)” の例文
いろいろな国を遍歴し、変転きわまりない人生模様をのあたりに見た。わたしはそういうものを哲学者の眼で学んだとはいえない。
この意見は、本来はなんの根拠もないものではあるが、のあたり眺めたときには私の想像力がすぐなるほどと思ったものであった。
胆吹山から吹きおろす大風の中に、袖を翻して、ひたすらに山路を登る弁信の姿を、いと小さく、まざまざとのあたりに見ました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから数分後に、私はそのおおきな岩をのあたりに見ることのできる、例の見棄みすてられたヴィラの庭のなかに自分自身を見出みいだした。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
およそある場合の覚悟はしていたものの、のあたりに、弦之丞が短銃の一弾に仆れたのを見たお綱が、こうなるのは当然であった。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老いたる法師 これは面妖めんえうな事を承るものぢや。では御坊は阿弥陀仏が、今にもありありとのあたりに、拝ませられると御思ひかな?
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
同時にまた、教科書の間に隠した『梅暦うめごよみ』や小三こさん金五郎きんごろうの叙景文をばあたりに見る川筋の実景に対照させて喜んだ事も度々であった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何故なぜ窓の前に置かないのだと、友達がこの部屋の主人に問うたら、窓掛を引けば日が這入らない、引かなければぶしいと云った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
院をのあたり見て罪の自責に苦しんだために逆上したのであろうが、それほど臆病おくびょうな自分ではなかったはずであるがと悲しんだ。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
抜足差足、跫音あしおとを忍ばせて墓石と墓石のあいだを歩いて行き、彼は眼を覆わしめるような冒涜行為をのあたりに見たのである。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
その若葉のなかには死んだお前のなざしや嘆きがまざまざと残っているようにおもえた。……僕はもっとはっきりおもいだす。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
不折ふせつは古碑の文字古法帖の文字などのあたり示して※※吉などの字の必ずしも入にあらず必ずしも士にあらざる事を説明せり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
われはサンタの艶色を憶ひ起して、心目にその燃ゆる如きなざしを見心耳にその渇せる如き聲音こわねを聞き、我と我を嘲り我と我をいやしめり。
いや、ばばあどのも、かげながら伝え聞いて申しておる。村越の御子息が、のあたり立身出世は格別じゃ、が、就中なかんずくえらいのはこの働きじゃ。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて竜伏いしずゑは其月の生気の方より右旋みぎめぐりに次第据ゑ行き五星を祭り、てうな初めの大礼には鍛冶の道をば創められしあま一箇ひとつみこと
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ところでわれわれ近代の人間にとっては極楽の蓮華れんげの上の昼寝よりはのあたりに見る処の地獄の責苦せめくの方により多くの興味を覚えるのである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
本来ならその風景をのあたり見せるに越したことはないが、その便利がないために言葉をかりて説明するものである。
これだけのことが、みんな、ほんのばたきひとつするまに、できあがってしまいました。妖女ようじょというものは、まったくしごとの早いものですね。
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
僕はのあたりに古代人を見たのだ。その生きてゐる姿を見たのだ。もし生きてゐると言つて悪ければ、生きてゐる以上の、と言ひ直してもいい。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
平生僕がのあたりに見ているあの柔和にゅうわな母が、どうしてこう真面目まじめになれるだろうと驚ろくくらい、厳粛な気象きしょうで僕を打ちえる事さえあった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
婚約した愛人の死をのあたり見ている少女も、死んだ子を悲しんでからの乳母車をのぞき込んでいる母も、天界の楽園を追われてその門に立つイヴも
山にあふるゝ善男善女は、唯もう『あれよ/\』と言ふばかり、今は尊い修驗者に對する讃仰さんがうの夢も醒めて、さながのあたりに地獄變相圖を見るの心地。
ですが何たる幸いなことか、孤島の沖縄に来るとその力がまだ決して亡びていないのをのあたりに見得るのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そうでなくても、経文の上に伝えた浄土の荘厳しょうごんをうつすその建て物の様は想像せぬではなかった。だがのあたり見る尊さは唯息を呑むばかりであった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
しかし、さすがの彼の雄弁と努力も、のあたり今きた三角の印が、ひろ子に与えた影響にはかなわなかつた。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
