爪立つまだ)” の例文
あるひ屹度きつと、及第の通知が間違つてゐたのではないかと、うつたへるやうにして父兄席を見ると、木綿の紋付袴もんつきはかまの父は人の肩越しに爪立つまだ
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
哲郎は起って女と並んだ時、爪立つまだちをめた女の体がもったりともたれて来た。哲郎はその女の体を支えながらボール箱に手をやった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
生身いきみでは渡られない。霊魂たましいだけなら乗れようものを。あの、樹立こだちに包まれた木戸きどの中には、その人が、と足を爪立つまだったりなんぞして。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
タネリは、こっそり爪立つまだてをして、その一本のそばへ進んで、耳をぴったり茶いろな幹にあてがって、なかのようすをうかがいました。
よる燭火ともしびきて、うれしげなあしためが霧立きりたやまいたゞきにもうあし爪立つまだてゝゐる。はやぬればいのちたすかり、とゞまればなねばならぬ。
彼女は丁度ちょうど奥の窓から額際ひたいぎわに落ちるキラキラした朝の日光ひかげまぶしさうに眼をしかめながら、しきいのうへに爪立つまだつやうにして黒い外套がいとうを脱いだ。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
女は足を爪立つまだてて台所へ出て、女中に病室へ行っているように差図した。それから帽子と蝙蝠傘こうもりがさとを持って、飛ぶように梯子段はしごだんを降りた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
草鞋わらじ爪立つまだてるように、抜足をするように、手拭に遠慮をするように、廻った。こわそうにも見えた。面白そうにもあった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少なくとも自分を追い払う者は誰もないとブロックは見てとり、顔を緊張させ、後ろにまわした両手を痙攣けいれんさせながら、爪立つまだちではいってきた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
可愛いダンスの草履を穿いた白足袋の足を爪立つまだてて、くるりくるりと身をひるがえすと、華やかな長いたもとがひらひらと舞います。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どこかで何かくぎでも打っているような風である……彼は窓ぎわへ行って爪立つまだちしながら、異常な注意集中の表情で、内庭の中を目で捜してみた。
足を爪立つまだてるようにして中二階の前の生垣いけがきのそばまで来て、垣根しに上を見あげた。二階はしんとしている。この時母屋おもやでドッと笑い声がした。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
儀作がつりこまれて、爪立つまだちして道のむこうを望み見たとき。パッともと来たほうへかけだしたんです、与吉の野郎。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
えんじゅの根もとに走り寄った敏子は、空気草履くうきぞうり爪立つまだてながら、出来るだけ腕を伸ばして見た。しかし籠を吊した枝には、容易に指さえとどこうとしない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
キューテックの染料でつめを染め、きつね一匹をまるごと首に巻きつけ、大蛇だいじゃの皮のくつ爪立つまだってはき歩く姿を昔の女の眼前に出現させたらどうであったか。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お銀は人の肩越しに、足を爪立つまだてて、花道から出て来る八百蔵やおぞうの加藤を、やっと頭の先だけ見ることができた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
片手は土手の草に取つき、ずーと立上ったが爪立つまだってブル/\っと反身そりみに成る途端にがら/\/\/\と口から血反吐ちへどを吐きながらドンと前へ倒れた時は
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
またあのマタ・アリが来るというんで爪立つまだちして待ちかまえていた。ニュウリイに素晴らしいアパアトメントがとってある。戦時でも、パリーの灯は華やかだ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
太陽が西を見つけ出したようなその喜び‥‥船の中の人たちは思わず足爪立つまだてんばかりに総立ちになった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その内に又た人を押分けて来て、リツプの腕を握つたのは、忙し気な丈の低い男で、足を爪立つまだてゝ耳に口を寄せ、「君は聯合党員ですか、または民政党員ですか、」
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
私は時を置いて三四度、部屋の中を爪立つまだち歩きをして廻って見たが、どうにもならない。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私はついにあるとき、そっと爪立つまだちをして、ふすまの引き手の破目われめから中をのぞいて見た……。
さてこそと身を潜めひそかに家の外に出で、背戸の方に廻りて見れば、まさしく狐にて首を流し元の穴に入れ後足を爪立つまだててゐたり。ありあはせたる棒をもてこれを打ち殺したり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
私も一生懸命でしたよ。爪立つまだちして伊藤公のかつがれて行くのを見ていました——。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
