白衣びゃくえ)” の例文
光子さんは観音さんのポーズするのに、なんぞ白衣びゃくえの代りになるような白い布がほしいいうのんで、ベッドのシーツがしました。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
白衣びゃくえを着ていることが闇でもよくわかるから、人間には相違ないが、暗い中を手さぐりで、ようようとこっちの方へ向いて来ます。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
細い両眼の外は黒一色の影法師の背中に、長い髪の毛をふり乱した、白衣びゃくえの青ざめた女幽霊が、ぶさるようにしがみついているのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
白衣びゃくえを着て、黒い袈裟けさをかけて、端麗で白皙はくせきな青年は俗界のちりの何ものにもまだ染まっていなかった。処女のように、きれいであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じ烏帽子、紫の紐を深く、袖を並べて面伏おもぶせそうな、多一は浅葱紗あさぎしゃ素袍すおう着て、白衣びゃくえの袖をつつましやかに、膝に両手を差置いた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
隻眼隻腕の白衣びゃくえの浪人、うしろに御殿女中くずれのような風俗なりの女が、一人つきそって、浪人が、木枯しのような声できくには
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夜の闇が四辺あたりを領している。ズンズン恐れず巫女が行く。着ている白衣びゃくえが生白く見える。時々月光が木間を洩れ、肩のあたりをうすく照らす。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此のせぼけたおとなしい寂心を授戒の師とし、自分は白衣びゃくえの弟子として、しおらしく其前に坐ったかと思うと、おかしいような気がする。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
心外道人は白衣びゃくえのまま、ひざのチリをはらって立あがると、月子はもう、飛びあがってそのせんとうに立ったのです。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いかにも可憐かれんらしく小さい小坊主が、ものもいわず、にこりともせず、白衣びゃくえのえりを正しながら、ちょこなんと置き物のようにすわっているのでした。
そして太子たいしとおきさきとはその日おし、あたらしい白衣びゃくえにお着替きかえになって、お二人ふたり夢殿ゆめどのにおはいりになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それは外科手術用ののこぎりや、メスや、消毒剤などだ。メスを握り、白衣びゃくえの腕をまくり、大男の屍骸に居ざりよって
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
振返ると、お隣の窓が開いて、白い頭布タアベンを捲いた印度人の頭が、続いて白衣びゃくえの肩が出て来ました。——「東印度水夫ラスカアだ。」と、セエラはすぐ思いました。
花は蒼穹そうきゅうを呼吸し、自動車は薫風をつんざいて走り、自動車に犬が吠え、犬は白衣びゃくえの佳人がパラソルを傾けて叱り、そのぱらそるに——やっぱり日光がそそぐ。
その途中吊台のおおいすきから外の方を見ると、寒詣かんまいりらしい白衣びゃくえの一面にまんじを書いた行者らしい男が、手にした提灯ちょうちんをぶらぶらさせながら後になり前になりして歩いていた。
天井裏の妖婆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
実にその物凄く快濶かいかつなる有様に見惚みとれて私は湖岸の断壁岩だんぺきがん屹立きつりつして遙かに雲間に隠顕いんけんするところのヒマラヤ雪峰を見ますると儼然げんぜんたる白衣びゃくえの神仙が雲間に震動するがごとく
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その雲の中からでも降りてきたように長髪白衣びゃくえの鏡を胸にかけた男は、雪道の上を此方こちらにざくざくと歩いて来た。彼方にはの杉の木と、藁屋が、それも遠方に見えるばかりである。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
早速さっそくまだうら若き身を白衣びゃくえ姿に変えて、納経のうきょうふところにして、ある年の秋、一人ふいとおのれの故郷をあとにして、遂に千ヶ寺詣せんがじもうでの旅にのぼったのであった、すると、それから余程よほど月日も経ったが
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
用人は、炭を、薪を、投げつけたが、用人の後の白衣びゃくえを着た上野の姿を見つけると
吉良上野の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それではというので師匠は白衣びゃくえ観音を出品することにしたのでありますが、そこで師匠が私に向い、今度の博覧会で白衣観音を出すことにしたから、これは幸吉お前が引き受けてやってくれ
和田仁十郎以下の門人達は白衣びゃくえを着て、その旛の下、壇の周囲に坐して「大威怒鳥芻渋麽儀軌だいぬちょうすうじゅうまぎき経」、「仏頂尊勝陀羅尼」、「瑜伽ゆか大教王経」、「妙吉祥平等観門大教主経」等の書巻を膝の上にもって
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
月明に木履ぼくりの音を響かせて濶歩して行くというわけでもなく、着流しの白衣びゃくえの裾から、よく見ると足の存在をさえ疑うほどの歩みぶり。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と今度は、孔雀扇くじゃくせんを胸に当てた白衣びゃくえ黒帯こくたいの老人がンがり靴をヒョコヒョコ舞台中央まで運ばせて来て、オホンと一つまず客を笑わせ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銀燭台に身をそむけて、夜食をベラベラ食べているのは、大原の住職法印良忠で、法衣ころもはつけず白衣びゃくえばかりの丸腰、禿げ頭を光からせていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
変てこな白衣びゃくえの侍が、左手に剣をふるって、やにわに斬りこんできたので、健気にもあの植木屋が、気を失った自分の刀を取って防いでくれた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
