き珠は 八八—九〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
殘りたる瑠璃るりいしずゑ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いしずゑ二人ふたりの命
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
こは瘴氣しやうきを恐るればなり。亭は皆白壁なれど、いしずゑより簷端のきば迄、緑いろなるかび隙間なく生ひたり。人も家も、べて腐朽の色をあらはして、日暖に草緑なる四邊あたりの景と相容れざるものゝ如し。
が事を起す前に七人の同志と江戸に潜行せんかうし將軍御膝元で事を擧げるつもりでしたが、島原の亂も案外早く平定し、徳川のいしずゑはいよ/\鞏固きようこで、痩浪人の策動では何うにもならないと解ると
このいしずゑならかたて、そこにはどういふかたち御堂おどうつてゐたかゞられます。もちろんこの時分じぶんのおてら建築けんちくで、今日こんにちもなほむかしいしづゑうへつてゐるものも、たまにはめづらしくのこつてゐます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
蚊柱かばしらいしずゑとなる捨子すてこかな
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)