あたり彼等の親しい様子を見せつけられては、今更らの様に、烈しい嫉妬を感じないではいられなかった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『論語』を見ると、孔子その人をあたりに見る樣な心地がせられ、殊にその郷黨篇には、飮食より坐臥に至る迄、孔子の生活状態を描き出して殆ど遺憾がない。
「無保険の選手、日本人、H・大津の当日の奮戦振りは恰も満洲の戦塵に全く自己を忘れて戦ひ抜いてゐる日本兵士の大和魂ザ・スピリツト・オヴ・チエリーのあたりに見る慨があつた。」
サクラの花びら (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
何でもないことだがこれでばたきをせぬようになると、ちょっと変った顔に見えるのを興じたのである。
王子はその長いすのそばのテイブルのところへいって、ひじをついて、手のひらでおとがいをささえながら、ばたきもしないで、王女の顔を見つめていました。
ぶくぶく長々火の目小僧 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
きのう、私が地獄絵図を見て来たならば、今のあたりに見る光景は、極楽浄土絵でなくて何であろう。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
父親がしょんぼりかえって行ったあと、ラ・ベルも、さすがにぶたがおもたくなりましたが、むりに涙をはらいのけて、御殿の中じゅうあるきまわってみました。
ここにつれよ太郎と呼ぶに、いづちにて求めぬらん、軍将等いくさぎみたちき給ふべき輝々しき物を買ひたるはよからぬ事、御のあたりに召して一四〇問ひあきらめ給へ。
その昔崇徳天皇の御代の長承の頃にも、この様な飢饉のあったと云うことを私は聞いているのであるが、その時の状況はのあたり見たのではないから全く知らない。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
けれども、戰爭をしてる國民の志向と感情と行動の現れだけはのあたり觀察することができた。
大戦脱出記 (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
おやぢ臭く思はれる内地がのあたり、脊の高い、大きな鼻のさきの赤い、目の鋭い、巖丈がんぢやうな、白髯はくぜんの老翁と見えて來て、やがて、義雄を力強くその面前に引きすゑて
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
大切おおぎりの越後獅子の中ほどへくると、浅太郎や長三郎の踊りが、お絹の目にもだるっこく見えた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何かいおうとしたが、言語障害げんごしょうがいを伴った重吉は、ただうふ、うふと泣くとも笑うともつかぬ声を出し、もどかしそうに左手で自分の口を指しては必死のなざしをした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
わたしは、つい皇子おうじのあたりにられませんでした。しかし、たしかにいてまいりました。皇子おうじ御殿ごてんからそとられますときは、いつもくろ馬車ばしゃっていられます。
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
現にかわやに入りて、職業用の鋏刀はさみもて自殺をくわだてし女囚をば妾もの当りに見て親しく知れりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
松村と言へる弁護士の妻女は、独り初めより怪しげに打ちもり居たりしが「先生、わたしも山木様の御縁談の御噂おうはさをお聞き申しましたが、只今の御話とはこし違ふ様ですよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
何といっても、五日の夜中の実験に立会って、零時五十一分に十個の卵がちゃんと立ったのをのあたり見ているのだから、それだけの説明では物足りなかったのも無理はない。
立春の卵 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
石垣のところには雪下ゆきのしたなどがあのばたきするやうな白い小さな花を見せて居りました。そこは一方の裏木戸へ續いて、その外に稻荷が祭つてあります。栗の樹が立つて居ます。
栄三郎の暮しをのあたりに見て、現にお艶と向かいあいながら、さて、その憎い女の口から主人の栄三郎は——などといわれてみると、根が武家そだちの一本気な弥生だけに
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私が郷里で見た開化絵をのあたり見るような気持であったが、そのころまでは東京にもレールの上を走る馬車はなかったものである。この馬車は電車の出来るまで続いたわけである。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いいさして足をえつ。十とせの昔、楽しきいろり見捨てぬるよりこのかた、いまだこのようなるうれしき火にわざりき。いいつつ火の奥を見つむるなざしは遠きものを眺むるごとし。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
点々として畑中白くなっているその棉に朝日がさしているとぶしい様に綺麗だ。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
研究員たちは、この学界の英雄をのあたり見て、すっかり興奮してしまった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勝ちて相問うことを得ず、天鈿女あまのうずめすなわちその胸乳むなぢあらわにかきいでて、裳帯もひもを臍の下におしたれて、咲噱あざわらいて向きて立つ〉、その名を問うて猿田彦大神なるを知り、〈鈿女また問いて曰く
「あのめえがこわいのや。あて、あのやうにばたきせん眼を見た事無いわ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)