勾配こうばいがつかぬので、屋根は海鼠板なまこいたのトタンにし、爪立つまだてば頭がつかえる天井てんじょうを張った。先には食堂にして居たので、此狭い船房カビンの様な棺の中の様なしつで、色々の人が余等と食を共にした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
むちでたたかれながらはずみをつけて渡り切ろうとしても、中程に来ると、わだちが空まわりする。馬はずるずる後退しそうになる。石畳いしだたみの上に爪立つまだてたひづめのうらがきらりと光って、口のあわが白い。
馬地獄 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
花束に未練はあっても出費ついえを好まぬ温和なる人々は、アルベエル一世公園を貫く車道の両側にて、一脚五法の貸し椅子に納まり、そのうしろにして、爪立つまだちしてなお及ばざるは音楽堂の屋根
彼はきもをつぶして震えながら立ち止まり、爪立つまだっていた足のかかとをおろした。
爪立つまだち、かがんでくるりとやるかと思うと、ひょくりと後足あとあしびっこをひく。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
小声で口をきき爪立つまだって歩いた。家じゅうがひっそりしてしまった。
帳面方が爪立つまだちしながら姓名を呼びあげた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
火の目小僧はうしろを向いて爪立つまだちをして
ぶくぶく長々火の目小僧 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
爪立つまだてをして手を上げて秋高し
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
かぼそい靴を爪立つまだてて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
面影も、色も靉靆たなびいて、欄間の雲に浮出づる。影はささぬが、香にこぼれて、後にひかえつつも、畳の足はおのずから爪立つまだたれた。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こう話しているうちにもう、爪立つまだちながら一台の自動車に合図して、運転手に行先をどなってやりながら、Kを後ろ手で自動車に引っ張りこんだ。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
嘉十はすすきにれないように気を付けながら、爪立つまだてをして、そっと苔をんでそっちの方へ行きました。
鹿踊りのはじまり (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
町の雪は半分どろのようになった上を爪立つまだって走る女もあれば、五六人隊を組んで歌って通る若者もある。巡査もにこにこして、時々プロージットの返答をしている。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
内儀かみさんは背の低い、品のない、五十四、五の女で、良人おっとに羽織を着せる時、たけ一杯爪立つまだてする様子を、お庄は後で思い出し笑いをしては、年増としまの仲働きににらまれた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それまでは、牛か馬のようにごろごろしておって、悪態を聞かされるばかりだったのが、今度は——みんな爪立つまだちで歩きながら、子供たちまでたしなめるじゃがせんか。
今日のように爪立つまだてていた足のさきを伸べて、ヰシキの下に敷くに至って、ついに今一つ以前の坐礼を忘れてしまい、オラクニヰルことをもって欠礼と感ずるようになったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
土間どまへおりて爪立つまだつようにして瓦斯ガスのねじをひねり、それにマッチの火を移した。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さうしてその上へ乗りながら、長押なげしの金羽根を取り出さうとした。その時私はせいの低い彼が、踏み台の上に爪立つまだつたのを見ると、いきなり彼の足の下から、踏み台をわきはづしてしまつた。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
竹の打ち付け窓にすゝだらけの障子を建て、脇にけやきの板に人相墨色白翁堂勇齋と記して有りますが、家の前などは掃除などした事はないと見え、ごみだらけゆえ、孝助は足を爪立つまだてながらうち
彼は、そんなことをしている自分がいとわしくなって、何度も、せき払いでもして姿を出そうか、それとも爪立つまだちして庭のむこうへ帰ろうかと思っても、足が動かなかった。からだがきかなかった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……扱帯しごきつないで、それにすがって、道成寺どうじょうじのつくりもののように、ふらふらと幽霊だちに、爪立つまだった釣身つりみになって覗いたのだそうです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嘉十かじふはすすきにれないやうにけながら、爪立つまだてをして、そつとこけんでそつちのはうきました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
そして戸口には、Kがさっき遠くから認めた男が立って、たけの低い鴨居かもいにしっかりと身をささえて、気短かげな観客のように、爪立つまだちながら少し身体を揺すっていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
あとの一パーセントだけが爪立つまだってみても少し届かないといったようなものが多いような気がする。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そっと爪立つまだちで庭番小屋へ近づき、段々を二つおりて弱い声で庭番を呼んだ。