手術台なる伯爵夫人は、純潔なる白衣びゃくえまといて、死骸しがいのごとく横たわれる、顔の色あくまで白く、鼻高く、おとがい細りて手足は綾羅りょうらにだも堪えざるべし。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だって、妙じゃないか。幽霊船が、やっぱり、ほんとうの幽霊船なら、あの白衣びゃくえの老人も亡霊にちがいないよ」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
さりとてはしからずうるわしきまぼろしの花輪の中に愛嬌あいきょうたたえたるお辰、気高きばかりか後光朦朧もうろうとさして白衣びゃくえの観音、古人にもこれ程のほりなしとすきな道に慌惚うっとりとなる時、物のひびきゆる冬の夜
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
白衣びゃくえひだ工合ぐあい研究して、なおその上観音さんの感じ出せたらええ訳ですやろ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
無表情な顔をならべて関釜かんぷ連絡T丸の船艙へ流れこむ朝鮮人の白衣びゃくえの列。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
かたまってようやくの思いをして帰ったとの事だが、こればかりは、老爺おやじが窓のところへたつて行って、受取うけとった白衣びゃくえ納経のうきょうとを、あたり見たのだから確実のだんだといって、私にはなしたのである。
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
八月の六日になって、河野は大和の葛城山かつらぎざんへ登ってその頂上で修練を始めた。草の上に安坐趺跏あんざふかして、おのれの精神を幽玄微妙ゆうげんびみょうさかいに遊ばしている白衣びゃくえを着た河野の姿は夜になってもうごかなかった。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は僧形そうぎょう白衣びゃくえの裾をひるがえして急勾配こうばいの屋根をはった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その中に心憎くも澄ましきって、座を構えてしきりに短笛をろうしている白衣びゃくえの人の姿、それが、また極めてハッキリと浮び出て来ました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あの山伏は、おそらく九度山くどやまの一類だろう。兜巾ときん白衣びゃくえ鎧甲よろいかぶとに着かえれば、何のなにがしと、相当な名のある古強者ふるつわものにちがいない」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
枕許に看護婦一にん、右に宿直の国手いしゃたたずんで、そのわきに別に一人、……白衣びゃくえなるが、それは、窈窕ようちょうたる佳人であった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの白衣びゃくえの浪人が暴れこんで、道場の跡目になおろうとしていたまぎわの、峰丹波にじゃまを入れ、多くの門弟を斬ったのみか、萩乃をつれて消えうせた。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
白衣びゃくえの怪老人は、そのまま船室の方へ消えたが、再び現われたとき、例の大きな鞄を抱えてやって来た。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
可哀そうに! ……人間ではないもののだ! 死骸を抱えて、突っ立って、のべつにしゃべっておちつき払って、白衣びゃくえを纒って、白髪だ! ……うしろは藪地
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
マンドリンで「君が代」を奏しながらH丸の下で投げ銭を待つ伊太利イタリー人の老夫婦。ドックに響く夜業の鉄鎚てっつい。古着と安香水を売りに船へ来る無帽の女。尼さんの一行。白衣びゃくえ巴里パリーベネデクト教団。
胸からは白衣びゃくえを染めて真赤な血が流れ出していた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雨露によごれた白衣びゃくえを短く着、笈の上から天蓋をかざしている。左の手には、旗を持っていた。旗の文字も、雨に流れているが
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、今夜もまた、早瀬の病室の前で、道子に別れた二人の白衣びゃくえが、多時しばらく宙にかかったようになって、欄干の処に居た。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身に白衣びゃくえを着て、手には金剛杖こんごうづえをついている。この大竹藪の夜は、幸いにして見通す限り両側に燈籠とうろうがついている。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
衣裳といえば白衣びゃくえであって、長い袖が風にひるがえり、巨大な蛾などが飛んでいるように見える。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
声とともにその鎧櫃の中から、スックと立ち上がった白衣びゃくえの異相を眼にしたときには、傲岸奸略ごうがんかんりゃく、人を人とも思わない丹波も、ア、ア、アと言ったきり、咽喉がひきつりました。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あわててそれをさえぎる老婆の悲鳴やら、李逵りきを叱る戴宗の声が、ここの静寂しじまを破ッたと思うと、彼方の薬園から身に白衣びゃくえをつけた一壮士が
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身代りになるおんななぞは、白衣びゃくえを着せてひなにしょう。芋殻いもがらの柱で突立つったたせて、やの、数珠じゅずの玉を胸に掛けさせ
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに心あって吹く業火ごうかでもあるかのように、一時に襲い来った風のために、弁信のまとうていた黒の法衣ころもを吹きめくられて、白衣びゃくえの裾が現われてしまいました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すぐと土間へはいって来たのは、牛丸と岩太郎と白衣びゃくえを着たすなわち「妙な人」とであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)